12話 プレイヤー
始まりの街には中心部に噴水付きの広場があった。
面積は意外に広く野球の球場と同じ位はあるだろう。
ゲームだとこう言う中心部にプレイヤー達の露店が並ぶ事が多い。
俺達が広場に辿りつくと既に多くプレーヤー達が集まっていた。
ざっと見渡した感じでは1000人位だろうか?
俺もアナマリアが教えてくれなかったら、今回は気付かなかったので、それを考えると1000人も集まれば集客は成功だと思う。
中央にある噴水の側には仮設の舞台が作られており、その上に数人のプレイヤーが立っていた。
一番目立つのは青で統一された鎧を来た青年。
紅一点の白いローブに身をまとった女性。
次はツナギに似た作業着を着ている筋肉質の男。
他にも数名いるが前に立つプレイヤーが邪魔で良く見えなかった。
華やかな服を着た男性が舞台の先に移動すると大きく息を吸い込み第一声を発する。
その声を聴いた1000人の視線が舞台へ注ぎ込まれる。
「まず最初に俺達の願いを聞き入れ、わざわざ集まってくれた事に感謝したい。俺は夏木心と言う者だ。職業は役者で、今この広場にいる全員には俺の声が届いていると思う。これは役者のスペシャルスキルを使っているからだ」
確かに舞台から少し後方にいる俺の場所でも彼の声ははっきりと聴き取れる。
「俺達は魔王の手によってこのゲームの様な世界へ飛ばされてしまった。プレイヤー全員が既にその事は理解していると思う。本当かどうか分からないが、元の世界に戻る為には魔王を倒す必要がある。
そこで俺達はこのゲームを攻略するギルドを立ち上げた。戦闘職も生産職も共に協力し一日でも速くこの世界から抜け出そうじゃないか!!」
職業が役者と言うこともあり、体全体を使って男は熱く語っていた。
「なるほど今回は仲間の募集って訳か…… それにしては何か引っかかるな」
「何が引っかかるのです? 私には仲間を集めているだけにしか思えないのです」
「まぁ、上手く説明できないから、俺の気の所為かもな……」
プレイヤー達がPTを組んだりギルドを立ち上げる事は予想していた。
けれど勧誘にしては少々大げさ過ぎる気がする。地道に声を掛けていくのじゃ駄目なのだろうか?
俺が考えを巡らせている間も演説は進んでいく。
「まずはこの数日間で我々が手に入れた情報をプレイヤー全員に提供しよう。1つ目は戦闘方法について……」
舞台の男が話す内容は、戦闘を経験しているプレイヤーから見れば知っている事ばかりだった。
けれどまだゲームが始まってから数日しか経過していない。
なので戦闘を経験していないプレイヤーにとっては貴重な情報だともいえる。
俺は興味なさげに演説を聞いていたが最後の情報に目を見開いた。
「次が最後の情報だ。蘇生アイテムを持たないプレイヤーが死亡した後、我々はそのプレイヤーの姿を見つける事は出来なかった。と言う事は魔王が言っていた様にゲームオーバーとなった事になるだろう。それが本当の死なのか? それは判断はつかないが、このゲームからは排除される」
大きな衝撃が広場を包み、多くのプレイヤーが絶望に満ちた表情を浮かべていた。
「どうやってその情報を手に入れたんだ? もう既に死亡した奴がいたって事だよな……」
もしかして俺が考えているよりこの世界は俺達に厳しいのかもしれない。
「不安になるのは分かるが安心してくれ。今はゲームが開始されてまだ数日しか経過していないが、既に金が底を付きかけているプレイヤーもいると思う。ギルドに加入してくれたプレイヤーには我々が狩りで手に入れた資金から援助を行おう。またこの世界でどう立ち回れば良いかわからない者は情報も共有していく。
要は力を合わせて生き残ればいいんだ。
戦闘職は集団で戦う事でリスク回避が出来る。生産職は戦闘職が集めた素材でスキルLVを上げ、高性能のアイテムを作ることが出来る。
個の力より組織の力。
我々は組織の力でこのゲームをクリアーに導くと約束しよう。共に戦ってくれる者はギルドの加入を待っている」
演説中、広場は静寂に包まれていたが、静寂を打ち破る様にまばらに拍手が起こり始め、数秒後には広場全体へと感染していた。何故ならプレイヤー達が欲していた安心がそこにあったからだ。
「相馬くんはどうするのです?」
一緒に演説を聞いていたアナマリアが聞いてくる。
「いいんじゃないか? 集団でクリアーを目指すのも一つの手だ。だけど俺はギルドに入らねぇよ」
「たくさんの人と一緒に攻略した方が安全だとは思うのです」
