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page.13 カンナギの使徒と邪なる者:前編

今回の話は、語り部が途中で変わります。

 猫達との夜会から、一夜明けた朝。我輩は相変わらずの寝坊助お嬢を叩き起こし、昨日の猫達の話を聞かせていた。

 今日も我輩の尻の下で目覚めたお嬢は少し、荒んでいる。

 

 

「お嬢よ、エッジと言う男だ。覚えておろう?」

 

「いや、そんな名前の知り合い居ないから」

 

 デジャブである…

 

「…チンピラAと言えば思い出せるか?」

 

「……あぁ。居たわね、そんなの。アイツがイビル・クランに操られてるって事?」

 

「解らぬ。だが、少なくとも、重要参考人ではあるな。まずは奴を探して接触するぞ」

 

 お嬢を連れ、先ずは朝食を摂るために食堂へと降りる。この間もお嬢はむくれたままである。

 我輩の起こし方に不満があるなら、毎朝自分でキチンと起きれば良いと思うのだが…

 

「おぅ。キーチにレヴィちゃん。おはようさん」

 

 厨房から声を掛けてくるテルセウに挨拶を返し、カウンターに陣取る。

 

「レヴィちゃん。今朝は腕によりをかけたラタトゥイユとベーコンエッグだ。キーチも同じメニューで良いか?」

 

「うむ。それで頼む」

 

「頂きまーす。……うーん!今日も美味しいっ」

 

 モグ…うむ。様々な野菜の旨味が良く出ておる。美味である。テルセウの料理に、朝から舌鼓を打つお嬢。先程までの不機嫌は収まった様である。最近はこの流れが定着してきている。要するに、美味い食い物を与えれば機嫌が治るのだ。簡単な奴であるな。

 

「……そこの猫。今なにか失礼な事を考えてなかった?」

 

「何の事であるか? そんな事より、早く食さねば料理が冷めるぞ」

 

 ……野性の獣の様な勘の鋭さである。

 

 さて、朝食を終えた我輩達。いざチンピラAを探さん、と席を立ったその時。突如として我輩の知覚が強い氣の反応を捉える。それはまるで、爆発を起こしたかの様に唐突に街のど真ん中に現れ、そしてまた唐突にかき消えた。

 

「キーチ!今のこれって…」

 

 跳ねるようにして席を立ったお嬢。その異質な気配を、彼女も感じ取ったのであろう。

 

 

「気が付いたかお嬢よ? 一瞬ではあったが、これがイビル・クランのエーテル反応である」

 

「今のって…街の中じゃないっ!行こう!!」

 

「うむ。テルセウよ、決して外には出るな。ハンナ殿とエリスと宿の中に居るのだ。良いな?」

 

 そう言いながら、我輩はお嬢の肩に飛び乗る。

 

「お、おう。…て、二人ならさっきから買い物に出掛けてんだが…ま、街で何かあったのか!?」

 

 何と、間の悪い事か…

 

「街の中にイビル・クランの気配を捉えたのだ。我輩とお嬢はそこに向かう。お主は二人を探して連れ戻せ!」

 

「いぃ!?…わ、解った!」 

 

 我輩の言葉を聞いたテルセウは、顔色を変えて外へと飛び出して行く。

 一方のお嬢も、先程感じたイビル・クランの気配の位置を便りに、迷う事無く駆け出した。

 

「…あの気配…いかんな…市場の方向である」

 

 朝のこの時間帯ならば、人がわんさかと集まっているであろう。それに、買い物に出たエリスとハンナ殿も市場に向かった可能性が高い。急がねば…………む!?

 

「いかんぞお嬢っ!エーテル反応が新たに六ヶ所、増えたのであるっ」 

 

「はぁ?なにそれっ! どうするの、キーチ!?」

 

 恐らく、あちらも我輩達の存在には気付いている。これはイビル・クランの撹乱作戦やも知れぬが……仕方ない。 

 

「お嬢はこのまま市場に向かえっ!我輩は他を潰してから、そちらに向かう」

 

「………解った!」

 

 少しの逡巡の後に頷くお嬢。一丁前に、我輩の心配でもしてくれたのであろうか?

