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キノコ生態レポート その9

 俺の唯一無二の武器、『月夜バズーカ』を手に取りドアをくぐり抜ける。すっかり夜も更け、満月には少し足りない月も頭上を越え僅かに傾き始めていたが、その月明かりがとんでもない光景を写し出していた。

 何だこれは? 

 例えるならばそこは戦場だ。えぐりとられた地面に、そこからもくもくと立ち上る土煙。空き地を取り囲んでいる木々はまるで根本を砲弾で撃ち抜かれたかのように薙ぎ倒されていた。

 先程までとは全く違う様子に、俺は度肝を抜かれてしまい、思わず一歩後ずさってしまう。


「おいおい何だよこれ……」

「……月夜が犯人」


 驚きを隠せない俺に対して、責めるような口調で月夜を睨み付けるヴェルナ。そしてその瞬間、ヴェルナの白い帽子からいきなり禍々しい霧の様なものが吐き出された。

 何だ今の? 何か帽子から牙のような物が見えたような気がしたが……。


くれないが悪いのよ……。キノコ君に攻撃したりなんかするからっ!」

「なんでもいいですけど、月夜さん片づけてくださいねこれ」

「はぁ!? 何で私なの? 紅も暴れたんだから、あいつにも手伝わせなさいよ!」


 ヴィロサに文句を言いつつも結局付いてきたフリゴがうんざりしたように言った。

 フリゴのめんどくさそうな様子から鑑みるに、こう言ったことは割りと日常茶飯事なのだろうか。

 と、言うことは『キノコの娘』が本気で戦うと、これほどまでの被害を回りに与えるということに他ならない。

 いや、そんなことは分かっていた。実際、『菌型知的生命体』を駆除するために軍隊を派遣したが、何の成果も上げられずあえなく撤退したという例もあるんだ。頭では分かっていたが、目の当たりにするとやはり少し恐ろしく感じてしまう。

 

「まぁこれについては、キノコ君と月夜に片付けさせましょう」

「は、はぁ? 何で俺まで……?」

「あら? ある意味月夜は毒を受けて倒れた貴方を守ったのよ? そんなこともわからないのかしら?」

「うぐっ……!」

「人間はバカってだけでなく、礼儀も知らないの?」

「は!? 知ってるに決まってんだろ? おい月夜! 片付けるぞ!」


 月夜が、えーっ、と嫌そうにうなり声を上げた。そもそも俺は被害者であり、何で俺が一緒になって片付けなければならないんだよ、と頭の片隅で思ったものの、それを口にしない自分に違和感を覚えながらも月夜を連れて片付けを始めた。






   

☆★☆★☆★☆






「ヴェルナちゃん」

「……なに」


 あくせくと働く俺と月夜とフリゴ(なんだかんだで手伝ってくれる自称愛と正義のキノコ)を尻目に、ヴィロサは愛しそうにヴェルナを抱き抱えた。

 ヴィロサはヴェルナの帽子から時折吹き出す毒霧をものともせずに、ヴェルナを愛でる。


「あーヴェルナちゃん柔らかいしかわいいわー」

「……ヴィロサ苦しい」

「あーかわいい……ぶはっ」


 あ、ヴィロサの口から血が吹き出した。いや『菌型知的生命体』に血はないから、正確には『毒素』を吹き出したのほうが正しいか。

 ていうか、ヴェルナの帽子から吹き出す毒の霧にしっかりダメージ受けてんじゃねぇか。離れろよバカかあいつは。


「これが悶々とした気持ちで死ぬ。悶死ってことなのね……」

「いや違うから。悶死は苦しんで死ぬってこだよ」


 しっかりしてるように見えて今していることはバカ以外の何者でもないヴィロサに向かって、俺は辛辣に言葉を投げ掛けた。

 ヴィロサはむくりと顔を上げ、不服そうな表情で、なおかつヴェルナを抱き抱える手を緩めることなく言った。


「あら、片付けは終わったのかしら」

「お前が血を吹いている間にあらかたな」

「あら。そのわりには貴方は何もしていなかったようだけど」

「うぐっ」


 そう。ほとんど俺は何もしていない。ていうか月夜とフリゴが人外すぎて、あっという間に終わってしまった。まぁ人間じゃないんだけどね。

 俺がしたことと言えば、抉れた地面の穴の一つを埋めたくらいだ。

 その間に、月夜とフリゴは圧倒的な力をもって木をどかしたり、穴をものの5秒で埋めたりと八面六臂の大活躍をしていた。

 想像してほしい。ほっそい二本の腕が、自身の何倍もあるような木を軽々と持ち上げる姿を。そしてそのまま木を放り投げたり、それを道具として地面を均している姿を。

 もう非日常過ぎて吐き気を催すレベルだ。あれか、こいつらは蟻か。


「あれだ。言うならば俺は司令官だからな、動かすのは手じゃなくて頭なのさ」

「誰が司令官よ誰が」


 掃除を終えた月夜が微かに俺を睨み付けつつ言った。僅かに土や葉で衣装が汚れており、顔についた泥には愛らしさが浮かんでいる。

 ……って俺は何を考えているんだ。ありえない。月夜がかわいいなんてありえない。どうも月夜にキスをされてから調子がおかしい。月夜を人間と同列に見てしまっている自分がいる。

 頭を振って邪心を追い出すと、月夜が不思議そうに俺を見つめている。しっとりと潤んだ唇が柔らかそうに……ってやめろ、そんな目で俺を見るな!


「ほほーう?」

「なんだよヴィロサ。こっち見んな」

「ほほほーう? キノコ君もかわいい所があるじゃない」

「は? 何言ってんの? その張り付いたような笑顔をやめろ!」

「あら。そんな顔してた? ごめんなさいねぇ」


 全く謝る気はないようでニヤニヤとした表情を全く崩そうとしない。この植えなくうざったい表情にうんざりとしながらも、話題を変える為に口を開く。


「さぁ、さっさと枯木事件とかいう現場に案内してくれ。夜が明けちまうだろ」


 結果的に言い負けて逃げに走った自分に憤りを感じながらも、表情を崩す事なく冷淡にそう言い放った。まぁヴィロサのあのニヤついた顔から察するに、あいつには俺の照れがバレバレなのだろうが、幸いなことにフリゴが俺の話題変換に乗っかってくれた。


「そうですね。では行きましょうか」


 ナイスフリゴ! と心の中でガッツポーズしつつ、外面はさも平坦を装ったまま歩き出した。



















 読んでくれてありがとうございます。この話をもってストックがなくなりました。

 でも頑張って更新しますので、宜しくお願いします。

 

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