王族とアンノーン
今王国はものすごいお祭り騒ぎ。何の騒ぎかと言われれば、知る者は知る。そして
知らないものは俺たちだけ。そう、王国のことなど一切耳に入らない。そりゃあ、特
務にいる俺なんかがしってはいけないんだと。
それは、ある発表。そしてその発表が俺を左右することになるなんて知ることもな
かった。
※ ※ ※
俺はいつものように早朝5時に起き、全て身支度をし、小麦で作られた、少量のパ
ンを食べる。
「おい、ナイカ?お前そういえば今日特長から呼ばれてたよな?」
「ああ、呼ばれてる、何をされるかわかったもんじゃないけどな」
この特務機関での友と貧相な食事中、そんな普通の話。
「まあ、お前はこの特務の一番の古株だしな」
「そうだな、もう外にも10年以上出てないよ」
この特務機関に連れて行かれたのはわずか6歳の頃。完全に外とは別の世界。ここ
がどこだがもわからない。いや、もう忘れた。
「それに俺はアンノーンだからな、ここで唯一のな」
「まあなぁ、最初はすごい嫌われようだったもんな」
それもそのはず。アンノーンとは平民以下、家畜以下、虫以下の存在。そんな俺が、
この特務にさえいることもおかしいのだ。特務とは戦争のための兵や暗殺者を育てる、
いわば、殺人兵器を作り出す場所だ。主にこの特務には獣殺しから派遣されるものが
多数。今話している友人も獣殺しから派遣されたものだ。派遣と言ってもここには任 務を失敗したものや、何か犯罪を犯したもの、そういうものが集まる。決して表には
知られていない。王族のみが知る機関。
だから俺たちは外に出ることさえも許されない。そんな地獄みたいな場所だ。
「ま、その10年間戦争がなかったってことだろ?」
「まあ、そういうことだな、俺がここに来てからまだ一度も呼ばれていないってこと
はそういうことだろ」
「でも、今すごいお祭り騒ぎじゃないか?もしかすると?」
「戦争ってか?それはないな、戦争なら俺だけが呼ばれることはないだろ」
と、言いながら最後のパンを食べようと口に運んだと思うと、
パッ。
あ、パンが消えた。と思い、上を向くと、
パクリ。食べられた。
「おいおい、特特長に呼ばれたからっていい気になるなよ!?」
と、行ってきたのは、ここ、特務機関の俺を特に嫌った人間達。そのリーダー格。
「アンノーンごときが!」
「・・・・・・」
俺は黙っている。もう、慣れっこで、こんなのは日常茶飯事だった。
「なんだ?男の嫉妬ほど醜いものはないよな」
と、さっき話していた友人、そしてそのほかに一緒に食べていた友人たちがそんな
ことを言い出した。
「み、みんな、いいよ、そんな」
「いいわけないだろ!」「そうだそうだ!」「パン返せ!」
など、とうとう口争となってしまった。
「ちょ、みんな、やめろって」
と、言う俺の言葉も全く無視。と、その時、ダンっ!
いきなり扉が開かれる。そこには特長、その他・・・・・・・・・・・・・
「き、貴族?」
そう、貴族たち、王族が立っている。なにごとだ。俺は10年以上ここにいるが、
こんなことは初めてだった。
「やかましいぞ、そして図が高い!」
あ、とみんなが気がついたように、膝を付く。皆昔は外で暮らし、貴族の前では
どういう態度をとるのか知っていた。だがそれを知らない俺はそこに棒立ちだった。
「き、貴様何をしている!跪け!」
「は、はい!」
そう言って俺も皆のみよう見まねで膝を付く。
「ナイカ、ナイカ・ボルスミス!」
その名は俺の名だった。
「は、はい!」
「貴様か?こんなやつに・・・・・」
と、貴族のお付きのようなものが言った。こんなやつに?
