第8話
今回は配役の発表がありますが!意味不明なところもありますので質問などどうぞしてください!!
「いっ嫌だ~~~~!!!!!!」
さぁ、こんな大声を出したのは誰でしょう?
「「「「「「実行委員長、うるさい」」」」」」
はい、私です……。
―――――――遡ること30分前―――――――
賑やかな廊下を1人で歩いていた私。
誰もが学園祭の準備で朝が早い。
しかし私には最近、不思議なことがある。
それは、
「おはよう!実行委員長」
「おっおはようございます」
クラスの女の子が挨拶をしてくれた。
私は1礼して挨拶。
「よっ!実行委員長」
「おっおはようございます」
クラスの男の子が挨拶をしてくれた。
私は1礼して挨拶。
「あっ!おはよう、実行委員長」
「おっは~!実行委員長」
「おっおはようございます」
クラスの女の子達が挨拶をしてくれた。
私は1礼して挨拶。
この後も同じ事を何度か繰り返す。
これが不思議なこと。
今まで挨拶なんて狼君と虎君だけだったのに。
「うさちゃん、幸せそうだね」
「おっおはようございます、狼君」
「おはよう、うさちゃん」
狼君は隣の席の虎君の椅子に私の方に向いて座った。
「挨拶をたくさんしてくれるなんて何年ぶりだろうって思っていて」
自分の指先しか見えない手をじっと見つめる。
「うさちゃんは案外、みんなを惹き付ける力があるんだよ」
「わっ私に?ないです、絶対ないです」
手を見ていた目を狼君に向ける。
「なんでそんなネガティブなんだろうね、うさちゃんは」
狼君の表情は微笑んでいるのに、なぜか苦しそうな顔をしていたような気がした。
「そっそれは…」
「おっはよ~う!狼~!」
言いかけた言葉を遮ったのは…
「とっ虎、重い…」
お馴染みの虎君でした。
さっきまで春のような穏やかさだったのに、虎君が来るとなんで夏の暑さを感じるんだろう?
まるで動物の食事中を狙って身を潜めていたトラみたい。
「俺の席に座るなんて10年早いわ!」
「いや。その頃には俺達、卒業してるし」
全く、似ていないような2人は意外と気が合うとつくづく思う。
「そういえば、あみだくじの方はどうですか?」
「あみだくじなら、短先に渡した」
「えぇ!あの短先にか!?」
なぜか、虎君が驚いている。
「俺だって、楽しみにしてるんだ。全部を知ったらその後の楽しみが半分、なくなるなんてご免だ。だから、あみだくじは全部、短先に渡してるんだ」
確かに。狼君だって高校生初めての学園祭を楽しむ権利はある。
私も、先に自分の結果が分かったらちょっと嫌かも。
虎君を見ると、納得しているような納得していないような顔をしている。
「台本の方は進んでいますか?」
「あぁ。でもなぁ…」
「どうしたんです?」
狼君の眉間の皺がだんだん深くなっていく。
まるで、今食べるか!後で食べるか!と悩んでいるオオカミのように。
「配役は決まっているんだけど、動物が決まらないんだ」
「動物ですか……」
私と狼君が「う~ん」と考え込んでいる中、虎君がツルの一声ならぬトラの一声を発した。
「そんなの、あみだくじが発表されてから決めればいいじゃん」
虎君の言葉に私と狼君は頭が疑問符だっただろう。
「あみだくじで決まった奴の名前に入っている動物で配役をやればいいっていうことだよ」
「「あぁ」」
私達は納得且つ賛成の頷きをした。
それと同時にチャイムが話が終わったとでも告げるように鳴った。
狼君は自分の席に戻り、ようやく虎君も自分の席についた。
ガララッ!まだ、話し声のあった教室に一際大きなドアの音が鳴った。
その瞬間、真夜中のような静けさになる教室。
「おはよう!準備の方は進んでいるか~!!」
「「「「「「おぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」」
先生、あなたは本当に教師ですか?
「実行委員長、報告を!」
「はっはい!」
ガタッと椅子を思い切り引いてしまった。
緊張しすぎ、私。
その時、みんなが微笑ましそうに見ていたことなど知る由もなかった。
「報告をします。屋台係と裁縫係、台本係は少し遅れ気味です。チラシ係はもうすぐ終わりそうなので他の係の手伝いに回されるでしょう。色彩係は学園祭に近づいたら飾り付けをしますが、今は他の係への手伝いに回しました。また、台本係はあみだくじで決まった人の名前に入っている動物で配役をすると提案が出ました。皆さん、反対する人はいますか?」
顔を上げると、賛成の眼差しがこれでもかと光ってた。
「それでは賛成ということです。報告を終わります」
なるべく静かに席につく。
「報告ありがとう。さぁここであみだくじの結果を発表する!!」
「「「「「「うおぉぉぉ!!!!」」」」」」
先生、怒られることを覚悟していますよね?
