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小さな兎と猛獣2匹  作者: こころ
第2章 学園祭の準備
17/20

第17話

半年以上も更新せず、申し訳ございません。これしか言えません。

本編へどうぞ!!

グラウンドに響き渡るたくさんの声。いつかの鬼ごっこのときは凄く静かだったのに。


今は体育祭の競技の練習中。私は今、出番がないから休憩してるんだけど。してるつもりなんだけど……


「うさちゃん、水分補給は?」


「しました」


「日陰に入らなくて大丈夫?」


「大丈夫です」


「帽子被ったほうが良いよ?」


「持ってきてません」


「そうだと思った。ほら、帽子」


そう言ってキャップを被らされる。


さぁ、こんなに尽くしてくれるお母さんは誰なのか――――狼君である。


狼君の不機嫌が治った翌日。


「ねぇ、昨日の何でもするって話、覚えてる?あれさぁ、俺がうさちゃんに尽くすってのはどう?」


……ん?私が狼君に尽くすんじゃないの?えっ、聞き間違い?


「うさちゃん、何が欲しい?俺の買える範囲の物がいいんだけど」


おぅふ。本当に私に尽くすつもりみたいです。


その日から狼君のお母さんスキルが上がった。あれ、お母さんなのかな?なんか違う気がする。


まぁそんな、なんでも尽くそうとする狼君は私に聞いてから行動することをすぐにやめた。


その代わり、私が言う前から行動するようになった。


さっきのだってそう。片手に飲料水を持って飲ませようとし、すかさず帽子を被らせる。


狼君、君はどうしたんだい?そんな人じゃなかっただろう。あの日の夜、変なキノコを食べたんじゃないだろうね。


今だってうちわで私をあおぐお母さんっぷり。いや、お母さんじゃない。もっと良い響きが……あっ


「親バカだ」


「んっ?何か言った?」


「はい、狼君は親バカです。間違いありません」


そう、お母さんってレベルじゃない。親バカというレベルだ。


「このままでは狼君はモンスターペアレントになってしまいます!」


「ふはっ!何だよそれ。俺もそこまでやらねぇよ。ただ、俺がうさちゃんに尽くしたいだけだって」


「そこが不思議なんですよ。一般的に私が狼君に尽くすという願いをするはずです。これでは恩返ししてもしきれません」


うちわを煽ぐのをやめ、私にあげるはずだった飲料水を一気に飲む。


小さなため息がそのあと吐かれた。


「だからだよ。うさちゃんは甘えることを知るべきだし躊躇する姿勢をやめなきゃね。人間なんて誰かに助けてもらわないと生きていけないんだよ」


助けてもらう……。


じゃぁ……あのとき・・・・助けてもらえなかったのは何でだろう。


「そのためにもさ!うさちゃんは自分の口から欲を言えばいいんだよ」


名案だと言わんばかりの狼君の口調に苦笑い。


「欲って…私は十分、欲を言っているつもりなんですが」


「い~や、言ってないね。だからさ、俺たちにもっと甘えなよ。そしたらさ、みんなうさちゃんのことベロッベロに甘やかすと思うし」


「ベロッベロ」のところを強調して言う狼君にまた苦笑い。


でも…そうかもしれない。自分の口から「あれがしたい」「これがしたい」「それが欲しい」などと言ったことがあまりない。


学園祭の実行委員だって半ば無理矢理だった。でも…それでも楽しかったから。


「私の欲は…みんなに優しくされることです。優しかったみんなが突然、いなくなるなんて私は耐えられません。突き放されるのなんて、まっぴらごめんです」


「それは欲じゃないよ。それはあたりまえなんだよ。うさちゃんには優しくされる権利があるんだよ」


「権利」かぁ。そんな言葉……


「とうの昔に捨てました」


自分で言っておいて酷く冷たい声だと思った。


冷たいのかな?違うかも。


「そんな悲しいこと言ったらダメだよ」


あぁ、そっか…悲しい声だったのか。


「昔はそうだったかもしれないけど、うさちゃんがいる今は違うんだよ」


「今も昔も変わりません。だって、私は未だにしば」


「狼~~~~~~!!!!」


「ぐぇっ!?」


あっ…狼君がカエルになった。


背後からの攻撃がくるとは誰も思うまい。それも虎君が、だ。


今、虎君が狼君にのしかかり「してやったりぃ」の顔をしている。


あれ?そういえば私、狼君に何を言おうとした?


