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キノコ生態 レポートその15

 

「いやぁぁぁぁぁ!! この鬼! 悪魔! なにすんねんアホぉぉぉぉ!」


 ブスブスと大量の煙を右腕から噴き出しながら、涙目のサブちゃんが俺をきつく睨む。


「ふん。助けてやったんだから感謝しろよなポンコツキノコ二号」

「ひ、人の右腕切り落としておいてそのセリフはないやろ!」

「どうせトカゲみたいにすぐ生えてくるからいいじゃなぇか」

「そ、そういう問題ちゃうわーーーー!」


 絶賛再生中の右腕を抑えているサブちゃんは目に涙を浮かべながら叫び声に近い大きな声を出した。まぁこいつの身に降りかかった不幸を考えると当然の結果なのかもしれないが、若干の憐れみの目を向けてしまう俺がいる。


 涙目のサブちゃんにどんな不幸があったのかをかいつまんで説明すると次のようになる。

 まず不審な人間が仲間であるキノコの娘と一緒に『僻地』をうろついていたので、サブちゃんは様子見をかねて注意をしに来ました。しかし、その人間とキノコの娘が一緒になって自分をバカにするので少し懲らしめてやろうと思いました。ですが物の見事に返り討ちにあったサブちゃんは、毒に犯された右腕をその人間に切断してもらうことで事なきを得たのでした。


「お前のナイフで腕を切るこっちの身にもなれよ! 流石に気持ち悪かったんだぞ!」

「そんなん知らんわぁあほー!」


 こう少し振り返ってみると、哀れでしかないサブちゃんだが、非難の対象を俺に据えるのは間違っていると思う。何せ俺も云わば被害者なんだからな。


 しかし流石は『菌型知的生命体』。損傷を『毒』から『外傷』に変えただけで瞬く間に元気を取り戻していく。幸い肩に被弾していた毒は服をかすめただけだったようで大事には至らなかったが、相変わらずのこの生命力には舌を巻くことしかできない。


「いやぁ……驚いたわキノコ君。あの状態のサブちゃんを助けるなんて流石ね」

「そんなことよりあのポンコツ月夜さんの暴走状態を元に戻した方がすごいですよ。あなた本当に月夜さんが連れてきた人ですか? 不細工なのに?」

「……人間もバカにできない」


 ヴィロサが拍手をしながらキノコの娘三人集が俺を口ぐちに褒めちぎる。何だか一人意味のわからない罵倒が入ったが、それはこの際聞かなかった事にしておこう。


「そして、だ。このポンコツ二号に邪魔されたが、この『枯木事件』も多分何とかなるぞ。フリゴみたいな痴女にはわからないだろうけどな」

「えー? 本当ですか? それならすごいですねぇ。顔面芸術作品って顔だけじゃなくて知識もあるんですね」

「あぁ、四六時中音楽を聴いているせいで頭だけじゃなくて耳もスクラップな奴よりは知識はあるつもりだ」

「こっちが下手に出たからって調子に乗るんじゃないですよ人間!」

「お前から言い始めたんだろうが!」

「まあまあ。で、キノコ君。どうやって解決してくれるの?」 


 ヴィロサがフリゴを制しつつ、まぁ取り敢えず聞くだけ聞いてみるか、とでも言いたげな視線を俺に向けた。なんだよその目は。もっと希望に満ち溢れた目をしろよ。

 俺は小さくため息をついて、もう一度しっかりとサブちゃんのナイフを握りなおす。そして少しぼーっとしている月夜に向かって口を開く。


「いいか。ここら一帯は月明かりを受けて青緑色に輝いているだろ? これは何故だかわかるか月夜?」

「えー? そんなの知らないよ? 枯れてるから?」

「枯れただけで青緑色になるなら既にこの森の至る所が青くなってるっつの。そんなわけないだろ」

「じゃあしらない」


 そしてプイっとそっぽを向く月夜。なんだよ俺がサブちゃんを助けた事をまだ根に持っているのか? 


「……正解は簡単だ。この枯木が着色されているからだ」

「着色ですか?」

「あぁ」


 不機嫌そうにしている月夜に変わって、フリゴが少し不思議そうに俺に尋ねる。俺は黙ったまま握ったナイフを足元の枯木に振り下ろした。

 

 


「正確には色が着いている菌糸がその木を犯しているんだ。だから木自体が染色されたように青くなる」


 ナイフが突き刺ささり、枯木の内部の様子も伺えたが綺麗な青色に染まっている。

 俺はもう一度何時を抜き取り、今度は近くの別の枯木に突き刺した。


「だからこの枯木部分には、ある『菌型知的生命体』の本体が盛大に存在しているって事だ」


 そして俺は手当たり次第にナイフを突き立てていく。その際、なるべく木を抉りとりながら大きな損傷を与えるのを忘れないように注意しつつだ。


「な、何してるんですか? ついに頭がおかしくなりましたか?」

「だからこの色は菌糸だって言ってるだろ? お前たちは本体を荒らされて黙っていられるのか?」


 はっ、と何かに気付いたかのようにフリゴが息を飲んだ。月夜は相変わらず不機嫌そうにしており、俺の行動に微塵の興味も感じていないようだ。

 サブちゃんは再生しつつある右腕を押さえながら、怖いものでも見るかのような視線を俺に向けている。


 俺は休む間もなくこの場を荒らしてゆく。ただ一つ気にくわないのは月夜の視線だ。お前が珍しく俺の助けが必要だとか言うから命懸けでこんなところまで来たってのに……。何だよそのつまんなそうな顔は。


「何をしてるの何をー!!」


 俺が果てしなく不機嫌になるかならないかのところで、頭上から甲高い声が聞こえてきた。思わず顔を上げると、真上から女の子が俺に向かって降ってくるのが見えた。

 

 あ、これは当たる。もう逃げられない。


 世界が究極に遅く進んでいく。その割には俺の頭はクリアーで、今の状況が手に取るようにわかる。危機的状況ではスローモーションのように回りが動くとはよく聞く話だが、実際に遭遇するとこれはなかなか面白い。

 その子は青緑色の長い髪、同じく青緑色のロングスカートを落下の風になびかせながら一直線に俺へと向かってくる。

 あ、手には尖端に突起物が付いたステッキを握りしめているな。幸いそれは俺へは向いておらず、俺の顔とぶつかるのは小さいおしりで、柔らかそうな物体が俺を押し潰さんが如く盛大に……。


「ちょっ! キノコ君大丈夫ですか? さらに顔が潰れる音がしましたよ!?」


 








 





 

 

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