「理由は奴等がどうにも信用できないからだよ。やっと解ったんだ。喉に詰まっていた気持ち悪さの原因を」
「さっき言っていた?」
「あぁ、奴等は【死】って言うキーワードを武器に、プレイヤーの恐怖を煽り立てやがった。そりゃ死ぬかもしれないと言われ、一緒に頑張ろうって手を差し伸べられれば誰だって着いて行きたくなるかもしれない。だけど、やり方が気に入らねぇ!!」
「だから、一度に多くのプレイヤーを集めたのですか?」
「そうだと思う。たしかに組織で攻略すれば簡単で安全かもしれない」
「なら相馬君もここではない、違うギルドに入った方が安全なのです」
「俺は嫌だね。俺はこの世界を楽しむって決めたんだ!! なら組織のルールに縛られ、命令された通りに動いて本当にこの世界を楽しめると思うか? 今、俺達がいるのは日本じゃないゲームの世界なんだ。組織に属したら元の世界にいた時と一体何が違うっていうんだよ? こんな世界に来てまで俺は何かに縛られたくない」
けれど俺の吐露は拍手にかき消され、誰の耳にも届く事はなかった。
「君はギルドに入らないのかな?」
その時、女性の声が聞こえてくきた。
声の方向へ視線を向けると、青髪の猫族の獣人女性が立っていた。
「まぁね、俺は人とつるむのが苦手だからな。あんた何者だよ。俺に何か用でもあるのか?」
「いや、用って程じゃないんだけど、さっき君が呟いた言葉が気になってね」
「さっきの……? あぁ、聞こえてたのか」
「えぇ、獣人だから耳はいいのよ」
屈託のない笑顔が向けられる。
よく見てみると物凄い美人プレイヤーだった。
スラリとした細身の体型にくびれた腰、胸は標準より少し大きい。
ストレートヘアーの長い髪は銀色に輝き、エルフの様な整った顔立ちは見るものを引きつける。
頭には獣人特有の耳があり、お尻からは尻尾もはえていた。
しかし一番凄いのが彼女が身に付けている装備だろう。
動きやすさ重視なのだろうが、露出が激しく体の半分位は晒していた。
俺が興味本位で獣人女性を眺めていると、突然腹部に衝撃が響いた。
「ぐふっ」
「何処を見ているのですか!! 足先から頭まで舐め回す様に女性を見るのは変質者のやる事なのです。浮気は許さないのです」
俺の腹にはアナマリアの正拳突きがめり込んでいた。
不覚にも痛みで膝をついてしまう。
「貴方も相馬くんを誘惑しないで欲しいのです。相馬くんは私と将来を誓い合っているのです」
アナマリアは弁慶の仁王立ちの様に獣人女性の前に立ちはだかる。
「うふふ、それはごめんなさい。貴方の彼氏を取ろうとした訳じゃないのよ。貴方達は面白いわね。また機会があれば会いましょう」
獣人女性はそう告げると、振り返り俺達から離れていった。
「フンだ。二度と会いたくないのです。相馬くんに近づく敵は抹殺するのです」
アナマリアはえらく憤慨しているが、俺の心も怒りの炎に包まれていた。
「おい、突然正拳突き入れるってどういう事だよ!!」
「いだたたた。 アイアンクローは禁止なのです」
「嘘をつくな馬鹿!! そんなに力は入れてない。今はどうして俺が殴られるんだと聞いている」
アイアンクローで額を掴み身動きを封じる。
アナマリアは非力なので俺の拘束を自力で解くのは難しい。
「だって…… だって…… 相馬くんが…… 他の女に色目を使っているからぁぁぁ うわぁぁぁぁん」
アナマリは瞳一杯に涙を浮かべ、ついには泣き出した。
「おい、あそこで子供をイジメている奴がいるぞ!!」
「あんなに可愛らしい少女を泣かせるとはなんて酷い奴だ」
「おい。あのロリコンから助けてやろうぜ!!」
アナマリアに気づいたプレイヤー達の声が聞こえだす。
プレイヤーはどうやら俺がアナマリアをイジメたと勘違いしている。
「あぁクソ!! もう良いわ。早くここから逃げ出すぞ!!」
近くのプレイヤーが動き出すのを見計らい、俺はアナマリアの手を引き広場から走り出した。
「おい! 逃げたぞ。アイツが少女を誘拐した。みんな、追いかけろ!!」
「くそったれがぁぁぁ、ここで捕まったら俺はロリコンの烙印を押されてしまうぞ。何としても逃げ出さねば!!」
アナマリアの手を引いていたのだが、歩幅の違いから速く走れない。
仕方なく俺はアナマリアを抱きかかえると、全力で逃げ出した。
「はぅぅ、夢にまで見たお姫様抱っこなのです。私は世界一の幸せ者なのです」
「なんで俺がこんな目に合わなければ行けないんだぁぁぁ。覚えていろよアナマリアァァァ」
アナマリアは嬉しそうにギュッと抱きついていたが、俺は涙目になりながら必死で街中を走り続けた。