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キノコ生態レポート その17

 テンションの上がった姫乃は、捲し立てるかのように言葉を繋いでいく。


「むっはー! いいわコレ! あなた本当は彼氏いるでしょ!? だって人間だもん!」

「いねぇよ! なんだその理論!?」

「え……? 嘘はよくないよキノコ君?」

「黙れ月夜! 乗っかってくるんじゃねぇえ!」

「やっぱり! あ……もしかして恥ずかしい? 恥ずかしいから隠してるの!? キャー!! ツンデレよ!!」

「お前はそのフリーダムな脳みそをなんとかしろぉぉぉ!!」


 ニヤニヤと鬱陶しい笑顔を顔に貼り付けつつ、月夜が俺の敵に回った。

 出たよ。その笑顔。まぁ月夜はこれくらいの方が似合ってはいるか。

 俺に薄い本を押し付けた姫乃は鼻息を荒くしながら、俺に彼氏がいると決めつけてくる。

 正直気持ち悪い。ふんすー。ふんすー。と、荒ぶる鼻息の音は俺まで聞こえてくるし、輝く目はまるで光っているかのように期待に満ち溢れている。

 牛かお前は。なんて思いながら軽蔑した視線を姫乃へと向けていると、急に姫乃の醸す雰囲気が少し変化した。何かどす黒いオーラが漂っているかのような感覚で、俺の背筋にいやーな物が走るのを感じた。  

 そしてその瞬間、姫乃の足元が不思議な音を立てながらどんどん色を変え始めた。

 いや待てなんだこれ!? まるで腐るかのように、草木が萎れていく。

 月夜とサブちゃんが暴れたせいで元々土壌は犯されていたが、それとはまた違った影響が姫乃から発せられているみたいだ。

 すでに姫乃の真下は菌糸の影響か青緑色に染まりつつある。


「あぁ! 美味しいよあなた! ごちそうさまです! ツンデレってことは受けよね!?」

「おいお前足元見ろって! 腐ってる! 腐ってるから!」

「『お前なんて好きじゃねーよ!』ですって!? 捗る! 捗ります本当にありがとうございます!」

「『お前』しか合ってないじゃねーか! どれだけ都合のいい耳してんだよ!?」


 暴走する姫乃は俺の話を砂粒一粒ほども聞く気はないようで、その間にどんどん腐敗による変色が進んでゆく。

 そしてその瞬間、ヴィロサがゆっくり俺の横に来たと思うと、突然驚きの行動を起こした。

 いきなり俺に抱きついたのだ。


「キーノコ君っ!」

「なっ……! なんだよこいつまで!?」

「な、何してるのヴィロサ! 離れなさいよ!」


 ヴィロサは帽子のつばの部分を俺に押し付け、ぎゅーっと力強く抱き締めてくる。それを見た月夜は怒ったようにヴィロサを止めに入った。

 しかし、予想外なことにヴィロサのその様子は、姫乃に思わぬ影響を与えた。


「は? ノンケはお断りでーす。目に毒なので大至急やめてくださーい。迷惑でーす」


 その様子を見て唐突に冷める姫乃。姫乃のテンションが落ち着くと同時に腐敗もピタリと止まった。

 姫乃はじっとりとした目で、さも迷惑そうに睨み付けてくる。


「いやほんと何なんだよコイツ……」

「ちょ、そこ早く離れてよー。あ、そこの……何だっけ……サブ太郎君? とならそういうことしてもいいよ!」

「サブ太郎ちゃうわ! ルッスラやって言うてるやん!」


 ほぼ完治しつつある右腕を押さえながらサブちゃんは怒ったように言った。

 そして、俺の胸元に顔を埋めていたヴィロサが顔をあげ、元気よく口を開く。

 

「さて! じゃあ『枯木事件』はこれで解決ってことでいいかしらね」


 そう言うと同時に、ヴィロサは帽子の形を整えながら俺から離れていく。

 やっぱりさっきの抱き締めは姫乃を止めるための演技か。なんとなくわかってはいたが出来れば事前に言って欲しい。月夜からの人を殺せそうな視線もチクチクと俺を刺していることだし、俺の精神安定の観点でもヴィロサに抱き締められるのは辛いというかなんというか。


「いいかしら。緑青姫乃ちゃん。その本を読むのは一向に構わないけれど、貴女の力が暴走するのなら少し控えてもらえないかしら?」


 おしとやかに、なおかつ上品にヴィロサが姫乃にそう問い掛けた。

 姫乃は一瞬迷ったように視線を泳がせたのち、ゆっくりと頷いた。


「……頑張るよ」


 そして姫乃は、上目使いで俺を伺ったのち、遠慮がちにヴィロサへと口を開く。


「ならなら! ほんの少しだけそこの人間さん借りてもいい?」

「いいわよ? 煮るなり焼くなり好きにしてくれても構わないわ。ただし、さっきの約束は守って頂戴ね」

「いやおい待て」

「うん! ごめんなさい。話を聞くだけだから! 何もしないから!」

「いやだから待てって」

「別にキノコ君に何かをする分には全く構わないわ。周りの環境に悪影響を与えないでね」

「うん! 任せてよ!」

「待てやコラァァァ!!」


 ゼェゼェと息を吐きながらヴィロサを全力で睨み付ける。

 何をしれっと俺を売ってやがるんだこのクソテングタケは?


「俺の意見はどうなるんだ?」

「何を言ってるの? 貴方は『菌型知的生命体わたしたち』の調査に来たんでしょ? だったら姫乃ちゃんと話をすればいいじゃない。win-winの関係でしょ?」

「ぐっ……」


 何か問題でも? と言わんばかりに若干目じりをあげつつ俺にヴィロサはそう言った。その腹立たしい表情に俺の苛立ち度数は急上昇したものの、あながち言ってる事が間違いじゃないから反論出来ない。

 だが姫乃と二人きりなんて死んでもごめんだ。面倒くさいことこの上なしなのは明らかだし。


「ダメよヴィロサ。今からキノコ君と解決祝いにパーティーをするんだもん」


 と、月夜。

 ナーイス月夜! いいフォローだ。


「あー。そう言えばそうね」

「あたしも行っていい!?」

「なんで犯人が来るのよ……。まぁ別にいいけどさ」


 どうやら解決祝いにパーティーをするらしい。ヴィロサの様子をみるに、前々から決まっていたことなのだろうか?


「ささっ! サブ太郎とキノコ君が主役だよ! 手を繋いで『役場』に行こうよ!」

「犯人のお前が言うんじゃねぇよ!」

「サブ太郎ちゃうのに……誰も俺の名前言ってくれへんやん……」

「俺!? 今俺って言ったの!? なんで!? サブ太郎君って男の子なの!?」

「うっさい! 男の子ちゃうわ! ……サブ太郎でもないもん!」

「アリ! それはアリだよ!」

「何がアリだよ! うっせぇんだよ!」


 また気持ち悪くテンションを上げる姫乃と、悲痛の叫びを上げるサブちゃんの声が『僻地』に響き渡った。







読んでくれてありがとうございます。

この辺でキリがつくので完結にするべきか、フラグをほとんど回収してないのでしっかり最後まで続けるべきか迷ってます。

どうしよう。

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