第9話
今日は新キャラも登場しますよぉ!!
目を開けると、白い天井が見えた。
それと同時に微かに消毒液の臭いがする。
保健室だ……。
暖かい布団から上半身を上げる。
ボーッとしていると、
「あっ、もう起きてたんだね」
「…はい、鮃先生」
キャスター付き椅子を回転させ私の近くまできた男性。
鮃先生は養護教諭。
簡単に言えば保健の先生だ。
髪は寝癖でボサボサ。
服は白衣にスーツ。だけど所々、破れてる。
さらに、一般男性よりも身体に筋肉がなく、細い。
まさに「鮃」がよく似合うと毎度、思う。だからなのか、
「先生、ご飯ちゃんと食べてますか?」
「生徒に心配される僕ってなんか嫌だ」
よく生徒達や先生方に心配される。
苦笑いする先生。
数分、たわいもない話をしていた。だけど…
あれ?なんか私、大切な事を忘れてる気が…
「あぁ!!」
「うわっ!」
私の言葉に驚く先生。
そうだよ!何でこんな事を忘れちゃってたんだろう!
「どっどうしたんだい?」
「いっ今って何時間目ですか!」
「1時間目の終わり頃だよ。大丈夫、クラスの子もゆっくり休めって言ってた」
「そっそうですか…」
その瞬間、一気に力が抜けた。
壁に背中を預ける。
窓のカーテンが風でふわりと舞い上がる。
「教室で倒れたんだって?どうしたんだ?」
先生の言葉を聞いた瞬間、手が震え出す。
さっきまでへらへらしていた先生の顔が変わる。
先生は学校で唯一、私の秘密を知っている人だ。
「あの事を思い出したのかい?」
「簡単に言えばそうなんですけど…あみだくじでヒロインになっちゃって私、狼君に抗議したら神様を恨んだら?って言われて……。それで、あの事を思い出しちゃって……」
布団をこれでもかと握る。震えが止まらない。
すると先生は少し微笑み、
「狼君ってさっき、君を運んできた男の子だね」
「えっ?そうなんですか」
先生は頷く。
「何だか、やってしまったって顔してたからどうしたんだろうって思ったけど、そういう事だったのか」
「わっ私…謝らなくちゃ。狼君にもみんなにも迷惑、掛けちゃって」
「小乃さん、焦っちゃダメだよ。多分だけど、もうすぐ来るんじゃないかな?」
先生が言い終わった瞬間、チャイムが鳴った。
だけど、遠くから廊下を走る音が聞こえる。
廊下を走ってはいけません。絶対に。
ガラッ!!!
保健室のドアが開く。
それと同時にクラスのみんなが一斉に入ろうとしていた。
学校の建物を壊してはいけません。絶対に。
「実行委員、大丈夫?」
「兎ちゃんって呼ぶ約束じゃない!」
「兎ちゃん、どこか痛くない!?」
「兎ちゃん、愛してる~!」
「誰だ今、告白した奴!!」
廊下で大声を出してはいけません。先生が来ます。
ようやく、みんなが保健室に入り落ち着いたところ…
「身体の方は痛くないし、大丈夫です。兎ちゃんって呼んでくれるんですか?嬉しいです。愛してるって友達としてですよね。とっても嬉しいです。もし、告白ならお断りします」
これで全部、返事は返せた。
顔を上げると一安心している人達。
腕を空に突き上げ涙を流している人達。
壁に手をつけ涙を流す人とそれを慰めている人達。
そして……囚人のような人が1人。
「どうして狼君は縄を巻かれているんですか?」
首を傾げる私とは裏腹にみんなは正座をしている狼君を睨んでいる。
「うさちゃん…その…きつい事言ってごめん。倒れるなんて思ってなくて、その後うさちゃんを姫様抱っこして保健室連れてった後、教室に戻ったらこんな事に……。だから、許してくれなくても良い。けど、きつい事言ってホントにごめん!」
頭を下げた狼君。みんなも満足そう。
「あっあの…縄を解いてあげてください」
縄から解放された狼君は俯いたままだ。
「別に、謝らなくても大丈夫です。謝るのは私の方です。みんなの準備を遅れさせてすみません」
私が頭を下げると「大丈夫だよ!」とか「狼が悪い」とか、いろいろ優しい言葉をかけてくれる。
「あっあの…でも……お姫様抱っこは…ちょっと……誰か見てたんじゃ」
「「「「「「あっ…」」」」」」
私が倒れた時、休憩時間があった。
その時、他のクラスの人達が見てたとしたら…
「あ~…いたよ。いたいた。めっちゃ見てた」
狼君は遠くを見ながらそんな事を呟いていた。
「兎ちゃん、有名人になるね」
虎君がにっこり笑っている。
「いっ嫌だ~~~~~~!!!!」
私は今日、2回も叫んでしまった。
その時、チャイムが鳴り響いた。
「あっ鮃先生!チャイムが鳴ったので帰ります」
クラスの女の子が今まで空気と化していた先生に声をかけた。
「うん、分かった。準備、頑張ってね」
「「「「「「はい!!」」」」」」
そうして、1年4組一行は帰っていった。私を除いて。
「面白いクラスだね。笑いを堪えるのに必死だったよ」
そう言った先生の目には涙がにじんでいた。
「私のクラスは元気の塊です。みんな、学園祭を楽しみにしています」
ブラウスから指しか出ていない自分の手を見る。
「小乃さん、幸せそうに笑うね。久しぶりに見たよ、その笑顔」
「えっ?私、笑ってました?」
先生は微笑みながら頷く。
「もう、身体は動くかい?」
「はい、おかげさまで楽になりました」
「それならもう、教室に帰っても大丈夫そうだね。それと、学園祭の準備、忙しいかもしれないけど楽しくやってね」
みんながいるんだ。きっと楽しくできる。
「はい!」
今、私は自分でも笑えているような気がした。
「失礼しました」
保健室から出て、歩いているのにスキップをしているみたいだ。
「よし!頑張ろう」
そんな事を言いながら歩いていたからか、
「小乃さん…君の闇にはいつ、光が差し込むんだい?」
鮃先生の言葉は全然耳に入ってこなかった。
今は教室前。みんなの声がよく聞こえる。
深呼吸をして…よし!
