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page.14 カンナギの使徒と邪なる者:中編

全編、レヴィ視点でお送りします。

 人の居ない、市場の大通り。私の前に立つのは正気を無くしかけた一人の男。周りを眺めてみれば、破壊された沢山の露店に、今も地面に倒れてるおじさん達。

 本人にしてみれば私へのリターンマッチのつもりなのかも知れないけど、周りはいい迷惑だわ…

 

「俺の実力、見せてやるよ、女ぁ!」

 

 雄叫びを挙げながら殴りかかってくるチンピラ。

 

 …実力、ね…私は、その言葉をどこか、冷めた気持ちで聞いていた。

 

 目の前の男は、人から貰った力に酔いに酔って、衝動に任せて破壊活動したり、一般人に怪我までさせておいて、それを言うに事欠いて『実力』と口にしたんだ。

 

 

 私は向かって来るチンピラの踏み込みに併せて、左足で静かに地面を踏みしめる。

 

「寝言は寝て言え…この、どチンピラ!!」

 

 延びてくるチンピラの右腕に交差させて、右脚を蹴りあげる。狙いは外さず、私の眼前で拳は止まり、蹴り上げた右の爪先が男の顎を痛烈に跳ね上げた。砕けてたらごめんね。でも、自業自得なんだからなっ!

 

「実力ってのは、他人から与えられるもんじゃない!自分の鍛練の積み重ねで造り上げ、身に付けた物の事を言うんだよ!」

 

 バッチリ決まった!キーチの受け売りだけどねっ。……て、あれ?

 

「…おいおい」

 

「あぁ?なんか言ったか? 聞こえねぇなぁ!」 

 

 仰け反った体勢を直ぐに回復させたチンピラは何事も無かったかの様に私に向き直った。

 マジか…会心の一撃だったのに…うわぁ、私カッコわる…

 …けど、私の蹴りは確かにダメージを与えてる。口を切ったか、顎が割れたかしたらしい男は血を垂らし、顔の下半分を赤く染め、けれども余裕の態度を見せる。…気持ち悪い…

 普通の人間なら、大概今ので卒倒するんだけどなぁ…どうやらエーテルでハイになりすぎて、痛みも感じてないみたい。

 

 …やっぱり、混入したエーテルを何とかしないと無理か。

 

 考えてる間にも、立て続けに仕掛けて来るチンピラ。身体ごとぶつけてくる様なその拳を半身でかわし、相手の身体ごといなして後ろに流す。

 空を貫いた拳は露店の1つの支柱に突き刺さり、頑丈な筈のそれに大穴を穿った。

 ジャックの言ってた通り、異常な力だ。大して鍛えてもいない身体で扱える様な物じゃない。

 男の身体を観れば、既に拳は自分の血にまみれていて、負荷を掛けすぎた腕も筋肉が損傷したのか、動きがぎこちない。…あれはドーピングが切れたら、痛みでのたうち回るだろうなぁ…早いとこ、助けてやろう。

 

「アレはまだ、あんまり得意じゃないんだけどね…」

 

 更に続く男の攻撃は全てかわしつつも、エーテルを変換し、掌に氣を集める。この技に使うのは、拳じゃなく、開手。本来は内部破壊を目的としたこの手の形は、プラーナを相手に送り込む作業に適してる。

 要するに、プラーナの流れをイメージしやすいんだ。氣の扱いは、イメージが一番大事だからね。

 

 要領は、さっきのジャックのプラーナを活性化させて、手当した時と同じ…あの歪なエーテルを、破壊するイメージ…大丈夫、私は、やれば出来る子だ! そう自分に言い聞かせたら、準備完了っ!

 

「避けてばっかじゃねえか!どうした銀髪!? あん時みたいにかかってこいよ!!」

 

 チンピラが挑発してくるが、無視。私のモットーは一撃必殺。

 戦いの中で、無駄な動きは隙を生み出し、その一瞬の隙が命取りになる。

 それが、カンナギ流闘法術の教えだから。

 

 打ち合いの最中に、相手の動きを読み解いて、その癖を見破り、どんな次手を考えているかを先読みする。そして、その果てに見出だした一瞬の勝機に、全力の一撃を打ち込む。それが、私の戦い方。

 

 戦闘って、例えるなら数学の問題を解くようなものなんじゃないかな? 相手の動きは方程式に、自分の動きを変数に置き換えて、自分がどう動けばその方程式が成立するかを考える。そうすれば、式を読み解いたその時、初めて相手を制する事が出来る。私はそう捉えている……まぁ偉そうに言ったけど、数学は嫌いだけどね。何でって? 数式見ただけで頭痛がするからだよっ!

