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番外編その2 うまい棒騒動事件

 太陽が沈みゆく様子を眺め、そして音楽を聴きながら静かに書類をめくる。これこそ知的。これこそ『キノコの娘』にあるべき真の姿だと思うんですがどうでしょうか?

 どうもどうも。始めまして。私はアマニタ・フリギネア。皆さんの大好きなフリゴです。

 

 今日はキノコ君や月夜さん達が起こした騒動の日から三日後。キノコ君という人類(笑)との初めての接触を成功させた自分へ褒美も兼ねて、今日はゆっくりと羽を伸ばすつもりです。と、言っても『役場』でゴロゴロするだけですが。


 しかも今日は天狗茸のアマニタ・パンセリーナさんが遊びに来てくれています。


 そこのイスに座る彼女はテングタケ科菌として『天狗茸』の名を冠している、いわばサラブレッド。

 ヒョウ柄のタンクトップや、白色で段々のズボン。よくわからないリボンやらヘッドドレスやらを好き勝手に頭に付けていて、そして極めつけは一歯の高下駄を履いている少し変な、いえいえ、極めて個性的な『キノコの娘』です。

 ニカリと笑う彼女は、少し高圧的な雰囲気はあるものの嫌な気分はしません。


 まぁこの人が月夜さんとかなら一瞬で追い出すのですが、一応『天狗茸』様ですからねぇ。面倒ですが仕方なしに相手をしている次第ですよ。


「ーーだと思うんだよフリゴ」

「えーそうですねー」

「ーーで、ーーがーーだよなーやっぱり」

「へーすごいですねー」

「でだ、ーーがーーなんだよ!」

「えーそうなんですかー」


 まぁ私はお気に入りの音楽を聴いているので、正直あまりこの人の話は聞いていません。が、嬉しそうに話しているのでそのことに気付いていないのでしょう。


 正直この程度の扱いで彼女も満足しているようですし、この調子で私はゆっくりとさせてもらいますか。


 うーっ、と伸びをして深く椅子にもたれ掛かります。

 さーて、今日はゆっくりするぞー。

 と、思ったんですが、世の中そう上手くは行きませんよねぇ。


「オラァァァ! ヴィロサぁぁぁぁ!!!」


 私がくつろぎモードに入った瞬間、月夜さん、通称『ポンコツキヨタケ』が『役場』のドアを蹴飛ばしながら入ってきました。


 うわー。厄介なのが来ましたよー。流石に月夜さんは邪険に扱うと怒りますからね。

 仕方ない。私の平穏の為にも、彼女には火急的速やかにお引き取り願いましょうか。


「ヴィロサさんはいません帰ってください」

「な、なんだお前は! 私を誰だと思っている!?」

「は? 貴女なんて知らないよ? 誰よアンタ? ……って、そんなことはどうでもいいわ! フリゴ! あの脳みそテングタケはどこかしら?」


 月夜さんが我が物顔でひとしきりパンセリーナさんを否定したあと、凶悪な面を浮かべてヅカヅカと私に詰め寄ってきました。


「は? 知りませんよそんなの。どっかその辺で草でも食ってるんじゃないですか?」

「いやヴィロサは犬じゃないんだぞ! これでも私はあいつに一目置いていてな、そんなヴィロサがまさか草を食べているなんて……」

「どこに逃げたあの脳みそテングタケがぁぁぁぁ!! 心当たりは? フリゴ、心当たりはないの!?」

「えー知りませんよー。今日は見てないですよー?」


 月夜さんに華麗に無視されたパンセリーナさん。そもそも犬はその辺の草を食べませんよ、と訂正したいのを必至で堪えながら、私は音楽プレイヤーのの電源を落としました。

 月夜さんは話を聞かないと怒りますからねー。あーめんどくさい。


「ちっ……! なら奴が帰ってくるまでここにいるから」

「えぇー。帰ってくださいよー。帰れよー。帰れ」


 人の話は全く聞かずに、月夜さんは『役場』のソファーに腰を下ろしました。