ガラガラ……。
「あの…遅くなってすみま「兎ちゃん!」
あっ、虎君だ。よく入ってきたの分かったね。
「もう、身体の方は大丈夫なので準備に復帰します」
「そっか……。兎ちゃん、シンデレラなんだけどさ…どうする?」
あっ、そっか。事の発端はシンデレラの配役。
でも……
「私、やってみようと思います。皆さんに迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
深く深く頭を下げる。
「「「「「「兎ちゃん…」」」」」」
何だか、すすり声を聞こえる。
恐る恐る顔を上げるとみんなが泣いていた。
「なんて良い子なんだ!」
「迷惑をかけたくないとか言わないで」
「心配だわ」
「もう俺ら、親みてーじゃん」
口々にそう言っている。もしかして!
「あの!私、何かみんなに悪い事言ったんじゃ「違うよ」
頭に手を置かれ、隣を見上げると狼君でした。
「うさちゃんが倒れた後、みんな仕事が手に付けられないほど心配で心配で。俺は後悔からだけど」
「そうだったんだ…それでは皆さん!準備に取りかかりましょう!」
「「「「「「はい!!!!」」」」」」
みんなが準備に取りかかり始めた頃、私は黒板を見ていた。
「シンデレラ」の下に大きな字で「小乃 兎」と書かれている。
「セリフ、覚えなくちゃ」
「そっか、小っ…兎ちゃんは1番セリフが多いんだったな」
「うわっ!」
おっ驚いちゃった。隣を見ると…
「樋野君…でしたよね?」
「おっ!覚えてくれてたんだ」
にっこり笑う樋野君の歯の中に八重歯がある。
背は虎君より少し小さく、短髪。
樋野君は陸上部で足が速いと評判だ。
名前にだって「樋野千唯汰」、チーターが入っている。
あだ名は「チータ」。樋野君も気に入っている。
「樋野君は何の役ですか?」
「俺か?俺は舞踏会に来た貴族…」
「セリフはあるんですか?」
「多分ない…だからナレーターとか照明とかに回される」
「そういえば…準備の方は?」
樋野君はたしか、屋台係のはず。
「おぉ!そうだそうだ。屋台の設計図がないんだ。どこに行ったか知ってるか?いつも小っ兎ちゃんが持ってるって聞いたから」
「はい。でも今日はもう、虎君に渡したと思ったんですが…」
「虎も渡されたって言ってるんだ。でも、1時間目は準備をしなくていつまであったか分からないんだ」
私と虎君が渡している所は多分、他のみんなも見てる。
もしかして……
「あの…盗まれたって考えた方がいいのでは?」
「でも…いつなんだ?」
「休憩時間の間とか…みんな、保健室に行ってましたし」
「そっか!!じゃぁ、屋台係のみんなに報告してくる!」
「お願いします」
樋野君が屋台係の方に行った。
「うさちゃん…」
「あっ狼君。聞きましたか?」
「あぁ…毎年、そういう事はあるらしい。特に屋台係の設計図が盗まれるのが多い。まずいな」
「はい。屋台係は1番、進んでいません。今、他の係にも手伝って貰ってますが設計図がなければ……」
狼君と私は腕を組み、考え込んでいる。
端から見れば、オオカミとウサギが威嚇をし合っているように見える。
「狼~!兎ちゃ~ん!どうしよう~!」
虎君が涙目になりながらゆっくり走ってきた。
「今考えてるから待ってろ」
狼君…虎君に冷たくしちゃダメです。
まるで、オオカミに説教されているトラのように見えます。
「やっぱ、取り返すしか方法はないな。虎、短先を呼んでこい。うさちゃん、みんなにこの事を言って」
虎君と私は頷く。
それから、虎君が教室を飛び出していった。
私は、教卓の前に立ち、深呼吸をする。よし。
「皆さん、少し準備を中断して話を聞いてください」
「なんだなんだ」と口々に喋り出すみんな。
「屋台係の設計図が無くなりました。心当たりのある方はいませんか?」
「知ってるか?」
「ううん。兎ちゃんが虎君に渡してる所は見たけど…」
屋台の設計図はどこに行っちゃったんだろう……。
その時、教室のドアが開かれた。
第10話へ続く
誤字・脱字などありましたらどうぞ書いてください!!