表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

キノコ生態レポート 番外編その1 『僻地』にて

ここで流れをぶったぎってまさかの番外編という舐めたことしましたごめんなさい。

本編もなるべく早く投稿します。ちなみに日付としては本編の開始の少し前になります。月夜が主人公の日常的なお話です。宜しくお願いします。

 私は月夜。静峰月夜。完璧でスーパーキュートな『キノコの娘』。いつもならこの時間はキノコ君をいじめに下界に降りてるんだけど、今回はフリゴのお願いで『役所』の手伝いをしているところ。何の変哲もない単純作業で面白みのカケラもあったもんじゃない。

 まぁ結局仕事しているのはフリゴだけで私は何にもしていないってのはここだけの話。そもそも私達の情報の管理なんてしなくていいのよ。人間じゃあるまいしー。


「ねぇーフリゴー。もう飽きたし、出かけてもいい? こんなこと律儀にする必要ないと思うんだけどー」

「あなたここに来たのにほとんど何もしてないじゃないですか! 何のために来たんですか? あ、それとも何をしたらいいのかわかりませんか? あー、月夜さんはポンコツですからねー。もう一度ゆっくり説明するからよく聞いてくださいね?」

「は? 私がわかってないわけないでしょ? これ以上ないくらい理解してるよ?」

「ならさっさと口ではなく手を動かしてください」


 どぎつい目線を私に向けてから、フリゴは黙々と作業に戻る。よくわかんないけど、フリゴは私達の個体数と居場所を管理しているらしい。来たるべき人類との会話に向けての崇高な使命(フリゴ談)らしいんだけど、いまいちこの作業の重要性が私には感じられない。


「あー。なら何かゲームをしながら作業するなんてどうかしら?」


 と、口にするのは私と同じく嫌々作業しているもう一人の『キノコの娘』、ヴィロサ。一応あの子が私達の代表だから、フリゴに半ば強制的に仕事をさせられている。

 パタパタと背中に生えた白い羽を前後に動かしながら、うんざりしたようにヴィロサはそうやって提案をしてきた。


「ゲーム? どんなゲーム?」

「マジカルバナナよ!」


 椅子から立ち上がり、意気揚々とヴィロサがそう告げた。まじかるばなな? 何それ? ひょっとして食べ物? いやでもゲームだし……?

 どうやらフリゴも私同じような感想を抱いているようで、ヘッドフォンを付けた頭の上に疑問符を浮かべている。


「マジカルバナナってのは連想ゲームよ!」

「連想げーむ、ですか?」

「えぇ! ルールは簡単! 『マジカルバナナ』のリズムに合わせて、その言葉に連想される物を次々とリズムよく言っていくのよ!」


 ……またヴィロサがどこか知らない所から人間の知識を手に入れてきたみたい。あの子は何だかんだ言ってるくせに人間の文化が大好きなのよねー。まぁだからこそ『役場』のリーダーにはふさわしいと思うんだけど……。その点フリゴは真面目すぎるからね。だめよ。

 

「いまいち言っている意味が解りませんが……」

「まぁ百聞は一見に如かず、よ! 一回やってみましょう!」

「ひゃ、ひゃくぶん……?」


 フリゴが不思議そうな顔をしているが、私には意味がわかる。伊達にキノコ君の家のいんたーねっとを使ってるわけじゃないからね! 私は、『キノコの娘』の中では人間文化に最も詳しい自信がある。まじかるばなな、は知らないけど。


「じゃあ行くわよフリゴ、月夜! マジカルバナナ! バナナと言ったら黄色!」


 と、私に人差し指を向けつつ、ヴィロサが嬉しそうに言い放つ。

 え? 私? とりあえず、リズムに乗って連想される言葉を返したらいいのね?


「黄色と言ったらお月様?」


 笑顔でふんふんと頷くヴィロサと困惑した表情を浮かべるフリゴ。どうやらこんな感じの返答で合ってたみたい。ふふん。やっぱり人間文化の第一人者と言えばこの私ね!


「お月様と言ったら……月夜さん?」


 遠慮がちにフリゴが口を開く。またしてもヴィロサが嬉しそうにうなずいた。うん。よしルールは呑み込めたわ。あとはこれをリズムよく続ければいいのね?

 そして次は一周したからヴィロサの番。ヴィロサは飛びっきりの笑顔で、私を人差し指で嫌みったらしく指差す。


「月夜さんと言ったらバーカ!」

「は!? ヴィロサあなた今何て言った?」


 ヴィロサの口から発せられた言葉に耳を疑いながら、思わず言葉じりを上げてしまう。 


「はーい月夜ちゃんの負けね。リズムを崩したらダメよ」

「はぁぁぁ!? あなたが訳の分からない事を言うからいけないんでしょ? 誰がバカなの? 脳みそテングタケのあなたに言われたくないんだけど?」

「あー、そうね月夜ちゃんはバカよりもポンコツですものねごめんなさーい」


 このクソキノコ……! 言わせておけば……!


