27話 ギルド【ブルーアイズ】
ひょんな縁から達也と街を目指す事となった。
一緒に行動を開始してから達也の種族がエルフ族だという事に気づく。
初めて会った時はただの美形な青年だと思っていたが、どうやら違っていたらしい。
そのカッコよさはアイドル並みで、エルフ族は造形の補正でも入っているかと考えてしまう。
「【ダイヤルの街】には今日中に到着しますよ。短い旅でしたがとても楽しかったです」
達也はいつも爽やかで、まさに【好青年】を絵に描いたような奴だ。
だが猫を被っている様子でもなく、アナマリアのように癇に障る事はない。
道中に戦闘になった時、達也は真っ先に飛び出すと、一人で群れに突っ込みモンスターを全滅させていた。
「アナマリアさんは僕が守る!!!」
初めてその発言を聞いた時は余りの衝撃に面を喰らってしまう。
けれどその後もイケメンコメントが連発しはじめた事で、高い確率で深い意味ではなく、女性全員に同じような事を言うモテキャラだと気づいた。
よくラノベに出てくる無自覚系勇者タイプだ。
それにしても、恥ずかしがる事もなく臭いセリフを言い続ける根性は大したものだと思う。
「ひゃぁぁぁ。達也さんがグイグイとアプローチをかけてくるのです。私にもモテキが訪れたのです。でも、でも!!」
頬に両手を当てながら、ブルブルと首を振りながら嬉し恥ずかしそうに悶えている。
恋に対して本当に免疫力がない奴だ。
「あんまり期待すんなよ?」
「ふっふっふ。相馬君、もしかして焼きもちですかぁ? 私はどんなイケメンに言い寄られても浮気は絶対にしないので安心して欲しいのです」
「俺がお前に焼きもち? ないない!! それだけは絶対にないから」
「いつもツンツンしているけど、私は知っているのです。すでに私にゾッコンだという事を!!」
ビシィィィッっと人差し指を突き出してきた。
一片の迷いもないその力強い姿にドキリと心臓が大きく跳ねた気がした。
「ふんっ」
図星をつかれ赤くなった顔を見ない為に先を歩く達也の元へ駆け寄っていく。
俺に気づいた達也は歩みを止めると前方へと指をさした。
「相馬さん。ほら見てください。あれが【ダイヤルの街】ですよ」
前方には二メートル位の高さの塀に囲まれた大きな街が見えていた。
★ ★ ★ ★
「両手を伸ばせば塀の上に登れそうだよな? 俺のイメージだと街の周囲の塀って、【始まりの街】みたいに何メートルもあるのが普通だと思っていたよ」
「あーそれ、僕も思っていましたよ。どうやらモンスターが入ってこない程度でいいらしいですよ」
「実際、街の周りって初期モンスターが多いもんな。第二の街だから街の周辺でも強いモンスターが出るもんだと思っていたけど……」
「そうですね。確かに周囲は初期モンスターだけしか出ませんけど、少し離れればやはり強いモンスターが出てきますよ」
街の塀を通り過ぎながら感想をこぼす。
やはり俺以外のプレイヤーも同じ事を考えていたようだ。
ダイヤルの街は【始まりの街】より少し小さな規模の様だが、多くの人が賑やかに街道を歩いている。
商店などが建ち並ぶ街の中心部は【始まりの街】と引けを取らない活気だ。
「僕は今からギルド会館に向かうんですが、相馬さん達はどうします? 良ければご案内しますよ」
「そうだな。宿屋も予約しておきたいけど、ギルド会館の場所もチェックしておいた方がいいだろうし…… お言葉に甘えて案内をお願いしてもいいかな?」
「はい。ギルド会館には【ブルーアイズ】のギルドメンバーもいると思うのでご紹介しますよ」
俺達は一度、ギルド会館へと向かう事となった。
★ ★ ★ ★
ギルド会館は街の中心部にあり3階建ての大きな建物だった。
【始まりの街】では余り寄る事もなかったギルド会館だが、この街で腰を据えて活動するとなると、クエストを受ける事もあると考えていた。
一階に設置されている大きな木製の扉が開かれた状態となっている。
そとから中を覗き込んでみると、数十名のプレイヤーの姿見て取れた。
「昼間なのにプレイヤーが結構いるもんだな」
「そうですね。狩やクエストをしていないプレイヤーは新しい情報を求めて、ギルド会館に居ることが多いんです。やはり新鮮な情報はプレイヤーが多く集まる場所の方が入手しやすいからだと思います」
「なるほどね。一応、理にかなっているな」
達也はギルド会館に入ると周囲を見渡し、ある集団を見つけると手を振りながら大声をだした。
「マスター!!!」
「おーっ、達也!! PK野郎共は倒せたのか?」
一人の男が立ち上がり、俺達の方へと近づいてきた。
俺は一目で彼が人間ではないと気づく。
「亜人族? 種族は…… まさか!?」
男の外見は30歳前後で細身の体をしているが、殆ど装備品を身に着けていない。
けれど彼の皮膚は煌めく鱗で覆われていた。
「バッチリですよ。でも正直に言えば倒したのは僕じゃなくて、相馬さんですけど」
「相馬さん? 誰だそいつは?」
「ご紹介します。僕がターゲットを発見した時に襲われていたのですが、凄く強くて一人で四人も倒しちゃったんです」
「へぇー。そいつはスゲェな」
鋭い眼光で俺を見下ろしてきた。
近くで見ると背も高く190cmは超えているかもしれない。
年齢も俺より上で貫録が滲み出ている。
「どうやら依頼を手伝って貰ったみたいで悪かったな。報酬の分配分は後で送らせるわ」
「報酬なんていりませんよ。俺も助けて貰ったんで」
「俺は【ブルーアイズ】のギルドマスターをやっている。半田太一だ。よろしくな」
差し出された手を握り返しながら、俺も自己紹介をする。
「俺は青木相馬で、そして横にいるのはアナマリアです。よろしくお願いします」
「おう。よろしくな」
力強く握られた手を上下に激しく振り始める。
余りの馬鹿力で俺の体は上下に激しく振り回された。
「もしかして、お前達って二人パーティーか? 二人でこの街まで来たのか? 中々根性あるな」
「激しい! 激しいって!! それは二人だけだと危険って意味ですか?」
「まぁそういう事だ。街の周辺位なら大丈夫だが、少しでも離れるとモンスターのランクが急激にあがる」
警告のつもりで教えてくれているのだろうが、逆に俺はその情報に歓喜を覚えた。
(急激にモンスターランクが上がるだって!? それじゃ、やっとアイツ達を強くしてやれる!!)
「へぇー動じてないって訳か。根性が座っている奴は嫌いじゃねーよ。これも何かの縁だろう困った事があれば言ってきてくれ」
そう告げるとギルドマスターは達也を引き連れて仲間の元へと戻っていった。
「相馬くん。今すごく顔がニヤけているのです」
ずっと黙っていたアナマリアが俺の顔を見つめながら言ってくる。
「えっ? 俺ってそんなにニヤけているのか?」
「とーってもニヤけているのです。すごく楽しそうな顔なのです」
知らない内に顔にも出ていたようだ。
早く狩に出たい衝動に駆られたが、まずは足場を固める事から始めないといけない。
「アナマリア行くぞ!! 拠点となる宿屋を見つけよう!」
俺はアナマリアの手を掴むと、宿屋を探すために走り出した。