キノコ生態レポート その24
月明かりに揺れる三つの影が『僻地』を眺めていた。
フリゴ、ヴィロサ、そして月夜だ。
彼女達三人は、こちらに気付くとゆっくりと振り返り、それぞれが持つ赤と黒と緑の瞳を俺に向けた。月明かりを背に怪しげに光る『菌型知的生命体』の瞳。見ているだけで吸い込まれそうな何かがある。
そしてその中で黒の瞳を持つ少女、アマニタ・フリギネアが俺を見た途端、殺意にまみれた表情を浮かべた。
おいおいフリゴ、なんて顔してんだ。その視線で俺を殺す気か?
「どのツラ下げて来たんですかぁ? この心までブサイク人間」
「あ? 超絶イケメンですが何か? この変態恥女キノコ」
「は? 鏡見たことないんですか? ていうかあんな酷いこと月夜さんに言ったのに、何で来たんですか? もしかしてまだ言い足りないんですか?」
どこぞの悪魔が浮かべそうな、憎しみが籠った表情を俺に向けるフリゴ。俺も負けじとにらみ返す。
「ああそうだ。そのバカ月夜がふざけた事を言うだけ言って逃げやがったからな。わざわざここまで来てやったんだ。感謝してくれ」
「はぁ!? 何ですかその言い方! 月夜さんは貴方を思っての行動だったんですよ!?」
「それがどうした。結果的に言うだけ言って逃げた事実は変わらない」
「……っ!! もういいです」
フリゴは歯を食い縛り、握った拳をワナワナと震えさせている。
「なんでそんな言い方しか出来ないの……。これだからツンデレは……。心配だから追いかけて来たって素直に言えばいいのに……」
「あ゛ぁ゛!? 何か言ったか姫乃!?」
姫乃が額に手を当てながら、やれやれと首を振った。
は? 誰がツンデレだぶっ飛ばすぞこの腐女子系キノコが。
「……やっぱり人間はダメですね。クズの集まりです」
「ふん。俺が人間じゃないって言ったのはお前らだろ?」
「……そうですね。だったらこれ以上月夜さんに近づかないでください。人間モドキ」
「あ? なんでだよ。断る」
「なら貴方は私の敵です。調子に乗るのも大概にしてください」
すると、その瞬間フリゴの瞳が赤く発光し始めた。ヴィロサの色とは少し違い、目の中心が赤く輝いている。例えるなら、闇夜に紅い石が浮かんでいるかのような雰囲気で、得体の知れない恐ろしさが彼女を包み込んだ。
「落ち着きなさいフリゴ。なにもそこまで毒を練らなくてもいいでしょう?」
ヴィロサが見かねたようにフリゴの肩を叩きつつ言った。しかしフリゴはその手を鬱陶しそうに振り払い、吐き出すように言う。
「何を言ってるんです? あの人間は月夜さんの気持ちを踏みにじったんですよ? いつもなら月夜さんなんてどうだっていいですが、今回は話が違います。あそこまで『キノコの娘』をバカにする人間は私達の敵です」
「だからって怒りすぎよ。そもそも貴女はこの問題には関係ないでしょう?」
「ありますよっ!」
そしてその瞬間、フリゴの背後から複数の糸が数えきれないほど飛び出してきた。その糸はまるで意思を持っているかのように自由に動き回り、フリゴを中心に暴れまわる。
繊維状のそれは漆黒に染まっていて、毒をたくさん含んでいますと言わんばかりに鈍く輝いていた。
なんでこいつがこんなに怒ってるんだ。ヴィロサの言う通り、お前は関係ないだろう? なんだか俺までイライラしてきた。
まぁほんの少しは言いすぎたかもしれないけど、それでもこの怒り方は尋常じゃない。
「やめなさいフリゴ! キノコ君を殺す気なの!?」
「どうせ死なないでしょう? 軽く痛い目をみてもらうだけですよ!」
「ちょ、ちょ、ちょっとフリゴちゃん落ちついて! キノコ君も悪気があったわけじゃないんだよ!」
と、姫乃が俺の前に身を乗りだし、焦ったように言う。
俺は少しイライラしながら姫乃を押し退ける。
「今はフリゴなんてどうでもいい。用があるのは月夜だ」
「は? どうでもいいですって?」
「あぁ。お前なんか今はお呼びじゃないんだよ。俺が用があるのは月夜だ」
「ああああ!! もー! なんでそんな言い方するの!? キノコ君って死にたいの!?」
「そもそも有り得ないんですよ! 月夜さんの力を分けてもらったんですよ貴方は!? 感謝するならまだしも、罵倒するなんて……」
怒り狂うフリゴと、焦ったように俺をフォローする姫乃。しかし、それに比べて等の月夜はボーッとしているような、どこか上の空な雰囲気で月を眺めている。
「もういいです! 月夜さん! あの人間ブッ飛ばしますけど文句は言わないで下さいね!」
ヴィロサの静止も聞かず、フリゴは俺に向かって腕を大きく振った。すると、それに呼応するかのように黒い繊維が一つにまとまり、俺へその先端を向けて突進してくる。
ちぃ! なんだよなんで俺がフリゴに攻撃されるんだ!
俺は咄嗟に『月夜バズーカ』を構え、引き金を引く。
軽くはない反動とともに、毒が打ち出される……が、フリゴの糸にいともたやすく叩き落とされてしまった。
そして、その毒糸はまるで俺を貫こうとする細剣のようにしなりながら、あっという間に俺の目の前まで迫ってくる。
読んでくれてありがとうございます。
相変わらずポイントは伸びませんが、読んでくださる読者がいると信じて頑張ります。
ていうかアホの子を出したい。ビックリするほどアホの子を出したい。そして思いっきりキャラを困らせたいいいい。