私は未だに―――。大丈夫、気付かれてない。ていうかこれって…まさか!


「くっそ!!お前のせいで誘導尋問がパァになっただろ!このKY馬鹿!!」


「ちょっ!バカはないだろ!!この猫かぶり!!!」


まさかの喧嘩勃発。しかし…誘導尋問とな。あとちょっとでしてやられるところでした。


ふと、2人を見ると喧嘩がエスカレートしてる。胸ぐらをつかみ合って殴り合いにでもなりそうだ。


どうしよう。私が止められるわけがない。でも、喧嘩ダメ絶対!


あたふたしていると2人がゴンッと殴られた。


ゴンッである。鈍器で殴ったなら分かるが素手でしていた阿部さん。


「えっ……」という私の言葉とは裏腹に、


「兎ちゃん、リレーの練習しに行くよ!」


すごく嬉しそうな阿部さんだったので、


「あっはい…分かりました」


そう言うことしかできなかった。


阿部さんは2人の襟を掴んで歩き出した。


意外と力持ちなんだなと感心し突っ込む気力さえ起きなかった。



樹鈴きりんちゃ~ん!おっまたせ~」


「あぁ…ってどうしたの?この2人」


「倒れてたから連れてきたぁ」


いや…倒れさせたんですよね?あれ、記憶違いかな?


「まぁどうでもいいけど早く起こして」


「は~い!」


そう言って2人の頬を軽く叩く阿部さん。


「兎ちゃん、猫美が嘘ついてるの丸わかりだから気にしなくていいよ」


「あっそうなんですね。長咲ながさきさん」


長咲ながさき 樹鈴きりん。キリンが名前に入っている。


ポニーテールの髪に健康的な肌。陸上部に所属している。


そしてクラスの女子の中で1番背が高い。


余談ですがクラス…いや学校で1番背が低いのは私だと思います。


そんな長咲さんはいつも冷静な人だけどときどき……


プルプルと小刻みに震え出すと


「もぅ!!兎ちゃん、可愛すぎやろ!!上目遣いとかあざといわ!!!もぅ何なんこの可愛さっ!!!!」


長咲さんは決して女の子が好きなわけではない。可愛いものが好きらしい。


可愛いものを見ると関西弁が出るらしいのでいつもギャップに驚かされる。


「兎ちゃん、可愛いから変な男についていったらあかんで?特にオオカミみたいに獰猛どうもうな奴には気をつけるんやで?」


「もしかして、俺のことでも言ってるのかな?長咲さん」


「うちは動物のオオカミを言っただけだよ。別に狼君のことは言ってないよ」


すぐに標準語になるあたり、やっぱり可愛いものが好きらしい。


大事なことなので2度言いました!


