アリス イン アンダーワールド 上
冬の童話祭初参加です。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
皆様ごきげんよう、私の名前はアリス。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
ただいま予想高度5000メートルからの、パラシュートなしのスカイダイビングならぬホールダイビングを満喫しております。
「どぉぉぉおおしてこぉぉなったのおおぉぉおお!!!」
思い返せば……ウサギの耳を頭から生やした、とても可愛い白髪蒼眼の女の子を追いかけていたらこの穴に落ちてしまった気がします。
いや、変な意味ではないですよ? だから「お巡りさん、この人です」とか「もしもしポリスメン」とかはホント勘弁してくださいね。もう白バイとの深夜のカーチェイスは二度と御免ですから……っと、そんな事を考えている内にようやく穴底が見えて来ましたね。
えっ「そんな装備で大丈夫か?」ですって? ふふふ、お姉様に日々鍛え上げられてきた私に不可能はありません。
「そおおおぉぉぉおおい!!!!」
五点着地……つま先→すねの外側→ももの外側→背中→肩の順で衝撃を受け流し、無傷でスカートに着いたホコリを手で払い落とし、辺りを見渡す。壁には本や雑貨が所狭しと並べてあり、上を見上げると様々な玩具が重力を無視して浮いています。
「嗚呼、急がないと!!」
「!?」
某鉄の歯車で、敵兵に見つかった時の効果音が聞こえてきそうな勢いで振り向く。そこには、もう背中しか見えないですが間違いなく、私が探していたウサ耳の少女がいた。
「待ってくださいな!」
大きな声で呼び掛けましたが、よっぽど急いでいるのか私に気がつくことなく走り去ってしまいました。
「こうしてはいられません。追跡開始です!」
そうしてしばらく歩いた場所に一つの扉がありました。ここまで一本道だった事から、彼女は恐らくこの先に行ったのでしょうね。
「あらら?」
ドアノブに手をかけてひねろうとしましたが、ドアノブはびくともしません。鍵穴もないことから、普通の人ならここで諦めるでしょう……しかし私には通用しませんよ!
「これをこうして……っと」
遮蔽物に身を隠してから遠隔起爆装置のスイッチを押す。
ピッ
ドゴオオオオォォォォオオオオンッ!!!
「この手に限る……」
直後に凄まじい爆音と衝撃波が訪れる。やはりピッキングはC4に限ります(この手しか知りません)。
C4によって消し飛んだ扉の先にあったのは、とても美しい湿地帯でした。空は真っ暗で夜のようでしたが、辺り一面に咲く色とりどりの花が淡く光っていて、とても幻想的な風景です。
「綺麗……」
思わず口からこぼれ落ちた独り言は、誰の耳にも届かずに足元で咲き輝く花のように淡く消えていった。
しかし、いつまでもこうしているわけにもいきません。私にはあのウサ耳少女とあんなことやこんなことをするという野望があるのです
しかし……困りました。
あの少女を完全にロストしてしまい、しかも場所は右も左もわからない地下世界。
下手に動くのは危険ですがじっとしていても何も変わらないのも事実……どうしましょう。
その時でした。青く輝く蝶が私の頭の周りをぐるぐると飛んで、まるで「こっちにおいで」と言われているようです。お姉様には知らない女には付いていくなと言われていますが、蝶ならば大丈夫でしょう。
あら? そういえば蝶って害虫……気にしたら負けです。
蝶に導かれるままに歩いていくと、急に視界が霧に覆われて何も見えなくなってしまいました。視覚が使い物にならなくなった以上、聴覚に頼るほかありません。
聴覚に神経を集中させると微ですが音が聞こえます。私は音のする方へと足を進めていきました。
◇■◇■
開いた口が塞がらない……という言葉の意味を真に理解した気がします。
余談になりますが、今の状況は昔お姉様に読んでもらった『不思議の国のエリス』という絵本によく似ています。『不思議の国のエリス』の大まかな物語はこうです。
主人公のエリスという頭から猫耳を生やした少女が、狐耳の女の子を追いかけて迷い混んだ不思議な国で起こる色々な困難を『魔法』で乗り越えていき、最後には悪い女王を倒して狐耳の女の子と結ばれる……といった内容です。
私にとっての困難が、今まさに目の前にあるのです。
「お茶会……お茶会!!」
三度のレーションよりもお茶が好きな私にとって、目の前のお茶会はとても魅力的に見えます。嗚呼、紅茶の湯気が私を誘うかのようにゆらゆらと……、
「ハッ!」
気がつくと私は椅子に腰掛けて、紅茶の入ったティーカップを手に持ち、今まさにカップが唇に触れる瞬間でした。
「危なかった……」
そっとカップをソーサーに乗せる。すると、どこからともなく視線を感じ、その方向を向くと、シルクハットを被ったおしゃれな女の子が、その大きな瞳をぱちくりとしながら私のことを見ていました。
鮮やかな赤毛をツインテールにして、瞳は髪よりも深い紅色。斜めに頭に乗せられたシルクハットは、幼い見た目には似合わない大人っぽさを演出していて、そのギャップがなんとも愛らしい。
その時、私が真っ先に思ったのは、動揺でも、警戒心でもなく、
『可愛い……そして食べたい(性的に)』
この一点だけでした。
どこからか「駄目だコイツ、早くなんとかしないと」とか「キマシタワ!」等々が聞こえてくるような気がしますが……きっと幻聴でしょう。
「こんにちは、帽子をかぶった可愛らしいお嬢さん。私の名前はアリス。もしよろしければ私と、ベッドの上でのお茶会をしませんか?」
「初対面で何言ってるの!?」
一瞬頭上に『?』が浮かんだと思ったら、次の瞬間顔を真っ赤にしながら突っ込みを入れられてしましました。中々良い突っ込みをしますね。
「いえいえ、無理にとは言いませんよ。あっ、自前のですが、アイスティーで良ければどうぞ」
「あら、ありがとう! ……って、明らかに何か溶け込んでるんだけど! 睡眠薬? 睡眠薬入れたでしょ絶対!」
「惜しいですね、ただの痺れ薬ですよ? 反応がないとつまらないので」
「どちらにしろゲスい! 何よ『無理にとは言いません』って……結局、無理矢理ヤル気満々じゃないの!」
「貴女の意思を尊重すると言いましたね……あれは嘘です」
「チクショー!」
中々に良い反応をするので、ついつい話が盛り上がってしまいましたが……私の真の目的はあのウサ耳の少女。あまり長時間油を売っているわけにもいきません。
「それでは、私はこれにて失礼」
「ハァ、ハァ……えっ?」
さて、少しの休憩を挟みましたが、追跡再開です。
「ねぇ、ちょっと……」
体を伸ばし、準備運動は完了です。
「ねぇってば……」
それでは出発ーーー、
「待ちなさいって言ってるのよおおおぉぉおお!!」
「え?」
振り向くと、顔を真っ赤にして若干涙目でプルプルしている帽子少女がいました。
「私も付いていってあげるわ! べ、別にあなたの為じゃないんだからね!」
「……ツンデレ乙」
「うるさいわね! 行くったら行くの、わかった?」
「わ、わかりました。わかりましたから!」
有無を言わさぬ迫力で押しきられてしまいました。しかし、好都合でもあります。
「では、少しの間かもしれませんが、よろしくお願いしますね? えーと……」
「マッドハッター……私の名前はマッドハッターよ。よろしくね? アリス」
こうして私のパティーに、ツンデレ美少女のマッドハッターが加わり、私のたびは少し賑やかになりました。