35話 抗争
【ブルーアイズ】と【ファルコン】の間で始まった抗争の情報は、瞬く間に街中を駆け巡る。
プレイヤー達も武闘派ギルド同士の大規模抗争は初めてで、抗争の結末を誰もが注目していた。
街を歩けば、所構わず抗争の噂話が聴こえてくる状況だ。
今も狩りを終えて、街に戻ってきているのだが、何処に立ち寄っても抗争の話題ばかりだ。
「なんだか街の様子がおかしいのです。聴こえてくるのは抗争の話ばかりだし、何というか街の雰囲気がギスギスしている感じなのです」
「今はギルドの抗争中だからなぁ。抗争が終わるまではこんな状況が続くと思うぞ。今日で抗争が始まってから2週間が立つけど【ファルコン】の方はかなり追い詰められているって話だな」
「追い詰められるって言われても。たしか街の中では決闘以外の方法でプレイヤー同士が戦う事が出来ない仕様になっているのです。ずっと街にいれば安心ではないのですか?」
「ま~な。だからこの世界の抗争は基本的に街の外で【プレイヤーキル】がメインな方法になっているんだ」
「プレイヤーキルと言えば、確かPKと呼ばれるプレイヤーがプレイヤーを襲う行為だったのです」
「確かに街にいれば危険は少ないな」
アナマリアも最初の頃とは違ってゲームの事を少しづつわかり始めている。
「私なら相手が大人しくなるまで街の中にいるのです」
「だけど狩りをしなければ資金も無くなっていくし、一番キツイのはLVも上がらない事だ。LVが上がらないって事は他のプレイヤーに遅れをとってしまう。敵対ギルドの方がLVの高いプレイヤーばかりになってしまっては、100%勝てなくなってしまう。この世界ではそれは致命的な欠点となるからな。だから両方のギルドメンバーは動かない訳には行かないんだよ。素早く行動を起こして、早期に相手を叩き潰す。それが一番効率が良い方法なんだ。既に何人かのプレイヤーはプレイヤーキルで死んだって噂も流れているぞ」
「プレイヤー同士で殺しあうなんて、私には理解が出来ないのです」
アナマリアは旨に手を組んで、祈りを捧げていた。
死亡したプレイヤーに祈りを捧げているのだろうか?
「だけど自分の仲間が傷つけられたら怒るのも道理だからな。後は落とし所だけなんだけど……」
俺はアナマリアが危害を受けた状況を思い返し、大切な仲間を無慈悲に痛めつけられたブルーアイズの心情を思う。
すると俺の装備のポケットに隠れていた花がちょこんと顔だけを出してきた。
「さっきから聞いていたけど、自分達の敵を倒す事が悪い事なの? 貴方達は私達モンスターを敵だって言って普通に殺しまくっているじゃない。もちろん私達も貴方達を襲うから、お互い様で恨みなんて無いんだけどね。それが今回は敵がモンスターから同じ種族に変わっただけでしょ?」
「それはそのとおりなのです。だけど同じ人間同士で戦うって事が……」
「モンスターは良くて、人間は駄目って言うのが、私にはよく分からないわ」
モンスター正論を言われて俺もアナマリアも反論出来ずに言葉を飲んだ。
「ぐぬぬぬ。居候のモンスターの癖に生意気なのです。相馬くん、このモンスターを早く捨てて来るのです」
「なるほど花の言うのも一理あるな。だけど俺達は小さい頃から同じ種族で助け合う様に教育されているからな。確かにお互いに殺し合う奴もいるけど、多くの者たちは出来ることなら仲良くした方が良いって思っているのさ」
「何を真剣に答えているのですか!! もう私がとっ使えまえてやるのです」
俺の隣で怒りを震わせているアナマリアを見た花は危険を感じて再びポケットの中に身を隠した。
アナマリアが俺に突っ込んできたが、スルリと避けると俺は宿に向かって進み始めた。
途中周囲に視線を向けていると、他のプレイヤー達は自分達に危険が飛び火を恐れ、抗争中のメンバーを見かけると距離を取る様になっている。
結果、今は【ブルーアイズ】と【ファルコン】のメンバーが街の外に出ると、その者たちの周りには人気が無くなり、襲われやすい環境が自然とできあがっていた。
抗争当初は人数で勝る【ファルコン】が攻勢に出ていたが、今は自力に勝る【ブルーアイズ】が押し返している。
抗争を見ていて確信したのは、人数が少なくても個人の実力で勝敗が変わってしまうという事だった。
このゲームの強さは幾つかの要素で決まる。
一番大きい要素はLVが上がる毎に与えられる基礎ステータス数値。
次に各職業に与えられた固有スキルの強さ。レア職業はステータス数値など関係ない実力を持っている者達もいる。
最後はターン制バトルではないアクティブバトルにおける実践戦闘経験だろう。
それらの要因を総合的に高めたプレイヤーがトッププレイヤーと呼ばれる強者であった。
トッププレイヤーの数で勝るブルーアイズはファルコンを徹底的に追い詰め、強制的にギルドを脱退させていく。
反抗する者には容赦なく制裁を与えているようだ。
ギルドを追われたプレイヤー達は数の力を失う事となり、身を隠し大人しくする者が多い。
その理由は今後勝者となったギルドに怯えながらこの世界を生きる事になるからだ。
また抗争と関係ないプレイヤー達がとばっちりを喰らうのを恐れて彼等を相手にしないのも大きい。
普通のMMORPGなどのゲームならば、嫌になればゲームを止めるだけで良いけど、この世界では嫌でも生き続けなければならない。
逃げる事が出来ないリアルの世界だと言っても過言ではないだろう。
その事実を再確認し、力強く歩みを強めていく。
★ ★ ★ ★
いつもの宿屋に到着した時、周囲の人混みから鋭い視線を感じた。
とっさに視線の主を探して周囲に注意を向けたが、人が多すぎてわからない。
「アナマリア、俺から離れるなよ」
「なっどうしたのです?」
背後から追いついてきたアナマリアの前で俺は庇うように躍り出る。
暫くそのまま様子を伺っていると、俺を監視していた視線を感じなくなっていた。
「ふぅ~ どうやら一度引いたみたいだな」
「一体、何があったのです?」
「勘違いならいいんだけど、どうやら監視されているかも知れないな。俺達を監視する奴って言えば心当たりなんて一つしかないよな」
「ファルコンのメンバー?」
「多分な…… 今日までは襲われなかったのは、運が良かったのか? 俺達まで手が回らなかったのか? 俺達は【ブルーアイズ】のメンバーじゃないのに、とんだとばっちりだよ」
「もし襲われたなら、私がハッキリと言ってやるのです」
「それで素直に引いてくれるなら簡単なんだけどな。今後も狩りは続けるが、警戒はしておこう。もうスラ男達を出し惜しみしている場合じゃないかもしれないな」
もし襲われたなら、俺は本気で抵抗するつもりであった。
そう言えば、アナマリアにまだ聞いていなかった事がある。
この世界から退場したなら俺達は一体どうなるのか?
寝る前にでもアナマリアに聞いてみる方がいいだろう。