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19話 制限攻略

 ロールプレイングゲームには様々な楽しみ方が存在する。

 LVを上げる事で能力を最大まで引き上げチート級の強さを手に入れたり、全てのアイテムを集めコンプリートを目指したりと楽しみ方はプレイする人によって変わる。


 その中に制限攻略と呼ばれるプレイ方法が存在する。


 やり方は一定の行動を制限したまま攻略して行くという至ってシンプルなプレイ方法なのだが、マゾ要素が高く廃人プレイヤーしか挑戦する事がない。

 ロールプレイングゲームの基本である【レベルを上げると言う行為】を拒否し、低LVのままクリアするやり込み方式はアイテム禁止と同様に長い時間をかけなければ不可能で、ゲームに情熱を注いでいる者だけしか達成する事は出来ない。

 

 更に低LVでクリアを目指すには、攻撃力や防御力が低いキャラクターがボスを倒す方法として圧倒的な能力の差を覆す強力なアイテムが必須である。




★ ★ ★ ★




 モルタ・インフェルノは空中を浮遊する巨大な生物で4本の巨大な腕と身体の三分の一を占める大きく醜い顔が特徴的だ。

 確か設定では【死と地獄の番人】とされており、世界を滅ぼす為に産まれた存在。

 その強さは強大でラスボスとして多くのプレイヤー達を絶望に叩き落として来た。

 

 俺はステータス画面を開くと幾つかのアイテムに視線を向ける。

 全てのアイテムは俺が錬金術で手に入れた物で、前作でも存在し効果を知っているアイテムだ。

 情報屋から仕入れたアイテムリストから目ぼしい素材に当たりを付けて入手し、苦労しながら錬金術のレシピを見つけ出した。



「【蜘蛛の糸】、【魔反射の鏡】、【仮初めの衣】、【ドーピング薬「速」】、【猛毒の粉】、数は十分あるな。行くぞ」


 使用する順番も大事な要素で、もし間違えたら一瞬で終わってしまう可能性が高い。


 まず最初に【蜘蛛の糸】をモルタ・インフェルノに使用すると、白く強靭な糸はボスに絡みつき、動きを阻害する。


「【ドーピング薬「速」】使用」

 

 俺の身体が薄っすらと青い光に包まれた。

 この光が継続している間は素早さが向上してくれる。


「今の内にアナマリアは、スラ男達を連れて部屋の外へ逃げていてくれ」


「嫌なのです。回復はどうするのですか!? 回復も無くては相馬くんが死んじゃうのです」


 アナマリは首を左右に振り続け、必死で抵抗している。

 確かに共に戦ってくれる気持ちは嬉しいのだが、今回はそれじゃ駄目だ。


「大丈夫、回復薬も用意しているから心配するなって俺は必ず勝つ!! 俺を信じろ!!」


 一度大きく項垂れた後、アナマリアは涙目で大きくうなずくとスラ男とゴブ太を引き連れ部屋の入口部分まで下がってくれた。


「言うことを聞いてくれたか…… 良かった俺一人でアナマリア達まではカバー仕切れないからな」


 アナマリアもその事を理解してくれたに違いない。

 俺はモルタ・インフェルノの周りを走り抜け、対面にアナマリアの姿が見える場所へと移動する。

 この位置なら範囲魔法を打たれてもアナマリアはボスの後方にいるので、影響範囲からは外れる筈だ。


 位置取りを完了させると間を置かずに俺は【魔反射の鏡】を使用し半透明な鏡を俺の全面に作り出した。


 動きを阻害されていたモルタ・インフェルノが攻撃を開始する。


 モルタ・インフェルノの攻撃は強力な魔法攻撃と状態異常が基本だ。

 体力も高く、長期戦も覚悟しなければならない。

 勝利の条件は何度も仕掛けられる攻撃を防ぎ続けた上に相手にもダメージを与え続ける事。

 

 普通で考えるなら低レベルの俺には不可能に近い。


 モルタ・インフェルノは口から高火力範囲魔法の【デスホール】を放ってきた。

 この魔法を喰らえば俺の体力など一撃で無くなってしまう。


「あはは! 魔法が襲ってくるのは実際に体験してみると怖ぇぇな!! でも効かねぇんだよ!!」


 両手を大の字に広げた俺に魔法が当たる瞬間、半透明の鏡が【デスホール】を反射し、モルタ・インフェルノ自身へと魔法を返す。


 轟音を伴い自身の魔法に包まれたモルタ・インフェルノは大ダメージを受ける。


「一回目!! 残りは後二回。更に【猛毒の粉】を使用!!」


 反射回数をカウントを数えると共に、モルタ・インフェルノを永続的にダメージを与える【猛毒】状態へとさせた。

 次の動作を瞬時に判断し、俺は勝利へのイメージを加速させる。

 

「【仮初めの衣】使用!!」


【仮初めの衣】を使用すると、俺の身体は微妙にピントが合わないブレた姿へと変化する。

 近眼の人が眼鏡を外した状態で人を見た感じと言えば分かりやすいだろうか?


