33話 三体目の仲間(仮)
ゴブ太の改造が終わった後、俺達は捜索を中断し、安全な狩場でゴブ太のLV上げメインに過ごしていた。
改造後はLVがリセットされると言うデメリットが発生するが、LVが低い間は少ない経験値で簡単にLVも上がっていくので、改造前と同等の強さに戻す程度なら労力は意外と少ない。
数日間の狩りでゴブ太の強さも戻り、俺達は再び草原エリアの奥にある湖を訪れていた。
この辺りに出現する一番の強敵はスモール・リザードドラゴン。
初めて出会った時は気の抜けない強敵だったが、今の俺達にとって丁度良い位の適正モンスターと成り下がっていた。
「やっと戻って来てやったのです。今日から新しい冒険の幕上がりなのです」
「何でお前が興奮しているんだよ?」
「前回は出鼻を挫かれた感があったのです。なので今回は前回の雪辱を必ず晴らしてやるのです」
フンフンと鼻息荒くし、アナマリアも気力十分という所だ。
俺達は湖の側を通り抜け、エリアの奥へと進んでいく。
奥に進んでいっても草原エリアのままで、エリア特有の温かい風が頬をくすぐり気持ちがいい。
空を見上げると青空が広がっており、こんな日は捜索より昼寝をしたくなる感じだ。
出現するモンスターを狩りながら更に奥へと進んでいくと、俺達は花畑を見つけた。
視界一面に広がる花の絨毯は色鮮やかで、見る者の心を釘付けにする。
「うわぁぁ」
「こいつはビックリだな。こんな場所があるなんて……」
花畑にを見つめながら全員が息を飲む。
「私この場所が気に入ったのです」
アナマリアは楽しそうに花畑の中を走り回っていく。
「おい、余り離れるなよ。モンスターが現れたらどうするんだよ」
「大丈夫なのです!! こんな綺麗な所にモンスターなんて現れないのです」
「スラ男! 悪いけどアナマリアの側についてやってくれ」
気になった俺は、距離が離れつつあるアナマリアの元にスラ男を向かわせた。
しかし俺の不安は的中しスラ男が到着する前にアナマリアの前に一匹のモンスターが現れていた。
「なっ!! モンスターが出たのです!!」
「失礼な人だわ。初対面な者に向かってモンスター呼ばわりするなんて」
「へっ!? モンスターが喋っているのです」
「アナマリア。大丈夫か!!」
俺が駆け寄りアナマリアの側までたどり着くと、目の前には背中から羽を生やした小さな女の子のモンスターが浮かんでいた。
その姿はファンタジーに出てくる妖精の姿と同じだった。
花の葉で作られた服着ており、金色に輝く髪は足まで達する長さ。
小さな顔に大きな青い瞳を持っており、とても可愛らしい。
「貴方達!! この場所は私のお気に入りの遊び場なのよ。だから余り荒らしてほしくはないわ」
「マジかよ。まさか魔王以外にも自我を持っているモンスターがいるとは……」
「へぇー あなた魔王に会った事あるんだ。なんだか面白い人ね。うふっ。私、貴方に興味を持っちゃった」
「変なモンスターだな。一向に攻撃してくる様子もないからどうしたもんかな? 攻撃してこない妖精を殺すってのも気が引けるし……」
俺が試案している間に、妖精は俺の周りを観察する様に飛び回り、肩の上で羽を休める様にとまる。
「近くで見ると、結構いい男じゃない」
「フンガー!! ちびっ子の癖に相馬くんを誘惑するとは!! 相馬くん!! そのモンスターを早く倒すのです」
アナマリアは怒り狂っている。
「でもなぁ。害は無さそうだし。もしかしたらイレギュラーで産まれたレアキャラかもしれないだろ? 俺も気になるっていうか……」
「相馬くんが、浮気を認めたのです!? きぃぃーっ 浮気は絶対に許さないのです。スラ男くん、ゴブ太くん。相馬くん諸共倒してやるのです!!!」
そんな指示を受けたスラ男もゴブ太も困惑している。
「アナマリア。落ち着けって!!」
両手を振り回しながら暴れているアナマリアを抑えて落ち着かせる。
「だって、相馬くんが……」
近くで見てみると、アナマリアは泣いていた。
まさか泣いているとは思ってもみなかったので、俺も対処に困ってしまう。
「浮気とかじゃないから。単なる興味本位っていうかさぁ」
なぜ、俺が必至で弁解する羽目になるのだろうか?
俺は理不尽な状況に恨み節を呟いた。
「なら、その子の事は何とも思ってないのですか?」
このまま機嫌を損なわれていても疲れるだけなので、ここはアナマリアの思うようにしてやろう。
「そうだ。何とも思っていないって! ただちょっとだけ気になっただけだって」
「それじゃ。相馬くんが好きなのは私だけって事なのですか?」
「そうだ。お前は一番大切な大切な仲間だからな」
ちなみに嘘は言っていない。
大切な仲間だと俺は言ったのだ。
俺の言葉を受けてアナマリアの表情がパッと変化する。
さっきまでの涙はどこかに消えて、次に現れたのは不敵な笑みであった。
すぐさま俺の肩に座っている妖精型のモンスターに指を指すと大きな声で言い放つ。
「ふっふっふ…… そこのちっこいの!! 聞いていたのですか? 相馬くんは私が一番だと言っているのです。それが解ったのなら、さっさとその肩から離れるのです」
「ふーん。でも私にはそんな事関係ないわ。私決めた!! 面白そうだから貴方達に付いていくわ」
「付いていくって…… マジかよ」
テイマー職でも無い俺がモンスターをチャームした事に驚く。
「それじゃ。よろしくね。私はフラワーピクシーよ。魔法が使えるからお役に立てると思うわ」
ウィンクをして愛嬌を振りまく仕草は、妖精の名に恥じない位に可愛らしい。
「これってどう言う扱いになるんだ? PTメンバー?」
ステータス画面を開いてみたが、PTメンバーにはピクシーの名前は入っていない。
「私が勝手に付いていくだけ。なので気にしなくていいわ」
予想外の出来事に困惑していたが、RPGゲームにイベントは付き物である。
深く考えずに素直に受け入れる方が、この世界を楽しめる出来るだろう。
「まぁ……よくわからんが、よろしくな。えっと…… そう言えばお前の名前は?」
「私? 名前なんて無いわ。ただのフラワーピクシー。そうだ貴方が名前を付けてよ。可愛い名前にしてね」
名前が無くてはこの先不便になる。
そうなると適当でもいいので、名前はあった方がいいだろう。
俺は腕を組んで考えてみる。
「そうだな…… 花の妖精だから、【花】ってのはどうだ? 簡単過ぎるかな?」
「【花】ね。いいわ。私の事は今後、花って呼んで。うーん。気分がいいわ。私も名前で呼ばれる日がくるなんて」
花は嬉しそうに俺達の周りを飛び回っていた。
顔の近くを通り過ぎると、野に咲く花の香りが俺の鼻孔をくすぐる。
「それじゃ、花。よろしくな」
「こちらこそ。ヨロシクね。ダーリン!!」
「相馬くんを誘惑するのは駄目なのです。これはもうライバル確定なのです。相馬くんは、絶対に渡さないのです」
再び怒り狂うアナマリを落ち着かせた後、新しい仲間(仮)の花を連れて、俺達は再び草原エリアの奥へと進んで行く。




