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1話 幼女な天使が現れた!

 俺は青木相馬17歳。

 はっきり言ってつまらない人生を過ごしてきた。

 今まで一度も夢や希望を持ったことも無く、その為だろうか?

 夢を見る事は殆ど無い。

 けれどその日は珍しく夢をみた。


「相馬くん、お久しぶりなのです!!」


 夢の中で見知らぬ幼女が俺に話かけている。


 コスプレ幼女と呼べばいいのか?

 純白のドレスを身にまとい、背中から大きな羽が見えている。

 けれど話しかけてくる幼女の事を俺は知らない。


「なんだこの幼女は? 何で俺の名前を知っているんだ?」


「私は幼女ではないのです。生きている年数で言えば相馬くんの50倍は生きているのです」


 幼女は薄っぺらい胸を突き出し得意げにドヤ顔を見せる。


「エッヘン、なぜなら私は天使なのです。驚きましたか?」


 白い羽をパタパタと羽ばたかせ、弾けるような笑みを浮かべていた。


 まさか天使が出てくるファンタジーな夢を見るとは思ってもいなかったので、自分でも驚く。

 俺の性格を簡単に説明すれば、現実主義で少しだけ性格が捻くれている。

 趣味はゲームでどんなジャンルでもそれなりにやり込んでいた。


 一応ゲーオタだとは自覚している。


 自称天使は大きな瞳をキラキラと輝かせ、俺に微笑み続けている。

 どうして俺がこんな夢を見るのか解らないが、今は取り敢えず夢に身を任せるしか方法は無さそうだ。


「それで天使のお前が俺に何の用?」


「お前ではないのです。私の名前はアナマリア。大天使に仕えし第九位階の天使なのです。だから少しは敬って欲しいのです」


「です、ですと鬱陶しい奴だな」


「それなのです。その態度の事を言っているのです!!!」


 幼女はぶ~っと口を膨らませて拗ねているが、これは俺の夢だから天使に気を遣うつもりは一切ない。


「もういいのです。本題に入ると相馬くんの勇気ある行いが神に認められたのです。審査に2ヶ月間掛かりましたが、これで相馬くんは一つだけ神の奇跡を受ける事ができるのです」


 神の奇跡を受けるだって!? 

 おいおい、夢とは言え胡散臭くなってきたじゃないか。

 この夢の結末は一体どうなるんだろ? 


「ん? 2ヶ月前……」


 そう言えば2ヶ月位前に、車に轢かれそうだった子供を助けた事を思い出す。


「もしかして子供を助けた恩賞?」


 しかし夢の中で突然天使が現れて、奇跡をあげると言われても普通なら信じる者はいないだろう。

 

 しかも審査ってなんだよ?


 異世界ラノベの王道なら助けた時に俺が車にひかれて、神の部屋とかに飛ばされるんじゃねーのか?

 こんな夢を見るなんて、俺の厨二病は相当酷いらしい。


「奇跡と言われてもねぇ……」


「相馬くんは何を願いますか? どんな願いでも一つだけ叶えてあげるのです」


 現実離れの厨二病に侵された夢で、真剣に考えるのもバカバカしい。

 なので適当に何か希望を告げて、さっさと夢を終わらる事にする。


 その時、丁度いい願いを思いつく。


「それじゃ、俺が今日買ったゲームの世界を現実にしてくれよ。それが俺の願いだ!!」


 今日買ったゲームとは、大人気のオンラインゲーム【ラストファンタジークロニクルⅡ】

 剣と魔法とスキルが混在する王道の異世界RPG。

 ゲームのストーリ-は、定番の世界を滅ぼそうとしている魔王を倒す事。


 一番の特徴は各職業の能力分岐、スキルや魔法の数、アイテムや素材などの豊富さで、やりこみ要素の高いゲーム性が大いに受け、前作でブームを創り上げる。


 そして前作を圧倒的に上回る情報量を詰め込んで今日発売されたのが【ラストファンタジークロニクルⅡ】


 オンラインゲームなので、明日のAM9:00に正規サービスの開始となっていた。

 幼女は俺の願いを聞き終わると、空中を見上げジッと何かを見ている。

 一体何が見えているんだろうか?


「ふむふむ、このゲームの事なのですね。了解したのです。どうせなら相馬くん自身が楽しめる様に、私が色々とアレンジしてあげるのです。天使の慈悲を素直に受け取るのです」


「はい、はい。それはありがとうございました。これで用件は済んだだろ? じゃあ終わりだ。お疲れさん」


 野良犬を追い払う仕草を真似てシッシッと手で追い払う。

 これでやっとこの下らない夢からも開放される筈だ。


「うぅ…… 天使がわざわざ会いに来たって言うのに、まさかこんな酷い扱いを受けるなんて…… グスン…… 私はもう泣くのです。うゎぁぁぁん」


 幼女の泣き声は高音域で、音波兵器と化していた。

 必死で両手で耳を押さえなければ、耐えれる代物では無い。


 耐えかねた俺は自分を守る為に、目の前の天使を泣き止ます事にした。


 でもどうやればいいんだ? 