 ……はぁ。まぁ今日はいいですけどね。どうせパンセリーナさんもいることですし、バカが一人増えたところで何も変わらないでしょう。


 そしてご立腹の様子な月夜さんが、プンスカ怒りながら私に話しかけて来ました。


「聞いてよフリゴ」

「……何でしょうか」

「ヴィロサったらね、私のうまい棒を奪いやがったの!! しかもチーズ味!」

「は?」

「だから! 私がキノコ君から強だ……いえ、もらったお菓子をあいつが盗って食べたの!」

「はぁ、取り敢えずキノコ君が可哀想ですね」

「しかもあろうことかそこまで美味しくないとか言いやがったのよ!? あの脳ミソテングタケがぁぁ!!!」

「知りませんよそんなの……」


 ソファに座りながら地団駄を踏む月夜さん。いつもなら絶体領域がどうのこうのと言っているくせに、今は恥も外聞もなくカボチャパンツを見せびらかしています。


「ところで、貴様は何者だ? 見たところテングタケ属ではないようだが」

「は? 貴女こそ何者? ヴィロサの仲間?」


 どうでもよさそうな月夜さんがパンセリーナさんの問いを質問で返しました。

 

「私を知らないのか!? ふん! ならば教えてやろう! 私は『天狗茸』のアマニタ・パンセリーナだ! 天狗茸の名を冠する私は、いわばそこのフリゴやヴィロサの上位種にあたる! よろしく頼む」

「ふーん。私は静峰月夜よ。よろしくね」


 ザ・適当な月夜さん。

 いやー。私が言うのも何ですけど、月夜さんの態度は的確そのものですね。真剣に応対すると嬉しそうにどうでもいい話をずっとしますからねその人。

 まぁ相槌を打つだけであの人にとっては十分すぎる反応でしょう。


「さてそれでは月夜。『脳みそテングタケ』とは一体どういう意味だ? 私への悪口か?」

「は? 脳みそテングタケはヴィロサに決まってるじゃない。あいつ以上に脳みそテングタケな『キノコの娘』はいないよ?」

「……?? ヴィロサは毒鶴茸だろう?」

「そんなの知ったこっちゃないわ。だってあの子、初めて会った時にテングタケって名乗ったもん。だから脳みそテングタケよ」


 困惑したように首を傾げるパンセリーナさん。

 うんうんわかりますよその気持ち。私も初めは私に向けた悪口だと思いましたからね。私もテングタケ属テングタケ科、和名黒卵天狗茸、ですし、『脳みそテングタケ』なんて横で言われたらそりゃあ勘違いしますよ。


「いやしかし天狗茸は私だからなぁ……」

「は? だから何? 別に貴女は脳みそテングタケじゃないよ?」

「いやいや、は? じゃないだろうに……」


 凄い。流石は月夜さん。ポンコツのくせにパンセリーナさんを押してるなんて。

 そうして月夜さんは困惑顔のパンセリーナを堂々と指差して、声高に宣言しました。


「うーん。じゃあ命名してあげる! 貴女は『偽物テングタケ』ね!」

「はぁ!? 私は偽者じゃない! 本物の『天狗茸』だ!」

「そうね『偽者テングタケ』。これから宜しくね『偽者テングタケ』」

「なんだと貴様ぁぁ! バカにしているのか!?」

「ううん? してないよ? なんでそう思うの? バカなの?」

「な、なに……? そ、そうかしてないのか。それはすまなかった」

「されてますよ! バカにされまくってますよ!」


 申し訳なさそうに謝るパンセリーナさんを玩具を見つけた子供のような笑顔で見つめる月夜さん。

 今月夜さんはヴィロサさんのせいで超不機嫌ですからね。完全に八つ当たりしてます。


「ていうか貴女、本物の『天狗茸』なんでしょ? 『偽者テングタケ』のくせに。ならもうちょっとヴィロサをしつけてくれないかしら?」

「何を言うか! ヴィロサはいいやつじゃないか!」

「は? どこが? あんな脳みそテングタケのどこがいいやつなの? 頭大丈夫?」

「ふん! それはお前がヴィロサをわかってないだけだ! アイツほど美しく毒を撒くことができて、そしてアイツほど天使のような優しさを兼ね備えているやつなんていない!」

