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小さな兎と猛獣2匹  作者: こころ
学園祭スタート
20/20

第20話

狼君の砂吐きタイム、始動です!あんなこと好きな人に言われたら間違いなく恥ずか死ぬ。

それでは、本編へどうぞ!!



『明日と言わず今日から…落としにかかるから』



「はっ…ゆめ、か……」


昨日のことが頭から離れず、夢にまで出てきてしまった。


逃げるように帰っちゃったから後のことはよく覚えてない。


狼君が私を好き?ありえないありえない。


あれはきっと冗談なんだよ。


だって…だって…こんな小さい小学生みたいなやつ……。


もしかしたら夢だったのかも。昨日は疲れてたし!


そうだ、そういうことにしよう!




と、考えていた時期が私にもありました。


「おはよう、うさちゃん。今日も可愛いね」


……だっ誰だ、こいつ。


「おっおはようございます。狼君?」


「おはようでいいよ。あとなんで疑問?」


にっこりと笑った顔は「どう追いつめようか」と窺っているオオカミだ。


理性と本能が逃げろと危険信号を!


「きょっ今日も頑張ろうね!じゃ私先にっ!?」


ウサギは手を握られて逃げ道を失った!


「何言ってるの?同じクラスなんだし一緒に行こう?何もしないから…多分」


説得力!狼君、説得力がないよ!何かするつもりだったの!?


「ゆっ指切りげんまんですよ?」


握られていないほうの手で小指を立てる。


「うわぁ、上目遣いとかあざと可愛い」


とろけるような笑顔にその場にいた数人が倒れた。


「指切りげんまん…」って楽しそうに言ってるけど私は倒れた人が気になる。


「昨日の今日で随分変わりましたね」


手を離してもらい仲良く?廊下を歩く。


「う~ん。前のキャラは全然効かなかったし、俺は元々うさちゃんを甘やかしたい気持ちが強いから」


「それとこれとは結構違うよ、狼君。私は今すっごく疲れてるから」


「…お姫様抱っこしようか?」


「丁重にお断りさせていただきます」


私が絶望した顔をしているからか、「冗談だよ冗談」と笑っている。


その笑顔でさっきから何人も倒れているのを気付いているんだろうか。


そして当然、その中には狼君を好きな人もいるわけで。


じゃあその隣にいるちんちくりんの私をどうこうしようとする人がいるわけで。




「あんた、何様のつもり?」


「えっと…動物界最弱の人間様のつもりです」


「はぁ!?」


場を和ませるつもりが相手をもっと怒らせてしまった。


どうやら、羊飼さんがいたメンバーはいなさそう。


いや、そうじゃなくてもうすぐホームルームが始まる。


作戦会議もまだだし、早めに切り上げないと。


「勝負をしましょ?小乃さん」


するとリーダーっぽい人が口を開く。


「勝負…ですか」


「そう。あなた、障害物競争に出るんでしょ。もしあなたが1位を取れなかったら狼様と虎様に今後一切近づかないで」


「私にメリットがありません。失礼します」


立ち去ろうとすると、焦り始める彼女たち。


もしかして、とは思ってたけどファンクラブとかいうやつか。


最近は何もしてこなかったから忘れてた。


こうやって呼び出されるの鬱陶しいしなぁ。……あっ!


「あっあの…私が障害物競争で1位を取れたら両方のファンクラブを解散して今後一切活動しないでください」


それを聞くと彼女たちは一瞬驚いたものの、同意した。


ただ、私が負ける可能性がゼロということを知らずに。




「うさちゃん、なんか楽しそうだね。さっき何かあったの?」


クラスに戻ると狼君が心配してくれる。


「いっいえ!あっでも、障害物競争がとっても楽しみです」


やばい、賭け事に使われたって知ったら怒りそうだ。


まじまじと顔を見られてうっかり言ってしまいそうになる。


「ねぇやっぱり何か「「兎ちゃんポニーテールしよっ!」」


何か言いかけた狼君にハイテンションな2つの声が重なる。


そして西明寺さんと羊飼さんにドナドナされる私。


「すっすみません。行ってきます」


「うっうん。頑張れ」


「ファイト…」と狼君。ナイスタイミングだった。


狼君と虎君には悪いけど、絶対に勝たなきゃいけない。




『1位は4組!2位は2組!3位は1組でした~!!いやぁ、4組の子速かったですね!』


『そうですね!小さな身体で網をくぐり、高いジャンプ力でパンを掻っ攫い、ぐるぐるバットをものともしないあの速さ。圧巻でしたね!』


本部の放送席が私を殺しにかかってくる。そんなに凄いことなのか。


いや、離してる自信はあったけど言われると恥ずかしい。


何にせよ、これで1位は取ったしファンクラブもなくなるわけだし。


一件落着だな!