 捻くれた性格の俺が上手く子供を泣き止ませる自信は無い。


 幼女と言っても言葉が通じない赤ちゃんでも無いから、仮に変顔をして笑わせようとしても、泣き止む保証は無いだろう。

 もし泣き止まなければ、逆に俺の方が恥ずかしさの余り精神的大ダメージを食らう可能性もある。


 真剣に考えても良い案は思いつかなかったので、最終手段を取ることにする。


「なぁ、もぅ泣くのはやめろよ。実は俺も本当はもっとお前と話がしたかったんだけど……っな? 本当は嫌っていないから。天使なら俺の気持ちを解ってくれるだろ?」


 内容も無く何を伝えたいのか全く分からない感じの言葉で、相手の心情に問いかけてみる。


 自分が上手く慰められないなら、煙に巻く方が良い。

 今までのやり取りで、この自称天使が小生意気な講釈を垂れる位の知能を持ち合わせている事は理解している。


 ならば俺はその可能性に賭ける!!


 幼女は俺の声を聞き入れた途端、泣く事をやめた。


「よし作戦成功だ!! マジで死ぬかと思ったわ」

 

 音波攻撃から開放された俺はガッツポーズを出す。


 次に俺は泣き止んだ幼女に視線を向ける。

 幼女はブツブツと何かをつぶやきながら俺の言葉の意味を真剣に考え始めていた。


「俺の気持ち…… 解ってくれるだろ? はぅっ!? これは素直になれない系男子の告白のパターン……そういう事だったのですね。今まで天使として、恋の相談は数えきれない程受けてきましたが、この世に誕生して数百年、はじめて私自身が恋の当事者になってしまったのです」


(あれ……? いつのまにか俺が幼女の天使に告白した様になっていないか?)


 泣き止んでくれたのは良いが、盛大に勘違いをしてくれてやがる。

 聞き捨てならない単語が入り乱れている。


「私も天使の端くれなのです。ちゃんと考えてお返事を返すので待っていてほしいのです」


 目の前では幼女が朱色に染まった真っ赤な頬を両手で抑え、フワフワと身体を揺らす。

 その姿は初めて告白を受けて舞い上がった少女の様で、満更でもない様子。


「私は少し年上だけど…… ううん。真実の愛であれば年齢差など関係ないのです。でも、でもっ」


 お前は何百年もの間、恋の相談を受けてきたんじゃないのか? 

 見知らぬ男子に告白された位で舞い上がるなよ!!


 こんな簡単に落ちる幼女が現実社会にいたなら、即日誘拐されているぞ。


 焦りを覚え始めていたのだが、更にとんでもない事実に気付いてしまう。


「そう言えば、夢というのは往々にして自身の願望が反映されると誰かが言っていた気がする。だとすれば今の状況は俺の深層意識の願望って事になるのか!? 俺は幼女とイチャイチャしたいという自分でも知らなかった欲望があるって事なのかよ!?」


 俺は頭を抱えて唸った。

 確かに目の前にいる幼女は信じられない程に可愛い顔をしている。


 長い金髪に大きく慈愛に満ちた瞳。頬はふっくらとしており、幼女らしい丸みを帯びたライン。

 テレビや雑誌でも自称天使以上に可愛い女の子を俺は見た事がない。


 だが同時に幼女に欲情すると言う世間では許されざる自分の性癖を知り、大量の冷や汗が溢れ始める。


「否だ。断じて否だ!! 俺は健全にして好青年なんだ。そりゃエッチな事にも興味はある。しかしそれは普通にグラビア雑誌とかに出る様な成熟した女性対象だ。そんな俺がロリっ子に欲情するだと? いやいやいや、これは何かの間違いだ! 夢なら覚めてくれ!」


 自分の頭を抱えながら何度も考えを否定する。


「きょ、挙式とかも考えた方がいいのです。つ、付き合うとなったらやっぱり結婚まで考えないと相手に失礼になるのです!!!」


「誰かこの幼女を止めてくれぇぇぇ!」


 もし今の状況を第三者が見ていれば異様な風景だろう。


 金髪幼女は頬を染めながら身悶えている前で青年が頭を抑えながら苦悩している。


「コホン。少し取り乱してしまいました。では私は一度、大天使様の元へと帰るのです。私に会えなくて寂しいとは思いますが、ちゃんとお返事を伝えに戻るので待っていて下さいです」


 礼儀正しくお辞儀をすると天使は背中の羽を羽ばたかせその場から飛び去って行く。


「大丈夫だ。自分を信じろ気持ちだろ! 俺はノーマルだ!」


 天使の声など耳に入らず俺はブツブツと独り言を唱え続けた。

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