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キノコ生態レポート その18

 時刻は既に真夜中を周り、真上で爛々と輝いていた月もすっかり木の陰に隠れてしまって見えなくなっていた。  

 そんな風に夜も更けてきたというのに、ここ『僻地』の『役場』前の広場では、事件解決の宴会が執り行われている。


「うーん……キノコ君酔っちゃったー」

「は? 『キノコの娘おまえら』って酔うのか?」


 俺にぐたりと寄りかかりながら甘えたような声を出す月夜。そして姫乃はそれを面白くなさそうに眺めている。

 月夜はヴィロサの持ってきた謎の酒瓶を瞬く間に開けて、顔をほんのり……いや、かなり上気させている。

 ちなみにその酒瓶の中身はパッと見た限りでは日本酒のような雰囲気ではあったものの、確認しようとしたとたんヴィロサにきつく止められた。

 フリゴやヴィロサも顔を赤くしていることから、人間で言うところのアルコールに近い働きをしているのは間違いない。しかし、毒の塊である『菌型知的生命体』をここまでフラフラにするということは、それ自体がとてつもない毒素を持っているのだろうか? それともむしろ抗体が含まれていたり……?

 そうして俺が酒瓶について考察を進めていると、突然頬に人差し指が当てられた。


「つーんつーん」

「なんだよ鬱陶しい。やめろフリゴ」

「フリゴ! あなた何私のキノコ君触ってるの!?」

「ねぇ、キノコ君さん。月夜さんなんて放っておいて私といいことしませんかぁ?」

「あ? 何言ってんだ溶かすぞ恥女キノコ」

「それはひどくないですか!?」

 

 えらく官能的に俺の頬を撫でるフリゴ。しかしその目は明らかに俺をからかいに来ている視線だ。煽り散らすかのようなニヤついた目で、見ているこっちがイライラしてくる。

 そして相変わらず人を呪えそうな表情を俺に向けてくる姫乃。足をカタカタと上下に激しく揺らし、いかにも不機嫌オーラを放っている。


「だーかーらー。ノンケはいらないの! 人の話聞いてた?」

「取り敢えずいろいろ言いたいことはあるが、一つだけ言わせてもらおう。だまれ」

「だーまーりーませーん! そんな事よりキノコ君! 下界の話を聞かせてよ! やっぱり不埒な愛が蔓延はびこってるの?」

「不埒な愛って何だよ! しらねぇよそんなの」


 姫乃はフリゴを押しのけ、俺の目の前にチョコンと座った。好奇心で溢れかえったその瞳は、俺が今までに見てきたどの『キノコの娘』よりも輝いているように見えた。


「こっちに来ないで姫乃! あんたはサブちゃんでも愛でてればいいでしょ? キノコ君は私のなの!」

「お前のじゃねぇよ」

「サブちゃん個人を愛でても何も楽しくないよ! あんな青臭い娘、お呼びじゃないんだよ!」

「何で俺バカにされてるん??」


 姫乃はサブちゃんを指さしながら果てしなく失礼な事を言ったが、その顔には悪意のカケラも存在していない所がまた性質たちが悪い。そして謂れもない悪口を受けたサブちゃんはズーンと表情を暗くして肩を落としている。

 ……なんでもいいが、なんだかサブちゃんが少しかわいそうになってきた。俺がサブちゃんと会って以来、一度たりともまともな扱いを受けている所を見たことがない。

 なんだっけ? ルッスラ……だったか? 一回くらいその名前で呼んでやるか。


「ルッスラ……。お前も大変だな……」

「え? 今ルッスラって言った? キノコ君今ルッスラって言ってくれたん!?」

「……」

「もう一回! お願いやからもう一回言ってくれへん?」

「……ルッスラ」

「おおお! やったぁ! ついにサブちゃんでなくなったぁ!」


 メガネがずれる程、喜び震えているサブちゃん。両腕を空高く掲げ、満面の笑みを浮かべている。もう右腕は完全復活を果たしており、その動作に違和感はないようだ。一番初めに感じた、クールなタキシード紳士、のイメージは一体どこへ消えてしまったのやら。

 

「ほら! 月夜ちゃんも俺の事ルッスラって言ってみ? キノコ君みたいに!」

「うっさいわよサブちゃん。調子に乗らないの」

「サブちゃん言うな! キノコ君公認のルッスラやもーん」

「やっぱりウザったいからお前はサブちゃんな」

「なんでや! サブちゃんとちゃうもん!」


 前言撤回。あの嬉しそうな笑顔は見たくないからサブちゃんでいいか。

 サブちゃんも酔っぱらっているのだろう。いつも以上に感情を大きく表に出している。

 ぷーっと頬を膨らませ、ご立腹なその雰囲気には、今の今まで姫乃にバカにされて沈んでいた面影は見えない。

 そしてサブちゃんなんて気にもとめていない月夜は顔を俺の胸元に押し付け、すんすんと鼻を鳴らした。


「キノコ君いい匂いするよー?」

「ちょっ! おま、やめろ!」


 かーっと頬が熱を持つのを感じる。女の子にいい匂いなんて言われたのは生まれて初めてで、やっぱり隠しきれない嬉しさが胸の奥から込み上げてきたりなんかはしないからな勿論。


「私も嗅ぎますー!」

「近寄んな変態キノコ」

「あぁ!? なんで月夜さんはよくて私はダメなんですか!」

「仕方ないわフリゴ。だってキノコ君、月夜ちゃんがだーいすきだもんねぇ?」

「は、はぁ!? そんなわけねーし! いつ誰がそんなこと言いましたかぁ!?」


 酒瓶を男前に傾けながら、ヴィロサがフリゴの肩を叩く。その顔はニヤニヤといつもの笑みを浮かべており、取り敢えずブン殴りたい。


「例えそうだとしても、月夜さんに負けるのは納得いきません。キノコ君さん頭大丈夫ですか?」

「は? どういう意味よフリゴ? あなたの魅力なんて私の一割にも満たないってことがわからないのかしら?」

「あーポンコツが何か喚き散らしてますねー」

「あらあら? そのポンコツに負けたのはどこの誰かな?」

「うぎぎぎぎ。言わせておけば……」


 鬼の形相で月夜を睨むフリゴ。おー怖い怖い。時々コイツ等の視線にも毒が含まれているんじゃないかと錯覚してしまう程に清々しくキツイ目つきだ。

 そしてそんな二人を尻目に、ヴィロサが俺の横に上品に腰を下ろした。飲み方だけは相変わらず豪快だが、動作だけは綺麗にまとまっている。


「それにしてもキノコ君もやるわよねー」

「あ?」

「わざわざ私達の為にこんなところまで来てくれてありがとうね」


 ヴィロサが俺の目を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりとした口調で俺にお礼を言った。しかし、その口ぶりには感謝だけでなく、心痛の念も含まれているような気がした。

 そして少し迷ったかのように目を泳がせた後、決意したかのようにヴィロサはもう一度俺をじっと見た。


「……キノコ君。あなた半分くらい人間を捨ててるのわかってる?」

「は? 何が言いたいんだ?」









読んでくれてありがとうございます。

取り敢えず構想している所までは続けます! そこまで長くはならないと思うのでお付き合い宜しくお願いします。

あと近いうちに番外編投稿します。


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