 

「よもや、傀儡程度に遅れを取るとは思っておらんが…十分に気を付けるのだぞ、お嬢」

 

「解ってる。キーチも、無茶したらだめだよ」

 

「心得た。市場で会おう」

 

 お嬢の肩から飛び降りた我輩は、一等近場のエーテル反応に向かい加速する。

 

 ……まったく、煩わしい事をするイビル・クランである。出会った際にはきっちり礼をしてやらねばな…

 

 

 

 

―――――――――― 

 

 

 

 サンドラの街の市場。その場所は、先日エリスとキーチが訪れた八百屋の辺りだった。普段は人が集まり賑わう市場の大通りが、そこだけまるで穴が空いたように人の波が引いていた。

 その中心に仁王立ちする一人の若者。名前はエッジと言う。

 そして、その足元に倒れこむ、冒険者や一般人の男性。その状況を人々が大通りの建物内から、心配そうに覗いていた。

 


「ははっ、何だよ…格好良く登場した癖に、Dランク冒険者も大した事ねえな。え?兄ちゃんよ?」

 

「…くっそ…こんな事、もうよせ…今に、憲兵も来るぞ」 

 

「憲兵?上等だ! 片っ端からのしてやるよ!!」

 

 エッジの足元に膝まずきながらも、懸命に説得を試みるのはDランクに成り立ての冒険者、ジャック。彼がこの場に居合わせたのはただの偶然であった。

 人の集まる朝の市場で、暴れている輩が居ると聞き、偶々近くを通りかかった彼が駆けつけたのだ。

 その場に居合わせた数名の男性と協力し、露店を滅茶苦茶に荒らし回っていた男を捕らえようと試みたが、結果は現在の通り。

 

 

 目の前の男は、どこか異常だった。

 以前にも街で何度か見掛けた顔だ。あまり良い噂を耳にしない、言ってみればチンピラの様な奴だったと、ジャックは記憶していた。冒険者である自分なら、簡単に取り押さえられる相手の筈である。

 しかし、いざ掴み合いになった所、この男はまるでオーガの様な腕力でもって、ジャックを始め5人もの成人男性を振り回し、叩き付け、あっと言う間に無力化して見せたのだ。

 その眼は血走り、表情は興奮しきっている。どうにも、普通の状態では無い様に見えた。確かに憲兵が何人か加勢に来たところで、どうしようも無いのかもしれない。

 

 (何とかしないと…)

 

 痛みを訴える身体に鞭を打ち、ジャックが何とか立ち上がる。

 

「お前、取敢えず少し落ち着「うるせぇ!!」…っが!」 

 

 二度振るわれた剛力の前に、ジャックは成す術もなく再び吹き飛ぶ。

 そのまま露店の1つに頭から飛び込んだジャックだったが、とっさに頭部を腕で庇った為に大事には至らずにすんだ。

 しかし、最早あちこちに打撲やら裂傷を負い満身創痍の状態で、骨にもダメージがあったのか、身を起こす事すらままならない。 

 

 (…ヤバイ…助けを…呼ばなきゃ…怪我人、下手したら…死人が出る…)

 

 ジャックが冒険者としての使命感と根性で、何とかその場所から動こうとしたその時。不意に彼の身体を温かい光が包みこむ。次いで、ぶっきらぼうだが、どこか温もりを感じさせる声が降ってくる。 

「アンタ、オーガに追われてた冒険者だよね?生きてる?」

 

 次第に体の痛みが引くのを覚えたジャックが、顔を声の主に向けた。

 

「……レヴィ…さん?……た、助かったぁ…」

 

 そこに居たのはジャックも良く知る人物。救われたのはこれで2度目だ。

 

