表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

キノコ生態レポート 最終報告書

 月夜の柔らかい唇と俺の唇とが重なるのを感じるとゆっくりと口を開き、舌を突き出していく。

 恥ずかしさの余りに顔を背けそうになるのを必死で堪えながら、俺は舌を月夜の口内へと侵入させた。

 

「うわー。キノコ君凄いわねぇ」

「ノ、ノンケもありかも……」


 横からヴィロサ達がまじまじと見つめてくる視線を肌に感じながら、ますます舌を月夜へと突き入れていく。


 もう恥ずかしい。むり。だけどここでやめるわけにはいかない。


 昨日の夜、月夜にされたことを懸命に思い出しながら、まるで月夜を貪るかのように熱烈なキスを続ける。


 一体今キスを始めてどのくらい経ったのだろうか。もう気恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだ。


 俺と月夜の唇から発せられる音が、俺の脳内を弛緩させていくのを感じる。

 

 ひょっとするとこの感覚が、月夜と菌糸をやり取りしている感覚なのかもしれない。 


 そして目眩にも似た不思議な感触を身に感じつつ、俺はゆっくりと目を開けた。


 すると、うっすらと赤色に染まった月夜頬が俺の目に入ってきた。いつもと変わらないようにすら思えるその様子に、俺はさらに恥ずかしさを覚えた。


 クラクラする。何だこの感覚。心地いいような、苦しいような不思議な感覚。相反する二つの感情が渦となって俺の中を駆け巡ってゆく。


 そして、俺に息の限界が訪れそうになった所で月夜のまぶたがピクリと動くのが見えた。


「つ、月夜!?」


 俺は思わず顔を上げて、月夜の顔を覗き込む。

 すると彼女は名残惜しそうにゆっくりと目を開けて、俺を見上げてきた。

 俺を上目使いで見つめる月夜の瞳にはエメラルドの輝きが宿っていて、生気に満ち溢れた視線がおずおずと俺を貫いてくる。


「大丈夫か!?」


 思わず俺は月夜の頬に手を当てて、大きな声を出して確認する。

 月夜はそれに答えるかのように、目をパチパチと開閉した。


 よかった……! 目を覚ました……!


 俺が月夜の頬を優しく撫でると、月夜は少し照れたように目を伏せて顔を赤くした。

 そして、彼女はゆっくりと右手を上げて、俺の顔を優しく触れ、おもむろに口を開く。


「……キノコ君。キスはもうおしまい……?」


 顔を真っ赤にしながら呟くように言う月夜の声を聞くと、何だか色々吹き飛びそうな気持ちになる。

 か、かわいい……! あ、いや、ほんの少しだけかわいい。 


「……おしまいだこのバカッ! もう……、大丈夫なのか?」


 いつもの小悪魔的な笑みを顔に浮かべた月夜が、ゆっくりと体を起こす。そして輝く太陽を背に受けながら、月夜はゆっくり口を開いた。


「まだ少しフラフラするけど、多分もう大丈夫だよ。ありがとうキノコ君」

「よかった……! 心配させんじゃねぇよバカ野郎!」

「えへへ。ごめんね」


 少し申し訳なさそうに笑う月夜を見ていると、安心の余り目頭が熱くなるのを感じる。

 

 『キノコの娘』の前で月夜にキスをするなんて恥ずかしい事をしてしまったが、もうそんなことはどうだっていい。月夜が助かったんだ。

 俺の大好きな月夜はこれからも俺の側にいてくれるんだ。


「ふえーん月夜さん! 大丈夫ですかぁ!?」

「いてっ!」


 俺が感極まって泣きそうになるのを堪えている所に、突如フリゴが俺を突き飛ばして月夜へと抱きついた。


 俺は涙で潤んだ顔を月夜で見られずにすんだことに少し安心しつつ、フリゴと月夜を見る。

 

 フリゴも心配したんだろう。こいつは何だかんだで仲間思いなのは、付き合いの短い俺でもわかるんだから。


 突き飛ばされはしたものの、穏やかな気持ちで月夜を抱き締めるフリゴを見るが、月夜の表情は困惑そのものだった。


「え? フリゴ? なんで?」

「何でって! 心配しましたよぉぉ! 紅さんの毒にやられたって聞いたときにはもうダメかと思いましたもぉぉぉぉん」


 鼻声になりながらも、月夜の無事を喜ぶフリゴ。

 

 ……それにしても、月夜の表情がおかしい。自分をあれほど心配してくれているフリゴに対して、まるでバカを見るかのような視線を向けている。


 おいおい流石にそれは失礼じゃないか? せっかくお前の無事を喜んでくれているのに、そんな顔はないだろう月夜。


「あ、あはは、フリゴ。ありがとう」


 そして月夜は相変わらずなんとも言えない笑顔を浮かべながらフリゴの頭を撫でた。

 若干の違和感を感じながら、俺は目の端に溜まった涙を拭う。

 そして一瞬落ち着くと、とんでもない疑問が俺の頭に浮かび上がってきた。


 ん? そう言えば紅は? フリゴが拘束していたよな?


