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29話 勧誘

 街の一角には商店が密集している場所があった。


 装備品、アイテムやレア素材と何でも揃うのでプレイヤー達にも重宝されている所だ。

 その場所には料理店も数多くあり、朝昼晩と多くの人々で溢れかえっている。

 狩りから帰った俺達は、夕食を取るために訪れたいた。


 俺達は一つの料理店に入ると、賑わう店内を見渡しながら空いている席を探す。


「相馬くん、丁度二人用のテーブルが一つだけ空いているのです。私が取ってくるのです」


 アナマリアはテクテクと走りだすと、空いていたテーブルに備え付けられている椅子に座る。

 俺も一呼吸遅れて、向かい合わせの椅子へと腰をおろした。


「今日は肉料理を食べるのです」


「肉料理かぁ~ そうだな今日は肉にしてみるか?」


 メニューを開くと数十の料理の名前が並んでおり、更に肉料理の欄に目を向けると10個位の料理が書かれていた。


「まだ食べた事の無い肉料理なんてあったっけ?」


「これなのです。一番高い料理!!」


「あぁ、これかぁ…… 他の料理より何倍も高い値段してたから敬遠してたんだよな…… まぁ、幾ら高いと言っても、装備品とかに比べると大した額じゃないし、一度食べてみるか?」


「やったのです」


「だけど、他の料理より高いから相当旨いんだろうなぁー? 俺も楽しみになってきたわ」


 料理が決まるとすぐ店員に声をかけ、肉料理とパンや飲み物を注文した。

 店員はお辞儀をした後、注文を通す為にカウンターへと向かっていく。


 後は料理が来るのを待つだけなのだが、料理ができるまでの間はいつも暇を持て余してしまう。

 そんな時は周囲を飛び交う声に耳を傾ける事にしていた。

 理由は稀に有益な情報が入ってくる事もあるからだ。

 

 俺は隣の四人用の席で食事をしているプレイヤー達の会話に意識を向ける。




★ ★ ★ ★




「最近、【ファルコン】の奴等が幅を利かせているみたいだな」


「あぁ、街の近くにある旨い狩場には片っ端にギルドメンバーを送っているみたいだぜ」


「クソっ!! アイツ等、ちょっとばかり人数が多いから調子に乗りやがって!」


「【ファルコン】だけじゃないぞ。今は多くのギルドが自分達が優位になる為に、狩場や有益な情報を独占しようとしている。こんなおかしな世界に飛ばされたって言うのに何でプレイヤー同士がいがみ合わないと行けないんだよ」



 テーブルを力強く叩きつけ、戦士の男は苛立ちをあらわにしていた。


「なるほどね。今はギルド間で争いが勃発しているって感じかぁ…… あの戦士の言う通りで、プレイヤー同士、仲良く出来ないのかよ」


「大昔から人間はつまらない事で戦争ばかりしていたのです。たとえそれが非現実的な世界だと言っても本質は変えられないって事なのです」


「まぁ、ソロプレイの俺には余り関係の無い話だな」


 軽く結論に達した時に俺たちのテーブルに料理が運ばれた。

 料理を目にした俺は驚きの余り、のけぞり椅子から落ちそうになってしまう。

 

「デカ!! この料理ってこんなに量が多いの? あの値段って量の多さから来ていたのかよ!!」


 テーブルの上には5人前はあると思える位の大きな焼いた肉の塊が豪快に置かれていた。


「ほぇぇぇ。おっきいのです」


「喰い切れるのかよ…… これ??」


 どう見てもお子様と青年一人だけで食べきれない量で、周囲の人達も俺を見て、指を差しながら笑っていた。


「仕方ない。食べれるだけ食べて、無理そうなら残すしかないな」


 昔から、出された料理は出来るだけ食べきる様にしているのだが、物には限度がある。

 無理をして体調を崩す位なら残した方がいいだろう。


「私に任せるのです。天使の実力を見せてあげるのです!!」


 アナマリアは腕まくりをした後、ナイフとホークを使いながら肉の塊を切り分け始めた。


「ホムホムホム。お肉はとっても美味しいのです。相馬くんも食べてみて欲しいのです」


 アナマリアに言われるまま、俺も肉を頬張り始めた。




 ★ ★ ★ ★




「兄さん達、もしかしてタツ坊の知り合いの人やろ?」


「ん? タツ坊? 誰だよ。知らないけど?」


「えっ!? おかしいな、あぁタツ坊って、エルフの空気読めない坊っちゃんの林達也君の事や!! 俺は平山っちゅうもんで【ブルーアイズ】のメンバーやけど。あの時、わいも一緒にいたんやで」


