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13話 買い物

 始まりの街には大多数のNPCと少数のプレイヤー達で賑わっていた。

NPCとはノンプレイヤーキャラクターの略で、ゲームで言えばプログラムで決まった行動しか出来ない者の事を言う。

 けれどこの世界ではNPCは感情を持ち、普通に笑い、怒り、自分が生きる為に毎日働いている。

 なのでNPCと呼ぶ事自体が間違っているのかもしれない。




★ ★ ★ ★




 広場から逃げ出した俺は必死に走り続け、追いかけて来ていた数名のプレイヤーを巻く事に成功した。

 けれど体力は限界を越えており、息絶え絶えになりながら備え付けのベンチに腰を降ろす。


「ぜぇ、ぜぇ。やっと撒いてやったぜ」


「お疲れ様なのです。飲み物を買ってきたから飲んで下さいなのです」


 アナマリアは近くの露店で売っていた飲み物を買って渡してくれた。

 一気に飲み干し、カラカラに渇いていた喉を潤す。

 少しずつ息も整い落ち着きを取り戻した。


「あのなぁ、解ってんのか? お前のせいで俺が追いかけられたんだからな!!」


「うっ…… ごめんなさいなのです。でもそのおかげで、私は相馬くんの愛をひしひしと感じられたのです」


「あの逃走劇の何処に愛があるのか、詳細に説明して欲しいわ!! はぁ~、今は疲れ過ぎてツッコむ気も起きない。少し休憩したら買い物へ行くぞ!!」


「買い物? 二人だけで買い物…… やったのです。初デートなのです!!」


 アナマリアは飛び跳ねて喜んでいた。


「デートじゃないって! 装備を新調しに行くの。俺の装備って初期装備のままだから。この際に防御力の高い装備を手に入れようと思ってだな。そうだ、アナマリアの装備も買ってやるけどどうする?」


「ん~私は今の装備のままで大丈夫なのです。相馬くんのだけでいいでのです」


「遠慮しなくてもいいんだぞ? それじゃ、もし欲しい物があれば言ってくれよな」


 俺が歩き始めるとアナマリアは横並び引っ付いてきた。

 しかし何やらモジモジとしている。


「えっと…… 恋人達は普通、手を繋いでデートするのです」


「嫌だ!!」


「照れなくてもいいのです」


「照れてないって!!」


 いつもの調子を取り戻し俺達は移動をはじめた。


 


★ ★ ★ ★




 俺達が向かったのは商店が多く並んでいる地区。

 まだゲームが始まって数日間しか経過していないので、プレイヤーが立ち上げた店は見つからない。


 俺の装備は初期装備の【布の服】のままで、NPCの店で買ったとしても【布の服】以上の装備位は手に入るだろう。


 ブラブラと街を歩いていると、武器屋を見つける。


「あれは武器屋だよな。アナマリア、入ってみようぜ」


「いらっしゃいませ」


 店内には数多くの装備が並んでおり、流し見でざっと値札を確認したが今の持金でもそれなりに装備は揃えられそうだ。


「装備を買いに来たんだ」


「ありがとうございます。それで何をお求めに?」


「そう言えば俺は何が装備できるんだ?」


 職業によって装備出来る種類は違う。

 マッド・サイエンティストは何を装備できるのだろう。


「鎧系は難しいかもしれないな…… 店員さん革系の装備試着させてくれない?」


「分かりました。いくつかご用意させていただきます」


「革の胸当てに、革のベルトっと定番だな」

 

