24話 ダイヤルの街へ
俺達は今、新しい街に向けて旅立っている。
北に続く街道を進むと周囲にはプレイヤー達がモンスターを探しながらあちこちを探索している。
駆け出しのプレイヤー達の数は多く、比較的に安全な街の周辺を狩場にしていた。
街道周辺はモンスターの発生率が少ない上にプレイヤーが大勢いるので、俺達が戦闘になる事は殆ど無い。
ちなみにこの辺りに現れるモンスターはランクが低いので、倒したとしても余り意味はなかった。
俺達を見かけたプレイヤーは興味を含んだ視線を送ってくる。
その理由は俺と共に移動するゴブ太の存在だろう。
スラ男は【変形】で最小の大きさになってもらい、ゴブ太の肩に乗っているので気付いた者はいない。
今までは注意を引かない為に森の中に隠れて貰っていたが、他の街に移動するとなれば隠し続ける事は難しい。
色々考えた結果、俺は仲間を隠さない事を決める。
「おい、アイツ等を見てみろよ? モンスターを連れて歩いているぞ。【獣使い】とかの職業か?」
「いや待て、よく見てみろよ。もし【獣使い】ならテイム出来るモンスターは獣だけの筈だろう? でもあれってゴブリン族だ。 ゴブリンって獣なのか? もしかして俺達の知らない職業かもしれないぞ」
プレイヤー達は自分の知らない事には必ず興味を持ってしまう。
それは【知らない=不利になる】と言う考えから来ている。
全員が手探りで進めているこのゲームで情報はそれだけ価値がある項目だと言えた。
「それにアイツ、めっちゃくちゃかわいい女の子連れてないか? あの子もプレイヤーだろ? NPCが俺達と狩りに出るって聞いた事もないし…… まさかこの世界に子供のプレイヤーもいたとはな」
「取り敢えず。あの男は死亡決定だな。顔は覚えた!! 一人だけリア充にはさせる訳にはいかない」
俺達に聞こえる位の声で噂話に花を咲かせている。
そんな言葉を無視しながら俺は先を急ぐ。
★ ★ ★ ★
「はぁ~。 こうなるって解っていたから、ゴブ太達を見せたくは無かったんだよなぁ~」
人気の少ない木陰で腰を降ろした俺は、片手で頭を抑えながら唸っていた。
「他人に何を言われようが気にする事はないのです」
「それは解っているんだけどな。俺はただ目立ちたく無いんだよ」
「もぅっ!! いつまでもそんな事は言ってられないのですよ。男が一度決めたのならドンと構える物なのです」
仁王立ちで俺の顔の数センチまで自分の顔を近づけながら凄むアナマリアの威圧感に圧され気味になってしまう。
「わかったよ。あーーーっ。ウジウジしていた俺が悪かったです!! これでいいか!!」
「ふふん。わかれば良いのです。自分の意思で行動を起こしている相馬くんはとっても素敵なのです」
今もまだ顔が近すぎて触れてしまいそうな距離だ。
弾ける笑顔のアナマリアを超至近距離で見つめ、顔の温度が一瞬で上昇している気がした。
それを誤魔化す為に俺はすぐに立ち上がる。
「休憩は終わりだ。そろそろ出発するぞ」
その場から立ち上がると、一人で歩き始めた。
「ハイなのです」
元気よく敬礼すると、アナマリアはバタバタと俺の横まで小走りで走りだす。
アナマリアが横まで来ると俺は歩き始め、目的地のダイヤルの街を目指した。
★ ★ ★ ★
それから数時間ほど歩き続けた。
「相馬くん。相馬くん。向こうに街が見えるのです」
俺の前を歩いていたアナマリアが大きなジェスチャーで街がある事を告げてくる。
「もぅ街に着いたのか? 予想以上に早くついたな」
俺も小走りでアナマリアの側まで移動し、アナマリアが指を指す方向に視線を向けた。
「あれは…… 街って言うより村だ。どうやら地図にも載っていない村があったようだな」
「村なのですか、紛らわしいのです」
「いやいや。補給も出来るしもし泊まれる様な場所があるなら、モンスターに警戒しなくていいから今晩はゆっくりと寝れる。アナマリア、よく見つけてくれた。偉いぞ」
俺はアナマリアを褒めながら頭をなでてやる。
「えへへへ。お役に立てて良かったのです」
アナマリアは表情を崩して惚けていた。
数百年も生きている筈なのに、こんな子供にやるような事で喜ばれるとは…… 威厳も何も在ったものじゃない。
「よし早速よってみよう」
俺達は村に向けて移動を始めた。
村に入ると、数人の子供たちが遊んでいる姿が見える。
ゴブ太を村に連れて行くとパニックになるかもしれないので村の近くに待機してもらっている。
隠れる様に言っているので、危険は無いと思う。
遊んでいた子供たちも俺達に気づき近づいてきた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん達は冒険者だろ?」
一番年長っぽい少年が俺に語りかける。
「そうだよ俺達は冒険者だ。さっきこの村を見つけたんだよ。ここで補給や泊まる事はできるのかな?」
優しい口調で訪ねてみた。
「大丈夫だよ。大人はみんな冒険者が来るのを待っているんだ。きっと喜ぶと思う。すぐに呼んでくるね」
そう言うと一緒にいた子供に指示を出して村人を呼びに行かせる。
その間、他愛もない雑談をしていると、数人の村人が近寄ってきた。
「冒険者様、ゴエルの村へようこそ。この村では補給から宿まで賄えますよ」
「それはありがたいです。では食料の補給と今晩泊まれる宿をお願いします」
狙い通りに事が運び、ホッと息をはいた。
これで今日はゆっくりと眠れるだろう。
村人に案内されながら村の中を歩いていると、俺達以外にも数名のプレイヤーの姿を見かける。
俺達以外にも北に向かっているプレイヤー達はいるらしい。
「どうやら出遅れているみたいだな」
「心配する事無いのです。他人は他人、自分のペースでこの世界を楽しむのです。私は今、今日の夕食に何が出てくるのかとワクワクが止まらないのです」
この世界の料理はちゃんと味があり、美味しい料理が多い。もちろんハズレもあるのだが、そういうのが食事と言う楽しみを生んでいる。
「郷土料理って事だな。俺も楽しみだな」
ワイワイと騒いでいる俺達に鋭い視線が突き刺さる。
「ん?」
視線に気付いた俺は、その方向に振り向いてみた。
すると家屋の角に人影が見えていたが、すぐにその姿をけす。
「何だ? 誰かに見られていたよな……?」
一瞬の事で確証は無いが、確かに見られていた気がする。
俺がその事を考えていると、俺の手を取りアナマリアが引張り始めた。
「もう、なにを突っ立っているのですか? 早く行きますよ」
「あぁ、わかったよ」
(深く考えても仕方ないよな)
俺は頭を左右に振り、先程の事を頭から追い出すと、アナマリアに引っ張られるままに村人が案内する目的地へと向かう。




