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22話 救出

 俺達がプレイヤーと出会った場所は森の奥で適正LVは30前後。

 現在の全プレイヤー平均LVは20前後だと斎藤さんから教えてもらっている。

 なのでこの場所にいるプレイヤー達はトッププレイヤーという事になるだろう。


 今はスラ男のスキル【潜む】を使って擬態した木に隠れているので、敵の感知には引っかかっていないが油断するのは危険だ。

 

 俺は小声でアナマリアに語り掛ける。


「アナマリア、中心のプレイヤーを助けるぞ!」


「了解したのです。そしてあのクソッタレプレイヤー達を始末するのですね」


「さすがに、そこまではする気はねーよ。相手はメンバー構成100人を超える大組織だ。俺が手を出せば一瞬で踏み潰されてしまうからな。だけど目の前で行われているあの現状には虫唾が走る。この場を混乱させて、一人のプレイヤーを助ける位なら正体がばれる事もないだろう」


「うーん。確かに相馬くんが強いと言っても100人が相手だと勝てないのです。全く運の良いクソプレイヤーなのです」


 憤慨するアナマリアを横目に俺はスラ男達に作戦を伝えた。


「スラ男は擬態の解除をしてゴブ太と戦闘準備。アナマリアはスラ男達に能力向上魔法をありったけ掛けてやってくれ。作戦はスラ男達が敵を引き付けている間に、俺たちがプレイヤーを救い出す!」


「了解なのです」


「ギィーーー!!」


 敬礼のポーズを取る仲間と共に俺達は行動を開始する。


「スラ男達に命令だ。第一に自分達の命を大事にしてくれ。無理はせずに危ないと感じたら引くんだ。あのクソッタレプレイヤー達に攻撃を与える事も認める。お前達の実力を教えてやれ!!敵の注意を引き付けて出来るだけこの場所から引き離すんだ!!」


 俺の命令を受けてスラ男は行動を始めた。

 魔王との戦闘から【改造】スキルは使っていないので、モンスターランク6でLVはマックスの30である。

 もしクソプレイヤー達のLVが高くても、ひけはとらない筈だ。


 擬態を解除した瞬間にエルフで狩人の姿をしているプレイヤーが俺たちの方へ首を向けてきた。

 これは感づかれたかも知れない。

 相手に警戒される前に行動を開始する。


「作戦開始だ。行くぞ!!」




★ ★ ★ ★




 シアンススライムのスラ男は大型犬の姿となり疾風の如く大地をかける。

 その速さはこの辺りに出没するモンスターより数段速い。


「みんな魔物が襲ってきたぞ!! 全員戦闘準備だ」


「チッ、いい所だったのに邪魔くせぇな。さっさと蹴散らして実験の続きをするぞ」


 他のプレイヤーも武器を手に取り戦闘準備に入ろうとしていたが、その時点でスラ男はプレイヤーのそばまでたどり着いていた。


「なっ!? 速い!!」


 一番近いエルフの男が弓を手に取り無数の矢をスラ男に放つ。

 それをジグザグに動くことで軽々と避けながら肉薄すると、片腕に鋭い牙を食い込ませた。


「ぎゃぁぁぁーーー!!」


 スラ男は男の腕に噛みついたまま、大きく首を振り回すとプレイヤー達に向けてエルフの男を投げつけた。


「モンスターの分際で小癪な真似を!! 囲め、囲め!! 包囲して叩くぞ」


 流石はトッププレイヤー達でパニックになる事もなく、指示に従い流れる様な連携でスラ男を包囲する。


「見たことも無いモンスターだが? まぁいい。これで終わりだ。全員同時攻撃」


 リーダーの青年が命令を出した瞬間、側面からゴブ太の声が響き渡る。


「ギィィィー!!」


「おいもう一匹いるぞ。何だって、装備を付けた大型のゴブリンだと!? なんだこいつ等は!?」


 近くにいた戦士のプレイヤーにゴブ太は大剣を振り回して装備の上から豪快に剣を叩きつける。


「うわぁぁ」


 吹っ飛ばされた戦士の穴に飛び込んだスラ男は、包囲網から脱出すると、ゴブ太と横並びに隊列を組み同時に動き始めた。


「おい。嘘だろ…… 種族の違うモンスターが連携するなんて!!」


 スラ男達は互いに【連携】のスキルを持っている。

 今はスキルレベルはLV6となり二匹の動きは互いを補い合い、微塵の隙も作らない程に完成されている。


 ゴブ太のフルスイングの攻撃を必死に剣で受け止めた青年は、尻餅を付きながら叫ぶ。


「チクショー。このままじゃ、殺られる。仕方ない全員引くぞ!!」


「でもどうやって逃げるんだよ!? モンスターのあの速さ。すぐに追いつかれちまう」


「実験体だ。実験体を囮に使って逃げるんだ。さっさとやれよ。お前ら!!」

 

