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21話 クエスト

 ロールプレイングゲームにはイベントが付き物で、村人や商人、貴族や王といった地位に関係なく大小様々なお願いという名のイベントが発生する。

 達成すれば報酬としてアイテムやお金が手に入り攻略を進める上で大いに役立つ。

 そのイベントの事をまとめてクエストと呼ぶ。




★ ★ ★ ★




 俺はアナマリアを引き連れて、顔見知りの雑貨屋へと赴く。

 情報屋の斎藤さんが教えてくれた情報によると、クエストはNPCとの親密度の高さによって発生するらしい。


 親密度が高くなるとNPCがプレイヤーに対して様々な依頼をしてくるようで、それを受けるとクエストとして受理される。


「ドレイクさん。こんにちは~」


「おう。相馬かぁ、いつも俺の店に来てくれてありがとうな。今日は何が必要なんだ?」


 常連という事もあり、店主とはお互いに名前で呼ぶ仲となっていた。


「なっ。名前呼びなのです。こんなおっさんがライバルだったとは……もしや相馬くんは両刀…… グハッ」


 ヤバそうなキーワードが出そうになっていたので、アイアンクローで締めておいた。


「あっこいつ馬鹿なのでほっといて下さい」


「お、おう……」


 ドレイクさんも少し戸惑っているが俺の知っているNPCキャラで、一番親密度が高いNPCキャラと言えば彼しかいない。


「備品はまだ大丈夫なんだけど、今日はドレイクさんが困っている事とかないかな?って思ってさ。何か困っている事があれば力になりたいんだよ」


 こんな感じでいいのだろうか?

 いまいち要領が掴めないが、クエストゲットの為には多少の無茶振りでも話を持っていく。


「ん、何だ。今日は冷やかしかよ…… まぁ相馬だからいいけどよぉ、他の者なら店から叩き出している所だぞ。そうだな困った事と言えば……あっ」


 ドレイクさんは指をパチンと鳴らして、得意げに話しだした。




★ ★ ★ ★




「これは本当にクエストなのですか? 単なる雑用だと私は思うのです」


 愚痴をつぶやきながら、俺の横を歩いているアナマリアはご立腹だ。

 さっきのアイアンクローの事を根に持っているのか?


「こういうのって、お使いクエストって呼ばれるんだよ。俺は結構楽しんでいるけどな」


「目的地はまだなのですか? ずいぶん歩いたと思うのです。足の裏が痛いのです。喉が渇いたのです」


「本当にうるさいなぁ。じゃあお前だけ帰れよ。俺はこのクエストを達成したいから続けるからな」


「嫌なのです。ついていくのです。一人で帰ってもつまらないのです」


 アナマリアは不貞腐れながらも俺の横を付いてきてくれた。


「着いたぞ!! たぶんここで合っていると思う」


 紙に書かれた地図を何度も見ながら目的地に間違いがないか確かめた。

 けっこう街の中心部から離れた場所で周囲には人影も少ない。


「ここなのですか? それにしても…… すっごいボロい家なのです」


 アナマリアが言う通り、到着した場所にあった木造の建物は今にも崩れそうな程ボロボロであった。


「とっ取り敢えず、ノックしてみるぞ」


 慎重にドアの前まで移動し軽くドアをノックする。


 コン、コン、コン


 返事が無い。

 家の中には誰も居ないのだろうか?

 クエストを受注して、相手がいないってのはどういう事なんだ?

 確かにリアルでは不在ということもあるだろう。

 だけどこれはクエスト何だぞ!! クエストとして認識されたなら相手が出てこなければ終わらないじゃないか。

 

 時間をずらしてまた来るのは俺としても面倒くさいので、簡単に諦める訳にはいかない。


「もしかして家が壊れるんじゃないかと思って、優しくノックしたのが悪かったのかも知れないな」


 少しだけ強めにノックし、更に声も出してもう一度トライしてみる。


 ゴン、ゴン、ゴン


「すみませーん。誰かいませんか? お届け物を持ってきました~!!」


 けれど家の中から返事が返ってくる事は無かった。


「はぁー。仕方ないな…… 今回は諦めるか?」


「そんな呼びかけでは駄目なのです。私に任せるのです」


 アナマリアは肩を落とした俺を払い除けてドアの前に立つと、腕まくりしあげてフンフンと鼻息を荒立てはじめた。


「おいっ!! お前がやると碌な事が起きないからやめろ」


「何を言っているのですか? 相馬くんがグズグズしているのが悪いのですよ。ここは天使の流儀を見せてやるのです。パッパと終わらせて二人の愛の巣へと帰るのです」


 アナマリアはブルブルと腕を回転させると豪快にドアを叩きはじめた。


「うぉぉぉぉぉ」


 バン、バン、バン、バン、バキィィィッ!!!