「達也の所のギルドメンバーの人か。それで俺に何か用でも?」


 関西弁を使う平山って言う男は剣などの装備を身に着けておらず、軽装の防具だけを装備していた。

 短く刈り込んだ短髪のヘアースタイルだが、身長は190cm近くあり体格も大きい。

 人懐っこい顔をしているが、目つきは鋭い。初対面に対して馴れ馴れしい感じは少々いただけない。


「用っていう用もないんやけどな。丁度見かけたら、ごっつい量の飯喰っとるやろ? 二人だけじゃキツそうやからな。援軍に入ったろうと思うてな」


 テーブルの上にはまだ半分も減っていない肉の塊が残っている。

 俺とアナマリアの胃袋も既に満タンで、手も少し前から止まっていた。


「うぐぐぐ。ぐるじぃいのですぅぅ。私はギブアップなのです」


 アナマリアは既にテーブルの上に力尽きダウンしている。


「ほら彼女はもう無理やろ? 料理を残すと【勿体無いお化け】が出てくるしな」


「確かに、これ以上は俺も食べるのが辛いからな。平山さんだっけ? 手伝ってくれるなら助かるよ」


「ほな、すぐに椅子を持ってくるさかい。一緒に食べろか」


 平山は近くで余っていた椅子をヒョイと掴み上げると、俺達のテーブルの所に置いた。

 そして豪快に肉を喰っていく。


 平山は身体が大きいので、食べる量も俺達の比では無く、肉の塊はあっという間に姿を消していく。


「兄さん、デザートも頼んでもええか?」


「全く遠慮がないな。まぁ肉を喰ってくれた礼もあるからな」


「おおきに。それじゃ果物を適当に……」


 肉を食べ終えた後、平山は果物を数個平らげる。


「ふぅぅ。お腹いっぱいや。ホンマにご馳走になったわ。ありがとさん」


「いや、こっちも助かったから別に気にする必要はないです」


 平山は大きくなったお腹を太鼓の様に叩きながら、一息をつく。


「そういえば、タツ坊が言っていたけど、兄さん達はソロプレイなんやろ?」


「そうだけど」


「ギルドには入る気はないんか? 兄さんたちもこの街にたどり着ける実力があるなら解っていると思うけど、この先はソロじゃキツイと思うで」


 それは正論であるだろう。

 モンスターが強くなるにつれて、必ずソロプレイには限界が出てくる。

 だけど、俺だってそんな事は最初から解っている。

 

 その事を考えた上で俺は気楽なソロプレイを選んだのだ。


「確かにそうかもしれないけど、今はまだソロでやっていくよ。ソロと言っても、アナマリアも居るからな二人のパーティーでゆっくりと攻略していくさ」


 テーブルの上に潰れて動けなくなっているアナマリアを指さして俺は言い切った。


「そうかぁ。残念やな。兄さんたちは有望株やて聞いていたからな。まぁ困った事が在れば、いつでギルドに顔だしてな」


「そう言ってもらえると助かるよ」


「あと一つ。この街は今、色んなギルドがいがみ合っているんや。そりゃ生産ギルドや平和主義のギルドだってある。やけどな一部のギルドはそうやない。ゲームの世界やからと言って好き勝手な事をやりはじめておる奴等がおる。そいつらには気をつけるんやで」


「忠告感謝するよ」


 平山が差し出した手を俺が握り返し軽く握手を交わす。

 話し合ってみると彼もまた良いプレイヤーで、【ブルーアイズ】のメンバーは常識人が揃っているのかもしれない。



「おい。お前。通路にはみ出ているじゃねーかよ? 邪魔なんだよ! さっさとどけ!!」


 その時、平山に対して野太い罵声が飛んでくる。


「おぉ、悪いなすぐにどくさかいに」


「お前ぇぇ、一体何様のつもりだ? ん? お前は…… もしかして【ブルーアイズ】の平山か?」


「あぁ、確かにワイは平山やけど。兄さん達は誰なんや?」


「俺達は【ファルコン】の者だ。ギルマスが言っていたぞ。お前達が生意気だってな!!」


 男達は四人組で酒に酔っている様子だ。


「丁度いいじゃねーか。いっちょうやっちまおうぜ」


 四人組の一人があおり始めた。


「そうだなぁぁ。平山さんよ? 俺達と【決闘】しようぜ。武闘派で名を馳せる【ブルーアイズ】の腕前を見せてくれよ」


 【決闘】とはプレイヤー同士が戦えるシステムで、決闘を申請し相手が受理すれば、街の中でもプレイヤー同士が戦う事が出来る。

 街の中ではPKは不可でプレイヤーに干渉を与える事が出来ない。

 なので【決闘】が使われる事が多い。ただし【決闘】で敗れたとしても死ぬ訳ではなく。

 負けたプレイヤーは街の決められた場所に強制的に飛ばされる仕様となっている。


「悪いけど、今は連れがおるさかいに。今はやめとくわ。ワイがどくから、今回は許してくれへんか?」


「へっ。怖気づきやがって。恥ずかしくないのかよ?」


 いきり立つプレイヤーと残りの三人が調子に乗って騒ぎ始めた。


「うるさぁぁぁーーい。さっきから、耳元でゴチャゴチャ、ゴチャゴチャうるさいのです!!」


 その時、テーブルの上で死んでいた筈のアナマリアが飛び起きる。


「何だ? このガキは? こいつもプレイヤーか?」


「ガキではないのです。あなた達よりも私はお姉さんなのです。そんな事より、せっかく寝ていたのにうるさいのです。静かにして欲しいのです」


「ふん。ガキの癖に俺達に向かって喧嘩をうってんのか?」


 そう言うと戦闘の男性が軽くアナマリアの身体を押す。

 街の中ではプレイヤーがプレイヤーに対して出来る事は押したりする程度が限界で、逆に言えばその位しか出来ないのでプレイヤーの安全が保証されていると言える。

 しかし押された結果、アナマリアはバランスを崩して椅子から転げ落ちる。


「うげ!! いたいのです」


 涙目になりながらアナマリアは唸っていた。

 もちろんアナマリアにはダメージは入っていないのだが、その瞬間に俺の頭の中でプチンと何かが切れる音がする。


「おい。その決闘。俺が受けてやる死にたい奴は掛かってこい!!」


 アナマリアが倒される姿を見た俺は頭が真っ白になり、無意識の内に大声で叫んでいた。

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