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キノコ生態レポート その25

 地を這う蛇のように、フリゴの毒糸が俺に襲いかかってくる。こ、こっち来んな! 

 思わず背を向けて走り出すが逃げ切る事なんてもちろん出来やしない。背後から、繊維が地面を這いつつ迫ってくる音がどんどん近付いてきた。


「ちっ! キノコ君! これで貸し借りはなしやからな!」


 サブちゃんの声が俺に届くとほぼ同時に、キィン、と金属と金属がぶつかるような鋭い音が聞こえてきた。

 俺は一体何の音だと思いつつ、足を止め恐る恐る振り返ると、サブちゃんがナイフを片手に糸を押し留めているのが目に飛び込んできた。


「サブちゃんさん! 何で邪魔するんですか!」

「フリゴちゃんごめんな。俺は一応キノコ君に助けられたからな。その借りは返さなあかんねん」

「サブちゃんナイス! 助かった! お前可愛いとこあるじゃねぇか! 見直した!」

「か、可愛いとかゆうな! あとサブちゃんとちゃうし!」


 少し照れたようにしながら、サブちゃんが大声で叫ぶ。


「退いて下さいサブちゃんさん。貴女を攻撃したくはありません」

「俺もそうしたいねんけど、ここでキノコ君を見殺しにすると、後味悪そうやからな。やからフリゴちゃん、落ち着いてくれると嬉しいんやけど」



 俺が胸を撫で下ろしているのを他所に、サブちゃんのナイフとフリゴの糸がギリギリと擦れ合う音が辺りに響き渡る。フリゴは苛立ったようにその瞳をさらに紅く変化させ、激しい敵意の雰囲気が彼女を包みこんだ。

 そして彼女の纏う雰囲気に沿うように、フリゴの背中からは更にたくさんの糸が生み出された。さらにそれらは幾つもの黒い触手が生えているかのように、うねうねと蠢いている。

 そしてフリゴは憎々しげに口を開く。


「だったら貴女も容赦しません。覚悟してください!」


 その怒声と同時に、フリゴが漆黒の触手を俺へ向けて伸ばしてきた。


 いやいや気持ち悪いっての! 近付いてくるんじゃねぇ!


「おいおいおい、サブちゃんあれ何とかしてくれ!」

「いや、この数は無理ちゃうかな? そもそも俺も回復しきったわけちゃうし……」

「は? 諦めんなよ! 俺死んじゃうだろ!?」


 他人事なサブちゃんと必死な俺を他所に、四方八方から毒の触手が俺に襲いかかる。

 そしてサブちゃんは逃げる為か、はたまた自分の身を守るためかはわからないが、腰を落として身構えた。


 は? 俺は? 何自分だけ助かろうとしてるんだ? 逃がすか!


 そう思った俺は、サブちゃんの肩を掴み俺の目の前に引き寄せた。


「え? ちょ、何すんねん! 離せ!」

「お前だけ逃げるなんて許すわけないだろ!」

「え、いや逃げへんて! やるだけやるつもりやって!」


 はぁ!? なら何で初めからそう言わないんだよ!

 なんて思ったのも束の間。もう俺達の目の前には、複数の毒の触手が肉薄していた。

 思わず目を瞑り、衝撃に身構える。


 そして訪れる一瞬の沈黙。

 あれ……? ……なにも来ない?

 

 ゆっくり目を開けると、まず唖然としているサブちゃんが目に飛び込んできた。サブちゃん自身もダメージを受けていないようで、不思議そうな目付きでフリゴの方を見つめている。

 サブちゃんの足元には、先程俺達を襲ってきた毒の糸が無造作に散らばっていた。それこそまるで、突然糸が切れたかのように、乱雑に辺りに撒き散らされている。


「ヴィロサさんまで……! なんで邪魔するんです!」

「落ち着きなさいって言ってるでしょフリゴ」


 ヴィロサは純白の鎌を構え、フリゴへとそれを突き付けていた。

 どうやら彼女は、身の丈程は有る巨大な鎌でフリゴの糸を根本からバッサリと切り落としたみたいだ。

 ていうかそのサイズの鎌、一体どこから出したんだ!? 彼女の背中に生える羽根と同じような素材で作られている所から考えると、ヴィロサがたった今生成したのだろうか。

 それにしても、金属音がするほどの硬度をもつ繊維を一刀両断!? ヴィロサの作った鎌がとてつもない切れ味を持っているのか、はたまたヴィロサの力が途方もなく強いのか。

 ……まぁ両方だろうな。


 俺が畏怖の視線を向けているのに気付かないまま、ヴィロサはフリゴを厳しく非難する。


「取り敢えずフリゴ、この場は私が預かるわ。貴女、糸を抑えなさい」

「なんでですか! アイツは私達を侮辱したんですよ!?」

「いいから。とにかくもう一度、キノコ君の話を聞きましょう」


 鋭い視線でフリゴを一瞥するヴィロサ。するとフリゴは渋々といった様子で、スルスルと糸を戻していく。

 落ち着いた……のか? 相変わらず人を殺せそうな視線を俺に向けてはいるが、フリゴの瞳は黒に戻っていく。


「さぁ月夜ちゃん。キノコ君。お互い言いたいことあるんでしょう?」


 ヴィロサは鎌を右手で器用に回転させると、瞬く間にそれは霧状になって空間に溶けていった。


「……そう……ね」


 すると今まで上の空だった月夜が、億劫そうにヴィロサの問いに答えた。その様子は切なそうで辛そうで。

 だがしかし、俺はその様子を見ると不思議と心がざわつくような気がした。


「……俺もあるぞ」


 苛立ちなのか、それとも悲しみなのかは定かでない感情を胸に秘めつつ、俺は一歩前に踏み出した。









 

読んでくれてありがとうございます。

笑える話を書きたいです。書けるようになりたいですね。


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