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キノコ生態レポート その27

 俺を襲う突然の『黒』。そしてそれと同時に、何かに強く押されたような衝撃が俺を襲った。

 俺は衝撃を堪えきれずにそのまま後ろに倒れこむ。


 俺の意識を刈り取ったかに思えた紅の毒だったが、どうやらそれは俺の勘違いだったようで、その証拠に目を明けると、まばゆい朝日が目に飛び込んでくる。


 そして俺の様子を見たであろう紅が、うんざりしたかのように言う。


「ちっ……。邪魔しないでくれるぅ? そこの人間は壊さないと気が済まないんだよ」

「ふ、ふん! 私のキノコ君を貴女なんかに渡すわけないでしょ?」


 俺にぶつかってきた物体をどかし……って、月夜、お前か。

 どうやら月夜は俺に向かって飛び込んで来たらしく、俺を突き飛ばして助けてくれたみたいだ。

 危なかった。ここで月夜が助けてくれなかったら、俺は再びあの肌が焼けるような痛みを味わう羽目になっていただろう。そう思うとゾッとする。


 

 ほっと胸を撫で下ろしつつ月夜を覗きこむと、月夜は俺の胸元に顔をうずめていた。


「つ、月夜か。助かった……。おい、大丈夫か?」

「う、うん。キノコ君こそ……大丈夫?」


 俺に覆い被さっていた月夜が顔をあげ、少し辛そうにしながら俺を見る。心なしか、月夜の焦点が定まっていない気がする。笑顔を浮かべてはいるものの、その表情にも力はない。


 何故かはわからないが、嫌な予感がする。こんな月夜の顔は見たことがない。


「紅。貴女、いい加減にしなさい。しつこいわよ!」

「おっと! え? 何? ヴィロサちゃんもそこの人間の味方なわけ?」


 ヴィロサが純白の巨大な鎌を振るいつつ、苛立ったかのように言った。そして紅はそれを華麗にかわしながら、背負っているリュックサックに手を伸ばす。


「えぇそうよ。何か文句でもあるのかしら?」

「あはっ! だったらいいわ! ならヴィロサちゃんも月夜ちゃんもぜーんぶ吹き飛ばしてあげる! 人間に媚びる『キノコの娘』なんていらないからねぇ!」


 心底嬉しそうな笑顔と共に、紅は背中のリュックサックから長さ二メートル程の鞭を取り出し、おもむろにそれを振り回し始める。

 その鞭は紅の出す毒と同じ白色に染め上げられており、それが空気を切る音は聞くだけで肌が切り裂かれるような気がした。


「ほらほらほらほらヴィロサちゃん! 月夜ちゃん! そこの人間と共に消え去る覚悟は出来たぁ?」


 そして紅は目も止まらないスピードでその鞭をしならせると、大木の根本は一撃で削り取られ、さらにそこから紅の毒が木の幹に入り込んでいく。

 一撃必殺の攻撃だ。

 

 迎撃のためにヴィロサも紅の鞭に合わせて鎌を振ってはいるが、明らかに鞭の方が早い。あれではいずれヴィロサに限界が来る。


 ヴィロサの鎌では、紅の鞭は相性が悪すぎるのだろう。ヴィロサの話では『菌型知的生命体』の毒の散布方法に個性が出るらしいが、紅はサブちゃんと同じタイプで、自らの毒を武器に染み込ませるスタイルのようだ。

 それに対してヴィロサは一から毒の武器を精製している。

 しかし、恐ろしい切れ味を持つヴィロサの鎌はフリゴの糸こそ綺麗に叩き切っていたが、紅の素早く動く鞭はそう上手くはいかないらしい。

 

「鬱陶しいわね……。フリゴ! 後は頼んだわよ!」


 そして、いらいらしたようにヴィロサがそう言ったと思うと、突然ヴィロサの背後から漆黒の糸が紅へ向かって飛び出していった。

 