「あっ!?」


「あっ!? じゃねーよ。ドアを壊しているじゃねーかよ。はぁーこれだから、やらせたくは無かったんだ。一体どーすんだよ?」


「わっ私が悪いんのではないのです。この家がボロいのが悪いのです」


「誰の家がボロいっていっているんだい? さっきから家の前で騒いで眠れやしないじゃないか!!」


 家の中から白髪の老婆が現れて俺達に睨みを聞かせる。


「ひぃぃっ、鬼ババアがでたのです」


「アナマリア、さっきから失礼すぎるぞ!! 騒がしくしてすみません。実は雑貨屋のドレイクさんからの手紙を預かっていたので」


「ふん、ドレイク? あの馬鹿な甥はまだ生きているのかい? それであんた達は手紙を届ける為にドアをぶっ壊したって訳なのかい?」


 俺達が得たクエストは手紙を届ける事だった。

 簡単なクエストだと思っていたのに、蓋を開けてみるとどうしてこうなった?


 これも全部アナマリアのせいだ。

 

 俺が睨みつけると、バツが悪そうにピューピューと口笛を吹き出したので余計に腹が立つ。


「それでどう落とし前をとってくれるんだい? ドアはちゃんと直してくれるんだろうね?」


「……はい」


「手紙を受け取るのは、ドアを直してからだよ」


 そう言うと老婆は再び家の中へと戻っていく。


 ピローン!! 

 

 効果音が聞こえ俺達は新しいクエストをゲットした。




★ ★ ★ ★




 俺達は今、森の中を探索している。

 理由は木材を集める為だった。

 老婆の家のドアを直して貰うために【大工】のプレイヤーを見つけて依頼を出したのだが、どうやら使われている木材が特殊らしく、素材が必要との事だった。


 その為、俺達は仕方なく材料を探しに森へと入っていた。


「全部、お前のせいだからな!!」


「違うのです。ボロい家が悪いのです。私の力で壊れるなんて想像出来ないのです」


 確かにアナマリアが言うことも一理ある。


「これからは出しゃばるなよ」


「ぐぬぬぬ…… 私だって相馬くんの力になりたかったのです」


 アナマリアも頑張っているのを知っているし……

 俺は力を落とし諦める事にした。


「次は頼むぞ」


 それだけ伝えると、ポンッと頭をを軽く撫でてやる。


「うふふふ。相馬くんが遂に……デレたのですぅぅぅぅ」


 アナマリアは嬉しそうに、訳が分からない事を言っていた。


「ギャッギャッギャ」


 その時、ゴブ太が俺達に合図を送ってくる。

 森の中という事で当然、スラ男とゴブ太も一緒にいた。

 木の特徴を伝えて二匹に目的の木を探してもらっているが、レア度の高い木の様で中々見つからずに、結構奥まで入ってきている。

 

「ふぅ~、やっと見つかったか」


 ゴブ太の近くまで近寄って見ると、目的の木を見つけた訳では無さそうだ。

 遠くにプレイヤー達の姿が見えていた。


「なんだ彼奴等は? 狩りをしている様子でもなさそうだけど……」


 5~6人のプレイヤーが一箇所に集まって何やらやっている感じに見える。

 気になった俺は遠くから様子を伺う事にした。


「スラ男、擬態を使って近くまで寄れないか?」


 スラ男は大きな木に擬態すると俺達を包み隠し、少しづつプレイヤーたちに近づいていく。

 あまり近すぎると見つかる可能性もあるので、声がギリギリ聞こえる位の距離から様子を伺う。


「ひゃっはー。こいつ泣いてやんの!!」


「次はこの薬試そうぜ。【猛毒の粉】って書いてあんぞ」


「もっもう、許してくれぇぇ。なんでこんな酷い事をするんだぁぁよぉ」


 プレイヤー達は円を描く様に立っており、円の中心には一人のプレイヤーが座らされていた。

 何やらきな臭い雰囲気が漂っており、俺はもう少し様子を見ることにする。


「酷いって何の事だよ。お前が実験体になってくれるおかげで俺達が安全に攻略出来ているんだぜ。お前もギルドに入る時に言っていたじゃねーか。俺達のチ・カ・ラになりたいってな!!!」


 ニヤけながら一人の男が話している。

 俺はこの男に見覚えがあった。 

 最大ギルド【エデン】の主力メンバーの青年。

 俺達が広場で見た演説の壇上にも上がっていた事を今も覚えている。


「まさか、自分たちの知らない知識を得る為に他のプレイヤーで試しているのか? 本当にクソ野郎どもだな」


 俺は誰にも聞こえない程の小さな声で吐き捨てた。

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