「ナイカ、貴様に重要な話がある、ついてこい!」
「ハッ!」
俺はその返事とともに、その貴族たちの跡をついていく。
「ナイカ!頑張れよ!」
など、仲間たちからの声、そしてさっきの奴らからはすごい目で見られる。
そして、その後ろをついていくと、なんと、階段を上りだした。
「え?あの、特長・・・」
「口を開くな!」
「は、ハッ!」
その階段を上る先にあるもの、それは・・・・・・・・・・
「10年ぶりの外だろ、目をだんだんならせ」
そう言って、扉が、扉が開かれる。
「うっ」
おもわず小さな声を上げる。10年ぶりの太陽の光。今は昼間らしい。ここはまだ人通りの薄い路地裏だったので、すぐに目が慣れてくる。
「早くしろ!」
「は、はい!」
そう言って、俺は特徴の跡をついていく。帰属の方たちはもう表から出たそうだ。
そして、路地裏を、路地裏を出ると、なんだこの光は!?
街中賑わい、明るい。アンノーンの村でしか育ったことのない俺はこの光景を見る
のは初めてだった。そして、
「乗れ」
と、特徴に言われて、そこに待っていたのは、
「白馬の馬車・・・」
それは王族だけが乗ることの許される馬車。
「わ、私がですか!?」
「そうだ!本来なら乗ることは許されない、だが今はヤムをえない」
そう言われ、そこに乗り込む。特徴も乗り込み、馬車が動き出す。
「あの、私は今から何を・・・」
「それはまた後で説明する、ただ重大な任務がある」
「重大な任務?」
「もう、口を開くな、いいな、もう絶対に開くな」
「ハッ!」
そう言われ、外を見ると、そこは・・・・・王族の城だった。
※ ※ ※
「この度はおめでとうございます、シルビア様」
「ありがとうございます」
綺麗な桃色ブロンドの髪。その名はシルビア・リヴァイア。高貴なる王族の生まれ。
そして今彼女は西の王、サムネシア王国の王、その息子、マルク・サムネシアとの
婚約の披露パーティーだった。
シルビア家は東の王べネス・リヴァイアが指揮する王国。まさにこの王国は今戦争
を仕掛けられようとしている。だが、その戦争相手は北の王国だ。北の王国はまさに、
東西南北の中で最も強く、兵力のある王国。その王国がついに戦力を整え、14年ぶ
りに戦争を仕掛けてきた。14年前、その昔その兵力になぜこの王国が屈しなかった
か、14年間なぜ何もしてこなかったか、それはある人物のおかげである。
その昔、14年前、戦争を仕掛けられた時、ある人物のおかげでリヴァイア王国は
北の王国の配下になることもなかった。その人物は神殺しでも竜殺しでも獣殺しでも
ない。その呼び名は、
『悪魔殺し』
だがその人はその戦争が終わり、両者ともに10年以上の戦争は休戦するとの競艇
を結んだあと、即座に姿を消した。10年たったが向こうも攻撃を仕掛けては来なか
った。その理由はその悪魔殺しのおかげだ。でも、何かの表紙で悪魔殺しが、消えた
ということを知られ、14年後、今、戦争を仕掛けてこようとしていたのだ。
そのこともあり、勝ち目のない戦争、だがリヴァイアは西の王国と協定を結ぶと決
断。娘のシルビアと西にマルクの政略結婚を結んだ。そして今披露会となっている。
だが万が一のことを考えシルビアだけは生きねばならないと考えた国王はシルビア
を西の王国に移住させると決断。だがそれは過酷で残酷だ。東から西に送る際に、艦