「だが、この際!黒板に配役の紙を貼っておく!見えるように大きな字で書いてあるから遠くにいる奴も見えるぞ!」
「「「「「「おぉぉぉぉ!!!」」」」」」
今度は、尊敬の眼差しを先生に向けながら声を出したみんな。
先生、校長先生に怒られてきましょうね。
「じゃぁ各自、準備に取りかかれ!狼と虎はこの丸められた紙を黒板に貼っておくように!実行委員長は先生のところまで来るように!以上!」
その一言でみんなが一斉に各自の持ち場に移動する。
私は先生の所まで行くと「廊下に来てくれ」と言われ、付いていく。
「先生、どうしたんですか?」
「あぁ。俺はお前に謝らなければならないことがある」
もしかして!今までみんなの叫びを止めなかったことへの謝りですか!
「今まで、お前のことに気づかずにいた先生を許してくれ」
…………否ですか?
「そんなこと全然、気にしていません。今まで何度もありましたから」
「そっそうか…しかしだな」
「先生は根に持ちすぎです。私が大丈夫だと言っているんですからそうなんです。先生はみんなから信頼されている良い教師なんですから」
「学園祭に関して」だとは絶対に言わない。
「先生は良い生徒を持ったよ」
今にも泣き出しそうな先生。
「それでは、教室に戻ります」
「あぁ!爆弾を落とされないようにな!」
最後の言葉に疑問を持ちながらも教室に入った。
だが、その最後の言葉が私にとって重大なことだった。
「あっ実行委員長!見てみて!配役~」
「あっはい」
1人の女の子が手招きをしてくれた。
たしか阿部さんっていう人だった。
後ろのドアから入ってきたけど、よく字が見えた。さすが先生。
だけど、肝心の役をする人が見えない。
「阿部さんでしたよね?情報収集が得意な」
「えっ!覚えててくれたの!嬉しいなぁ」
ニッコリと笑う阿部さん。
「あの、それで配役の方とかは」
「みんなが声を出してるからよく聞こえるよ。それがなんと!王子役は狼で魔女役が虎なんだよ!まぁ魔法使いになっちゃうけどね」
「あれ?シンデレラは誰なんですか?」
阿部さんをみると、ニヤニヤしながら私を見ている。
「まぁ、シンデレラはヒロインだしさ~自分で見に行ってきな!」
と背中をドンと押される。
凄い力で押されちゃったからこのまま直撃……
「っと、大丈夫か?」
しなかった。腰に手を回して受け止めてくれたのは…
「だっ大丈夫です…虎君」
魔女……魔法使い役の虎君でした。
「阿部!ダメだろ~!」
「ごめんごめん!つい」
虎君が立たせてくれる。凄いなぁ、男の子って。
「あっありがとうございます」
「別に。近くに居ただけだし」
と虎君が言ったと思うと少し顔が引き攣っていた。
「どうしたんですか?」
「いっいや?ほら早く、配役を見に行ってきな」
「分かりました…?」
そうだ。自分の役を見に行かなくちゃ。
私は多分、舞踏会にいる動物だろうなぁ。
それにしても、近くに行けば壁、壁、壁。
どうしよう。見えない。
そんな壁を見つめていたその瞬間、
「見た奴は準備に取りかかれ!分かったな!」
「「「「「「は~い…」」」」」」
王子役の狼君でした。少し声が低かったのは気のせいだろう。
「狼君、あっありがと…」
「狼君、ありがとうございます」と言おうと後ろを振り返った私は目を疑った。
「狼君…」
「なんだ?」
「シンデレラ役の人って凄いね」
「そうだな」
「一番、セリフも出番も多いから目立つね」
「そうだな」
「ねぇ…シンデレラ役って誰?」
私は黒板に貼ってある紙が見れなかった。
なぜか、見てはいけないと思ったから。
シンデレラの配役の人を見てはいけないと思ったから。
だが、世界は私に爆弾を落とした。
「小乃兎。うさちゃんだよ」
わざわざ、フルネームで言われました。
「いっ嫌だ~~~~!!!!!!」
さぁ、こんな大声を出したのは誰でしょう?
「「「「「「実行委員長、うるさい」」」」」」
間違いなく、私です。
「それじゃぁ、動物の方も役も決まったし「狼君!なんで冷静なの!なんで拗ねてるの!なんで腹黒いオーラをさっきから出してるの!」
狼君の袖を引っ張って抗議をする。
「冷静なのはいつものことだ。拗ねているのと腹黒いのは…気にしないでくれ」
秋なのに、極寒の雪と風が吹いているようだ。
「わっ私にシンデレラが務まるはずがないよ!」
「でも、あみだくじの運で決まったことだ」
「そうだけど!だけど!」
「恨むなら神様を恨んだら?」
「そんなの!もう何度だって恨んだ!あの日からもうずっと恨み続けてきた!もう長いこと恨んで…きた……」
そこで私は白々しい光景を目の当たりにした。
その後、激しい頭痛と身体を打ち付けられた感覚がした。
たくさんの声と駆け寄る人。先生を呼ぶ声。
その瞬間、意識が途切れた。
第9話へ続く
蛇足:「まるで動物の食事中を狙って身を潜めていたトラみたい。」は遠巻きに「KY(空気が読めない)」を表していたりする。
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