エピローグ
──夕日が眩しくて、目蓋を開く。
そこは、放課後の教室だった。
夕日によって赤茶色に染まった教室では、俺の斜め前の席で、倉橋先輩が寝息を立てている。
ほかには誰もいない、二人だけの教室。
「……はあ、やっぱ夢だったか」
俺は伸びをして、立ち上がる。
机に突っ伏して寝ていたせいで、体が凝り固まっている。
俺は何気なく、倉橋先輩の席に近付く。
制服姿で眼鏡の似合う、俺の憧れの先輩。
……寝顔、可愛いなぁ。
こんな人が俺の彼女だったら、俺の人生バラ色過ぎて嘘くさいよな。
「んぅ……?」
倉橋先輩が目を覚ます。
そして──
「あ、相沢くんだー、おはようのチューしよー」
倉橋先輩が寝ぼけ眼で立ち上がって、俺の肩越しに腕を回し、唇を重ねてきた。
その瞬間、俺の思考がショートする。
「……あれ?」
しばらくして唇を離した先輩が、辺りを見回す。
そしてみるみるうちに、その顔が青くなってゆく。
先輩は、抱き付いていた俺から慌てて離れて、椅子に引っかかって転びそうになるが、そんなことも気にせずに謝罪の言葉をまくし立てる。
「ごめんなさい、ごめんなさい! あのっ、夢と、夢と間違って、まだ夢の中だと思って、ごめんなさい、ごめんなさい!」
必死に俺に頭を下げてくる先輩。
──あー、もう、何だこれ。
「先輩」
「……はい」
「やっぱり俺、先輩のことが大好きです。現実でも付き合って下さい」
「……へっ?」
俺は呆けた先輩の手を取り、背中に腕を回して、今度はこっちから、その唇を奪った。
驚いたように目を見開く倉橋先輩。
俺が使っていた机の上では、窓から吹き込んだ風によって、ライトノベルのページがぱらぱらとめくられる。
その白紙だったはずの本文部分には、本の最初二割ほどのページだけ、物語を記した文字の羅列が書き込まれていた。
どうやら、俺と先輩の夢の冒険は、まだまだ続くようだった。