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キノコ生態レポート その11

 怪訝そうに、疑いの表情を崩すことなく、サブちゃんは俺を睨み続ける。端から人間なんて信じていないと言わんばかりのその表情は、俺に微かな苛立ちを覚えさせた。


「この青緑に光る原因は、ある菌糸の影響だ」


 俺がそう告げると、サブちゃんは不思議そうに首を傾げた。

 ちなみに菌糸とは、以前も言ったようにキノコの本体のことを指す。キノコの娘達は子実体と呼ばれる、いわば分身であるのは既に知った話だ。


「美しいこの色は、古来から人間が染色体として使ってきた歴史もある。ただ色彩が不安定なこと、被染色物質が腐敗のために脆くなってしまうという欠点を持つ」


 まぁ木を青緑に染めるキノコには幾つかの種類があるが、今回は分かりやすい。

 

「あぁ? ひょっとしてお前はこれが、『キノコの娘』が原因やとでも言いたいんか?」

「人間はこんな奥地まで入れない、そして病気にしては影響が限定的。となると犯人は『菌型知的生命体』以外には考えられない」

「バカにすんのも大概にせぇよ人間が。俺らはあんたらとはちゃうねん。こんな無意味に住みかを破壊するような真似はせん」

「あ? 知るかそんなこと。俺は見たままの客観的な事実を述べただけだ。じゃあ逆に聞くが、犯人は一体何だって言うんだ?」

「自分の立場を忘れんな人間。お前は人間がここまで入れへんって言ったやろ」

「あぁ、入れるわけないだろ? バカかお前は」

「ならお前は何なんや? なんで人間のお前がこんなところにおんの?」


 語尾を強め、苛立ったように言い放つ。


「あ? 何が言いたいんだてめぇ」


 明らかにケンカを売られている。この関西弁のわけのわからないキノコの娘は鋭く俺を睨み、ベラベラとご託を並べ続ける。

 そして大きく息を吸い、サブちゃんは吐き捨てるように言葉を叩きつけた。








「こんなところまで入れてる以上、おみゃえは人間とちゃうやろ……!」


 






 訪れる沈黙。


 おみゃえ。おみゃえ……?


 おみゃえって何だ? もしかして『お前』と言いたかったのか? 

 それともキノコの娘特別の俺の知らない特別な単語か何かか?


 取り敢えず反応に困った俺は、月夜達の方を覗き見て助けを求める。

 すると、月夜、ヴィロサ、フリゴは堪えきれんばかりにニヤニヤと顔を綻ばせ、サブちゃんを見ていた。


「ぷっ……くくっ、そうねぇ、おみゃえは一体何者何でしょうねぇ」

「ふっ、くくくくく。サブちゃんはやっぱり最高だよー」


 そして、堪えきれなくなった月夜とヴィロサがお腹を抱えたまま盛大に笑いだした。

 フリゴも口を押さえて笑っている。

 このこいつらの状況から鑑みるに、やはりサブちゃんは『お前』と言いたい所を『おみゃえ』と、噛んでしまったのだろう。

 まぁ、可愛らしい言い間違いで、取り立てて笑うようなことはないんじゃないか……?

 とは思ったが、流石は毒キノコ。これでもかとくらい笑っている。それこそ、見ているこちらが腹立たしくなるほどに。


 そうなると可哀想なのはサブちゃんだ。

 月夜達に指を差されてこれでもかと言うほど笑われている彼女は、顔を真っ赤にしたまま下を向き、ワナワナと震えている。

 なんだか見ているこちらが申し訳ない気持ちになってくるなこの光景は。


 そして、サブちゃんは堪えきれずに大声を出した。


「ふざけんなよこの人間風情がぁぁぁ!!」

「え? 俺? このタイミングで俺を責めるの!? 普通月夜達じゃね?」


 余りに理不尽な俺への罵倒に驚きの声をあげる。いくらなんでもこれで俺が怒られるのは理解出来ない。笑っているのはお前の仲間の『キノコの娘』じゃねぇか。悪いが俺はクスリともしていないぞ? むしろ可哀想と思ってあげたからな?

 

 しかし、俺のそんな気持ちは微塵も届くことはなく、むしろ敵意を剥き出しにしたサブちゃんが、タキシードの袖から禍々しいナイフを取り出した。


「いやいやいやまてまてまて! 落ち着けサブちゃん!」

「サブちゃん言うなやー!」


 半分涙目になりながら、サブちゃんは俺に向かってナイフを投擲した。

 『キノコの娘』からすれば、何の気もないじゃれあい程度の攻撃だろう。だが俺にとっては一大事だ。当たれば必死、かすれば致命傷。

 咄嗟に月夜バズーカで射線を遮り、ナイフをバズーカに接触させる。

 ふっ。甘いんだよ。流石に『菌型知的生命体』の毒を再び受けるなんて、この人類の精鋭である俺が同じ轍を二度も踏むはずがない。


 キィン、と黒光りする砲身にナイフが接触する音がする。

 そしてナイフはそのままバズーカの回りを沿うように移動したのち、俺の肩口を掠めてから後ろへと逸れていった。

 俺の肩口を掠めてから後ろへと逸れていった。大事なことだから二度程確認した。

 おい、待て、これはまずいんじゃないか? 


 一瞬の時間の後、強烈な痛みが肩口からかけ上がってきた。それこそ焼けた板を押し当てたような、言葉にするのも難しい激しい痛み。


「うぎゃゃぁぁぁ!」

「は、はははは! ざまぁみろ! お、俺をバカにするからそんなんことなんねん!」


 痛む肩口を抑えながら、全力の憎しみを込めてサブちゃんを睨み付ける。するとサブちゃんは一瞬怯んだようで、一歩後ずさった。


 このクソキノコがぁぁぁ……! 殺す! 何の種類のキノコかは知らないが、菌糸を見つけ出して焼いてやる!


「な、なんやねん! 人間のくせに、な、生意気やぞ!」

「覚悟しやがれこの毒キノコがぁぁぁ!」


 痛みを頭の片隅に追いやり、『月夜バズーカ』をサブちゃんに向けて構える。そしてそのまま一気に引き金を引いた。

 僅かな反動と共に、月夜の毒を培養して作った毒の散弾が銃口から飛び出していく。


 しかし、サブちゃんは咄嗟に横に飛び出し、あっという間に俺の射角から抜け出した。


 くそっ! 流石は『菌型知的生命体』だ。この距離からの散弾を避けるなんて、人間なら不可能な芸当だ。

 しかし、直撃こそは至らなかったものの、流石に全ての弾を避けきることは出来なかったらしく、限りなく黒に近い灰色のタキシードからブスブスと煙が立ち上っていた。


「な、何すんねん! 危ないやろー!」

「あぁ!? お前が先に始めただろうが!」

「は、はぁ? あんたが人をバカにしたからアカンのやろ!」

「どう考えてもお前の仲間がバカにしたんだろうがぁぁ!」


 焼けるような肩を放っておき、もう一度サブちゃんに向かってバズーカをぶっぱなす。

 しかし今度は銃口を向けきる前に逃げられてしまい、一発足りとも弾を当てることは叶わなかった。



 









 遅れてごめんなさい。読んでくれてありがとうございます

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