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18話 魔王

 魔王と出会った俺達は蛇に睨まれた蛙の様に身動き一つ取れずにいた。

 余裕のある笑みを浮かべ魔王は至近距離まで近づくと小さな声で笑う。


「ふふふ。やっと出会う事が出来たのじゃ。創造主や。ご機嫌麗しくあらせられるのぉ」


 一定の距離でピタリと止まり大げさに頭を下げた。


「大天使様の監視から逃げて回っているのは解っているのですよ。もう観念するのです」


 ビシィィーっと指を差しアナマリアは強気な発言をしていた。

 

 こいつには恐怖という概念はないのだろうか?


 里帰りした時に大天使から魔王対策の手段は手に入れていると予想は出来るのだが、今の俺達との力の差は歴然で、魔王の一撃で簡単に全滅してしまうだろう。

 

(おいおい、不用意な発言をして魔王を怒らせるんじゃねーよ)


「ふふふ面白い…… 創造主は我に観念しろと言うのか? だがそれはこちらの台詞。我が探していたのは創造主であるお主じゃ。我は第九位階天使であるアナマリアの陰であり、天使達によって造られた紛い物。我は紛い物は嫌じゃ…… 我が我で在り続ける為にはお主にはこの世界から消えて貰う以外の方法がない。だからお願いじゃ…… 今すぐに死んで欲しい」


「何故、私が死ななくては行けないのですか!! 私は相馬くんとチューだってしてないのですよ。お前なんか今からケチョンケチョンにしてやるのです」


「はっはっは、我に勝つと言うのか!? 力の殆どを失った力なき天使ごときが?」


「あっかんべーっだ!! そんな事はやってみないとわかりませ~ん。やれるものならやってみろってんです」


(だ、か、ら。魔王を怒らせてなんの得があるんだよ!!)


 俺は心の中で叫んだ。


 しかしアナマリアは大きく舌を出して魔王を更に挑発する。


「クッ!! この馬鹿丸出しの小娘が我の創造主と思うと心底腹が立ってくるわ。すぐに消し去ってくれようか」


 魔王のその気持ち、俺にはよくわかるぞ。

 アナマリアにからかわれると不思議と腹が立ってくるからな。

 こいつは人をおちょくる天才かもしれない。


 俺が魔王に同情している間にアナマリアの前に、スラ男とゴブ太が庇う様に躍り出た。


「ギャギィィー!!」


「ほぅ…… 主人を守るために命を捨てると言うのか…… 殊勝な事じゃ。よし我が少々相手をしてやろう。掛かってくるが良い」


 魔王は軽く片手を持ち上げた。


 スラ男は獣の姿で勢いよく走り出すと、魔王へ鋭い牙で噛みつきに掛かる。


「スラ男止めろ!! 殺されるぞ!!」


 俺の叫びも虚しく、スラ男はアナマリアを守るために魔王の右手に喰らいついた。


「ふむ良い攻撃じゃ。けれどまだ攻撃力が足りないようじゃな。今の貴様では我にダメージを与える事は不可能じゃ」


 噛みつかれた腕を軽く払っただけで、スラ男は弾き飛ばされる。

 飛ばされたスラ男は壁に激突し崩れ落ちる。


「スラ男、大丈夫か!!」


 俺はスラ男の元に駆け寄り上級ポーションを取り出した。

 幸いHPは少しだけ残っており、間一髪で死なせずにすむ。


「ほぅ…… 死んでおらんかったのか? 中々しぶとい奴じゃの。まぁ良い、我が殺したい相手は天使だけじゃ。次はゴブリンお前の番じゃ」


 魔王は一瞬で間合いを詰めるとゴブ太の腹部に蹴りを放つ。

 ゴブ太はスキル【庇う】を使っているので耐久がかなり上昇している筈であった。

 けれど魔王の攻撃は一撃でゴブ太を再起不能へと陥れていった。


「ギィ……」


「弱すぎる…… まぁ仕方ない事か…… まだゲームが開始されて間もないからの。さて人間、残りはお前だけじゃ。 我と一戦交えるか?」


 魔王は俺に向かって問いかける。


 本音を言えば戦いたくはない。

 けれど俺は森で魔王と出会った日から今日まで魔王対策を用意してきたつもりだ。

 更に俺はまだ一度も死んでいないから、復活のアイテムも残っていた。

 なので一度だけなら死ぬ事だって出来る。

 

 ならば精一杯あがいてやろうじゃないか!!


