28話 新しい地域とプレイヤーの変化
俺達が【ダイヤルの街】に入ってから、数日が経過していた。新しい街は出会いの連続で、毎日を刺激的に過ごせている。
幾つか衝撃を受けた事柄を上げてみると、まずひとつ目は料理だ。
【料理人】の職業のプレイヤー達がこの街で幾つもの店を開いていた。
【はじまりの街】でもプレイヤーの店はあったが、ここでは向こうでは手に入らない食材を使った料理があり俺を釘付けにする。
「魚うめぇぇぇ」
露店で売られている魚の塩焼きを頬張りながら、舌鼓を打つ。
塩だけで簡単に焼かれているだけで旨さは驚きだ。
「ほむほむ。うんうん。ホクホクしていて凄く美味しいのです」
「だろ? この店は俺が見つけた、とっておきの店なんだよ」
「お魚がこんなに美味しいとは知らなかったのです」
この街の近くには大きな河があり、魚もたくさん取れるようで【漁師】が活躍できていると聞いた。
「俺達が助け出した岸本さんもこの街にいるのかな? 頑張っていればいいけど」
「前に森で助けた【漁師】のプレイヤーさんの事ですか?」
「そうそう。漁師が活躍しているって聞いたら、急に思い出してね」
「きっと頑張っていると思うのです。だから私達も子づくりを頑張っ!? いったーい。痛いのです。おでこに電気が走ったのです」
俺はアナマリアが暴走を始めた瞬間にデコピンを叩き込む。
良い角度で入ったのでそれなりの威力だろう。
「お前が馬鹿なこと言っているからだろ? それにゲームの世界で子づくりって」
「ん? 出来ますよ子づくり作業」
キョトンとした表情でアナマリアは答えてきた。
「嘘だろ? だって俺達プレイヤーって、街とかで互いに危害を加えられないじゃないか?」
「普通ならそうなんですが、知らないのですか? 結婚って機能があるのです」
「結婚? そういえばそんな機能があったような……」
「そうなのです。結婚を申し込んで、相手に了解して貰えれば関係が持てるようになるって、友達の天使ノエルが言っていたのです」
「それじゃPKの奴らが言っていた女性に手を出す方法って…… この事かもしれないな」
「だから…… 私に早く申込んで欲しいのです」
下から覗き込む仕草で迫るアナマリアの頭を片手で押し返した。
「本当に俺もまだまだ知らない事が多いよな」
★ ★ ★ ★
【ダイヤルの街】に拠点を作ってから、俺達は日々狩りを続けていた。
新しいモンスターには出会っているのだが、一番強いと感じたモンスターでもモンスターランク5。
スラ男達のパワーアップは未だ難しい状況だ。
スラ男達はLVも上限に達しており、LVは上がらない。
けれど俺の方は数日前に比べ格段にLVが上がっていた。
「おっ!? またLVが上がったぞ。久しぶりに確認してみるか」
★★★
名前:青木 相馬
職業:マッド・サイエンティスト
LV:45
HP:130
MP:380
力 :54
速度:134
知力:200
耐久:60
スペシャルスキル
【ラーニング】 :LV∞ モンスターをラーニング
【死者蘇生実験】 :LV3 モンスターランク12までのモンスターを三体、一定確率で蘇生し仲間にできる。
【改造】 :LV3 モンスターランク12までのモンスターを一定確率で改造
【錬金術】 :LV∞ アイテムや武器を錬成
【天使の加護】 :LV∞ 天使の加護を得る
マルチスキル
【援護射撃】 :LV4 後方からの攻撃時における命中率、ダメージ量の補正【小】
【薬草採取】 :LV6 薬草採取量が増える
【逃走】 :LV3 逃走時における速度補正【小】
【以心伝心】 :LV3 仲間モンスターの伝えたい事を理解する
【気配察知】 :LV1 自分以外の気配を察知する
【指揮官】 :LV1 自分のPTメンバーの能力値上昇補正【小】
★★★
「【死者蘇生実験】のLVが上がって、三体目の仲間を作れる様になっているじゃないか!! このスキルってLVが上がり辛いんだよな。早速、仲間を増やしたい所だけど」
