第13話
ちょっと今日はいや~な単語が入ってるです。暗いよ。暗すぎるよ。誰が書いたんだよ!!!はい、私です。では、本編へどうぞ!
「ただいま」
ドアを開け、シンと静まりかえった部屋に挨拶。
返ってこないが、別に気にすることはない。
今日は確か、大家さんとご飯だった。
良い人だけど恋バナとかし出すからなぁ。
いないって言ってるのに照れ隠しと思われるし。
自然と溜息が出る。
殺風景という言葉が似合う部屋に入り、私服に着替える。
着替えるときに目に止まったのは自分の手首。
いつもだったらブラウスで隠れてるけど今は違う。
何度も何度も付けられたような切り傷。
まぁ、自分でやったのだけれど。これを世にいう「リストカット」という。
長ズボンにTシャツ、上にパーカーを羽織り準備万端。
「あっ、家の鍵」
危うく、忘れるところだった。
「行ってきます」
誰もいない部屋に挨拶。勿論、返ってくるわけない。
鍵をかけ、確認。その足で1階に行く。
ピーンポーン。間の抜けたチャイムの音が鳴る。
その後に、奥からバタバタバタ…と小走りに駆けてくる音。
ガチャッ。開いたドアから見えたのはこのアパートの大家さん。
「すみません。いつもいつも」
「何、言ってんの!ほら、いらっしゃい」
「はい……大家さん、ただいま」
そう言うと、大家さんはにっこりと笑い、
「おかえりなさい。兎ちゃん」
―――――――――――――――――――
「それでまた、好きな子はいるのとか彼氏はいるのとか聞かれちゃって」
「それはまた、災難だったね、うさちゃん」
「そうなんですよ!大家さんも諦めればいいのに」
「でっでも、心配なんですよ。兎さんのことが」
「もっと心配することがあるんじゃないですか?」
「まぁ気にすんなって!兎ちゃん。俺の母さんだってそんなこと聞いてくるぞ?勉強しろとか遊ぶなとか」
「それは心配じゃねぇ。お前のせいだ、虎」
賑やかな朝の登校。これからも続いて欲しい。
「…そう思うことはいけないことかな」
「だろ!!兎ちゃん。心配って思ってもいいよな!!」
「ちょっと!兎さんが困ってるじゃないですか!」
「いや…話を聞いてなかっただけじゃない?」
「えっあっ…すみません」
私は小さいからみんなの顔は上を向かないと見えない。
「毎日、牛乳は飲んでるのにどうして伸びないんでしょうか?」
「うさちゃんはそのままがいいよ」
「兎さんはそのままがいいです」
「兎ちゃんはそのままでいい」
えぇぇぇぇ。シンクロしてまで伸びて欲しくないんですかぁぁぁ。
「あっ!兎ちゃん、おはようございます」
こっこの綺麗な声は!?
「西明寺さ~ん!聞いてくださいよ。あの3人が私に伸びるなって言ってくるんです!」
「う~ん…私も伸びて欲しくないかなぁ」
そっそんな……西明寺さんまで!
「西明寺さん…おはようございます」
ちょっと拗ねた声が出たのは私のせいじゃない。きっとそうだ。
「そういえばさぁ…うさちゃん今日、生徒会長に呼ばれてるんじゃなかったっけ?」
ビクッ。周りにいた4人はその一瞬の隙を見逃してくれなかった。
「何でなのかな~?うさちゃん」
「わっ私のせいですが、でも……」
「おれはあの時、兎ちゃんのもう1つの顔を見たよ」
「さらにあそこには大勢の生徒もいましたしね。勿論、会長も」
この時のみんなはじわじわとウサギを追い詰める肉食獣のようでした。
所変わって、生徒会室。やだ、ノックしたくない。
大きな扉の前で立ちすくむ私。それは昨日のことだった。
教室で出し物の準備を一旦終え、休み時間にあの人は来たのです。
廊下から悲鳴が聞こえる。それも複数。
すると、私たちの教室のドアが開かれたと思うとまっすぐに私の所に珀獣会長は来た。
あっ、倒れそう。瞬時に私は思った。
それから、生徒会長様は言いました。
「明日の朝、生徒会室に来るように」
その一言だけを言うと颯爽と帰っていったのです。
恐ろしい光景でした。その時、教室にいた証人Aは次のように言ったそうです。
「なんか、彼女は今から食べられるような顔をしてたわ。生徒会長が帰ったあともその場に固まってたし、本当に大丈夫かな?」
と。
うぅぅぅ。入らなきゃ入らなきゃ。でもでもでも……。
何分くらいそうしていたでしょうか。
後ろから肩をポンとされました。
誰だ!私の後ろに立ったのは!
