第1話「始まり」
=== 異世界・マングニスタ ===
ここはマングニスタという世界———。
このマングニスタの世界中には数多くの魔物が生息しており、人々は魔物の脅威に常に恐怖していた———。
人々は懇願する———。
いつの日か魔物の王である“魔王”を倒してくれる勇者が現れてくれることを———。
=== マングニスタ・北部・アンドレ火山 ===
そしてここは人々が住む場所から遠く離れた場所。
この場所は常に溶岩と瘴気が垂れ流れる人外の魔境。
ここに魔物の王である“魔王”の根城があった。
幾年も間、人類は誰も近寄ることができなかったこの魔王の根城。
・・だが!ついにたった一人の男が魔王の根城に辿り着くことができた。
その男は迫りくる魔物たちを次々に倒して進み、魔王が居る間へと到着した・・。
「ガハハハッ!!・・・貴様が勇者か。よくここまで辿り着いた。褒めてやろう・・。・・・だがここまでだ。この魔王イスカンデリャが貴様を滅ぼしてくれるッ!!」
「・・・・・。」
「どうした?この魔王が目の前に現れてまさか・・怖気づいたのか?」
「・・・あ~、はいはい。」
この似たり寄ったりのセリフを聞いたのは一体何度目だっけ・・?
「ここが貴様の墓場となる・・・死ねッ勇者ーーーッ!!!」
「・・・うん。はい、さいなら。」
勇者は剣を魔王の顔に突き刺す。
「ボギャアアアッ!!!」
次の瞬間、魔王の頭が爆発して飛び散る。
返り血を浴びないように華麗なステップで回避。
「あ~、終わった終わった。」
勇者が魔王の間を後にしようとすると急に天井が光り輝く。
そしてその光の中から羽の生えた少女が舞い降りてきた。
「真也様、お疲れ様で~~す!!」
「・・・・ディーテ。」
「えっ!?なんでそんな睨むんですか!?」
「お前が来たってことは・・・また行くんだろ?」
「その通りで~~す!!」
「はあ・・。」
勇者真也は頭を抱える。
「あのさ・・俺に余生を過ごす選択肢は無いのか?」
「う~ん・・・・・・無いですね~!!真也様は特別なので!!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべて答える。
「ささッ!ちゃっちゃと次行きますよ~!」
「もう行くのかよ。」
「いいですか真也様・・・世界は・・勇者を待ってくれないのですよ。」
ドヤ顔のディーテ。
何言ってんだコイツ。
「じゃ、行きますよ~!」
「はあ・・・・・。」
真也は光に吸い込まれ、その場から姿を消した——————
俺が何でこうなっているのか説明しよう。
時はかなり遡る・・・。
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俺の名前は小鳥遊信也。
日本で生まれ育ち小中高を経て有名大学に進学、その後大手企業に就職。
その後会社を退職し20代後半に起業し自身の会社を立ち上げた。
起業は成功し30代にして莫大な富・名声を手に入れることができた。
結婚まではしていなかったが独身貴族としてそれなりに順風満帆な生活を送っていた・・・。
だがある日、不慮の事故に巻き込まれる。
次に目覚めた時、俺はよくわらない空間に居た。
周りには何も無くて真っ暗。
只、何故か俺にだけスポットライトが当たっているかのように俺の周りだけが明るい。
「・・ここはどこだ?」
事故の記憶はある。
薄れゆく意識の最後に見た光景は清々しいほどの晴天の空。
そうだ。俺は事故にあって意識を失った。
普通ならば病院に搬送されて、目覚めるなら病院のはず。
だけどここはどこだ?