【仮初めの衣】の効果は直接攻撃を4回まで無効化する。


「次の攻撃も魔法だろ? 解っているんだよ。お前の攻撃パターンは全部頭の中に入っているからな」


 俺の予想通り、モルタ・インフェルノは魔法で再び攻撃を放つ。


「残りは後一回、その後は猛毒攻撃がくる。10秒ごとに体力を削る嫌な攻撃だが、俺は元々体力が少ないんでね。お前と違って余り効果はねーぞ」


 猛毒攻撃を受けた後、すぐに上級毒消しを使用し解毒させておく。


「フン。ここまでゲームと同じじゃ面白くも無い。でもな俺が死んだら怒り狂う奴がいるんでな。死んでやる訳にはいかねーんだ」


 俺の視界には入口通路の隅で両手を胸の前で組み、必死に祈りを捧げている幼女の姿がはっきりと見えていた。

 

 三回目の魔法を返した後に【魔反射の鏡】を再使用しておく、これでまた3回は魔法を返す事が出来る。


 同じルーティンを何度か繰り返していると、モルタ・インフェルノの攻撃パターンが変化する。

 魔法の合間に物理攻撃が混じり始めたのだ。


 四本の豪腕から繰り出されるパンチは迫力があり、恐怖で両手で顔を覆い目をつぶってしまう。


 だが攻撃を受けた俺の身体はスルリとパンチをすり抜けた。


「ふぅ~【仮初めの衣】の効果もちゃんと発揮されている。良かったぁぁぁ。これで物理攻撃も防ぐ事ができるぞ」


 明確な勝利が見えてくる。


 状態異常攻撃には盲目と混乱も存在する。

 状態異常攻撃の場合は事前に手に持っていた万能薬を攻撃と同時に使用する事で防いでいた。

 一瞬でも遅れれば盲目や混乱した状態となる為、薬を使うタイミングが難しく、俺は大きく神経をすり減らしていく。


 実際に戦っているとダメージ量を確認する暇さえ無く、どの程度まで体力を減らしているのかわからなくなっていた。


 今はただ緊張の局地とも言える終わりの見えないこの戦闘をただ耐え抜くだけ。


「ぜぇぜぇ、頼むから早く死んでくれよ……」


 戦闘が始まってから俺はアイテム欄を開きっぱなしにしていた。

 アイテムを使うタイミングを間違えれば一撃で死んでしまうからだ。

 集中し続けている為、息も荒く視界も霞んできている。


 しかもモルタ・インフェルノはその場から動かない訳ではない。

 俺に攻撃を加える度に位置が少しずつ変わっているのだ。

 その為に俺はアナマリア達が攻撃範囲に入らない様に自分も動き位置を調整していた。

 それがより一層の疲労を俺に与え続けていた。

 

 戦いは中盤へと移行し敵の攻撃は激しさを増していく、こちらも冷静にアイテムを使用し動きを合わせてその都度対応する。


 するとモルタ・インフェルノの身体が変形し、新しい形態へとシフトしていく。


「やっと第二形態へ移行したな。後もう少しだ!!」


 この形態に変化したモルタ・インフェルノの攻撃力は数段上がるが、体力は残り三十パーセントを切っている。

 いくら攻撃力が上がろうとも攻撃がヒットしなければ俺が死ぬこともない。


 前作でも今使っているアイテムを湯水のように使えれば簡単にクリアー出来たのだが、マッド・サイエンティストと言う職業がなく、アイテムは宝箱やクエストから手に入れるしか方法がなかったので数を集める方法が無かった。


「もう少しで勝て……」


 ブチン!? 


「あっ足が痛てぇぇぇ 足がぁぁぁぁ」


 安堵した瞬間、俺の足から大きな音が聞こえ猛烈な痛みが足を襲う。


 俺はその場で倒れ片足を抑えてうずくまってしまう。


 以前から解っていた事だがこのゲームは妙にリアルに作られている。

 走れば息切れを起こし、攻撃を受ければ痛みも出血もある。


 この戦闘が始まってから俺はドーピングを使用し速く動ける様になっていた。

 けれど俺の身体は長時間のドーピングに耐えれる訳では無かったのだ。

 その結果、身体が速さについて行けずに、肉離れか筋を痛めてしまった様だ。


「しまった!!」


 倒れ込んだ瞬間にモルタ・インフェルノの直接攻撃が俺を襲う。

 しかし【仮初めの衣】の効果で無傷でやり過ごす。

 

