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page.11 イビル・クランとカンナギの戦士

 邪神の眷属―イビル・クラン―それは人類の天敵。歴史書にすら残らぬ程の昔からこのテルステラに存在し、常に人の世を脅かしてきた、知識持つ者達。

 その力は凄まじく、たった1体のイビル・クランが自然災害にも匹敵する。

 彼等は只々人類を敵視する。ゴブリンの様に拐うのではなく。オーガの様に喰らうのではなく。…ただ、殺すために人を殺すのだ。

 

 そもそも、イビル・クランとは何か?

 ある研究者の説に依れば『彼等』はその外見は人類に近いが、生物では無いという。

 無理に例えるならば樹や岩、土や水と言った無機物に近い組織体を持つ、と言うことが近年の研究で明らかになったのだ。 

 それ以外、イビル・クランに関する情報はほぼ皆無に近い。そもそもが人の手に負える存在では無い為に、これまでに、捕獲に成功した者は居らず、その検体を確保する事も殆んど出来なかったのである。

 

 それ故、人類は未だその目的すら解らず、彼等のルーツも知る事が出来ずにいる。

 その呼び名すらも、彼等が名乗った訳ではない。

 ただ無慈悲に振るわれるその神の如き力を恐れ、人に仇なすその性質を疎み、誰からともなく呼称し始めたのだ。

 邪神の眷属―イビル・クラン―と。

 

 これが、一般的に知られるイビル・クランの認識であろう。

 人にしてみれば、正に抗う事すら敵わぬ、天災のような存在である。 

 

 

 イビル・クランが人類の歴史に初めて姿を見せたのは、今より1600年ほど昔。

 たかだか100体程の兵で構成された彼等は、宣戦布告も無く突如として世界中に戦争を仕掛けた。そのイビル・クラン達が振るう力は人の想像を絶する物で、100の兵士が一晩の内に一つの小さな国すら堕として見せたのだ。

 そのあまりに自分達とは規格の違う存在に、力なき民は恐れおののき、ただ月の女神に祈るしか、術はなかった。

 

 イビル・クランと人類の戦いはその時より、永きに渡り続く事になる。人類側は、当時のほぼ全ての国が力を結集、数を頼りに抵抗を試みていたが、いかんせん、敵の圧倒的身体能力、更には個々の保有する、人智を越えた能力に翻弄され、人は衰退の一途を辿っていった。

 

 イビル・クランとの戦が開始され、どれ程の時が経ったか、最早、暦すら曖昧になるほど、人は追い込まれていた。

 必死の交戦も虚しく、既にテルステラの8割程の国が彼等によって滅ぼされ、生き残った人々にも、最早抗う術はなく、人は絶望の帳に覆われていた。

 

 だがそんな中、決して戦う事を諦めなかった者達が居たのだ。

 後のカンナギ流の創始者、アルベイン・カンナギと、彼の伴侶であり、希代の刀鍛冶であったセンゲツ・カセン。そして彼等に付き従う者達。

 彼等はイビル・クランを考察し、『如何にすればその存在を消滅させる事が出来るか?』と言う問いに、一つの答えを導き出した。

 

 カンナギ達はまず、敵が攻撃の際に使用する超常的な力が、元を辿れば彼等自身の生命力である事を割り出し、自らにも同じ事が出来ないか、若しくはこの力を武器に転用する事は出来ないか、と考えた。

 そして、カンナギは修練と研鑽の果てに、敵と同じ様に、生命力、すなわち氣を操る術を編み出す。

 

 だが、それでも尚、イビル・クランには届かない。

 所詮、人ひとりの氣では、生命力の塊の様な存在であるイビル・クランに対抗する為の力が、全く足りないのだ。それは多少人数を増やし、力を合わせても、同じ事であった。

 同じ様に、カセンの計画も暗礁に乗り上げる事になる。彼女は最初、刀に自らの氣を込めながら打ち上げようと試みた。

 だが、それでは氣が武器に定着しなかった。まるで弾かれるように、込めた氣が霧散してしまう。

 

 やがて、イビル・クランの攻勢がいよいよ熾烈を極め始めた頃であった。カンナギはふと、彼等の使う氣が、自分達のそれとは全く質の異なるものであるという事に気付き、それに着眼した。

 それは、自らの身近な物体。樹や岩、水や土や空気、それら無機物から感じる物に近く、しかし禍々しさに満ちた氣である。

 そして、そこで初めて彼等は、自然界に宿る生命エネルギーの存在に気が付いたのだ。


 

 彼等はそれらを便宜的に、生物の纏うエネルギーを『プラーナ』

 自然界の万物が秘めたエネルギーを『エーテル』と名付けた。

 

 エーテルの発見。それが、人類の苦境を救う鍵となった。

 

 カンナギ達戦士は、プラーナを介してエーテルを自らに取り込み、力とする術を見つけ、その戦闘方式を確立させた。

 

 一方カセン達、鍛冶師は、初めからエーテルを含有する金属を選別、加工する技術を確立し、所有者のプラーナに応え、エーテルを放出する新たな武器を創り出す。

 

 それこそが、現在に伝わる『カンナギ流闘法術』であり、カセン一派の打つ、意思を持つ武器『スピリットアーム』である。


 