隊を動かせば、確実に北の王国にバレてしまうだろう。さすれば確実に殲滅させられ
る。そこで、考えたのは少数での移動だった。その際今、今日、西の王国から来てい
る、マルクの提案で一緒に行くとのことになったのだ。マルクの艦隊はとても少数で
来ている。一席の船のみ。それならば見つかるリスクも低い。
「マルク様がきたわよ!」
その声とともにその披露会場がざわつき始める。
シルビアとマルクは小さな頃に別れたきり、これが10何年ブリの再開となる。
まわりはまさに運命の再開と言っていた。
「シルビア様、良かったですね、おめでとうございます」
「ありがとう、ばあや、私も少し緊張しています」
「そうでしょう、小さな頃にあったきりの再開です」
「ええ、とても楽しみ、私の運命と信じているわ」
そう、シルビアもそう思っている。早くマルクの姿が見たいと待ち望んでいた。
親の都合での結婚に反対だったがマルクの名前を聞いたらそんな怒りは湧いて
来なかった。そして、やっと、マルクの姿が、現れた。
「マルク・・・・」
「シルビア?シルビアかい!?」
その大きなドアの前で待っているシルビアのもとにマルクがついに現れた。
「ええ!危ないところ、無事でなによりです」
「すまない、遅くなってしまった、でも、必ず君を無事に、我が国まで」
そう、マルクはいい、シルビアの手にそっと口づけした。
「ありがとう」
「いいや、これは僕の運命なのだから」
その行動に周りも盛り上がる。そして新たな声が上がる。
「ここに!シルビアとマルクの婚約を発表する!」
と、上のから声がする。
「お父様」
それはマルクの父親と、シルビアの父親だった。
そしてここに、マルクとシルビアの婚約が結ばれた。
※ ※ ※
王族は本当にいいところに住んでいる。俺はしみじみそう思った。この床の踏み心
地、すきま風一切入ってこないねずみの声も聞こえない。本当特務の秘密機関とは
大違いだ。
「ここだ、入るぞ」
「はっ!」
ガチャ。
その高そうなドアが綺麗な音を立て開かれる。そこには、何人もの貴族。
そして王族の姿が見える。
「来てくれたか特長」
「はっ!特務機関、防衛を任せる者を連れてまいりました!」
「ふむ、わが娘の命を託すのはどの顔だ?」
と、言うと、特徴が俺の背中をぐいっと押してくる。
「ほう、君か」
「は、はい」
わが娘の命を託す!?何を言ってるんだ、このひげおやじは。
「名は?」
「ナイカ・ボルスミスです!」
と、言うと帰属の奴らもじっくりと俺を見る。
「ふむ、神殺しが我が国にいればと思うと・・・となると竜殺しか?特長」
「い、いいえ!国王!こやつは特務機関から派遣したものでございます!」
「ほぉ、特務に竜殺しより優れるものが?」
「はい!失礼ながらこやつは特務の一番の古株でございます!この国の竜殺し
より、確実に腕は上のはずです!」
確かに、竜を殺すことを許されていないものの、許されれば、確実に仕留められる
腕は持つだろう。そう、そのキルを許されていないだけ。
でも、俺に何をさせる気なんだ。
「ほぉ、というと、出身は元獣殺しか・・・・・なんと獣殺しごときに任せることに
なるとは、だが、腕はたしかなのだろうな?」
「はい!腕は確かです!お言葉ながらこやつは獣殺しではありません!」
「なぬ?と、言うと?」
「こやつは・・・・・・・・・・アンノーンでございます!」
!?