 そう思いつつ、恐る恐る後ろを振り返ると、フリゴの磔から自由になった紅が呆れたように腕を組んでこちらを見つめていた。


「いいっ!? おいフリゴ! お前、紅を自由にしてるんじゃねぇよ!」


 しかし、意外なことに紅は俺たちを見つめるだけで何もしてこない。それどころか俺と目が合うとむしろ嬉しそうな笑顔を見せた。


「……貴方、キノコ君、と言ったわねぇ?」

「あ? な、何だよ?」


 紅がニヤニヤとした張り付いた笑みを浮かべ、俺の名前を呼んだ。

 俺は警戒を解くことなく、紅をキツく睨む。


「貴方もフリゴもバカねぇ。ここまで来ても気付かないなんて」

「なっ……ば、バカ、紅止めなさい!」


 やれやれとかぶりを振る紅に対し、突然焦ったように口を挟むヴィロサ。

 は? 何だ一体?

 

 そして紅は勿体ぶるように、口元を緩めながら言葉を続ける。


「ほんっとにバカねぇ。一体どうして気付かないの?」

「あ? 何言ってんだ?」

「ちょ……! く、紅ちゃん? 黙ってくれないかしらぁ? キノコ君を懐柔しようったって、そうはさせいわよ!」


 突然今度は俺と紅の間に立ちふさがるヴィロサ。焦りきったようなヴィロサの顔には、何か隠し事があるような気がする。


 はぁ? 何だ一体? 月夜の変な様子といい、こいつら俺に何か隠しているのか?


「ヴィロサ何やってんだ? どけよ」

「キ、キノコ君もそろそろ疲れたでしょう? 月夜ちゃん! キノコ君を家まで送ってあげて、今すぐに!」

「はぁ!? 何だいきなり!?」

「そ、そうね! フリゴ退いて!」


 ヴィロサが不自然に紅を押し退けながら、月夜と俺に話しかける。

 すると月夜はフリゴを突き飛ばすように立ち上がり、瞬く間に俺の腕をとった。


 いやいや待て待て。どう考えてもおかしいだろう? ヴィロサは変だし、月夜は動きが機敏すぎる。

 月夜に関しては、さっきまで菌糸に還りかけの状態だったのが嘘みたいに元気じゃねぇか。


 それに気が付いた瞬間、俺の嫌な予感センサーがけたたましく鳴り響くのを感じた。


 こいつら絶対に変だ。何か隠してる。


 俺の腕を掴み、引き上げる月夜の顔には嘘臭い笑顔が浮かんでいる。

 俺は怪訝な顔をして月夜を一睨みすると、さっと月夜は目を逸らした。


「なぁ月夜……。俺に何か言うことがあるんじゃねぇか?」

「え? な、何を? あ! た、助けてくれてありがとう!」


 焦ったようにお礼を言う月夜。いや、それもそうだが、絶対にそうじゃない。

 輝くエメラルドのような瞳を見つめながら、俺は頭を働かせる。

 

 こいつは何か隠してる。一体何だ?


 ……そういえば、紅に関する事で1つだけ違和感がある。小さな違和感だったから見逃していたが、よく考えれば不自然なことだ。


 それは俺が紅に月夜の毒を抜くように頼んだ時の話だ。

 たしか、紅はどこまでも面倒くさそうに、こう言ったんだ。


『いやよ。なんで私がそんな事をしなくちゃならないの。下らない』 


 その時は紅に対して冷静ではなかったから、怒り以外の感情を感じなかったが、冷静に考えるとこの台詞はおかしい。 

 

 紅の狙いは一括して俺だった。にも関わらず、月夜を巻き込んでしまったのに『下らない』と一蹴した事。


 下らなくはないだろう。お前の仲間が死にかけてるんだから。


 となると、考えられることは……?


