6話 幼女で天使な魔王が現れた!
「遅い! 遅い! 遅いのです。一体いつまで私を待たせたら気が済むのですか!!」
「うわっ!!」
ドアを開いた途端、頬を膨らませた幼女が現れた。
まさか自分が借りた部屋に人が居るとは予想もできずに驚き尻餅をつく。
「いてて…… 誰だよ一体……」
とっさに付いた手に痛みが走る。
視線を向けてみると夢で出会ったあの幼女が立っていた。
けれど今は魔王の姿でもなければ天使の羽も生やしていないので、この姿だと天使や魔王だと言われても信じる者はいないだろう。
「びっくりしたー。お前は魔王…… いや天使? あぁぁ訳がわからん。兎に角だ!! お前が何で俺の部屋にいるんだよ!? 不法侵入で訴えるぞ」
「何を言っているのですか。私は約束を果たしに来たのです。告白の返事を告げにき・た・の・で・す!」
人差し指を立てながら、得意げに言葉に合わせて指を振っている。
「告白の返事だって??」
その仕草を見つめながら俺は夢だと思っていた幼女とのやり取りを思い出す。
たしか夢では幼女が盛大な勘違いやらかしてくれた。
「じゃぁ、本当に返事を伝えに来たって訳かよ……」
今となってはあの出来事が夢だとは思わないが、困った事にこの幼女はやはり俺が告白したと勘違いしている。
「恥ずかしがらなくても私が来るのをずっと待っていたのは解っているのです。私も色々と考えていたので来るのが遅れてしまったのです」
それにしても今はこの状況をどう乗り切ればいいのだろうか?
幼女の微笑む笑顔が痛いんだが……
恐ろしい程、自分の意思とは無関係に事が進んでいる。
こんな状況は産まれて初めてで、どう対応すればいいのか解らない。
困惑した俺であったが、このままでは駄目だと気づき対策を必死で考えはじめる。
今日まで彼女が欲しいと思った事も無いので、誰かと付き合いたいとは思わない。
俺はこの世界を楽しみたいだけだった。
だけどよく考えれば天使や悪魔などの人種が人間と付き合うなんて聞いた事がない。
ならば幼女は断りに来た可能性が高いんじゃないだろうか?
「やった……セーフだ。ふぅ~ 一瞬本気で焦ったじゃねーかよ」
安堵から大きくため息を付く。
「大天使様に相談したのですが、どうやら恋愛は個人の自由みたいなのです。だから私は優しくて勇気がある相馬くんの求愛を受け入れようと思っています。ふつつか者ですが末永く可愛がって欲しいのです」
ん? 何を言っているんだ?
「えーっと…… もう一度言ってくれるかな?」
「だ・か・ら。私は相馬くんの彼女になるのです」
頬を赤らめて幼女はハッキリと告げた。
うん、うん。付き合ってくれるだって……
やったー ついに俺にも彼女が出来たぞ!! って言う訳がねーだろ!?
今まで誰とも付き合った事もない男が急に付き合えるか!!
それに初めての彼女が幼女だって!?
プレイヤー達が見たらどう思うのよ? 俺の二つ名がロリコンになっちまうじゃねーか!!
そんな事は絶対嫌だ。
(ここはなんとしても断らねば…… ハッキリと伝えて諦めて貰うしか無い)
「悪いけど、俺はこのゲームをクリアするっていう目標がある。だから恋愛なんてやっている暇は無いんだ」
「う~ん…… 解りました。じゃあ私もお手伝いをします。出来る彼女は全力で彼氏を支えるのです。だから一緒に攻略するのです」
だが幼女は挫けない。
俺にもこの幼女と同じ様にポジティブな思考が出来れば、現実でもっと楽しい日々を送れたかもしれない…… そんな思いが心をよぎる。
「さぁ早く私とパーティーを組むのです。そして永遠の誓いを立てるのです」
幼女は勢いよく俺のそばまで近づく。
永遠の誓いって結婚でもするみたいじゃないか!? コイツ、外堀を埋めに来やがった危険だ危険すぎんぞ!!
「何で俺がラスボスの魔王とパーティーを組まないと行けないんだよ!! お前が仲間になったらクリアー出来ないじゃねーかよ!?」
「問題ないない。力は殆ど魔王人形に移して来たのです。相馬くんが出会った魔王は私ではないのです。この世界のボスとして私達が作り出した仮初め魔王なのです。エッヘン、だから今の私は残りカスなのです」
お前…… 胸を張って宣言しているが、威張れる様な事は何一つとして言っていないぞ。
それに魔王人形に力を移してきたって!?
じゃあ天使の力を失った今のコイツに一体何ができるんだ?
「なら今のお前ってゴミじゃねーかよ。足引っ張る奴は要らねーんだ。それに俺は一人でプレイするつもりだったから、誰ともパーティーは組むつもりはないの!!」
「女をその気にさせておいて、飽きたらポイなんですか? うっ……うう…… この鬼畜、変態星人~!!」
俺の言葉が予想以上に効果があったらしく、幼女は大粒の涙を浮かべはじめる。
「おい!! 泣くなよ? 頼むから」
夢の中で体験した音波兵器を思い出し、必死で宥めようと声をかけた。
「うぅ…… うわぁぁぁ~ん」
けれど俺の努力は虚しく散り、幼女は大声で泣きはじめてしまう。
その声は甲高く頭に響き、近くのドアは音波の振動でギシギシと震え出す。
「やっぱ、うるせぇぇぇ」
俺は耳を抑えて必死で泣き止ます方法を考える。
「おい、女の子が泣いているぞ? 大丈夫なのか? 見に行った方がいいかも知れないぞ」
男達の野太い声が廊下から薄っすらと聞こえてくる。
「やばいって!! 今の状況を見られたら俺が悪人にされちまうぞ。早くなんとか泣き止まさないと!」
焦りを覚え全力で慰めてみる。
「頼むから。本当に頼むから泣きやんでくれぇぇぇ」
「だって、相馬くんがぁぁ~」
幼女は一層、音量を上げて泣き始めた。
数名の足音が、ドタバタと床を伝い振動と共に近づいてくる。
「だめだ、もう間に合わないっ!!」
俺に残された手はもはや一つしか残されていなかった。
「わかった。わかったから、パーティーを組むから、頼む、泣き止んでくれぇぇ」
幼女に敗北した俺はうなだれる様にPTを組む事を了承した。
「もぅ、最初からそう言えばいいのです。私に任せて貰えばこんなゲームチョチョイのチョイなのです。だからこれからはずっと一緒なのです」
可愛い笑顔を向けてくる幼女を見つめながら、俺はこの先訪れるであろう苦労を思い浮かべ大きく項垂れた。