 彗星の如くサンドラのギルドに姿を表し、破竹の勢いで、僅かに1週間でBランクにまで登り詰めた超新星『カラミティ・リュンクス』レヴィ・ハウルエル、その人だった。

 

「よし、回復したね。動ける?」

 

「え?……あ、はい。動けます……あれ?何で動けるんだ?」 

 

 ジャックが訝しげに自身の身体を確認中だが、レヴィにその理由を説明するつもりは無い。

 

「動けるなら、怪我人を安全な場所に連れ出して。アイツは何とかするから」

 

「レヴィさん、気を付けて下さい。アイツ、普通じゃないですよ」

 

 身体を起こしながらレヴィに声を掛けるジャック。彼女の力量は知ってはいるが、それでも心配を覚えずにはいられなかった。

 

「解ってる。策ならあるから…安心して」

 

 余裕の笑顔でそう答えて、颯爽と立ち上がるレヴィ。

 その戦乙女の様な少女の姿に、一瞬、状況を忘れて見惚れてしまう、ジャックであった。 

 

 

――――――――――

 

 

 

 …このオーガに追っかけられてた冒険者…何て名前だっけ? ザック…はイザークんとこの斥候だし…でもなんか、かすってる気がする……あ、思い出した!

 

「シャックよね? 確か」

 

「…いや、ジャックです」

 

 …微妙に間違えた。ちょっぴり、気まずい…

 

「あー……ゴメンナサイ…ジャック。貴方の怪我なんだけど、一応手当はしたけど、応急措置だから」

 

 

「いや、気にしないで下さい。あ、ていうか、レヴィさんが手当してくれたんですか?…でも、いつの間に?」

 

「細かい事は気にしないで。とにかく、ホントの応急措置だから、あんまり無茶な動きしたら傷が開くからね」

 

 

「はい、ありがとうございました。レヴィさん、気を付けて!」

 

 ジャックに後ろ手を降りながら露店を後にする。大通りに歩を進めると、確かに見覚えのある男が待ち構えていた。

 

「よお、銀髪。こないだは世話になったな…」

 

「先に聞いとくけど、アンタは、まだ人間? それとも、イビル・クラン?」

 

 

 キーチが言うには、このチンピラのプラーナの中に、イビル・クランがエーテルを混入させて、操ろうとしてる…て事だけど…

 

「何を意味のわかんねぇ事を…これから、お前にお礼参りに行くつもりだったんだ。手間が省けたぜ…」

 

 んー。まだ、意識はあるみたいだけど…何か、目がイっちゃってる感じだな。

 このまま放置すれば徐々に体内のエーテルに意識を蝕まれて、最終的にはあの時のクリープ・ブレイドがそうだった様に、イビル・クランの傀儡になってしまうと、キーチは言う。

 私達が感じたさっきの反応は、エーテルが体内で活動し始める兆し、らしい。


 

 

「あんた、そのまま力任せに暴れたら、人間で居られなくなるよ」

 

「はっ!こんな最高の気分になれるんなら、くっそつまんねぇ人間なんか、今すぐにでも廃業してやる!」

 

 あー…これは何言っても無駄だな。

 

「へへ、あのおっさんには感謝しねぇとな…まったく、良い物貰ったぜ…」

 

 あのおっさん、てのがイビル・クランね。やっぱり、見た目は人間と変わらないのね…

 チンピラが焦点の合わない目を私に向けてくる。本人の意識があるのか微妙だけど、彼が完全に傀儡になる前に救う手段も、カンナギ流闘法術には存在する。…まだ間に合うかも知れない。

 

 こんな男でも、本来は守られるべき一般市民。イビル・クランの思惑通りに人形になるのを、傍観するってのも面白くないし……それより何より。

 

「廃業は私がさせないわよ。アンタには、人間として、自分の罪を償って貰うから。…奴等の傀儡になってお仕舞いじゃ、私が納得出来ないからね…」

 

 

 

 さて……面倒だけど、やってみますかっ。

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