「新しい仲間が増えるのですか? それなら可愛らしいモンスターがいいのです」
「可愛らしいモンスターねぇ…… 一応考えておくよ。この際にスラ男達のステータスをもう一度確認しておくか」
★★★
名前:スラ男
職業:シアンススライム
属性:水
モンスターランク:6
LV:30
HP:350
MP:0
力 :210
速度:270
知力:70
耐久:110
スペシャルスキル
【変形】 :LV6 身体の形状を変化させる。
【噛み付く】:LV5 鋭い牙で敵を噛みつき引き裂く
【疾走】 :LV6 高速で移動できる。
【超感覚】 :LV5 視力、嗅覚、聴覚の補正【中】
【潜む】 :LV4 気配を消し、敵の感知から逃れる
【自己再生】:LV3 自己修復能力【小】
マルチスキル
【連携】 :LV7 連携攻撃時の攻撃力補正【中】
【忠誠】 ;LV7 主人の命令に伴う行動時の全能力補正【小】
★★★
名前:ゴブ太
職業:ゴブリンジェネラル
属性:土
モンスターランク:6
LV:30
HP:420
MP:0
力 :295
速度:130
知力:60
耐久:180
スペシャルスキル
【庇う】 :LV2 対象者を身を挺して守る。スキル使用時の耐久力補正【大】
【連撃】 :LV5 剣戟による連続攻撃
【増力】 :LV3 力値補正【中】
【威嚇】 :LV4 モンスターランク下位のモンスターの行動を阻害させる
マルチスキル
【連携】 :LV6 連携攻撃時の攻撃力補正【中】
【忠誠】 ;LV7 主人の命令に伴う行動時の全能力補正【小】
★★★
「やっぱり強ぇぇな。俺と比べたら何倍も強い。LVは俺の方が高いのにな」
仲間のステータス値の高さに驚嘆しながら、俺は狩りを再開させた。
★ ★ ★ ★
周囲に10体ほどのモンスターの死体を眺めながら、驚嘆の声をあげる。
「南の森って本当に難易度が高かったんだな。スラ男達が強すぎる」
「本当にその通りなのです。これじゃ私の力が発揮出来ないのです。折角いい所を見せようと思っていたのに…… スラ男くん今度は私にも頑張らせて欲しいのです!!」
「いや、本当にそんな場面になったら、お前確実に逃げるだろ?」
「何を言っているのですか!! 私の秘めた力を開放すればモンスターなんてケチョンケチョンなのです」
「おい。アナマリア、近くにプレイヤーの気配を感じる。スラ男はアナマリアの肩に潜んでくれ。今日の狩りはここまでにして、ゴブ太も人気の少ない場所で隠れていてくれ」
俺はアナマリアを連れて、気配がある場所へと移動を始めた。
木陰に隠れ覗き込むと、どうやらプレイヤー同士が喧嘩をしている様子。
互いに数名のプレイヤーを引き連れ、リーダーの男性プレイヤー同士が怒鳴り合っていた。
「お前らぁぁぁ。前にも言ったよな? この場所は俺達の狩場だってな!! さっさと別の場所に行けよ」
「何が俺達の狩場だ? 狩場は誰のものでもねぇだろ? 先に狩りをしている俺達がわざわざお前達に渡す道理がない」
「俺達が【ファルコン】のメンバーと知って言っているのか? 喧嘩するなら買ってやんぞ」
「【ファルコン】が何だって言うんだ? ちょっとばかり人数が多いからと言って偉そうにするんじゃねーぞ」
互いのプレイヤー達は武器を構え、睨み合っている。
「喧嘩をしているのです。どうしますか?」
「どうやら狩場の取り合いみたいだから、俺は何もしないよ。互いに仲間も居ることだしな。狩場の取り合いって言うのは、どのゲームでもある事だし」
「相馬くんなら、仲裁に入ると思っていたのです」
「俺だって厄介事は嫌いだから、極力関わりたくはないよ。腸が煮えくり返ったら話は別だけど…… 俺達は街に帰ろうぜ」
「でも…… あの歪んだ感情はとっても恐ろしいのです」
怯えるアナマリアの手を引き、プレイヤー達に気づかれない様に離れると俺達は街へと向かう。
この時は、まだ簡単に考えていた。
所詮はゲーム上でのやり取りだと、けれどこの世界は俺が考えている以上に混沌とした世界に変貌し始めていた。