「そっか、ならいいんだ。長咲さんはいつも俺を敵対視してるようだったけど気のせいだね」


「そうだよ。別に兎ちゃんを独り占めしてうざいなぁとか思ってないから」


「うふふ」「あはは」と笑い合っているようだが、私はそんなにバカじゃない。


2人が笑ってないことぐらい丸わかりだ。


でもなんで、睨み合うオオカミとキリンが2人の背後に見えるんだろう。


不思議だなぁ。


「みんな、早く始めようぜ!」


おっと…大事な人を忘れていた。


「「「「なんだ、チータいたのか」」」」


樋野君の扱いがひどい。


「お前らなぁ。一応言うけど、クラス対抗リレーは他の競技よりも得点が高いんだぞ」


この学園祭はただの学園祭ではない。クラスごとに得点がもらえる。


体育祭でいえば競技の順位で得点をつける。


文化祭は来場者数、外観、接客の評価や劇の完成度、屋台の完成度などで得点をつける。


最終的に得点の多かったクラスが優勝し、それだけでは味気ないので「クラスで欲しいもの」を無料でプレゼントというオプション付きだ。


学園長、太っ腹ですね。そう言いたくなったのは私だけではないはず。


そんな学園祭の体育祭はリレーが1番得点が取れる。1発逆転も夢ではないということだ。


「ルールは知ってるとおりだと思うけど走ってバトンを渡していく競技だ。難しいのはバトンを渡すときで一番心配なのが……」


そう言って視線がこちらに向く。みんなもこちらに向く。


あっ、私ですね。


リレーをするみんなの平均身長よりも低い私。


「体育祭のリレーの形式は男女交互だから難しいんだよね。俺らは身長高いほうだからさ」


さらに男子から始まるため頑張っても2番目から。それでペースが落ち1位になれなかったら得点なんてもらえるはずがない。


「それなら、兎ちゃんを最後にすりゃいいじゃん」


虎君の一言で全員がハッとなる。


「そっか。他のクラスより大きく差を空ければバトンの受け渡しが失敗しても大丈夫か」


樋野君が言う。


「それに、1年の中じゃ私たちは速いほうだし」


阿部さんがノートを取り出し、言う。


「うちらがなんとかすれば1位も夢じゃないってことか」


長咲さんがうんうんと頷きながら言う。


「うさちゃんはそれでいい?」


狼君が少し心配気に言う。


「私、自慢では本当にないんですがプレッシャーをかけられるとへまをします」


私は「へま」のところを強く言う。


少しの沈黙。


「兎ちゃん、可愛すぎや」


「今はそこじゃねぇだろ!?」


鋭いツッコミをいれる樋野君。


「うさちゃんのアガリ症は今に始まった事じゃないんだから大丈夫だよ」


「狼、フォローになってねぇよ」


鋭いツッコミをいれる虎君。


「できるかできないかじゃなくて、やるかやらないかだよ!」


阿部さんに両肩を掴まれる。ちょっと痛いなぁ。


「やれるだけやってみます。当日、へまをしても怒らないでください」


「こんな可愛い兎ちゃんを怒るわけないやろ!」


長咲さんは流石に耐えきれなくなったのか私に抱きつく。身長差があるため少し屈んだ状態になるが。


「じゃぁ最後は兎ちゃんで決まりな。兎ちゃんの前はどうする?」


「それなら俺が行く」


そう言って狼君が申し出た。


さすがのみんなも苦笑い。


「お前、身長差がかなりあるぞ」


「大丈夫だ。俺、うさちゃんのお母さんだから」


そんな理屈で通るんだろうか。否、通るわけが


「「「「なら、大丈夫だな」」」」


あれぇ?何でだろうなぁ?そんな理屈で通るのかなぁ?


「ふっ作戦成功だ」


そう、したり顔で呟いた狼君。誰も気付いていない。


「あの…作戦成功ってどういうことですか?」


「ん?いや…うさちゃんを甘やかすこと以外にもう1つ利点があってさ。みんなの前で尽くしていれば俺がうさちゃんのことを理解していると思ってくるだろうから」


なっなんという策士。そこまで見越していたなんて。


「まぁ何にしろ、うさちゃんは安心して俺のバトンを受け取ってよ」


「何ですか、その自信満々な言い方は」


「さぁ、何でしょうね」


狼君は笑みを深くすると、またみんなの話し合いに戻っている。


オオカミは嘘つきで有名だけど、本当は純粋らしい。それは目によく表れているという。


本当にそうだと思う。


だって、狼君は笑顔を作っているけれど目がどこか冷めているから。


だから思うのだ、狼君が「ロボット」だと。


でも、最近は心から笑っていることが多い。


高校生になったからかな?