「それは違うわ」

「それは違います」


 目に力を込めて力説するパンセリーナさんに対して、月夜さんだけでなく思わず私まで否定してしまいました。

 まぁヴィロサさんはパンセリーナさんが苦手ですからねー。パンセリーナさんは避けられていることを知らずに、むしろそれを優しさと勘違いしているのかも……。


 そして、何故否定されたかまるでわかっていないパンセリーナさんは首をかしげて不思議そうに私たちを見つめています。


 そして次の瞬間、再び『役場』のドアが蹴り破られ、果てしない怒りを顔に浮かべたヴィロサさんが半ば怒鳴りながら入ってきました。


「ごらぁぁぁ!! 月夜ちゃーん?? 貴女これは一体どういうつもりかしらー??」


 なぜか手にはヴェルナさんを抱き抱えています。


「あらあらヴィロサじゃない! 私の創作は気に入ってくれたかしら?」

「ふざけんじゃないわよこのクソポンコツが! 私のヴェルナちゃんの顔に、こんなセンスの欠片もない落書きをするなんてあり得ないわよ!」


 ヴィロサさんの腕のなかでされるがままになっているヴェルナさん。ですがよく見ると何かクレヨンっぽいもので顔にラクガキが描かれていました。


「……月夜ちゃんが前衛的でかっこいいって言った」

「騙されちゃダメよヴェルナちゃん! 月夜ちゃんはバカでポンコツだから、基本的にセンスのセの字もないのよ」

「はぁ!? 私のうまい棒奪っておいて、しかも、しかもあろうことか不味いとか抜かしやがったヴィロサにだけは言われたくないんだけど?」 

 

 人を殺せそうな視線で睨み合う二人。

 どうでもいいですが、ヴェルナさんが可哀想ですね。全く関係ないのに、月夜さんの八つ当たりで顔にラクガキをされているんですから。

 しかし、まぁ本人も満更でもなさそうなんでよしとしますか。  


「ちょっと二人とも。どうでもいいですけどここで暴れないでくださいね? あとヴィロサさんたまには働いてください」

「は? どうでもいいって何よ! このゲキカワユスなヴェルナちゃんの顔が汚されたのよ?」

「ゲキカワユスって何ですか……」

「はっ! そんなに可愛いならお揃いにしてあげるよ? ほーら、ヴィロサちゃんのお顔にお化粧してあげますよー」


 どこから取り出したのか、月夜さんはペンを手に持ちヴィロサさんへと迫っていきます。


「あ? バカにするのも大概にしてくれないかしら月夜ちゃん? あーそういえば、あんなお菓子を美味しいとか言っている時点で貴女はどうかしてるもんねー」

「はぁ!? アレほど美味しい食べ物はないよ? 貴女はそれがわからないから脳みそテングタケなんだよ?」

「あらー『ポンコツキヨタケ』が何か大きな声で喚いてるけど、私の口に残っているお菓子の不味さがが邪魔で聞こえなーい」

「は? 吹き飛ばされたいの『脳みそテングタケ』?」

「あ? やれるもんならやってみなさいな『ポンコツキヨタケ』?」

「だから喧嘩するなら外でやってくださいって」


 顔と顔がつきそうな距離で睨み合う二人。

 この間のキノコ君を見て思ったですが、この二人、遠目で見るとキスしてるようにしか見えないんですよね。


 そして今にも毒の吐き合いが起こりそうな雰囲気てすが、ここにはもう一人いるのを忘れていました。


 パンセリーナさんが大きな口を開け、険悪な二人に向かって言い放ちます。


「二人とも! 喧嘩はやめろ!」

「あ? 『偽者テングタケ』は黙ってて」

「は? 貴女誰よ……って、うわ、パンセリーナちゃんじゃない……」


 あからさまに嫌そうな顔を浮かべるヴィロサさん。

  

 






読んでくれてありがとうございます。

短編は基本二話の予定です。(たぶん)

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