 

 

 ゴホン…それに比べたら、本物の実力者との戦いは楽しい。それこそ、心が浮き立つ程に。

 その相手がカンナギ流の師範代ともなれば、その戦闘は正に超難問の方程式。組手をしたら、私で5試合に1本、ようやく取れると言うレベル。 

 そして、カンナギ流ハウルエル一派の『永代名誉顧問』とか言う、意味の解んない肩書きを持つあの黒猫に至っては、格が違う。

 

 アイツとの組手は言ってみれば、戦闘しながらランダムに数字の入れ替わる方程式を解け、と言われた様な物で。どうすれば奴から1本取れるのか、イメージすら出来ない。

 

 私の人生初の奴との組手では、数秒の間に数十にも及ぶ虚々実々の互いの意志のやり取りが飛び交い、それを何とか読み解いたと思い込み、目の前に迫った奴の拳に嬉々として飛び付いた瞬間、何故か背後から飛んできた奴の蹴りに、視界は暗転させられていた。

 

 その後、奴は人に化けた姿のその口で『技術は申し分ないが、素直すぎるな。まだまだである』とか、嘲る様にほざいた。

 あの憎ったらしい猫野郎の顔面に一撃を叩き込むのが、今の私の目標だ。

 

 

 

 …思考に浸り過ぎたみたい。いつの間にかチンピラの動きが鈍くなってきている。腕の動きは鋭さを失い、足取りは頼りない。いくらエーテルでドーピングしても、身体は生身。氣の力に身体がついてこないんだね。


 

 キーチや師範代の動きに比べれば、このチンピラの戦い方なんて、子供用の練習問題みたいなものだ。

 私は動きが緩慢になったその腕を自分の左腕で絡めとり、足の甲を踏みつけて、容易くチンピラの動きを封じる。

 

 

「て、てめ、離せっ!」 

 

「ハイハイ。じっとしててね、動くと危ないから」

 

 掌に収束させた、性質を変化させたプラーナを、掌打でもって一気に彼の身体に叩き込む。体内から押し返そうとする抵抗を感じたけど、構わずに無理矢理押し込むっ!

 

 カンナギ流闘法術、無手の技『破邪の掌』(はじゃのたなごころ)

 

 本来は、反エーテルの性質をもつ氣を体内で作り出し、イビル・クランの体に流し込む事で、内側から彼等のエーテルを破壊する、イビル・クランを滅ぼす為の技。今はその効果を利用して、チンピラの中に混入したエーテルを、身体から追い出すっ。 

 

「ぃ良し!! 入ったっ」

 

「がっ!?…な、何しやがった!?……何だよ、これ…力が…抜ける…」

 

 プラーナの性質変化はまだまだ練習中なんだけど、どうやら上手く行ったみたい。

 

「ドーピングを抜いてあげたのよ。これで元通り。良かったね、人間に戻れて」

 

 皮肉を込めた私のその言葉を、数秒間かけて理解したチンピラは、絶望的な表情を浮かべてその場に踞る。そして、遅れてやって来た激痛にくぐもった声をあげ始めた。

 

 でも、私はそんなチンピラには目もくれず、排出されたエーテルを警戒していた。

 キーチの話だと、宿主から追い出されたエーテルが持ち主に還る筈だから、それを追い掛けて大本に辿り着く算段らしい。

 

 

 …けど、男の身体から排出されたエーテルは、今もその場に浮遊したまま。一向に動く気配は無い。………あれぇ?

 

「…どうなってんの?」

 

 不思議に思った私は、浮遊し、そこに留まり続けるエーテルを調べようとそちらに歩んだ。


 

 その時。突然、背後に再びエーテル反応が立ち上がる。って、何でっ!?