と考えていると、さっき賭け事をしたリーダーさんが近づいてきた。


手には紙がある。うん?「契約書」?


「あなたの勝ちです。これ、契約書。喧嘩売ってごめんなさい」


覇気がなくなったリーダーさんに渡された契約書を破く。


「あっ!」と驚いたようだけど、こんなのいらない。


「私はあなた方が狼君や虎君を好きなことを知っています。でも、自分たちにとって邪魔な子たちを脅すのはよくないと思うんです。好きなら大きな迷惑をかけないことが大切です。あと、彼らの友情を壊さないことも」


笑ってあげるとリーダーさんが「兎様…」と呟いた。


ん?……おっとぉ!私に矛先が向けられたのは気のせいかぁ!


手を握られて顔を上げる。キラキラした顔のリーダーさんは


「兎様!私はあなたのファンクラブを発足することに決めました!それは賭け事には入ってませんでしたよね!この学園祭中に100人以上は会員を集めます!!」


「それでは!」と自分のクラスに帰っていく元リーダーさん。


そこで競技が終了したことに気付き、自分のクラスに戻る。


なんかめんどくさいことになった。こんなはずじゃなかったのにな。


「うさちゃん、さっき誰かと握手してたよね?」


狼君に飲み物を渡されながら言われる。離れてるのによく見える目だこと。


「狼君…その…私のファンクラブを作るそうです。ははっ…人生って何があるか分かりませんね」


遠い目をした私に狼君は「ファイト…」と頭を撫でてくれた。


と、突然のピストルの音に身体が強張る。


「あっ次は玉入れですね。必勝法があるって虎君言ってました」


「う~ん。テレビで見たって言ってたから期待できない」


さっきからずっと頭を撫でている狼君。


いつものことのように感じるけど、顔がそう言っていない。


「狼君、狼君。顔がだらしなくなってます」


「引き締めるつもりないから安心して」


「うさちゃんのそういうとこ好き」と言われれば何も言うまい。


いや、絆されてるんだ。こういうのされてもいいくらいには。


他の男の人だったら私は逃げてる。理由は怖いから。


「十分…甘えてると思うんだけどなぁ」


「ダメ。もっと甘えて。デロッデロになるまで甘やかしてあげるから」


優しい声に「地獄耳…」と悪態を吐く。


「あっそうそう。うさちゃんが1位取ったおかげで会長のいるクラスにちょっと近づけたよ。100点くらい差はあるけど」


「よかったです。今のうちに近づかないと文化祭のほうで大きく開きそうですしね」


「頑張りましょう!」と言うと「うさちゃん可愛い」という的外れな発言。


なんか怒ってても可愛いって言われそうだから反論するのやめよう。


「あの…玉入れってこんなに長かったですか?」


「ん~なんか全部入れたタイムを計るっぽい。けど、もう会長のクラス終わってんだよな」


見ると、ハイタッチしているクラスが1つ。


もしかして会長いなくても優勝できるんじゃないかな。


4組を探せば、1個入れるのに四苦八苦していた。


優勝…できるのかな?




競技が着々と終わり、午前の部の最後はリレーの予選。


予選は同学年で、決勝は各学年2位以内。


予選もポイントがあるから絶対逃せない。


「兎ちゃん、やる気満々だね!」


「そっそりゃ優勝してみんなの欲しいものをもらうんです!」


阿部さんが「おう、やったるで~!」とノリノリ。


長咲さんはそれを見て笑ってる。つられて私も笑う。


『それでは第1走者、第2走者の人は並んでくださ~い』


放送が入ると「じゃ、行ってくる!」と阿部さん。


走者が並び終わり、ピストルを掲げる先生。


そっと長咲さんの服の裾を掴む。「えっ」という声は発砲音とともにかき消された。


第1走者が一斉に走り始める。


「うっ兎ちゃん?」


「あっすみません。あの音が苦手でつい。いつもは気にならないんですけど。ごめんなさい」


「えぇよえぇよ!ちょっとびっくりしただけ。なんならいつでも握ってえぇんやで?」


と笑っている。関西弁になったってことは可愛いって思われてるのかな?