周りが真っ暗で明らかに異様。
そしてあれだけの事故に巻き込まれたのにも関わらず外傷が無い。
ということは・・考えられることは一つ。
「死んだのか。」
「ピンポ~~ン!正解で~~す♪」
「!?」
暗闇の中から1人の少女が現れた。
その少女の背中には白い羽が生えており、格好もおとぎ話の本に出てくるような天使のような感じ。
「小鳥遊信也様。残念なことに貴方は不慮の事故により命を落としてしまいました。」
「・・・だろうな。じゃああんたは天使で迎えに来たってことでいいのか?」
「・・・ププ。」
「ププ?」
「ププププ・・・ハハハ!!私が天使ぃ~~?違いますよ~~!!私をあの子たちと一緒にされては困りますぅ~~!」
急に笑い出した少女に真也は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「私は天使ではなく、女神です。いいですか?め・が・み!わかりますか~~?私は神様なんです。天使とはランクが違うのです、ランクが!」
ドヤ顔をして高笑いをしているこの自称女神という少女にイラっとしたのは必然であった。
そして同時に殴りたいという衝動が芽生えた。
だが、堪える。
「・・・んで?自称女神様が何の用だ?」
「じ、自称じゃありませんよ!!れっきとした女神ですよ!!私は女神ディーテ。愛と美を司る女神なのです!」
手を胸に当ててドヤ顔。
「俺は死んだのだろ?天国にでも送ってくれるのか?」
「・・・あり?妙に冷静ですね?普通、自身が死んだことに戸惑いだったり信じられないという感情が出ると思うのですけど・・。」
「今置かれている非現実的状況を考えたら死んだことくらいわかる。」
「冷静さんなんですね。」
「なんだ冷静さんって。」
「まぁいいです。小鳥遊信也様、貴方はこの世界で何か心残りはありませんでしたか?」
「・・・・・。」
俺には幼少の頃から思い描いていた人生設計がある。
その人生設計を進むべく、勉学では順位に対しては特に拘りは無かったが常に首位をキープ。
スポーツは部活動で団体で全国大会出場し、個人では全国優勝。
有名進学高校、有名公立大学へ進学して大手企業へ就職。
その後は独立して起業し、事業も成功してそれなりの金も稼いだ。
自慢するわけではないが自身の容姿もそれなりに気に入っている。
思い描いていた人生設計は寸分狂わずに突き進んでいたな。
人生で起きる分岐点とやらも全て間違えなかったと自負している。
おそらく・・俺の人生は他人から見たら羨ましいと思う程。
「・・うん。無いな。」
「へ?」
「心残りは無い。」
「ええーーー!?無いの!?普通あるよね心残り!?」
「全て計画通りに進んできたからな。他人に妬まれることはあったが、自身で何かに悔やんだことは一度も無い。」
「どんな人生歩んだの!?」
「人生設計での残りは・・・慎ましく平穏で優雅な老後生活だったか。まぁ、やる事は一通りやったし、後は死ぬのを待つみたいなものだったから今死んだとしても変わりないか。」
「貴方何歳!?」
「35だが?」
「35で人生やり尽したと!?」
「ああ。本当は40で今の位置に辿り着く予定だったが・・5年も前倒しになったな。思い残すことは何一つない人生だった・・・さっ、連れていけ。人生で悪い事は何一つ行ってないし、さすがに地獄には落ちんだろう。」
「完璧超人ですか貴方は。」
「で?自称女神様。俺はこの後どこに行くんだ?」
「だから自称じゃないってば。・・・本当は貴方の人生での心残りや懺悔等をヒアリングして心を清らかにした後に天界へ送る予定だったけど・・・やっぱり・・やめた!」
「は?」
「完璧超人だった貴方なら・・・きっと・・・世界を救える人になれるわ!!」
「・・・おい、何の話をしているんだ?」
「小鳥遊信也様、貴方を・・・転生させるわ!」
目をキラキラさせている自称女神様に何か嫌な予感を感じた。
「転生・・?」
「貴方・・いや、小鳥遊真也様。この女神ディーテからお願いがあります。」
「な、なんだよ・・。」
「今、人類に危機が迫っている数々の世界があります。それを救ってほしいのです。」
「いや、唐突に言われてもよくわらんのだが。世界?地球上で戦争が起きてるってことか?そりゃ今も起きてるだろうよ。」
「いえ、この世界のことじゃありません。別の世界・・・真也様たちの言葉で言うのなら・・異世界。」
「異世界?異世界って漫画やアニメなどで昨今話題になってるやつか?」
俺自身、世情を知るために広い分野の知識はあり、その中でも日本文化であり世界にも多大な影響のある漫画やアニメ、ゲームの知識に関して実はそれなりにある。
特にゲームに関しては幼少の頃から好きで勉強の片手間によくやっていた。
大人になってからは特定のオンラインゲームでランカーにもなっている程のゲーマーの一面を持つ。
「はい。異世界では人類を滅ぼされそうになっている世界が沢山あるのです!」
「そこに転生しろと?」
「はい!」
「断る。」
「え!?」
「なぜわざわざ死ぬ可能性の高い争いの場に行かなきゃならんのだ?」
「世界を救うためです!」
「ふざけるな!俺は平穏な老後を過ごすという人生設計があるんだ!」
「でも・・・もう死んでますよ?」
「・・・う。」
「新しい人生を歩んでみたいと思いませんか?しかもこの異世界には真也様がいた世界とは違い魔法有、魔物有の何でもありの世界ですよ?ゲーマーの一面を持つ真也様にぴったりではありませんか?」
「なぜそれを知ってる!?」
「一応私、女神ですから。」
またしてもドヤ顔。
「・・たしかにゲームは好きだ。だが、それとこれは別問題だ。ゲームでは死んでもリセットできるが現実ではできない。そんな大きいリスクを背負って戦いになんて出れるか!」
「・・・真也様の今までの経歴や財産、潜在能力等を全てステータス化したら結構良い線行くと思いますけど?」
「良い線?ステータス化?」
女神ディーテが何かブツブツを唱えたらポンっと一枚の紙が現れた。
そしてその紙を手に取る女神ディーテ。
「どれどれ~。真也様のステータスはっと・・・・うわっ、えっ!?」
「どうした?」
「いや~~・・・驚く程・・・いや、引く程の・・・ステータスになってます。」
「見せてくれ。」
女神ディーテから一枚の紙を受け取る。
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なまえ:たかなし しんや
せいべつ:おとこ
しょくぎょう:しゃちょさん
レベル:65
さいだいHP:7900
さいだいMP:3600
こうげき力:650
ぼうぎょ力:400
すばやさ:200
かしこさ:777
うんのよさ:100
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なんだこのドラ●エみたいなステータス表は・・・。
職業「しゃちょさん」って・・馬鹿にしてるのか?