一斉に周りが後ずさり、顔を真っ青に変える。
「あ、アンノーンだと!?」「あの、汚れた!?」「ふざけるな!」
「特長、ふざけているならその命、一瞬でなぎ払おうぞ」
「いえ!ふざけておりません!ですが、今、この国での一番の竜殺しより、確実に腕
は別格!姫様の命、お守りするならば今!地位等こだわることがありましょうか?」
「・・・・・・・そうか・・・・・ナイカ、といったか?」
「ハッ!」
「貴様に今からあることをしてもらう!」
「ハッ!」
「わが娘、シルビアの西の王国までの護衛をしてもらいたい、その命にかえても!」
「護衛でございますか、失礼ながらこのナイカ・ボルスミス外のことは一切耳に入り
ませぬので、少し、説明を願います」
「うむ、わが娘、シルビアと、西の王の息子、マルクが婚約を結んだ、そして今、北
の王国から戦争を仕掛けられようとしている」
との説明を長々受ける。
その戦争では確実に勝てるとの保証はない。そこで西の王国と競艇を結ぶ。そして、
万が一負けた時のためにシルビアだけは西に逃れさせたい。東の血を絶やしてはな
らない。そして大艦隊で行くと、北の王国に知られる可能性がある。そこで護衛をつ
けたいと。もちろんほかの護衛も付けるが専属の護衛を俺に任せるとのことだった。
何かあったとしても姫とマルクだけはお前が守ってくれと。そういうことらしい。
「・・・・・分かりました!全力でやらせていただきます!」
「ふむ、だがひとつだけ言っておく」
「ハッ!」
「むやみにシルビアと会話をするな、何か聞かれた時だけ返事をしろ、そして必要最
低限のことしか口を開くな!わかったか!」
「ハッ!」
アンノーンの俺には、ということか。まさか、国王にこんな形で出会うとは。
「ふむ、では早速船に向かってくれ、まもなくシルビアとマルクも現れる、そのほか
の護衛も現れる、あとはお前はシルビアのそばを離れるな、わかったか!」
「はっ!」
矛盾してるような。近づくなしゃべるなと言いながら離れるなって。
むちゃくちゃだ。
「では、私はこれで!」
俺はそう言ってその部屋をあとにする。外に出ると、既にさっきの白馬の馬車が待
っていた。息と同じように戸惑いながらも馬車に乗り込み。いろいろと頭を整理する。
今思えばこれからその王族の人達と何日化を共にするってこと。そう考えただけで
も緊張してくる。ほかの護衛の人もいい人であればいいが。そんな不安を抱いている
うちに船についたらしい。馬車を降りるとそこには10人位の兵が集まっている。船
もそこまで大きなものじゃなく、部屋が10部屋程度あるってかんじだ。
「あ、君かい?姫の護衛を任されたものというのは」
「は、はい!ナイカ・ボルスミスです!」
話しかけてきた男性は俺より年は上。20代後半くらいの人物。
そして胸には、竜殺しの紋章が入っている。その他にも8人程度が集まってくる。
「さて、これから共にのりきっていこう、では最初に姫様に挨拶に向かったほうがい
いな」
「姫様はもう?」
「ああ、もう中にいるらしい、私たちは会うことさえ禁じられているのでね」
会うことさえも禁じるか・・・・・・
本当にもしものことを考えてのことか。この人たちの中の誰かが裏切る可能性も、
0ではない。そういうことだ。
「わかりました、部屋というのは?」
「私が案内しましょう」
と、振り向くとそこには。ご老人?
と、思いやこの人の胸の紋章、リヴァイアの紋章だ。てことは、
「専属の召使でございます、あなた様がナイカ・ボルスミスさまで?」
「はっ!ナイカ・ボルスミスでございます!」
「では、こちらに」
と、言いながらそのご老人の跡についていく。
船には2階があり、そっちの方に姫はいるらしい。そうか、一階は兵士たちの・・・
2階に上がると一気にがらっとふいんきが変わる。高貴で美しくなった。
なんだこの差は。竜殺しだって貴族だろ。これが王族か。
そしてご老人がある部屋の前で止まった。
「こちらがあなたのお部屋でございます」
「え?わ、私ですか!?私がここに!?」
俺が2階のこんなキレイな部屋!?初めてだ、こんな風景。生まれて初めてだ。
「では、お荷物を」
そう言って荷物を中へ運び、次にほかの部屋へと進む。
「それにしてもお若いですね」
「はい、年は16です」
「それで、こんな重要な任務を?利き腕とききましたが」
「お言葉ですが、獣すら殺すことを許されてはいません、許されているのは人のみ」
「そうですか、ですが今回の敵は人、あなた様にご加護を」
「・・・・・・・はい、ありがとうございます」
そう話していると、今度は一風変わった部屋だった。