「ひとつ貸しですよヴィロサさん!」


 今度はフリゴの繊維が紅へと蛇行しながら近付いていく。

 紅は繊維を近付かせないように鋭く腕を動かして、それを叩き落とす。しかし、フリゴの糸は切らない限りは何度でも向かっていく。


 そして迫り来る幾多の糸を弾きながら、紅はイライラしたように口を開いた。


「なんだい、フリゴちゃんも人間の味方なの?」

「は? そんなわけないでしょう? そんな不細工、守る価値もありません」

「だったらこの攻撃をやめてくれないかしらぁ?」


 しかしフリゴは嘲笑うかのような張り付いた視線を紅へと向け、はっきりと言い放つ。


「私は人間の味方ではありません。強いて言うなら月夜さんやヴィロサさんの味方ですからね。貴女が彼女達の敵なら、すなわち貴女は私の敵です」

「あーら残念。ならアンタも一緒に片付けてあげるわぁ」 

「できるものならやってみてください」

「そもそも貴女達も気にくわなかったからねぇ。調度いい機会だし、どっちが上かはっきりさせてあげるよ!」


 そしてその瞬間、紅は自らの足を動かし、フリゴへと一歩踏み出した。しかし、即座に立ち塞がるかのようにヴィロサが間に入り込み、鎌を素早く振るう。


「行かなきゃ……」


 それを見た月夜はゆっくりと起き上がり、俺の横に立った。そして弱々しく片手を突きだし、以前サブちゃんに向けた黒い霧を作り出す。

 だが、サブちゃんに向けた時ほどの毒々しさや禍々しさは月夜から感じられない。むしろ弱々しいと言うか、儚げな雰囲気が漂っている。


「お、おい月夜お前本当に大丈夫か?」

「……大丈夫だよ?」


 こちらを一瞥してから、ニコリと笑顔を浮かべる月夜。

 しかし、大丈夫と言いつつもフラフラしていて真っ直ぐに立てていない。


 いや、どう見ても大丈夫じゃないだろうお前。よく考えたら、今晩だけで三戦目だ。それに誤解は解けたとはいえ、さっきの精神的なストレスもあったんだ。もう月夜は限界だ。


「……下がれ月夜」

「……は? 大丈夫だよって言ってるでしょ?」

「いいから下がれって言ってるだろ。後は俺に任せろ」

「何をどう任せろって言うの。大丈夫、安心して。キノコ君は私が守るから」

「あ? この俺がお前なんかに守られるわけないだろ? 安心して下がってろ」

「どの口が言うのよ……。いや、いいの。それに、多分私はもうダメだから……」

「は? 何を言って……」


 また力のない笑顔を浮かべ、紅へ向けて歩を進める月夜。俺の制止も聞かずに、再び毒霧を作り出して俺の前に出る。そして月夜の背中が俺の目に写ると、恐ろしい光景が目に飛び込んできた。


 その様子は、月夜が『私はもうダメだから』という理由で、彼女がフラフラと弱っている理由で。

 それは月夜の体を浸食していくかのように不穏な音を立てていて、そこから立ち上る煙は俺の嫌な予感をどこまでも確信に変えるものだった。


 白く蠢く紅の毒が、月夜の背中全体を覆い隠していた。


 月夜の露出した背中は今や見るも無惨なものとなっている。

 絹糸のように透き通った肌は白く禍々しい毒によってどんどん溶かされていく。 


「おい月夜……。お前、その背中もしかして俺の代わりに……」

「……」


 そうして、月夜は俺の言葉を無視しながら、自らの毒を紅へと打ち出した。










 読んでくれてありがとうございます!

 二次選考突破しましたよ! ぶっちゃけ予想外です! 

 一次ですら驚きだったのに、まさか二次も通るなんて私は夢でも見てるのでしょうか。

 しかしポイントは相変わらず凍ったように動かないですが(むしろ減った?)、めげずにブックマーク二桁を目指してこれからも頑張って行きたいと思います。

 

 これからも宜しくお願いします。

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