だが・・・
「レベル65か・・・。攻撃・防御はまあまあだとして・・素早さがちょっと低いか?だが引くほどのステータスでも無いだろ。」
「なーーーーーに言ってるんですか!?」
「?」
「このステータスは異常ですよ!?異常!!こんなステータスを最初から持つ人なんて何百万・・いえ、何億人かに1人くらいです!!これなら魔王討伐にもすぐ向かえるんじゃ・・・。」
「このステータスがそんなに凄いのか?」
「す、凄いですよ!まずこのレベル65というのが異常です!転生する方の平均レベルが大体10前後、良い人でも20前後なのに・・・。なんじゃこのレベル・・。」
「よし、じゃあ行こう。」
「はい?」
「このステがあれば余裕なんだろ?行こうじゃないか。」
「さっきと態度違いますけど!?」
「魔法が存在する世界なんて誰もが一度は憧れるものだ。このステがあれば楽できそうだ。さっそく自分がどのくらいのものなのかを試してみたい。」
「気が変わってくれたのは良いんですけどね・・・なんか釈然としないな~。まぁいいや。それじゃあ行きますよ~。」
上が急に光り輝く。
「ちょっと待て。」
「な、なんです?」
「異世界へ行くにあたって確認したいことが何点かある。」
「・・なんですか?」
「女神デ・・なんだっけ?」
「ディーテです!」
「ディーテ。お前さっき、異世界へ転生するって言ってたよな?」
「はい。」
「転移ではなく転生で間違いないんだな?」
「転移は生存している人を別世界へ移動させるものです。真也様は既に亡くなられているので転生になりますよ。」
「転生はこの俺の今の状態・・つまりこの年齢と肉体のまま異世界へ行くのか?」
「それは・・」
「どうなんだ?」
「転生は先ほど申し上げた通り既に亡くなられている方のみの方法です。真也様は既に亡くなっているので肉体は持っておらず、今の真也様は霊体の状態です。なので異世界で生まれ変わる為一度赤子に戻ります。」
「・・まぁそうだよな。赤子になって一から人生を始める訳か・・。今の記憶はどうなる?」
「引き継ぐのも引き継がないのも自由・・・です。」
「なぜそれを最初に言わない?」
女神ディーテの顔を思い切り掴む。
「わ、わ、忘れてました~。」
「まぁいい。」
「いいの?」
「次にこのステータスは赤子に戻ったらレベル1からになるのか?」
「いえ、レベルと能力はそのまま引き継ぎます。」
「能力?スキルのことか?」
「はい。」
「俺は既にスキル覚えてる状態なのか?」
「いえ。真也様は今は何も覚えてませんよ。プププ、そんなの当たり前じゃないですか~。だって魔法が無い世界にいたんですから~。」
こいつ・・人をイラつかせて本当に女神か?
「じゃあスキルや魔法は異世界で習得するってことでいいな?」
「そうで~す♪」
赤子の時からレベル65でこのステータス・・・。
チートにも程があるだろ・・どんな赤子だ。
だが、記憶もステータスもそのまま。
魔法やスキルは覚えてないが、基礎ステータスが高い分これは異世界ではかなりのアドバンテージになるな。
「・・・よし。記憶はそのままで転生してくれ。」
「まだ何か確認あります?」
「容姿はどうなる?」
「あちらの世界での容姿でもいいですし、今のままでもいいですよ。」
「そうか・・・じゃあ今のままでいい。」
「確認は以上で宜しいですか~?もう行きますよ~?」
「これから向かう異世界はなんという世界だ?」
「フェリドリアという世界です。フェリドリアにいる魔物に人類は脅かされてますのでなるべく早期決着を。」
「・・・・早期決着?それはどういうこと・・・」
「それじゃあ行きま~~す!真也様、フェリドリアの世界を宜しくお願いしますね~~!!」
そうして俺はフェリドリアという異世界に最初に転生した。