 そしてその瞬間、ヴィロサに押し退けられていた紅が身を乗り出し、俺にまで聞こえるような大きな声を出した。


「ヴィロサちゃん離しなさいよぉ。キノコ君に、実は私の毒は月夜ちゃんに効いていなかったなんて言わないからさぁ!」


 紅のわざとらしい声が俺の耳に届いた。


 ……は? 月夜に毒が効いていなかった? ならなんで月夜はあんな風に苦しそうにしていたんだ?


 そして、その声を聞いた目の前の月夜は顔を青くさせ、凍ったように固まってしまう。


 ……あぁ、なるほどな。

 そりゃあ紅は『下らない』わけだ。そもそも月夜に毒なんて感染してなかったんだから。


 全てはこいつらの俺を辱しめるための演技って事か。


 俺は大きなため息と共に、目をピクピクとひきつらせながら月夜を真っ直ぐに見つめる。


「……なるほどなるほど。紅が『下らない』と言っていたのは、そもそも月夜に毒が効いていなかったからか。そう言えばヴィロサも『人間寄りの毒』だって言ってたよなぁ? なんで俺は気づかなかったんだろうなぁ。月夜にそんな毒が効くわけないのに」

「あ、いや、えっと……キノコ君? く、苦しかったのは事実だよ? 途中からイタズラの引っ込みがつかなくなったなんて事はないから!」


 あわあわと焦ったように否定する月夜。


「……そ、そうなのよキノコ君! 月夜ちゃんは実は超元気だったのよ! なのにこの娘ったら悪い子よねぇー!」

「なっ……! 何私を売ってんのよヴィロサ! 貴女が悪乗りするからいけないんでしょ!?」

「は、はぁ!? 月夜ちゃん私のせいにするわけ!? 月夜ちゃんがそもそも私に目配せしたんじゃない!」


 ヴィロサは紅を押さえるのをやめて、月夜の横まで歩いてくる。その様子にはいつもの気品がある雰囲気は微塵も存在しない。まるで悪戯がバレた子供のように、目を泳がせて焦ったようにしている。


 俺は俺の真横に横たわる愛銃『月夜バズーカ』を拾い上げ、土をはたき落とす。

 そして、目の前の二人を渾身の殺意を込めて睨み付けた。


「ほぅ……。で、結局どっちがこの性質の悪い『悪戯』の真犯人なんだ?」

「ヴィロサよ!」「月夜ちゃんよ!」

「は? ふざけんじゃないわよ! ヴィロサがいけないんでしょ!? キノコ君! 私は微塵も悪くないよ?」

「は? 月夜が先に始めたんじゃない! キノコ君! 悪いのは完全にこのポンコツよ!」


 お互いがお互いを指差し、そしてお互いがお互いを悪いと罵りあっている。

 俺はそんな不毛な争いを耳にしながら、再び大きな溜め息をついた。


「……いいか。月夜、ヴィロサ。俺は今回の二つの騒動……つまり『枯木事件』と『月夜、ヴィロサの凶悪詐欺事件』を通して、お前達『キノコの娘』について新たに知ったことがあるんだが、聞いてくれるか?」

「『事件』まで格上げしてる!? せ、せめて『ヴィロサ、月夜の凶悪詐欺事件』にしない? わ、悪いのはヴィロサだし! 」

「はぁ!? 順番なんてどうでもいいでしょ!? 月夜ちゃんいい加減にしなさいよ!」


 諦めの悪い月夜が必死で俺に訴え、それを見たヴィロサが苛立ったように否定をする。

 俺はそんな二人を無視して話を続ける。



「……『キノコの娘』について俺が知っている事柄その1」

「ひぃっ! キ、キノコ君怖いって! 顔が! 顔が!」

「『キノコの娘』には性格に難がある個体が多い。今回、始めて月夜茸以外の『キノコの娘』と関わりを持ったが、どの個体も人間をからかうことに快感を覚えるような個体が多く、決して友好的とは言い難い」


