子猫の使い魔就職活動
ネコの日にあわせて
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いつものように実家でゴロゴロしていると、母親が爆弾を落とした。
「あんたもうすぐ成猫なんだからどこかで使い魔になりなさいよ」
俺ネコ。ここ俺のウチ。
これ魔女のアンゴラ様。
彼女は俺にご飯をくれる。魔力もくれる。
「ごめんねぇ。使い魔契約に血族はいれてないの。アンナが子ども使い魔になってからつくったからね。今まではぁかわいい子猫ちゃんでしょう。いきなり追い出すのはかわいそうだから、成猫までうちの使い魔(仮)だったのよ。もうすぐそれも終わるから他に使い魔にしてくれる魔女いるといいわねぇ」
なんてこった。
うち母親アンナは父親と職場で出会い俺を産んだ。
契約に血族は含まれていないので、俺はアンゴラ様の使い魔になれない。
ダメ元でアンゴラ様にお願いしてみた。
「アンゴラ様…雇ってもらえませんか?」
「ごめんねぇ。私だと5匹が精一杯なのぉ。ほかの猫魔女に聞いてみるから自分でも探してねぇ」
育ててくれたアンゴラ様のすまなそうな顔見て、俺はすがるようなことは言えなかった。
「俺頑張ってよその魔女様の使い魔になります!」
こうして俺の就職活動が始まった。
( ^ω^ )( ^ω^ )( ^ω^ )( ^ω^ )( ^ω^ )
俺はまず使い魔斡旋所に行った。
ここは魔女が使い魔募集の告知をしたり、動物たちが情報登録したりする。もちろん使い魔斡旋所に来ない募集もあるが、それは稀だ。
職員の面接を受け、その動物に合った募集を紹介するのだ。
猫は人気だし募集も多いしすぐ見つかるはず。その時俺はそう思っていた。しかし面接を受けて心を折られる事となる。
俺の情報は
名前 クリス
性別 ♂
種類 猫(雑種)
年齢 10ヶ月
容姿 白に茶シマ、中肉
特技 なし
となる。
職員と俺は席に着き募集の紙を広げた。
「これらは全て猫の募集です。ぜひクリスさんに合う魔女を探しましょう。ではクリスさんの情報を見せて下さい」
俺はさっき用意した情報を見せる。
俺の情報を見て面接した職員は難しい顔をした。
「クリスさん、猫は使い魔として人気がありますし、募集も多いのですが…クリスさんに会うものは少ないです」
「なんで?こんなに募集があるのに!」
机に広げた募集の山を俺は叩く。
肉球で叩くとタシタシ音がした。楽しいが楽しんでいる場合じゃない。
「それらはたしかに猫の募集ですが、条件がありまして…」
例えばと指差すものには
『猫3〜5ヶ月くらい、黒猫希望」
『猫3〜5ヶ月くらい、黒猫長毛種希望」
『猫、オッドアイ希望』
『猫、黒猫希望』
『猫、マンチカン希望』
みんな細かい指定がある。
「一番多いのは『黒猫』です。黒猫にあっては魔女が猫を選ぶのでなく、猫が魔女を選ぶくらい、募集がかかります。次は血統書つきです」
職員は淡々と続ける。
「他は雑種などでも、太っていたり、不細工だだったするのも需要があります。あとは特技。ネズミ取りがうまい、死霊が見えるなどがありますね」
俺は開いた口が戻らない。
「クリスさんは募集の多い年齢の3〜5ヶ月を過ぎていますし、雑種。柄もありきたりで太ってもいないです。特技もない」
肉球にジワリと汗がでる。
俺就職できるのかなあ。
「頑張りましょう、クリスさん」
職員の声が虚しく響いた。
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俺ネコ。
名前はクリス。
ここは図書館。
斡旋所の職員が紹介してくれた。
図書館は必ず数人の魔女がいて主にネコを使い魔にしているらしい。
仕事はネズミ取り。
ネズミは書籍を食い荒らすので狩る。
食べずに爪とぎに使うほうがよっぽどいいのに、ネズミは馬鹿だ。
「クリスくんネズミ取りは上手かい?」
図書館で司書をしている、メアリ様が質問してくる。
「はい。多い時は1日に5匹取りました」
「それはそれは…じゃあ仕事を知ってもらうためにうちの使い魔たちの仕事見てみようか。今ちょうどネズミが出たみたいだし」
「はい!」
メアリ様の後をついていくと書庫に着いた。
「ここは保管室。展示室にない本は全てここにあり。君たちの仕事場になる」
扉を開け中の光景を見たら、俺の尻尾がブワッと膨らんだ。
目の前には血まみれのサーバルキャットがいた。
返り血を浴び、足元にヒトだったものがある。
「こらバルちゃん!血でビチャビチャにしちゃ駄目でしょう、本が汚れちやう!」
「いや主人なかなか手強くて生け捕りが難しかったんだ」
「レオンはどうしたの!ちゃんと指揮に入ったの?」
「…いやその」
「また単独行動して!次やったら魔力カットだからね!」
「そんなあ」
「ごめんなさい。もっとピシッとしたところ見せるつもりが」
