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第三章 二月十五日②

 一時間目が終わった後の休み時間。

 俺は校長室に向かった。ドアを開けて、中に入った。

「ノックぐらいしたらどうだ。恐妖」

 樂はこちらに視線を向けた。

「別にいいだろう。身内なんだからな。それとも、俺は身内に数えられていないか?」

 俺はそう言いつつ、ソファーに座った。

「どうして、そんなことを言うんだ?」

 樂は怪訝な表情をする。

「俺はあいつを殴ったり蹴り飛ばしたりした。そのことを怨んでいて、身内として数えられてないんじゃねえかと今、思った」

「怨むわけないだろう。お前はおれの大切な孫なんだからな」

「そうか。冷流は……どうだ?」

「安心しろ。怨んでいない。あの後『どうしよう。恐妖を怒ってしまった。大切で大好きな恐妖に怒るなんて。もう顔合わせらんない』と泣き喚いてたしな」

「それを聞いて安心した」

 良かった。二人とも俺を怨んでいなくて。

「で、恐妖。何か用があって来たんじゃないのか」

「ああ、そうだ」

 俺は一時間目に起きたことを話した。

「ほう、そんな事が」

「叩いたくらいで取り乱すなんてバカな奴だよな。叩かれたくらいで樂に言おうなんて思わねえしな」

 そう言いながらも、樂にすべて話してしまったが、良しとする。

「で、恐妖はどうしたいんだ?」

「そうだな。一週間自宅謹慎で手を打ってやる」

「伝えておこう」

 俺は樂に頷き、校長室を出た。


 ☆☆


 それから数時間が経過して昼休みになった。

「恐妖。四時間目は咲がいるクラスの授業やったんやけど、咲、欠席やったわ」

 黄砂が弁当を開けつつ、そう言った。

「欠席? 風邪でも引いたのか」

「そうみたいやな。大丈夫やろか。早く治ってくれりゃいいんやけどな」

「そうだな」

 俺は黄砂に同意した。

 昨日は元気だったんだがな。帰りにお見舞いというちゃかしをしに行ってやるか。

「恐妖。帰りに咲のお見舞いに行かへんか?」

「俺もそう思っていたところだ」

 ちゃかしに行くだけだがな。濡れたタオルを額に乗せるぐらいのことはしてやってもいいが。

 黄砂が作ってくれた弁当を食べる。おかずは生姜焼き、ウィンナー、コロッケ、ほうれん草の卵とじだ。

「おかゆとか咲に作ってあげた方がええかな? どう思う、恐妖?」

「黄砂がそうしたいのであれば、そうすればいいんじゃないか?」

「せやな。丹精込めておかゆを作って咲に食べてもらおう。それで早く元気になってもらおうやないか」

 黄砂は拳を握る。それほどまでに咲のことを心配してるんだな。まあ、俺も多少なりともは心配しているけどな。

「話は変わるが、黄砂は寝顔も可愛いな。一定の間隔で寝息を立ててな」

「……寝顔を見られてたなんて、何か恥ずいな」

 黄砂は頬を真っ赤に染めた。

「恥ずかしがることはない。何せ見てたのはこの俺なんだからな」

「『この俺』って一体何様やねんな、恐妖は」

「生徒会長だ」

「その返答もうええわ」

 何か黄砂が呆れているような気がするな。まあ、いい。

 俺は昼食を食べ終えて、黄砂を見た。

「黄砂。今日も泊まっても構わないが、どうする?」

「……今日も泊まっていくわ」

 黄砂は満面の笑みを浮かべた。


 ☆☆


 学校が終わって、俺と黄砂は咲の家へと向かった。舗装された道路を昨日と同じく黄砂と腕を組んで歩いた。

 この方角はアパートが多い。滅火高等学校を中心とした右側と左側でこうも違うとはな。

 俺の家の方角には、スーパーが一店舗あるが、この方角にはスーパーがない。滅火高等学校の正面にコンビニがあるが、ちょっとした買い物しかできない。食材を買い込もうとするなら反対の方角へ行かなければならない。大変である。

 俺と黄砂は肩を寄せ合って中睦ましげな雰囲気を醸し出しながら歩いた。やがて、咲が一人で住んでいる二階建ての一軒家が見えてきた。

 ポストの中に手を突っ込み、スペアキーを取り出した。在処は咲が前に教えてくれたから、知っていた。

 鍵穴に挿入して回したが、開かなかった。もう一度鍵穴に挿入して回したら、今度は開いた。扉は最初から開いていた? えらい無用心だな。

 とりあえず、扉を開けて家の中に入った。

 まずリビングに向かったが、咲の姿は見当たらなかった。

「二階やろか? 見てくるわ」

 黄砂は二階に駆け上がった。

 リビングを見渡した。テーブルの上にカップラーメンが置いてあった。フタが開いたままだ。さらに辺りを見渡す。

 ガスコンロの上にやかんが置いてあった。近づいて中を見ると、水が入っていた。

 何というかまるで今からカップラーメンを食べようとしているみたいだった。

「二階にもおらんかったわ」

 黄砂が首を傾げながら、一階に降りてきた。

「黄砂」

「何や恐妖」

「先に帰っていいぞ」

 黄砂は怪訝な表情で俺を見た。

「恐妖は?」

「俺は調べたいことがあるんでな」

 俺は鍵を黄砂に渡した。

 黄砂は渋々といった感じで家に帰っていった。

 俺は家中を隈なく探索した。

 数十分が経過して、日記とアルバムを何冊か発見した。

 アルバムを開けてパラパラ、とめくる。咲が写っている写真が何十枚とあった。咲の隣には見覚えのある人物――妖華咲(・・・)が写っていた。咲とあいつ――もう一人の従姉弟は知り合いなのか?

 何十枚とある写真の中から一枚取り出した。裏返して見ると、右下に名前が表記してあった。


 姫金菜紅・妖華咲


 妖華咲というのは、従姉弟のことだろう。読み方は分からないが、前者の名前は咲のことだろう。つまり姫金菜紅が本名で妖華咲は偽名ということになる。

 初めて咲と会った時、あいつと名前が一緒だな。こんな偶然があるのか、と思ったが偶然ではないのかもしれない。

 どういう場合において偽名を名乗るか。何らかの犯罪を犯して本名を知られると困るから、というのが考えられるな。他には詐欺師を職業としている、だな。

 咲は犯罪を犯すようなタイプではないし、相手を騙せるほど喋りが上手いわけでもない。ではこの二つの線は消えるわけか。

 日記は家に帰ってじっくり読むとしてだな。

 日記とアルバムを勝手に拝借して玄関へと向かった。

 何気なく辺りを見回すと写真立てが目に入った。偽名を使っている咲と従姉弟の咲が写っていた。写真立てに入れてるところを見ると、仲が良かったのかもしれないな。

 咲のじゃない。姫金菜紅の家を出て、帰途へとついた。

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