30話 抗争勃発
アナマリアに手を出され、ブチ切れた俺はテーブルを力強く叩く。
大きな音が店内に響き渡り、近くにいるプレイヤー達は俺達に気付き視線を注ぎ始めた。
「おい。あっちで喧嘩してるみたいだぜ。見に行こうぜ」
「面白そうじゃないか。早くやれよ~」
騒ぎ始める野次馬の声も耳に入らない程に俺はブチ切れていた。
俺がアナマリアを突き飛ばしたプレイヤーを睨みつけると、相手もターゲットを俺に変更する。
「何だこいつ? お前も【ブルーアイズ】のメンバーか?」
「【ブルーアイズ】なんて関係ねぇ! お前は誰に手を上げたのか解っているのか? 子供に対して暴力ふるって情けなくねぇのかよ? ほんとクソ野郎だな」
「クソ野郎だとぉぉ? 誰に向かっていっているんだよ? 死ぬ覚悟は出来ているんだろうなぁ」
俺に挑発され、それを集まってきたギャラリーにも見られているので、相手も引っ込みがつかない状況だ。
俺も覚悟を決めて、プレイヤーの超至近距離まで近づく。
日本に居た時は極力誰にも関わらない生活をしていたので、まさか俺にこんな熱い感情があるとは思ってもいなかった。
当然、喧嘩なんてした事もないが、仲間を傷つけられて黙っている事は俺には出来ない。
そんな事を考えていると、知らなかった自分を発見できた事に驚き、自然と笑みが浮かぶ。
笑った事で俺は冷静さを取り戻していた。
「俺が勝ったら、お前はこの街に居られなくしてやっからな。覚悟しろよ」
既に勝った気でいる敵のプレイヤーは余裕の表情を浮かべている。
対する俺はこの戦いの対策を練り始めた。
相手は四人だが決闘というスタイルを考えると、基本は一対一の戦いとなる。
なら相手は眼の前にいる盾と片手剣を装備している男だろう。
種族は人間で職業は剣士。
剣士は物理攻撃を主体に戦う攻守にバランスが取れた職業だ。
冷静に考えて見るとヤバイ状況だ。
魔法攻撃なら反射して相手に返す事もできるけど、物理攻撃が相手となると相手の攻撃を無効にする事しか出来ない。
今の俺には盾を装備している相手を倒す決め手が足りない。
いやまてよ?
【決闘】なら今までも何度か見たことがあるけど、確かテイマーが戦って居た時は……
勝つ方法を見つけ出した俺は、倒れたアナマリアの元へと近づいた。
アナマリアに手を差し伸べ、優しく起こしてやる。
「大丈夫だったか? 絶対に仇をとってやるからな」
「身体はなんとも無いのですが、なんだかおおごとになっているのです」
俺は起こしながら、アナマリアの耳元で誰にも聞こえない様に囁いた。
「悪いけどスラ男を借りるぞ」
誰にも気づかれない様に、小型化に変形しているスラ男を俺の首元へと移動させた。
準備が出来た俺は再び、相手プレイヤーの前へと躍り出る。
「いい根性しているじゃねーかよ? それじゃ行くぞ」
「あーーっ。ちょっと待てくれや。アンタらワイに喧嘩を売ってきたんだろ? それを他人に買われちまったら、こっちも恥ずかしいんやわ。やからこの【決闘】はワイがこの喧嘩を買わせてもらう事にするわ」
俺と相手の間に割って入ると、平山はそう言い放つ。
「お前もそれでええやろ? 名前の知れてない、この兄ちゃんを相手するより【ブルーアイズ】のサブマスでワイを倒した方が泊がつくんとちゃうか?」
「あんた、サブマスだったのかよ?」
「あれ? 言うてなかったか? まぁそういうこっちゃ。喧嘩を売られたのにギルドのサブマスが逃げたら格好つかへんからな。仲間を傷つけられて怒るアンタの気持ちもよく分かるが、ここはワイに任せてもらえんか?」
今までの馴れ馴れしい雰囲気が一瞬で消え去り、逆に物凄い威圧感を放出させはじめた。
その迫力に飲まれ、俺も知らない内に後ずさり自然と身構える。
「ほな、お前の相手はこのワイや!! さっさと決着つけようか」
平山はステータス画面を開くと操作を始める。
「さぁ【決闘】の申請は送ったで、受けるかどうかはお前しだいや」
「やったろうじゃねーかよ。負けたら二度と俺の前でデカイ態度とるなよ」
顔を真っ赤にしたプレイヤーは申請を受理する。
【決闘】を受理すると、周囲のオブジェクトが全て固定される仕組みとなる。テーブルの上に置かれている料理や器もどんな衝撃を受けても壊れることはない。
もちろん周囲のプレイヤーは動けるし、戦闘で被害を受けないようにもなっている。
俺はアナマリアの手を引き、【決闘】の邪魔にならないように少し離れた場所で平山達の様子を見ていた。
「始まったのです」
周囲のプレイヤーやNPCキャラ達も暗黙のルールの様に当事者の周りから距離を置く。
【決闘】は誰でも観戦出来るようになっており、舞台は申し込みを行った場所を中心に半径15mで地面が赤く光っていた。
この光っている範囲がバトルフィールドだ。