「ほらほら月夜さん堪えてください。何にせよこのままではゲームは貴女の負けですよ。いいんですか?」

「いいわけないでしょ! もう一回よ! ヴィロサ、覚悟しときなさいよ!」


 気を取り直し、私から音頭を取るために冷静さを取り戻す。しかし、私が声を出そうとした瞬間、ヴィロサが遮るように横から口を挟んできた。


「あ、言い忘れてたけど、三回負けた人はくれないを全力で煽るっていう罰ゲームつきね」

「は?」

「あら何かご不満でも月夜ちゃん? このくらいの罰があった方が盛り上がるわよね? あらあら、それとももしかして怖いのかしら?」

「そんなわけないでしょ? 私を誰だと思ってるの? 天下の静峰月夜だよ?」

「そうだったわね月夜ちゃん。じゃあ初めてくれるかしら」


 ちなみにくれないというのは『キノコの娘』の中でも指折りの実力者で、最悪の性格をしている娘だ。その子を全力で煽るなんて命知らずな真似、恐ろしくてできやしない。


「じゃあ行くよ? マジカルバナナ! バナナと言ったら果物!」

「果物と言ったらみかん!」

「みかんと言ったら丸い!」


 私の音頭に合わせてフリゴとヴィロサがマジカルバナナを続ける。ていうかみかんって丸いの? まぁ次は私の番ね。丸い……丸いと言ったら……。


「丸いと言ったら、私の性格!」

「はい月夜ちゃん二回目ー」

「はぁ!? なんでよ! 完璧な回答じゃない!」


 ヴィロサがやれやれとかぶりを振りつつ答える。フリゴも呆れたように私を見てくる。なんでよ! わけわかんないし!


「月夜さんの性格のどこをどんな角度から見たら丸に見えるんですか? 角しかありませんよね?」

「あ? これ以上ないくらいツルッツルよ? 言うならば、キノコの娘の中の潤滑油ね!」

「油!? 油ってどの辺りが丸いんですか!? 液体でしょ!?」

「フリゴ! 月夜はバカだから言っても仕方ないわ!」

「はぁ!? あんたら揃いも揃って私をバカにして! しかもヴィロサさっきから私の事バカとしか言ってないじゃない! それ以外言えないの?」

「だって私は脳みそテングタケですものー。月夜ちゃんがバカって事以外わからなーい」

「よし潰す! ヴィロサ、ツキヨタケの恐ろしさ思い知らせてあげるから表に出なさい」

「いやよ。おバカな月夜ちゃんはお姉さんがいなくても一人で遊べるわよね?」

「だからもういいですって。それより月夜さん二連敗ですよ」


 全力で生意気なヴィロサを睨み付けてから、深く深呼吸をする。落ち着いて私。あんな脳ミソテングタケの口車に乗ってはいけないわ。私は賢い、天才だから大丈夫なの。


「じゃあ次は順番を変えませんか?」

「いいわよ。向きを反対にするってことね?」

「むしろその方がいいよ! 私がヴィロサを狙えるし。覚悟しなさいよヴィロサ!」


 フリゴ。中々ナイスな提案ね。貴女を『役場』のリーダーにする話、ほんの少しなら考えてあげてもいいわよ。


「ではいきます。マジカルバナナ! バナナと言ったら甘い!」


 フリゴの音頭でゲームが再開された。順番が反対だから次は私の番ね。ヴィロサ、この問いに答えられるかしら!?


「甘いと言ったらチーズケーキ!」


 ふっ。我ながら完璧な回答だわ。惚れ惚れしちゃう。どうせヴィロサはチーズケーキなんて知らないからね!


「チーズケーキと言えばケーキ!」

「え? ちょっと待ってよそれずるくない?」

「け、けーき? わかりません……。私の負けですね」

「いやいや待ちなさいフリゴ! 何素直に負けを認めてるの? 今のヴィロサって卑怯だよ?」


 珍しく頭を垂れるフリゴに喝を入れつつ、ヴィロサへの抗議を繰り返す私。


「あらあらフリゴは偉いわねー。自分の間違いを認めて素直に負けを認めるなんて簡単じゃないわ。それに比べて横のポンコツは……」

「はぁ!? どう考えてもおかしいでしょ!?」

「まぁまぁ月夜さん。それじゃあこうしましょう。あまりに人間っぽい単語はなしで!」


 と、フリゴが一色触発の私をなだめつつ、そう提案した。

 あれ? イヤにしおらしくない? あり得ないわこんなこと。

 ……はっ! わかったわ! フリゴとヴィロサはグルね? どうせ二人で協力して私を貶めようって魂胆てしょ! そうはいかないわ! あの性格最悪のフリゴがこんな素直なわけないもん!


「……何ですか月夜さんその顔? 絶対失礼なこと考えてますよね」

「ううん? フリゴはこの上ないバカだな、なんて考えてないよ?」

「……」

「いや本当だよ? クズなフリゴがこんな素直なんてあり得ないなんて思ってないもん」

「……まぁ月夜さんを信じましょうか」 

「本当だって! フリゴはバーカバーカバーカ」

「否定もしてないじゃないですか!? は? バカなんて月夜さんにだけは言われたくないんですけど!?」

「じゃあフリゴはアーホアーホアーホ!」

「はぁ!? 年中脳内出血の月夜さんにだけは言われたくないんですけど?」

「年中脳内出血はひどくない!?」


 ふふふ。効いてる効いてる。誰があたしを一人狙いなんてさせるもんですか!

 物凄い形相で睨むフリゴをニヤニヤした視線で一瞥していると、ヴィロサがパンパンと手を叩いた。


「いい? それなら次は私ね。順番はさっきと同じでいいわね? それじゃあ行くわよ。マジカルバナナ! バナナと言ったら黄色!」


 順番がさっきと同じだから、次はフリゴだ。





読んでくれてありがとうございます。短編がまさかの二分割。こんなに長くなるとは思いませんでした。短編のオチのつけにくさに愕然としている私がいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