 戦士と武器、二つはここに揃い、ついに人は初めてイビル・クランを撃ち破る事に成功する。 

 そこから戦況は徐々に人類側に偏り、イビル・クランを遂には撤退させたのだ。

 

 正確な時間など、誰にも解らなかった。……だが、イビル・クランとの戦争が始まってから、凡そ50年もの月日が過ぎていたそうだ。

 テルステラの人類の8割もの命を奪った凄惨な戦いは、やっと、終わりを告げたのだ。

 

 その後、カンナギ達は逃げたイビル・クランを追い、歴史の表舞台からは姿を消した。

 その後の彼等の消息は不明であるが、今日に未だに存在するイビル・クランの脅威から人類を守るため、彼の編み出したカンナギ流闘法術はその弟子達により、脈々と後生に受け継がれている。

 

――――――――――

 

 

 

「と、以上がカンナギ流に口伝としてのみ残る、カンナギ流、その起こりとイビル・クランとの戦いの始まりの話である。思い出したか脳筋娘よ?ハウルエル家の初代も、彼の愛弟子であったのだぞ?」

 

 

「……はい、かんっぜんに思い出しました。忘れててすいませんでした…」

 

 我輩の目の前には、頭から煙を吹き、床に突っ伏すお嬢。目は完全に死んでいる。

 

 

 


 街に戻り、ギルドに報告を済ませた我輩達。ギルド支部長は大急ぎで廃村への先見隊を手配し始めた。 奴等の背後にイビル・クランが居る事を思えば危険であるが、事が事だけに、我輩達の報告を鵜呑みにする訳にもいかんのだろう。

 その後、イザーク達と別れて宿に戻ったお嬢と我輩。今後の行動に対する認識を一致させるため部屋にて話をする事にした。

 そして、あの廃村で我輩がイビル・クランの気配を察した事を告げるや否や、真顔で一言。

 

「ごめん。いびる・くらん?ってなんだっけ?」

 

 この言葉に、我輩はキレた。

 

『バヂンッ!!』

 

「いったあああぁぁ!?」

 

 眉間を押さえてのたうち回る阿呆。我輩のプラーナを固めた指弾が命中したのだ。

 

「…つぅ〜…ちょ…今この人、プラーナ飛ばしたよ!?普通の人だったらおでこに穴が空いてるよ!?」

 

 お嬢の抗議は全力で無視。我輩は淡々と語り始める。

 

「よいかお嬢。カンナギ流とはそもそもイビル・クランに対抗する為に生まれた流派であり、入門初日からそれを座学で教わるのだ。お主もしかり」

 

「いや!てゆうか今―「だまらっしゃい」……はい」 

 あ、いかん。頭にきすぎてプラーナが沸騰しそうである。

 我輩の身体から立ち上る氣が、全身の毛を逆立てる。

 それを見たお嬢も途端に大人しくなり、言われる前に我輩の前に正座で座り込む。

 

「さて、先ずはカンナギ流の成り立ちとイビル・クランとの関係からお復習(おさらい)するか、脳筋娘よ」

 

「……………はい」

 

 そして、冒頭に戻る。 

 

 

 痺れた足を擦りながら復活してくるお嬢。

 

 その背後、壁時計を見れば針は21の刻を示している。ここまで約2時間ほど使ったか。うむ、まだまだ夜は長いな。

 

「さて、お復習が済んだところで、お嬢よ。この機会に、お主の生活態度諸々について幾つか注意しておきたい点がある」

 

「まだ続くの!?『バヂンッ!!』て、いっっったぁっ!?」

 

「何か文句があるかな?」

 

 まだまだ、我輩の怒りは鎮まらん。

 

「ありません!ありませんけど、眉間は打たないで?ますます頭悪くなるわよ!?」

 

「案ずるな、お主の頭にこれ以上悪くなる要素は、無い。では、まずカンナギの門下生はいずれ一人前になり、人類の盾としてイビル・クランと戦う為に、その高い志を胸に日々鍛練に打ち込むのだが、イビル・クランと言う単語すら忘却していたお主は、一体何を思い―――」

 

 

 

 

 …4時間後…

 

 コンコン…と、部屋の扉がノックされる。

 

「空いているぞ」

 

「よお、キーチ、難しい顔して帰って来たと思ったら、何してんだ?もう日付が変わって……レヴィちゃん、どしたんだ?何か白くなってるぞ?」

 

 扉を開けたテルセウが見たのは、燃え尽きたお嬢であろう。

 

「うむ。座学をすっとばして居ったらしくての。6時間程、叩き込んでやったわ」

 

「…そ、そうか。そいつは大変だったな…大丈夫か?レヴィちゃんは…」

 

「なに、カンナギの戦士たるもの、三日間は不眠不休で戦える程度には鍛えてある。朝までには復活するのである」

 

 うむ。我輩はそこそこスッキリした。ここ何週間かの鬱憤が晴れた気分である。

 さて、お嬢が使い物にならぬ故、打ち合わせは明日にするとして、そろそろ床を頂くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 問おた先

 

 学んだ先に

 

 問いがあり

 

 果てなき道ぞ

 

 これ学問也

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢よ。人は、日々精進なのである。

 問いては学び、また疑問に思い、また問う。それを学問と呼ぶのだ。

 お主も、鍛えてばかりではなく、たまには学問をせい…

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