中心部に立つ二人は互いに5m程の距離を空けて向かい合っている。
その頭上にはカウントダウンが始まっており、数字が0になると戦いが始まる。
平山はその場で小刻みにジャンプを初めて、これから始まる戦いに備え準備運動をしていた。
相手プレイヤーも左手に盾を持ち、残った右手に片手剣を握り構えをとる。
数字が0となり二人の【決闘】が幕をあけた。
「あれ? 片方は武器をつけていないのです」
「あぁ、平山さんの職業はどうやら武道家か何かなのだろう。動きからしてそんな感じだしな」
平山はボクシングスタイルと同じ構えを取ると、瞬時に相手の間合いに飛び込んでいく。
「ちっ。武道家か!? そうはさせるかよ!!」
相手は盾を前面に押し出して、身体ごと弾き返す動きを始めた。
「正面から突っ込む馬鹿が何処にいるんだよ?」
平山は相手と接触する直前にサイドステップで回り込むと相手の腹部にボディブローを叩き込む。
相手は鎧を着ているので、ダメージが通ったかどうかは、見ているだけでは判断がつかない。
「ぐふっ。こなクソ野郎がぁぁぁ」
攻撃を受け敵は苦痛の表情を浮かべながら、平山を引き剥がす為に剣をなぎ払う。
平山はバックステップで横殴りの攻撃を軽々と攻撃を避ける。
そして再度間合いを詰めると、今度はジャブで相手の顔面を殴りはじめた。
敵も剣をデタラメに振り回して牽制をしているが、平山のスピードの方が数段速く、一度も攻撃を受けないで何度も攻撃を与え続けた。
「こりゃ一方的だな」
「タコ殴りなのです。タコだけに相手の顔が真っ赤になっているのです」
「そのコメント…… 相変わらず容赦がないな。お前は」
一方的な戦いに見えていたが、敵も必死で応戦を始めだす。
「クソがぁぁぁ。ちょこまかと動きやがって…… 狙っても攻撃が当たらないのなら範囲でせめてやる。スキル【乱れ突きぃぃ】」
プレイヤーはスキルを使用し残像が残る無数の突きを繰り出す。
スキルの攻撃範囲は広く俺では避けきれないかもしれない。
「ならこっちもスキルで対応したるわ【高速ウィービング】」
確認できない程の連続攻撃を平山もボクシングの動きで残像を残しながらすべてを避けている。
「全部避けられた? そんなバカな…… こんな事があるのか?」
「残念やったな。なかなか良い攻撃やったで、こっちもお返しにとっておきを見せてやるわ。スキル【コークスクリュー】」
平山が間合いを詰めて繰り出したスキルの攻撃に対して敵は盾で防ぐ。
スキルで強化された攻撃は盾を弾き飛ばし、更に鎧まで貫いて敵の身体にめり込んでいた。
「がはっ!!」
敵プレイヤーは膝から倒れ込むと、その身体は霧状に消えていく。
平山の頭上には【Winner】の文字が浮かび上がっていた。
「強い…… これがトッププレイヤーの実力か…… 俺も甘く見ていたな」
圧勝劇に周囲の観客は息を呑む。
敗北した【ファルコン】のメンバーもそれは同様だ。
「次は誰が相手や?」
睨みを効かせ平山がそう言い放つと、残りのメンバーは苦渋の表情を浮かべていた。
「ちっ行くぞ!! 覚えていろよ? この事はギルマスにも報告するからな」
「何やねん。威勢がいい割には根性がないやっちゃな。いつでも掛かってきいや」
残りのメンバーは逃げるように店から出ていく。
あっけに取られていたプレイヤー達は次第に大きな歓声を上げはじめる。
平山は周囲に手を上げて応えると、俺の方へ近づいてきた。
「今回は巻き込んでしまって悪かったな。【ファルコン】の奴等は以前からワイの所にもちょっかいを出して来ててな。仲が悪いねん」
「あぁ、それは構わないけど、大丈夫なのか? ここまで大事になったら相手も引っ込みがつかないんじゃないのか?」
「確かに火種は付いたかもしれんな。けれどワイがおったからアイツ達はイチャモンをつけてきたんや。それに兄さんが相手して勝ってたら、もっと大変な事になってたかもしれへんで」
平山はそこまで考えていたのかと、俺は彼の評価をあげた。
「取り敢えずは【ファルコン】の標的は【ブルーアイズ】になている思うけど、兄さん達も気をつけてな。ほなワイはこれで失礼するわ」
要件だけ告げると、平山も店から出ていく。
「ふぅ…… 平山さんの言う通り、ややこしい事にならなければいいけど」
平山の姿を見送りながら、俺は大きくため息をついた。
「何を言っているのですか!! 悪者が攻めてきたら返り討ちにしてやるのです。その時は私の必殺技をお見まいしてやるのです」
「はいはい。その時が来たら是非頼むわ」
長居をしては俺達も目立ってしまう。
俺はすぐに勘定を済ませて、拠点にしている宿屋へと急ぐ。
この【決闘】が原因で後日、本格的に【ブルーアイズ】と【ファルコン】の間で抗争が勃発する。