 次の攻撃は魔法攻撃、巨大な顔から【深淵】と呼ばれる闇魔法が発射された。


「ぐぅぅぅ。早くアイテムを!!」


 魔法を反射させる時に生じる些細な振動でさえ足に響き、強烈な痛みが俺を襲う。


 動けない俺を標的としモルタ・インフェルノは次々に攻撃を仕掛けていた。

 結果、限度に達したアイテムは全て消滅してしまう。


 早くアイテムの上書きをしなければ、次どんな攻撃を受けたとしても俺は完璧に死んでしまう。。

 アイテム欄を開こうと腕を伸ばしただけで足に激痛が襲い、痛みで上手くアイテムを取り出せない。


「俺のクソ馬鹿野郎がぁぁ。何でこんな大事な時に…… ちくしょ~。痛みぐらいで俺は何やってんだよ」


 余りの悔しさで苦渋の表情を浮かべている俺に向けて、モルタ・インフェルノが止めとばかりに最後の攻撃をしかけてきた。

 地面の上で痛みで転がっていた俺は観念し、大の字となって上空から俺に向かって叩きつけてくる巨大な拳をジッと見つめる。


「こりゃ駄目だな。俺は殴られて死ぬって訳か…… せめてアナマリアだけは逃してやらないと!!」


 覚悟を決めた俺はアナマリアに逃げろと伝えようと首を動かした。


「相馬くんは私達が守るのです!! ゴブ太くん!!」


「ギィーーーー!!」


 俺は意味が分からなかった。理解が追いつかない。


 アナマリアとゴブ太の声が聞こえたと思った瞬間に信じられない光景を見る。

 それはラスボスの攻撃をモンスターランクの低いゴブ太が受け止めている状況。


「相馬くん。すぐに回復魔法で治療をするのです」


 アナマリアは俺の側に駆け寄ると、回復魔法をかけてくれた。そのおかげで痛みも引いていく。

 呆然としている訳にも行かないので俺はすぐにアイテムを使用しゴブ太の前へと踊り出る。


「どうしてゴブ太がボスの攻撃を受け止められるんだ? お前たち一体どんな魔法を使ったんだ?」


 混乱した俺はアナマリアに叫ぶ。


「ふふふ。驚いているのです。確かにゴブ太くんには私が耐久力が上がる魔法は掛けているのです。けれどそれだけじゃないのですよ。ゴブ太くんは新しいスキルを手に入れたのです。相馬くんを敵から守り抜く【鉄壁】のスキルを!!」


「【鉄壁】のスキルだって!?」


「そうなのです。ゴブ太くんの【庇う】のスキルがLVアップで分岐したのです。そしてゴブ太くんは相馬くんを守るために自らの意思で【鉄壁】を選んだのです」


「ゴブ太が俺の為に……」


 泣きそうなる。


「ゴブ太くんだけじゃないのです。スラ男くんだって新しいスキル手に入れているのです」


 モルタ・インフェルノの周囲ではスラ男が高速で走り回り、注意をひきつけている。


「お前ら…… クソ格好いいじゃねーかよ」


「もう少しなのです。私達は今はまだ力になれないけど…… 頑張ってほしいのです! 私は相馬くんが勝つって信じているのです」


「あぁ任せろ。もう大丈夫だ下がっていてくれ!!」


 不思議な事に信じられない程、力がみなぎってくる。

 今なら魔王にだって勝てそうな気がしていた。


 俺はもう一度全アイテムを上書きすると、モルタ・インフェルノと対峙する。


「待たせたな!! そろそろケリをつけようぜ 」


 モルタ・インフェルノは大きな雄叫びを上げ【深淵】を放つ!

 

 俺はしっかりと魔法を見据えて身体の向きを少しだけ動かす。

【魔反射の鏡】で魔法を何度も反射させていて気づいた事が一つだけあった。

 範囲魔法の場合では意味は無いのだが、個人に向けて発射された魔法を反射させる時、鏡の向きを調整する事で返す場所を狙う事が出来る。


 俺は鏡を調整し、モルタ・インフェルノの大きく開いた口に向けて魔法を返す。

 反射された魔法は口の中へと吸い込まれ、大爆発を起こした。


「くたばりやがれぇぇぇーーー」


 俺の叫びを受けて、巨大な顔を内部から破壊していく。 

 顔から首へ首から腕へとモルタ・インフェルノの姿が黒い灰へと変わりながらボロボロと崩れはじめた。


【魔王をラーニングしました】

【モルタ・インフェルノをラーニングしました】

【モルタ・インフェルノの素材を手に入れた】


「倒せた…… やったぁぁぁぁぞぉぉぉ!!!」


 俺は両手を天へと突き上げると、膝を折り身体を弓なりに曲げながら力いっぱい叫んだ。 

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