 そして俺がっしりと月夜の頭を掴み、顔面蒼白の月夜を見下すように睨み付ける。

 そして、俺は笑顔を浮かべながら握る力を強くしていく。


「いたいよ? キノコ君。いたいよ? 離して?」

「その2。『キノコの娘』に対して毒による攻撃法は適切ではない。前任研究者は『毒を以て毒を制す』事を勧めているが、それは誤りであることをここに証明する」

「いたいいたい! 頭潰れるって!」

「最も有効な攻撃法しては、大きな質量を伴った単純な殴打等があげられるだろう。『キノコの娘』は体重が軽いため、自重を遥かに越える物体との衝突には弱い」


 そして俺は、笑顔のまま大きく頭を後ろに引いた。もちろん月夜を逃がさないようにしっかりと頭を掴んだままだ。


 そして俺の持ちうる全ての力を使って、頭を突き出すと、小さくはない衝撃が俺のおでこを襲った。


「ぎゃっ!」

「きゃー! 月夜ちゃん!?」


 俺の全力の頭突きを食らった月夜は、半ば吹き飛びながら大きく後ろへ尻餅をついた。

 そして俺は体勢を立て直すと、きつい目付きでヴィロサを睨む。


 さぁ次はお前の番だ。


「いや、わ、私は違うわキノコ君! 仕方ないの! 月夜ちゃんが私に目配せしたからっ!」 

「じゃあ逃げるんじゃねぇよ。何で後ずさってんだ?」  


 後ずさりながら、全力で否定するヴィロサ。

 まぁおでこから煙を出している月夜を見ると逃げ出したくなる気持ちも分からんでもないが、この俺様に恥をかかせた罰は受けてもらわないとなぁ?


「ふん! 悪いは月夜ちゃんよ! だから、もう付き合ってられないわ! じゃあね!」


 ヴィロサは月夜を見捨てて颯爽と踵を返す。

 ふん! 逃がすか!


「逃がすわけねぇだろうがぁぁぁぁ!!!」


 そして俺は手に持っていた『月夜バズーカ』を頭の上に持ち上げ、これまた全身全霊をもって ヴィロサへと投げつけた。


「うがっ!」


 『月夜バズーカ』は綺麗な直線の軌跡を描き、逃げ出そうとしていたヴィロサの背中に直撃した。

 そして、その勢いに完璧に負けたヴィロサはバズーカと一緒に転がっていく。


「はっ! ざまぁねぇな、このクソキノコどもが! これに懲りたら二度とこんなこと企むんじゃねぇぞ!」

 

 頭からしゅーしゅーと煙を出しながら気を失っている月夜に、『月夜バズーカ』に下敷きにされてピクリとも動かないヴィロサ。


「うわー、流石やなーキノコ君」

「……ていうかあれだけ止めたのに、私たちを無視して突撃したキノコ君もキノコ君」  

「でも、少しだけかっこよかったよキノコ君! ノンケもありだと思ったもん!」


 サブちゃん、ヴェルナ、姫乃がやれやれと呆れたようにしながら、俺の真横に立った。

 

 そしてニヤニヤと口元を緩める姫乃を見ていると、俺が月夜に対して行ったことがまじまじと甦ってくる。

 もうあまり覚えていないが(思い出したくないが)、今思うとかなり恥ずかしい事を口走っていたような気がする。

 

 俺は顔に熱を感じながら、ヴェルナ達から目を逸らした。


「あれ? どしたんキノコ君? もしかして今更になって照れてきたん? 月夜ちゃんにあんなに暑い愛を囁いてたもんなぁ」

「は、は、は、はぁ!? 何言ってんだ!? そんなこと囁いてねーしバカじゃないの?」

「『お前じゃない『静峰月夜』なんて俺は欲しくない。俺にはお前がいないとダメなんだよ……。だから、だから、頼むからそんな風に言わないでくれよ……!』」

「やめろぉぉぉぉ!!!」


 サブちゃんが俺の真似をして、大袈裟に両手を広げる。

 それを見た姫乃は嬉しそうに笑顔をこぼす。


「キノコ君ってなんだかんだ言って月夜ちゃんが大好きなんだねー」

「すすす好きじゃねーよバーカバーカバーカ!」


 張り付くようなわざとらしい笑みを浮かべ、俺の事を見つめるサブちゃんと姫乃。ヴェルナは真顔だけど、あれは心の奥底で笑っている。

 俺は思わず頭を抱えて防衛姿勢をとった。


 やめてくれ! もうそれは俺の黒歴史なんだ!


「あーあー恥ずかしいですね貴方は本当に」

「やめてくれ! ……ってなんだフリゴか。お前も騙されてたじゃねーか」

「は? 騙されたわけないでしょう? あれは演技ですよ演技」

「お? 月夜の無事を聞いて真っ先にアイツに抱き付いたのはどこのどいつだ?」

「そそそそんなの関係ないですよ!」

  

