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第二章 二月十四日 咲視点②

 昼休みの時間になった。

 私は通学鞄の中から、朝早くに起きて作った弁当を取り出した。二段弁当で上に炊き込みご飯を、下におかずを入れている。

 おかずは豚の角煮や玉子焼き、からあげだ。

 昼食を食べ終えると、私は通学鞄の中から、恐妖に渡すものを取り出した。

 教室を出て、廊下を歩き、恐妖がいる教室の引き戸の前に立った。引き戸を開けると、恐妖が黄砂せんせーの頬をいじっている姿が視界に映った。黒髪で藍色のメッシュ。右腕に生徒会の腕章をしている。整った端整な顔立ちだ。生徒会長で一年生の時は副会長を務めていた。

 私は恐妖を呼びながら、手招きした。恐妖はこちらを見た。

「咲か。何だ」

 恐妖は黄砂せんせーの頬から手を離して近づいてくる。

「はい、これ」

 私は包装された箱を恐妖に渡す。恐妖は片手を伸ばし、箱を受け取った。

「今日は何のためにするかよく分からないバレンタインデーの日だね」

 私は満面の笑みで言う。

「そうだな。本当に何のための日なんだか。別にバレンタインデーの日じゃなくても、チョコは食えるしさ。年がら年中コンビニやスーパーとかで売ってるわけだから。この日にチョコを渡す必要が無い。食いたくなったら買うだろうから、もらう必要も無い。俺は甘い物大嫌いだから買わないけど。まあ、要するに単なる自己満足なんだろうな」

 恐妖はそう言いながら、鼻で笑った。

「自己満足? どういうこと?」

 私は意味が分からず、首を傾げた。

「そうだな。本命のチョコを渡す場合、好きな人にチョコを渡せた自分に満足する。義理チョコを渡す場合、好きではないけど、仕方なくチョコをあげる自分に満足する。チョコをもらう場合、もらえた自分に満足する。推測でしかないから、本当に満足してるかどうかは分からないけど」

 恐妖はそう言って肩をすくめた。

「ほぉーなるー」

 私は恐妖の説明に納得して頷いた。

「なるーまで言ったんなら、ほども言えよ」

「なるーで伝わるでしょ?」

「まあな」

 そこで黄砂せんせーが三つ編みを解いていてメガネをかけていないことに気づいた。どうしたんだろう。私は首を傾げた。恐妖が怪訝な表情をする。

「黄砂せんせー」

 私は気になって黄砂せんせーの方に近づいた。

「ん? 何や咲」

「何で、三つ編みを解いてるんですか? メガネをかけてないんですか?」

「それはやな。恐妖が三つ編みを解いてコンタクトにした方が似合う言うてな。……強暴やからって」

 黄砂せんせーは俯きながら言った。可愛いな、黄砂せんせー。

「それはひどいですね。黄砂せんせーは強暴じゃないのに。まあ、確かにそっちの方が似合ってますけど」

「そう? 似合ってんのか。嬉しいわ」

 黄砂せんせーは本当に嬉しそうだった。

「コンタクトはどうしたんですか?」

「休み時間のうちに近くのコンビニに行って、買ってきたんや」

「そうですか」

 私はあごに手をやりながら、頷いた。

「咲。開けていいか?」

 恐妖は私たちに近づいてきて、そう言った。

「うん。いいよ。開けても」

 私は恐妖の方を見ると、そう言った。

 恐妖は包装されている箱を解いていき、包み紙をはずした。中から現れたタッパの蓋を開けてシャーベットを見た。

「シャーベットか。何味だ?」

 恐妖は聞いてきた。

 私は人差し指を上げて、

「血味!」

 と、元気よく叫んだ。

「ち味? ちって怪我した時に流れる血のことか?」

「そうだよ」

 私の返事を聞いて、恐妖は何事かを考えているようだった。やがて、

「それじゃ、シャーベットを食べるか」

 と、そう言った。

 恐妖はシャーベットを手に取ると、口元に持っていきかじった。

「恐妖。お味はいかが?」

「歯が抜けた後のような味」

「そりゃ、血なんだから当然だよ。私が言いたいのはそういうことじゃなくて美味しいかどうかってこと」

「血って美味しいものじゃないだろう。が、咲の血は美味しい」

「ふふ、嬉しい」

 恐妖がそう言ってくれたのが心から嬉しくて、私は満面の笑みを浮かべた。

 ふと、そうだ、と思って黄砂せんせーの方を見る。

「黄砂せんせー」

「なんや」

「頬を触らせてください」

「頬? 何でうちの頬を触りたいんや咲」

 黄砂せんせーは首を傾げた。

「それはですね。恐妖が黄砂せんせーの頬を触ってるのを見て、どんな感じなんだろうって気になっちゃって」

「ええで。思う存分触ったらええ」

「はい」

 私は黄砂せんせーの頬を触った。左右に軽くひっぱたり戻したりする。黄砂せんせーの頬はとても柔らかかった。

「黄砂せんせーの頬スベスベしていて気持ちいいです」

「え? うちの頬スベスベしてるんか」

 黄砂せんせーはまたもや嬉しそうな表情を浮かべた。

 頬を触るだけでは物足りなくなり、私は黄砂せんせーの髪の毛を触った。黄砂せんせーの髪の毛を上げて団子にしたり、ポニーテイルにしたりして遊ぶ。最終的にストレートに戻し、遊びを終えた。

「黄砂せんせー黄砂せんせー黄砂せんせー」

 私は何度も黄砂せんせーの名前を叫んだ。

「何や咲」

 黄砂せんせーは可愛らしく首を傾げ、問い返してきた。

「めっちゃ好っきゃねん」

 なぜか、いつもと違う言葉遣いになってしまった。

「うちもすごく好きです」

 黄砂せんせーもいつもと違う言葉遣いになっていた。

「黄砂せんせーの全てを私に下さい」

 いつもと同じ言葉遣いに戻った。

「ええで。うちの全てを咲にあげたるわ」

 黄砂せんせーは嬉しすぎる返答を返してくれた。

「落ち着け。その前に俺の全てをお前らにあげ……」

『いらん!』

 私と黄砂せんせーは見事にシンクロした。

「若干、傷ついたようなそうでもないような気がする」

 恐妖は何とも清々しい表情でそんなことを言った。

「恐妖は言葉で傷ついたりせえへんのやな」

 唇を尖らせながら、黄砂せんせーは言う。

「……可愛いすぎる。黄砂いやハニー」

 恐妖は黄砂せんせーを見つめていた。

「ハ、ハニーって何言うてんねん! そ、そんなこと言われても困んねんて!」

 黄砂せんせーは両手を振り回し、顔を真っ赤にしながら言った。

「……はぁ。黄砂せんせー可愛いすぎます。はぁ~」

 黄砂せんせーのあまりの可愛さに、私は思わず涎を垂らした。

「可愛いってそんな。咲のほうが可愛いで」

 黄砂せんせーはこちらを見つめて言った。

「俺は両方可愛いと思うがな」

『あう!』

 私と黄砂せんせーはまたもやシンクロした。

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