「お、おう」


 メンバーの一人が戦闘中にずっとうずくまっていたプレイヤーを抱きかかえると、ゴブ太に向けて投げてきた。


 碌な装備も身に着けていない男性プレイヤーはゴブ太の前で転がったまま震えて動けずにいた。


「ひぃぃぃ。助けてくれ。助けてくれ。助けてぇぇぇ」


「ギッギャギ」


「おい、今の内だ。全員逃げろぉぉぉぉーーー」


 一目散に逃げだした青年プレイヤーの後に続き、他のメンバーも必死で逃げ始めた。


 スラ男は一定の距離を保ちながら男達の後を追う。


「ほぇー。スラ男達ってあんなに強いのか? 圧勝じゃねーかよ」


「当然なのです。スラ男くんは魔王との戦いも経験しているのです。雑魚とは格が違うのです」  


「お前が威張る所は全然ないけどな!! おっやば。早速プレイヤーの人を助けに行かないと」


 俺とアナマリアは未だに震え続けている男性プレイヤーの元へと駆け寄っていく。

 ゴブ太には視線を送り、プレイヤーを怖がらせない為に隠れてもらった。


「大丈夫か?」


「死にたくない。俺はこんな所で死にたくないんだ」


「安心して欲しいのです。モンスターはいなくなりましたから、それよりも手当を早くするのです」


「えっ!? モンスターがいなくなった…… 本当だ」


 キョロキョロと周囲を見渡して安全を確認した男性はホッと息を吐く。


「それにしたって、どうしてこんな森の奥にいるんだ? そんな装備じゃ、モンスターにやられちまうぞ」


 事情は知っているのだが、たまたま出くわした演技を入れておく。

 実際、男性は殆ど初期装備のままで、この森の奥にいたんじゃすぐにやられてしまうだろう。


「今から俺達が街に連れて帰ってやるから、戻ろうぜ」


「治療が終わったのです。体力も減っていましたが、状態異常にもなっていたのです」


「本当に助かったよ。あんなギルドもぅ限界だ。俺はあのギルドを抜ける」


 帰りはスラ男達が遠巻きに護衛してくれており、モンスターを事前に倒してくれているので出会う事はなかった。


 俺達は男性を街に案内しながら、ギルドの裏の顔を教えてもらう。

 

「成程ね。力なき者や言うことをきかない者に対しては非道な行為を取り、逆に自分たちに忠実な者達を重宝してる…… 組織としては最悪な所だな」


 ギルドを抜ける方法は意外と簡単で、各プレイヤーからでも脱退が可能となる。けれど脱退するにはギルド会館にて脱退手続きを行う必要があるらしく。

 男性もギルドを抜けるまでは見つからない様に隠れていると言っていた。


 無事街に到着した後、別れ際に握手を求められる。


「俺の名前は岸本……岸本辰雄。職業はこんな陸地じゃ無力に近い【漁師】なんだ。だからギルドにいても足手まといでな…… もし俺が無事にギルドを抜けれられたらまた相手してくれよ。どこか別の街に行けば俺にだって活躍できる場所がきっとある筈だ」


「岸本さんの言う通りです。ここは最初の街。冒険はまだまだこれからです」


 俺達が分かれた後、夕食を取るために近くの食堂に立ち寄る。

 

「あっ!? あいつらは……」


 そこには森の中で出会った【エデン】の一団が不機嫌そうに食事をとっていた。


「チクショー。まさか森の中にあんなに強えぇモンスターがいるとはな」


「剛さん、出会ったことも無い種族でしたね」


「まぁな。あの実験体がいなかったらやばかったな。くそっ、俺の評価もこれでガタ落ちだ。ギルマスに絞られたからな」


「そういやアイツどうなりました?」


「そりゃ。喰い殺されてるに決まっているだろ? 最後に役に立てて、アイツも本望だろうな」


「ギャハハ。アイツは確か復活のアイテムも無かった筈ですよね? それじゃ実験体の冥福を祈って乾杯といきますか」



 傷だらけの体で酒を飲みながら愚痴をこぼしている。


「相馬くん。相馬くん。アイツ達がいるのです。どうやらひどい目にあったようなのです。へへーん、ざまーみろなのです」


「あぁ、でもあの様子じゃ。岸本さんが死んでいると思い込んでいるよな。これなら無事にギルドから抜けられるだろう」


「よかったのです。それじゃこっちも祝杯をあげるのです」


 おいしそうな料理と果実を搾って作られたドリンクが運ばれ、俺たちはドリンクを合わせて乾杯をする。


「じゃあ。乾杯だ」


「二人の新婚生活に乾杯なのです」


「あっそうだ。明日もレア木材の捜索頼むぞ」


「ふぎゅぅ。その事を忘れていたのです。明日も汗だくになるのは嫌なのですぅぅぅ」


 アナマリアは絶叫をあげた後、グビグビと勢いよくドリンクを飲み干した。

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