 俺はゴクリと生唾を飲み込み一歩踏み出そうとした。

 しかしその瞬間、アナマリアが俺の前に躍り出ていた。


「相馬くんは私が守るのです!!」


「おい。お前が狙われているんだぞ。解っているのか、早く逃げろって!!」


「大丈夫なのです。私にはこれがあるのです」


 アナマリアはそう告げると両手を前に突き出す。


「メインディッシュは最後に喰らうのが好きなのじゃが…… 早く死にたいと言うのなら最後の希望を叶えてやろう」


「魔王!! 私は堪忍袋の尾が切れたのです。お前はスラ男くんを泣かせた。ゴブ太くんを泣かせた。そんな魔王を私は絶対に許さない!!」


「お主がこの世界にいる事が悪いのじゃ。大人しく外から見ておればいいものを…… この世界は我の物。天使と言えども手出しはさせぬわ。我の最大の魔法で消し炭と化すがよい」


「そんな事はさせないのです。大天使様から授かった力を今解き放つのです。戒めの魔法【グレイプニル】」


 アナマリアの両腕にはいつの間にか無数の紐が巻き付かれており、発動と共に腕から放たれた紐は意思を持っているかの如く魔王に向かって飛んでいった。


「そんな紐ごときで何ができる! 焼き尽くしてくれるわ!!【黒炎】」


 魔王が森で使った範囲魔法の小型版の様な黒い炎が腕から向かい来る紐の群れを焼き尽くすために放たれる。

 

 その熱量は凄まじく。離れていた俺も熱さの余り顔を腕で覆い隠した。


「なんじゃと!! 我の魔法が効かぬと言うのか?」


 驚いた事に黒い炎は【グレイプニル】にかき消されていく。


「この魔法は魔王の力を無力化させる唯一の力。なのでこの魔法の前では魔王の力は無力なのです」


 魔王は驚愕な表情を浮かべながら【グレイプニル】によって片手を絡め取られ拘束されつつあった。


「これでもう大丈夫なのです。後は【グレイプニル】が魔王を大天使様の元へ強制的に連れて行く筈なのです」


 アナマリアは振り返るとそう告げた。


 俺はずっと魔王が抗う姿を見つめていた。


「口惜しいが一度引いた方が良さそうじゃ。だがこれで終わる訳には行かぬ。我が果たせぬとも我の下僕がお主達の命を狙い続けるぞ。いでよ我に忠実な下僕よ!!」


 【グレイプニル】から抗い続けながらも必死で残りの手から魔力を放出し、小さな黒い空間を作り出した。


「フハハハ!! どちらにしてもお主達の命はここで終わるのじゃ。最後をこの目で見れぬのは口惜しいが仕方ない。精々逃げ惑うがよい」


 魔王は【グレイプニル】に片手を絡め取られたまま、新たに作り出した影に飛び込み俺達の前から消え去る。


「おい。魔王が逃げちまったぞ? 大丈夫なのか?」


「ほえぇぇ。まさか【グレイプニル】から逃げれるとは驚いたのです。ですが力は抑えられている筈なのです。当分の間は身動きが取れないと思うのです」


 アナマリアも関心した様に答えた。


「おい…… 何かおかしくないか? 魔王が残した黒い影の中から何か出てきてるぞ……」


 黒い影からは太い腕が一本突き出ていた。

 少しづつ穴を広げる様に両腕が出たと思った瞬間に凶悪な顔が姿を見せた……


「うぎゃゃゃーーー!! お化けがでたのですぅぅぅ」


 その凶悪な顔にアナマリアが驚愕の声をあげる。


「こいつはまさか……」


 俺はこのモンスターに見覚えがあった。


「何なのですか!? 物凄く大きいのです。踏み潰されてしまうのですぅぅ」


「アナマリア、【グレイプニル】でコイツは抑えられないのか?」


「駄目なのです。【グレイプニル】は大天使様が魔王専用に作られた魔法なのです。だから他のモンスターには殆ど効果が無いのです」


 その間にもモンスターは穴をこじ開け、その姿を顕にさせた。


「間違いない。コイツは前作のラスボス…… モルタ・インフェルノ!?」


「えっアイツ。ラスボスなのですか!? 勝てるわけがないのです。今すぐ逃げるのです!!」


 おい、先程の強気はどこにいった?

 アナマリアは俺の周りを右往左往走り回っている。

 強がったり、怖がったり忙しい奴だ。


「いいや。駄目だ。俺達が逃げたらモルタ・インフェルノはどうなる?」


「そんなの知らないのです」


「俺達を追って街まで来るかもしれない。そうなったらプレイヤー達がどれだけ束になっても勝てるわけがない。このゲームのバランスが崩れてしまう」


「ゲームより命が大事なのです。相馬くんは一体何を言っているんですか!?」


「このゲームの方が大事に決まっているだろ? 大丈夫だ俺はコイツの事は全部知っている。数えきれない程倒してきたからな。対魔王のアイテムのつもり用意していたけど、魔王の力なんて俺は知らない。だから仮想魔王としてコイツを想定していたんだ。だから此処で倒す」


 俺は魔王が召喚したモルタ・インフェルノの前に躍り出た。

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