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キノコ生態レポート その23

 俺は風を切りながら目も止まらないスピードで移動している。気分はさながらスーパーマン。ひゃっはー! かかってこいやこのクソムシどもが!

 しかしそんな爽快な気分は、移動を初めてものの十秒で収束し、あとはただひたすら我慢していたのだがもう無理だ。サブちゃんに文句言おう。



「おい! おい! 速いって痛いって!! もう少し考えろこのバカ!」

「あーもうキノコ君うっさい! あんまり暴れると叩き落とすで!」


 なんだかんだいいつつも、結局サブちゃんの背中にお世話になっている俺。意外とサブちゃんは華奢な体つきをしていて、思っていたより女性らしい体型じゃないかと思ったのも束の間。やっぱり嘘です。コイツら本当に人間じゃねぇわ。

 例えるなら人型ジェットコースターで、地面を滑空するようなスピードでぐんぐん『僻地』を進んでいる。もちろん木や岩といった大きな障害物は華麗にかわしているのだが、枝やら、草の蔓やら蜘蛛の糸やら細かいものは全く気にしないスタイルであるため、俺の体にそれらがビシバシと当たってきて非常に痛い。


「ていうかまだ着かないのか!? おい姫乃! お前の言ってる場所って一体どこだよ! ていうかそもそもそこに月夜はいるのか?」


 俺の少し前で、まるで忍者のように木を渡っている姫乃に対して大声を出す。

 正直、姫乃の予想以上の敏捷性に驚きを隠せない俺だった。だってコイツは遅そうな雰囲気あったからね。力も俺より弱かったし。

 しかしそこは例に漏れずコイツも『菌型知的生命体』らしい。もしかすると、本気を出したらいとも簡単に俺なんて投げ飛ばすかも知れない。


「もう少しだよー。しかもこの辺りの様子から察するに、月夜ちゃんが毒を撒き散らしてました感はあるから、たぶんいると思うなー」


 と、姫乃が言った。

 この辺りの様子? そんなもん速すぎてなんにも確認できませんが? そもそもサブちゃんにしがみつくのに必死な俺が辺りの確認なんて出来るわけないんだけど。

 

「た、確かにこのドス黒い毒は月夜ちゃんのやなー」


 サブちゃんが僅かに辺りを見渡したようにしながら言う。その声は心なしか震えており、若干のトラウマを感じているような声音だった。

 しかし、この夜の『僻地』で黒い毒があるなんてよく見えるな。電灯は全くなく(当たり前だけど)、なおかつ月明かりもほとんど入ってこないんだ。そんな中で黒い毒なんてものが本当に見えているのか? ひょっとすると『菌型知的生命体』は視覚以外にも何か別の感覚器官を持ってるんじゃないか?


 俺がそうやってうんうんと唸っていると、急にサブちゃんの足が止まり、これまでの暗闇に慣れていた俺にとってはわずかに目が眩む程の光が俺を包み込んできた。それは爛々と輝く月からの明かりで、突然途切れた木々の空間を埋め尽くすかのような輝きだった。

 

 ここはどこだろう。空地……だろうか。何故いきなり月が見えているんだ? もうかなり月は傾いているはずだから、それこそ平地にでも出ない限り月が見えるはずはない。

 ということは『僻地』を抜けたのか。それほど速いスピードで移動していたのなら、また一つ『菌型知的生命体』への認識を改めなければならないな。


 徐々に目が馴れてくると、俺は辺りをゆっくりと見渡した。すると目に入ってきたのは、眼下いっぱいを埋め尽くす木々の数々だった。俺達はいつの間にか切り立ったガケの上に来ており、そこから見える『僻地』の風景は筆舌に尽くしがたく、とても偉大で美しいものに見えた。

 淡い月光に照らされた森は、風が吹く度に葉や枝が優しく揺れ、それらが擦れ合う音はまるで合奏のように俺の耳へと届いてくる。


 『僻地』は俺達人間の手が全く入っていない。そのありのままの美しい光景は、僻地、と呼ぶには少し美しすぎるような気がした。


「なんだここ?」

「綺麗な景色やなー。こんなとこあったんや」


 どうやら『僻地』を抜けたわけではないみたいだ。しかし、地震なのか土砂崩れの影響なのかはわからないが、俺達が立っている場所から数メートル先は完全に崩れてなくなっていた。

 

 いい景色……だけど怖いなここ。当たり前だけど柵なんてものはないし、補強なんてされているわけがないから、いつ崩れるのかわかったもんじゃない。


「……綺麗」

「でしょー? あたしも木の上に登って月を見るのが好きだから、時々ここにくるんだー」


 ヴェルナが目を輝かせながら、呟くように言った。


 荘厳な月明かりが、見渡す限りの『僻地』全体を明るく照らしている。その逞しさと儚さという矛盾した二つを兼ね備えているような景色は、種族を問わずに生物を魅了する。


「あ、あれじゃない?」


 そう言って姫乃が指した先を見ると、崖の先端で座り込んで空を眺めている少女と、その子を後ろから見守る2つの面影が佇んでいた。






読んでくれてありがとうございます。

一話を大幅に改稿しました。といっても物語の本筋は変わらないので、無理に読み返す必要はありません。宜しくお願いします!

元一話は近いうちに改修したものを番外編で投稿します。

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