 

 反射的に振り返った私の視線の先。

そこにはいつの間にか、細面のナイスミドルなおじさんが立っていた。

 灰色のトレンチコートを着込んだその男は、踞ったままのチンピラの側に立ち、彼を見下ろしている。

 

「…まったく、使い物になりませんね…折角の能力も、それを生かす器が無ければなんの意味もない。そうは思いませんか? お嬢さん」

 

 そう言って顔を此方に向けた男。どうやら、黒幕の登場らしい。

 もう、隠すつもりも無いのか、その身体に内包したエーテルが溢れだし、物理的に肌が痛くなる程の威圧感をばら撒いている。

 

 

「…あんたが、そのチンピラにドーピング打った張本人な訳?」 

 

「如何にも。申し遅れました。私は、貴女方が仰る所のイビル・クラン。名をダエーワと申します。以後、お見知りおきを」


 

 ダエーワと名乗ったナイスミドルのイビル・クラン。随分と紳士な奴だけど、このエーテルは、ヤバ過ぎる。人の形はしてるけど、まるで巨大な岩山と相対しているみたいな感じ。

 話には聞いてたけど…こんな場所でドンパチやらかしたら、市場どころか街が消えて無くなりそうだよ?これ。

 

 流石に迂闊に手を出す訳にもいかず、進退を迷った私の内心を見抜いたのか、ダエーワが再び口を開く。


「ご心配なく。今日は私の人形を台無しにしてくれた貴方に、御挨拶に伺っただけですから」

 

 …人形って、この間のクリープ・ブレイドの事かな?

 

「ああ…それと、ついでに失敗作の処分に…ね」

 

 ダエーワのエーテルが脹れ上がった。そう感じた次の瞬間には、私は走り出していた。

 プラーナを拳に集め、ダエーワの腕を狙い、瞬発力のある刻み突きを敢行。直後、衝突するエーテルとプラーナ。拮抗する様に青い火花を散らしたそれは、互いに弾かれ、追撃を警戒したダエーワがバックステップで更に距離を取る。

 

「…どうして貴女が、その男を助けるのです?」

 

 そう、ダエーワの腕は踞るチンピラを狙っていた。私が間に割り込まなかったら、間違いなく彼を絶命させていただろう。 

 

「この馬鹿には、自分のしでかした事にケジメをつけて貰うの。悪いけど、処分はさせないよ。こいつが死んで、それでお仕舞いじゃ、誰も納得出来ないからね」

 

「くく、優しいのか、厳しいのか、良く解らないお人ですね。まぁ良いでしょう、その矮小な存在が生きようが、死のうが、些末な事です。近々、大きなイベントも控えている事ですし、小事にかまけている暇も無いので。…そういう訳で、私はこれにて失礼させて頂きますよ。お嬢さん」 

「…アンタ、人の命を何だと思ってんの?…つか、ただで逃がすと思う? あんまり、人間を舐めるなよ、イビル・クラン」 

 

 …本当は、キーチが来るまで時間を稼ぐつもりだった…けど、そんな考え、いつの間にか何処かに吹き飛んでいた。

 

 

 キーチが言ってた、イビル・クランの考えなんて解る訳がないって言葉が、今は理解出来る。

 こいつらは…少なくとも、このダエーワと言うイビル・クランは、人をゲームの駒…その位にしか考えていないんだ。

 これがイビル・クランの標準的な思想なんだとしたら、確かに人とは解り合えないだろうね。 

 

 …私の背後で苦しむチンピラが、誰に唆されてどんな目に会おうが、それは彼の決断の結果で、自業自得だ。だから、それは良い。

 

 けど、それはそれ。 

 

 私は再びプラーナを纏い、拳に集中する。その氣の流れに気が付いたのか、ダエーワも再び身構えた。

 

「予定変更。…アンタは今、ここで…潰す」

 

 そう口にしながら睨み付ける私の視線にも、ダエーワは余裕の態度を崩さない。私を…と言うよりは、明らかに、人を見下している。自らの下位の存在として。

 

 

 

 イビル・クランとか関係無しに…コイツは、個人的に気に食わない。タコ殴りにしてやるっ! 

 

 

 私はその怒りを拳に乗せて、石畳を駆け出したっ。

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