 顔を赤くしつつブンブン首を振って否定するフリゴだが、こいつも完全に騙されていた口だ。月夜は抱き付いてくるフリゴを見て困った顔をしていたからな。


 そして、俺が月夜と呼んだことに反応したのか、頭から煙を出して気絶していた月夜がゆっくりと起き上がり、俺をキツく睨み付けてきた。


「お? 起きたのかポンコツ月夜? 気分はどうだ?」

「……いたいのよ」

「は?」

「痛い、つったのよこのバカ! なに? こんなの可愛らしいイタズラじゃない!」

「あぁ!? 可愛らしいで済むか!」

「は? 私の頭軽く陥没したんだけど!? いくらなんでもやりすぎでしょ? そんなこともわかんないの?」

「どーせ風船のように膨らむじゃねぇかばーか」

「はぁ!?」

「あ?」


 月夜は額から相変わらず立ち上る煙を手で押さえつつ、殺意をもって俺を睨み付ける。

 もちろん俺も負けじと、全力悪意を込めて月夜をにらみ返す。


「キノコくーん? 痛いじゃないのよー?」

「あ? なんだヴィロサ、お前も起きたのか」

「私の華麗な羽がものの見事に折れちゃったんだけど、どう責任とってくれるのかしら?」

「は? 華麗? どこが? そんな無意味な造形になんの意味が?」

「はぁ!? この美しさがわからないなんて貴方どこかに目ぶつけたんじゃないの!?」

「目をぶつけたってなんだよ!」


 綺麗に根本からポッキリ折れてしまったヴィロサの羽を握りしめ、彼女は人を射殺せそうな視線を俺に向ける。

 

「貴方、月夜ちゃんは可愛いとか好きとか言うくせに、私の華麗な羽は理解出来ないのね。お姉さん悲しいわぁ」

「は、はぁ!? 言ってねーし! バカか? アホか? 脳みそテングタケか?」

「人間の貴方がそれを言うんじゃないわよ! そもそも私は毒鶴茸よ! そんなことも分からないの?」

「はぁー? なんだってー? おい月夜ー、脳みそテングタケが脳みそテングタケしてるんだけど何とかしてくれないか?」

「あー、それは私には無理ね。ヴィロサの脳みそテングタケっぷりはもうどこまでも脳みそテングタケだから」

「上等よあんたらー!!! 毒鶴茸に喧嘩を売った恐ろしさ目にもの見せてあげるわ!」


 ヴィロサが鎌を生成しながら怒ったように言う。


 俺は怒りの底に微かな安心感を感じながら、ニヤニヤと張り付いた笑みをヴィロサに送った。


 ふん。やっぱりこいつらはこうでないと。


「あらー。おこなの? ヴィロサちゃんおこなのー?」

「月夜ちゃん。貴女とはやはり決着をつけないといけないようね」

「やめとけってヴィロサ! 月夜が泣いちゃうだろ

!」

「は? キノコ君何言ってんの? この私がこんな脳みそテングタケに泣かさせると本気で思ってるのバカなの?」

「あ? バカはお前だろ」

「は? キノコ君に言われたくないんだけど?」

「バーカバーカバーカバーカ」


 俺の言葉を聞いた月夜はわなわなと体を震わせ、そして目を見開いて大声で叫んだ。


「上等よ! キノコ君もヴィロサもまとめてぶっ飛ばしてあげるからかかってきなさいよ!」

「月夜茸と毒鶴茸との格の違いを見せつけてあげるわ! ついでに私たちの演技にものの見事に騙されたバカの人間も一緒に吹き飛ばしてあげる!」

「あぁ!? なんだとてめぇ! 騙されてねーよばぁぁぁぁか!!」


 掴みかかるかのように詰め寄ってくる月夜とヴィロサを睨み付け、拳を握りしめる。

 そして三人とも息を大きく吸い、揃って口をあけた。


「覚悟しなさいよごらぁぁぁ!!」

「いい加減にしろよてめぇらぁぁ!」

「叩き潰してあげるわぁぁ!」  


 




 そうして三人の怒声が『僻地』に響き渡ったのだった。








 




 




 

 


 



 俺がキノコの娘について知っている事柄、その3。


  キノコの娘には愛しいけれど、毒がある。









読んでくれてありがとうございます。これで本編完結です。

割と軽い気持ちで始めた『キノコの娘』でしたが、楽しみながら書くことが出来ました! 

まさかの二次選考も突破出来たのでもう言うことなしです。

実は出したいキャラがまだまだいるので、いくらでも続けられるんですが、まぁ二次創作をあんまり長くしてもアレだろうと思いまして一応これでお仕舞いにします。

と、いいつつも後日談の変わりの短編がいくつかあり、適当に投下するつもりなのでまだ続く設定にしています。

私の二次創作で少しでも『キノコの娘』の人気に火か付けばいいな、と思います。

原作者への感謝の気持ちを名一杯込めつつ一言。

これからも『キノコの娘』を宜しくお願いします!(私のものじゃないけど!!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