……どうでもいっか。狼君にも何か考えがあるんだろう。


「それじゃあリレーの順番は俺、猫美、虎、樹鈴、狼、兎ちゃんで決定な」


なんか、実行委員の時といい、シンデレラの時といい…私って結構重役な気が。


「じゃあ、あとはバトンの受け渡しの練習と実践でやってみるだけだな」


それからリレーの練習をしてみんなは他の競技にも出るからだんだん抜けていき……


一人ぼっちになりました~!!……どうしよう。


1人でリレーの練習はできない。


グラウンドにポツンといる私。


なんだか広大な砂漠に放り出された気分だ。


「あれ、もしかして小乃さん?久しぶりだな」


ウンウン唸っていると誰かに声をかけられる。


この声、聞き覚えがあるなぁ。


呑気に顔を上げると……生徒会長様でした!!わぁ~!


「そんなに青ざめなくても何かしようとは思ってない。安心しろ」


そうは言われてもなぁ。なんかこう…


「たった1歳しか違わない相手に態度が大きいといいますか、まるで玉座に座っている王様のように偉そうというか」


「つまり、上から目線だ、と言いたいんだな?」


ごもっともですね!!いやはや、やはり生徒会長様は頭がよろしいことで!!


という言葉を飲み込む。危ない、食べられるところだった。


しかし、何を思ってか生徒会長様は少し考えている様子で腕を組む。


「確かに…今までもそんなことを言われてきた。早々に治せるものでもないが上に立つ者としてこれではいけないな。ありがとう、小乃さん」


どうしよう、生徒会長様にとびっきりのキラキラスマイルをもらってしまいました。


バチが当たりそうだ。


「では、失礼する」と言ってどこかに行った生徒会長様。


あっなんで2年の生徒会長様がって思いました?


あと少しで学園祭なので違うクラスや学年と授業が被ること多々あるんですよ。


「あっ忘れていた。小乃さん」


「なっなんでしょう?」


「過去は過去だ。囚われたままでは前には進めないぞ」


振り返ってそう言った生徒会長様。


あぁ…前に私の生い立ちについて言ってたな。


きっと「あれ」を全部見たんだろう。


あんまり、知られたくなかったな。


まぁ、承諾したのは私だし自業自得ってやつかな。


「…ちゃん、…さちゃん!、うさちゃん!!」


「わふぅっ!!」


突然、肩を掴まれ肩が跳ねる。


「お…おかみ…君」


「顔色、悪いよ?保健室行く?」


心配そうな狼君に自分が息をしていなかったことに気付く。


ほんの数秒の間。数分に感じたのは気のせいだ。


「だい…じょうぶです。狼君、騎馬戦のほうはどうですか?」


話題転換をして気を紛らわす。


「うん、こっちもなんとなく大丈夫だけど」


それでも心配そうな顔をやめない。


狼君はお母さんだからすごく私を心配してくれる。


私は狼君みたいにうまく笑えない。


「狼君はすごいですね」


「えっなんで?」


「だって、勉強だって運動だってできる。みんなの中心で優しくて。狼君はなんでもできるから羨ましいです」


一瞬、傷ついた顔をした気がする。


話を続ける。


「でも、前にも言ったとおり完璧な人なんていません。何でもそつなくこなす人なんていません。嫌われることもあります。できないこともあります。そんなときは周りに頼ればいいんですよ、狼君」


肩を掴まれていた狼君の両手を私の両手でぎゅっと握る。


いわずもがな、私の手より大きい狼君の手を全部は握れない。


「いや…ここはフルネームがいいですね。一匹いちひき おおかみ君」


狼君はね……この苗字が大嫌いなんだって。



第18話へ続く


次回は現在と過去編を書こうと思います。過去編は誰かわかると思いますが、お楽しみください。それと、また更新が遅くなると思うので首を長くして待っててくれるとありがたいです。

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