『第1走者はどうやら陸上部が多いようですね!』


『まずは相手チームとの差を開かせおっと!ここで第2走者に早くもバトンが渡されました!』


盛り上がる会場と放送に緊張する。


「おつかれ、チータ。互角だったね」


「はぁ…あいつら、これ終わったら麗瑠に告白するとか抜かしやがって。ぜってー許さねぇ」


戻ってきた樋野君は息切れしながら誰かを罵っていた。


今にも襲い掛かりそうである。正直言って怖い。


「でも麗瑠ちゃん、最近けっこー告白されてるらしいよ」


「はっ!?聞いてねぇぞ、そんな話」


「まっ頑張って~」


長咲さんはそれだけ言うと第4走者の列に入った。


これはもしかしなくても樋野君は羊飼さんのこと…好きなのかな?


なんか最近こういう話が多くて鋭くなってきた気がする。


いや、本人には聞かないけどさ。プライバシーってものがあるし。


まぁ、手の震えが止まるように違う事考えようとしてるだけだけど。


息を整えた樋野君がその様子を見て、爽やかに笑う。


「兎ちゃんも頑張れよ。つっても楽しく走っていいんだぜ」


そうか!楽しく走ろう。自分が思うように。


『今、首位を爆走している3組!このまま逃げ続けられるのか』


「あのクラス、陸上部多いからなぁ」


心配そうな樋野君に「楽しく走りつつ、相手も抜かします」と宣言する。


大丈夫。だって狼君が言ってたもん。


『まあ何にしろ、うさちゃんは安心して俺のバトンを受け取ってよ』


虎君から長咲さんへバトンが渡される。


ふと視線を感じて、向かいの第5走者を見た。


狼君は背が高いからよく分かる。私を見てることも。


「大丈夫」。そう口パクで励まされる。


第6走者は私より背が高い女の子ばかりだ。


『ここで第5走者にバトンが渡されました!3組、4組の首位争いです!』


『2組、1組も負けておりません!1年生の白熱した戦いに会場も盛り上がっております!』


後ろを見るともう目前まで迫っている。


心臓が全く鳴りやまない。まだ予選なのに。


「大丈夫」


ニッと笑いバトンを差し出す彼に「うん」と目で返す。


そして、ほぼ同時にバトンを受け取った。




目立つことは好きじゃない。


悪目立ちをしたとき、自分の不甲斐なさを見せつけられる。


でも今は歓声とか放送とか聞こえなくて、ただただ楽しいって気持ちしかない。


楽しく走っているうちに身体を少し押される感覚があった。


『1着は4組!2着は3組!1年生の決勝進出はこの2組です!!』


さっきの感覚はゴールテープだったのか。


と他人事のようにトラック内に入ると、ものすごい勢いで抱きつかれた。


「兎ちゃぁぁん!!1着だって!1着だって!」


「まっまだ予選ですよ」


「あっ!そうだった」と落ち込む阿部さん。


「でも、兎ちゃんホンマ速いなぁ。陸上部入らん?」


長咲さんがキラキラした目で私を見る。


「ごめんなさい。興味なくて」


「えっ!兎ちゃんなら全国もいけるって!!」


そこで割って入った虎君。いや、反対側にいましたよね?


「兎ちゃん陸上部入らない!?」


そこで後から追ってきたとみられる樋野君。


「興味ないです」


「入ったらめっちゃ楽しいよ!」


それでも首を振ると「狼は!?」と後ろを振り返った。


「俺もパス。てか、前から断ってるだろ」


がっくりとうなだれた樋野君に罪悪感が生まれたのは内緒です。



『リレー決勝戦出場は1年生は3組と4組、2年生は1組と3組、3年生は2組と4組です。これで午前の部は終了します。午後の部は13時からです』


放送が終わるとぞろぞろと生徒が校舎内に入っていく。


身支度を整えていると「うさちゃん」と後ろから呼ばれた。


そういえば、うさちゃんって呼ぶのは狼君だけだなぁ。なんでだろう?


「どうしました?」


「いや、さっき言えなかったから。うさちゃん1着おめでとう」


そう言って頭を撫でられる。


髪が崩れないように撫でられて狼君の優しさが伝わってくる。


今までこれを母性と勘違いしていた自分が恥ずかしい。


「それはみんなが頑張ってくれたおかげです。決勝も頑張りましょう」


笑うと狼君がつられたように笑った。と、真剣な顔になり


「走ってる姿見て、また惚れ直しちゃった」


頭から手が離れ先に行ってしまう狼君。


ちょっと赤い顔が見えたのは気のせいじゃない。


ただ狼君の歯の浮くような言葉に私は真っ赤になるばかりです。


第21話に続く





チータ君と麗瑠ちゃんですが、まだ付き合ってない両片思い野郎どもです。この学園祭を機にいろいろな恋が実ることを作者は願ってます。狼君は落としたも同然です(キラッ☆

次話も楽しみにしてくれると嬉しいです。

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