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第二章 二月十四日 咲視点③

 学校が終わって、私は校門のところで待ってくれていた紫暗さんと一緒に帰る。恐妖は家の方角が違うため、校門を出たところで別れた。黄砂せんせーは恐妖の家にお泊りするらしく、一緒に帰っていった。

 私と紫暗さんは舗装された道路を歩いた。左右には恐妖の家がある方角と違って、アパートが建ち並んでいる。たまに二階建ての一軒家が建っている。

 私はそっと紫暗さんの顔を窺う。紫暗さんは正面を向いて歩いていた。正面もかっこいいけど、横顔もかっこいいな。

 紫暗さんは私が見ていることに気づいたのか、こちらを見る。

「どうしたんだい? 咲さん。僕の顔に何かついているのかな?」

「……いや、その、かっこいいなと思って」

 私は恥ずかしくなって、俯いてしまう。きっと真っ赤になっていることだろう。

「かっこいい、ね。ありがとう咲さん。嬉しいよ」

 ポン、と頭に手を置かれた。顔を上げると紫暗さんは優し気な表情を浮かべていた。恐妖はきっとこんな表情はできないだろうな。できたらできたで引くけどね。そんなキャラじゃないからね、恐妖は。

 紫暗さんの優し気な表情を見ていると、顔が熱くなってくる。さっきよりも、ますます顔が真っ赤になっていることだろう。

「可愛いね」

「あう!」

 恐妖に言われた時とまったく同じ反応をしてしまった。学習能力がないね、私って。

 紫暗さんは苦笑しながらも、頭に置いたままの手を動かして撫でてくれた。

「咲さんの髪の毛さらさらしてるね」

「それはいいシャンプーとコンディショナーを使っていますし、念入りに洗っていますから。さらさらしている方がスッキリするので」

「そうなんだ」

 紫暗さんはまたもや撫でてくれる。さらさらしている髪の毛が好きなのかな。

 その後も駄弁りながら歩いていると、私の家が見えてきた。この界隈では珍しい二階建ての一軒家だ。

「それじゃあ、咲さん。ばいばい」

 紫暗さんは軽く手を振ってきた。

「はい、紫暗さん。ばいばいです」

 私も軽く手を振り返した。

 紫暗さんはこちらに背中を向けて歩き出した。紫暗さんの背中が徐々に遠ざかっていった。私はその背中が見えなくなるまで、その場所に立ち尽くして見送った。

 私は自宅の前まで歩いた。鍵を取り出して鍵穴に挿入する。扉が開く。家の中へ入ると、すぐに鍵をかけ、階段を上がった。

 自分の部屋の中に入って、私服に着替えた。窓際に置いてあるベッドにドサッと座った。恐妖と黄砂せんせー、紫暗さんとお喋りできて楽しかったな。明日は今日以上にお喋りしようかな。

 小腹がすいたので、階段を降りて、ダイニングへと向かった。

 ダイニングキッチンの下の扉を開けて、何かないかと探す。カップラーメンがあった。それを取り出した。

 やかんに水を入れて、沸かす。早く沸かないかな、と空を流れゆく雲を眺めて、喜ぶ子供のような心境で待っているとインターホンが鳴った。

 誰だろう? 何かしらの勧誘かな。だったらお断りしなきゃ。私は顔を引きしめて、できるだけ大人びた表情を作ってみる。

 ダイニングを出て、廊下を歩いた。玄関の扉を開けた瞬間に口を何かで押さえられて、私は意識を失った。


 ☆☆


 私はゆっくりと目蓋を開けた。髪の毛が邪魔で前が見えない。手でどけると、清潔感が溢れる真っ白な天井が目に飛び込んできた。

 人の気配も音もしない静かな場所。

 私は身体を起こした。目線を下げる。

 両足に白いシーツがかけられていた。どうやら、ベッドで寝ていたらしい。

 周りを見渡す。壁も床も真っ白だ。一体ここはどこだろう。何で私はこんなところにいるのだろう。私は胸に何も渦巻かなくてがっかりした。こういう場合、何か渦巻いても良さそうなものなのに。

