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第6話

 人里に到着してからまだまだしばらく歩いたというところで、俺たち二人はようやく、街の入口へと辿り着いた。


 街を覆う壁は、一抱えほどもある巨大な直方体の石を、煉瓦れんがのように大量に積み重ねることで作られている模様。

 積み上げられたその高さは、見上げるほど──多分、二階建ての家の屋根ぐらいの高さがあるんじゃないだろうか。


 そして、その街壁の一部が、アーチ状──馬車二台すれ違って通れるほどの大きさだ──に切り抜かれた形になっていて、そこに分厚い木造の門扉もんぴしつらえられている。


 門の入口の脇には、槍を持って全身を鎖かたびらで包んだ衛兵が立っている。

 衛兵はしばらくの間、少し離れた場所から街の入口を見ている俺たちを訝しげな目でにらみつけていたが、やがてしびれを切らして、俺たちに向かって怒鳴りつけてきた。


「おい、そこの二人! 怪しい格好だな、こっちへ来い」


 そう言われた俺と先輩は、互いに顔を見合わせる。


「ど、どうしよう……制服でしょ? 旅の荷物も持ってないでしょ? 私たち、どう見たって怪しいよね」

「こういうとき、ラノベの主人公って、どうやって門を通ってましたっけ?」

「えー、覚えてない。身分保障できる人が一緒にいるとか、身分を保証できるようなアイテムがあらかじめ与えられてるとか?」


 つまり、である。

 行き当たりばったりで街まで来てみたはいいものの、この先のことを、俺も先輩も、何も考えていなかったのだ。


「うー、きょ、強行突破してみる?」

「いやいや、ないですって」

「じゃ、じゃあどうするの」

「えっと……先輩の色仕掛け、とか」

「人見知りの私にそんなことできるわけないじゃん! だいたい彼女になった子にそういうことさせる!? 相沢くん、減点一!」

「……ごめんなさい」


「──おい、何をしている! 早く来い!」

「「はっ、はい!」」


 衛兵さんに怒られて、俺たち二人は恐る恐る、門の前まで行く。


「……素直なのはいいが、悪いがどう見ても怪しいからな、お前たち。ステータスを見るが、いいな? ステータス隠蔽いんぺいを持っているなら、切っておくように」


 衛兵さんに言われて、俺と先輩はともに頷く。

 『ステータス隠蔽』とか、よく分からない言葉が混ざったけど、多分そういうスキルが存在するんだろう。


 衛兵さんは、まずは俺を凝視してくる。

 ステータス鑑定のスキルを使っているんだろう。


「ふむ──なっ……! 勇者だと!?」


 俺のステータスを見ていたであろう衛兵さんが、驚いた声を上げる。


「お前──いや、あなたは、勇者様なのですか?」


 衛兵さんの対応が突然、へりくだったものに変わる。


 ……ええと、勇者様なのですか、と聞かれて、俺はどう答えたらいいんだろう。

 自分のステータスのクラス欄に『勇者』って書いてあるのは間違いないんだけど、俺もそれ以上のことは何もわかってないんだが。


「えっと……多分、そうかと。ちなみに俺だけでなく、こっちの女性もクラスは勇者ですよ」


 俺からそう言われて、衛兵さんは、慌てて倉橋先輩のステータスも見にかかる。

 そしてすぐに、顔を青くして、


「し、失礼いたしました! お二人様とも勇者様であるとはつゆ知らず、とんだご無礼を!」


 衛兵さんは直角に頭を下げて、最敬礼で謝罪してくる。

 ……そ、そこまで遜られても、逆に困るんだけど。


「今、迎えの者を来させますので、その者と共に王城へと向かっていただけますか。国王がお待ちしております」


 とまあそんな感じで、俺と先輩はあれよあれよとお城までエスコートされてしまったのである。

 ああ、冒険者ギルドルートが……自由が……。




 そんな風に思っていた、およそ一時間後。

 お城の謁見えっけんで王様から話を聞いた俺と先輩は、今はお城の門の前にいた。


「やっぱり色々混ざってるね」

「混ざってますね」


 俺と先輩はそう言って苦笑し、冒険者ギルドを目指して街を歩き始める。


 王様の話は、要約するとこうだ。

 お城で勇者召喚の儀式を行ったが、若干うまくいかず、勇者はお城以外の場所に召喚されてしまった。ごめんね。

 で、魔王の復活が迫っているけど、差し当たって今はまだわりと平和なので、ひとまずは冒険者として活動しながら力をつけてほしい。

 以上。


「でも良かった。最初からあれやれこれやれって、おつかいイベントばっかりやらされたくないし」

「ですね。……でも目的がなさすぎても、何していいか分からなくなるかも」

「いいじゃん、適当に何でもやれば。デートだと思えば、きっと何でも楽しいよ」


 先輩はそう言って、横からまた、俺の腕にしがみついて来る。


「せ、先輩……!?」

「んっふふー、これだけ人のいる往来おうらいなら、ムラムラきても襲えまい」


 うわぁ……何この可愛すぎる生き物。


「そういうこと言ってると、頭なでなでしますよ」

「どうぞどうぞ」


 俺は自分の右腕にしがみついている先輩の頭を、左手でなでなでする。

 先輩は猫みたいに気持ちよさそうにして、さらにきゅっと身を寄せてくる。


 ……何このリア充感、幸せすぎるんですけど。

 爆発しろ?

 やだよ。今夢が覚めたら泣くよ俺。


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