メアリ様が俺に謝ってくれたけど、俺は気を失って何も聞こえていなかった。
『ネズミ』は希少本を狙う泥棒も含まれていて血生臭いことが大半で上下関係も厳しい。
そのためなかなかネコが使い魔にならないそうだ。
俺はヨタヨタと図書館を後にした。
もちろん使い魔になっていない。
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斡旋所に行っても、アンゴラ様のツテの猫魔女に行っても俺は使い魔になれなかった。
もう二、三日もすれば1歳。成猫となりアンゴラ様の使い魔契約が破棄されてしまう。
もう魔力でヒトになったりできないし、メスネコもナンパできなくなる。
しばらくうじうじしていたが、悩むのに飽きた俺はどうしようもないならと開き直りヒトの姿で酒場に行くことにした。
もうなれないなら楽しもう。
酒場ではヒトじゃないと食べられないチョコレートやイカを頼み酒も飲んだ。
「俺ネコ!俺ネコ!俺ネコオレィ!」
酔っ払い、上機嫌で変なことを叫んでいたら声をかけられた。
「随分楽しそうだね。相席してもいいかい?」
ヒトのメスがこえをかけてきた。
「いいよ!一緒に飲もう!俺ネコ!」
「ヒト型をとれると言うことは使い魔なのかい?」
使い魔なのかい?と言われて俺は号泣した。
「(仮)なんだよ!明日か明後日には契約切れて!もうやだー!」
そのまま俺はヒトのメスに愚痴った。
使い魔だと思っていたら(仮)だったこと。
斡旋所で普通だの遅いだな言われて傷ついたこと。
図書館で怖い思いをしたこと。
使い魔になれなくてアンゴラ様を悲しませること。
アンゴラ様のそばを離れる事が悲しいこと。
毛玉と一緒に全部吐き出す頃、俺はすっかり酔い潰れヒトの姿を保てなくなりネコで寝た。
「そんなにいうならうちの子になりな」
ヒトのメスが何か言ったのも分からなかった。
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次の日俺が目を覚ましたのは知らない部屋だった。
木箱に毛布を入れて俺の寝床が作られている。
キョロキョロ見渡していると、扉が開き昨夜酒を一緒に飲んだヒトのメスが入ってきた。
「おはよう、体調はどうだい?ネコの姿になったら急に何か吐き出していたからな」
「多分毛玉」
「毛玉?ネコとは不思議な生き物だな」
ヒトのメスは俺を抱き上げる。
「体も柔らかい。骨はちゃんとあるのか?」
「あるよ。寝床貸してくれてありがとう」
「何使い魔の寝床くらい作るさ」
使い魔の寝床。この単語が頭に染み込むまでだいぶ時間がかかった。
しみこんだら俺はさけんだ!
「どういうこと?!」
ヒトのメスことミカエラ様が言うには、ミカエラ様はネコを使い魔にしようとしても断られてしまうらしい。
斡旋所に募集をかけても集まらない。
そこで斡旋所での募集はやめて地道に街でネコに声をかけていたそうだ。
「こんな私だが使い魔にならないか?」
「喜んで!」
ここでミカエラ様に何も聞かなかったことを俺は後悔することとなるが…。
使い魔になれることに喜び浮かれて少しも気がつかなかった。
ミカエラ様がしてやったりと微笑んでいることに。
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数日後、母親やアンゴラ様にお別れをしてミカエラ様のお家に行った。
ミカエラ様の
お家は森の中で、街育ちの俺には少し怖かった。
お家に入る時お邪魔しますと言ったらこれからはただいまだろと言われ、じーんとした。
俺は使い魔になるんだと実感がこみ上げてきた。
「来たところすぐで悪いけど、早速契約をしようか」
ミカエラ様は床の円陣を指す。
俺が円陣に入るとミカエラ様が唱える。
「ネコのクリス、お前の目は私の目、お前の爪は私の爪、お前の毛は私の毛」
円陣が光りだし、俺は眩しくて目を閉じた。
「私、ミカエラ・ギザン・シフリンの血をもって、ネコのクリス、私に属せよ、族せよ」
目をつぶっても眩しいくらい光が強まると、余韻を残し消えた。
「さあクリスこれで私の使い魔だ。先輩使い魔を紹介しよう」
ミカエラ様が鋭く口笛を吹くと、カッチャカッチャ足音がする。
床を爪が叩く音。
ネコはこんな無様な音をたてない。
立てるのは…。
振り返ると4頭のイヌ。
ゴールデンレトリバー。
ダックスフンド。
秋田犬。
アフガンハウンド。
「いやー使い魔がイヌばかりだと、他の魔女から変だの魔女のイメージ壊すなだの色々言われてね。他のネコはイヌがいると聞くと使い魔になってくれなくてね」
ミカエラ様は呑気に言う。
飛び上がってその顔を引っ掻いた俺はきっと悪くない。
にゃんてこったい!
この後魔女は先輩使い魔にこってりしぼられ、子猫は先輩使い魔になつきました。