 どこもかしこも真っ白すぎて、何か落ち着かない。

 私は意識を失う前のことを思い出して、はっとした。……カップラーメンをまだ食べていない。沸かしている最中に意識を失ったから。せめてカップラーメンを食べ終わった後に来て欲しかった。危機感なさすぎだな、私って。

 とりあえず、ベッドから降りてみる。

 どこかから出られないかと、床や壁を探索していると何かにぶつかった。足がジーンとしてきて痛い。ぶつかった場所をよく見ると取っ手があった。取っ手を掴み、引っ張ってみる。冷蔵庫だった。壁の色と同化していて分かりづらい。

 中を見渡すと、コーラがあった。ちょうど、喉が渇いていたからコーラを手に取り、勝手に飲んだ。すぐに噴き出してしまった。それはコーラではなく醤油だった。せんせーの言葉が思い返される。せんせーの言うように、よく見て判断すべきだった。というか、醤油って冷蔵庫に入れる奴だったっけ? 違うよね。ダイニングキッチンの下だよね。

 冷蔵庫が私の噴き出した醤油によって汚れてしまった。怒られたらどうしようか。私のせいじゃない。冷蔵庫に醤油を入れるあんたが悪いとでも言おうか。言い訳がましいかな。勝手に飲む奴が悪いって言われたら反論できないしね。

 何か拭くものはないかと探索していると、ガチャっと音がした。私は振り向いた。ベッドが置いてある正面の壁が開いて誰かが入ってくる。あそこって扉だったんだ。これも壁の色と同化していて分かりづらい。

 入ってきたのは長い金髪で軽くウェーブがかかっている女性だった。その人物の顔を見て、私は驚いた。

「れ、冷流れいるさん」

 その女性は私の知っている人物だった。

「久しぶりだな。菜紅なく

 冷流さんはそう言って笑った。本名で呼ばれたのはいつ以来だろうか。しばし考えて、二年ぶりということを思い出す。滅火高等学校に入学してからは、ずっと咲と呼ばれていたから懐かしい。

「あ、あの」

「菜紅」

 冷流さんは私の言葉を遮った。

「言いたい事はたくさんあるだろう。だが、今日はもう遅い。明日教えるから、今日はもう寝ろ。なんなら俺様が一緒に寝てやろうか」

「……さっき一緒に寝てくれませんか、と言おうとしたんですけど」

 私はこちらに近づいてくる冷流さんを見つめながら、そう言った。

「あ、ごめん。先走ってしまって」

「別にいいですよ。それと冷蔵庫を醤油で汚してしまいました。ごめんなさい」

 私は冷流さんに頭を下げた。

「冷蔵庫? この部屋にそんなのがあったのか。知らなかった」

「え? 冷流さん知らなかったんですか」

 私は驚いた。てっきり知っているかと思っていたのに。

「その、何というか、この部屋は真っ白すぎて落ち着かない。さっさと出て行きたくて探索とかしなかったんだよ」

 冷流さんは私から視線を逸らすと、ポリポリと頬を掻いた。

「そうなんですか。私も最初はまったく気づきませんでしたけどね」

「探索して気づいたのか」

「はい」

 冷流さんは顔を動かして、醤油で汚れている冷蔵庫を見た。

「この部屋に冷蔵庫があるのはいいとして、何で醤油で汚れているんだ?」

 言いながら、冷流さんはハンカチで汚れを丁寧に拭き取っていく。

「冷蔵庫に入っていた醤油をコーラと勘違いして飲んで噴き出してしまったんです」

「……何を思って醤油を冷蔵庫に入れたのかさっぱり分からない。まあ、いいや。さて、そろそろ寝ようか菜紅」

「はい冷流さん。あっ!」

「何だ? 菜紅」

 冷流さんは訝し気な表情で私を見た。

「カップラーメンを食べようとしていた矢先に連れ去られたんで食べれませんでした。腹へってたから食べようと思ったのに」

「何かごめん。明日の朝にカップラーメンをあげるから、それで勘弁してくんねえか」

「いいですよ。冷流さん」

「それじゃ寝るか」

「はい」

 私と冷流さんはベッドに寝転ぶと、すぐ眠りに落ちた。

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