 店員から渡された装備を装備しようとしたがどうやら装備出来ない。


「革系はアウトか…… 革で駄目ならどんな装備があるんだよ」


 いろいろ試しているとマッド・サイエンティストが装備できる幾つかの装備が見つかる。


「まさか服とローブやコートの軽装しか装備出来ないとは…… これじゃ防御力は紙じゃないかよ!!」


 職業選択をミスってしまったと一瞬だけ後悔もしたが、マッド・サイエンティストはやり甲斐がある職業なのは解っている。


「これは早く攻撃を防ぐ方法を見つけないと駄目だな。まだ始まりの街だし、何処の店で買っても余り変化は無いだろう。定員さん。服とコートを売ってくれ」


 俺は新しく買った装備を身にまとい店を後にする。

 今回買った【おしゃれな服】は初期装備の【布の服】より防御力は高いが所詮は服で防御力が上がったといってもたかがしれている。

 しかしその上から羽織っているコートはこの店で一番高いやつを選んだ。

 特殊効果付きのコートで値段もそれなりに高かった。


 新しい装備を着た俺を見てアナマリアは歓喜の声をあげる。


「相馬くん、とっても似合っているのです」


「そんなに変わっていないだろ?」


 隣を歩くアナマリアはとても楽しそうにしていた。


「何か食べたい物とかないか?」


「ん~ 特にお腹は減っていないのです」


「折角、買い物に付き合ってくれているのに、歩かせるだけでは忍びないんだよなぁ」


 周りをキョロキョロと見渡していると、一軒の魔法具店を見つけた。


「アナマリアはプリーストだし、何か役に立つアイテムがあるかも知れないぞ入ってみようぜ」


 俺はアナマリアの手を取り店へと入っていく。

 入った店はそこそこ大きく、お客の数もそれなりに多い。


(もしかして人気店だったのか? なら好都合だ。品揃えが豊富かもしれないぞ)


「魔法具以外にもアクセサリーも在るし色々見て回ろうぜ」


「楽しみなのです!!」


 俺達はアクセサリーコーナーを歩いてみた。

 アクセサリーコーナーにはブレスレッドや髪飾り、ネックレスなど様々なアイテムが並んでいる。


「結構品揃えあるじゃないか。何か気になるアイテムは無いのか?」


 軽く値札に目を通すと、この店の商品も殆ど購入可能な商品だったのでどれを選んで貰っっても問題はない。

 この世界に連れてきてくれた感謝と、PTを組んで戦闘を助けて貰っている事のお礼をかねて買ってやるつもりだ。


「凄いのです。キラキラがいっぱいあるのです」


「確かに商品はいっぱいあるな。でもアイテムにはそれぞれ付加属性や性能があるからそれらをよく見て買わないと駄目だぞ」


「そんな事で選ぶのは嫌なのです。可愛らしいアイテムが欲しいのです」


 アナマリアは少し拗ねてしまったようだった。


「う~ん。まだ序盤だし何を買っても同じか!! わかった、お前に似合うアイテムを探そうぜ」


「相馬くんに選んで欲しいのです。相馬くんが選んでくれたアイテムならどんな物でも宝物になるのです」


 こいつは恥ずかしい事を平気で言ってきやがる。

 耐性の低い俺には少々眩しく思えた。


 ご希望通りアナマリアに合うアイテムを探していると一つのアイテムで目がとまる。

 

「これがいいかも…… うん。これを買おう」


 俺はアイテムを購入すると近くで他の商品を見ていたアナマリアに声をかけた。


「これは俺からのプレゼント。まぁ戦闘で回復して貰っているからな、お礼だと思ってくれたらいい」


 アナマリアは目を大きく開く。

 俺からのプレゼントに興奮しているみたいだ。


「開けてもいい?」


「いいぞ」


 紙袋を空けると中から赤色をしたリボンが出てきた。

 ネックレスやブレスレッドも見てみたが、このリボンを見つけた時に俺はこの商品しかないと思った。


「わ~ 可愛らしい色のリボンなのです」


「装備品だから、ちゃんと装備しろよ」


 アナマリアは自分の長い髪の一部を掴みサイドテールを作り、そこに赤いリボンをまく。


「どうですか? 似合っていますか?」


 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうにしているアナマリアがとても可愛く見えた。


「さて、装備も買った事だし、宿屋に帰るぞ」


「そんな事より感想が聞きたいのです」


「明日から、また狩りをするから頑張ってくれよな」


「だから、感想~」


 凄く似合っているとは思うけど、口が裂けても言うつもりは無い。


(もし言ったら、アナマリアは調子に乗って、絶対に襲ってきやがるからな! 俺の危機管理能力は日々向上しているのだ!!)

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