そう思ってふり返ってみると…あら、大変!生徒会長様でした。
「遅くなってすまない。しかし…カバンを持ったまま来ても良かったのか?」
「あっえっあっ…だっだだだだ大丈夫でしゅ……」
「うん…大丈夫ではないな。まぁ、中に入りなさい」
「はっはい…失礼しましゅ」
生徒会長様は律儀に扉を開けてくださいました。さすがです。
1礼し、中を見る。いや、1度は見たことあるんだけど。
真ん中にソファとその周りに机がいくつかある。そして……
一番奥にも机。あれか…生徒会長様が座っておられる所は。
「じゃぁ、ソファに座ってくれるかな?」
「あっ…はい」
ソファに座ると、ふわっとした。そう、ふわっと。
こんな立派なソファ、座ったことない。後で狼君に自慢しよう。
そんなことを考えていると、生徒会長様がもう1つのソファに座る。
ちゃっかり、水も用意してくれた。
「今はこれしかなくてな…すまない」
「いっいいいいえ。おっお気になななさらず……」
では、ここで問題です。なぜ、私は生徒会長様に呼ばれているでしょうか。
正解は……
「では本題に入ろう。一昨日のことだが…君は覚えているかな?」
はい、女の子達に悪口を言ったことですね!覚えています!!
「私もその場を目撃してしまってな…あのあと、君の言葉を受けた生徒達から苦情が来てな…なぜか罵声を浴びた、私たちは何もしていない、助けてくれ、と。それについて君はどう思うかね?」
生徒会長様が怪しく口角を上げ私を見ている。
今からでも「すみません!!!!」と謝りたい気持ちはあるが、少しもの申したいことがあるのでそれはあとだ。
「たっ確かに…私は彼女たちに悪口を言ってしまいました。でも…その前に彼女たちも私の友達に悪口を言ったのです。私はそれが許せなかったんです。そりゃ…私の方が悪口を言う言葉は多かったかも知れません。彼女たちを傷つけたのは他でもない私です。でも…だからと言って、私の友達にあんな顔をさせた彼女たちを放っておくワケにはいかなかったんです。私の友達が学校に来なくなる前に。心を閉ざしてしまう前に。大切な友達なんです。私はどうなっても構いません。自宅謹慎でも、退学でも何でもしてください。でも…私の友達や私が傷つけた彼女たちだけはこの学校に通わせてあげてください。生徒会長、お願いします」
深く深く頭を下げる。届かないかもしれない。それでも、それでも…!
「あぁ…やっぱり、あいつの言った通り小乃さん、君は純粋だ。いいだろう、君の友達も生徒達にも何もしない。当初はその生徒達に自宅謹慎を、と考えていたけれどこれだけ懇願されたんだ。聞くしかないね」
頭を上げると、優しい微笑みを浮かべる生徒会長様がいました。
あぁ…目の前に神様がいる気がする。きっと、気のせいじゃない。
「それで…君の処分だが……君の個人情報で手を打とう」
……えっ?今…なんて?
「生徒達の個人情報は見られるのに、君のだけなぜか見れないんだよ。困ったことだ。理事長に相談すると本人に承諾を得れば見せてもいいらしいからね」
どっどうしよう……。話について行けない。いや、まとめると……
生徒会長様は私の個人情報が知りたいらしい。
個人情報……。
「それは…生い立ちも載っているんですか?」
「まぁね。少し、君の生い立ちが気になって。弟から毎日聞かされるものだから」
弟といえば……
「虎君ですね」
「あぁ、虎だ」
お兄さん…複雑な顔をしないでください。
「っと、話が逸れたな。それで、どうだい?もし、嫌なら無理はしない方がいい」
「いえ…別に見られてもいいんですが……」
「君の個人情報は誰にも明かさない」
「それなら……構いません。でも…無理だと思ったらすぐ、おやめください」
目の前の生徒会長様が私の顔を見て真剣な顔つきになる。
「君は…何を背負っているんだい?」
そう言われ、自然と自分の手首を見る。
「……がっ学園祭のみんなの盛り上がりです」
「……えっ?」
真剣な顔はどこへやら。面食らったような顔の生徒会長様。
「生徒会長様も聞いたことがあるでしょう。あの雄叫びを。あれで何度、先生に怒られたか。私の責任になるんですよ。おかしくないですか?担任の先生だって叫んで他の先生に怒られてるし……はぁ」
「君は…苦労しているんだな」
あぁ…生徒会長様に心配されてしまった。
「でも…とても毎日が楽しいです。それもこれも雄叫びを上げるみんなのおかげなんですけどね……。あぁ…もう、そろそろなので良いですか?」
「あっあぁ。構わない。学園祭、大いに楽しんでくれ」
「それでは…失礼します」
1礼し、生徒会室が出る。すると、
「「「「「兎ちゃん!!!!大丈夫!!!!」」」」」
「みっみんな!静かにしないと!って、準備は!?」
「「「「「置いてきた!!!!」」」」」
「君たち…、準備は進んでいるのかな?」
後ろから低い声が聞こえた。
ビックーン!!!と音が聞こえそうなくらい肩が跳ね、あさっての方向を見るクラス一同。
「あっ兄貴…それ…はちょ~っと…聞いて欲しくないっていうかぁ」
「何だ?虎。もしかして、お前はサボってるんじゃないか?」
「んなことねぇよ!さっさぁみんな、準備に取りかかるぞ~…」
「「「「「おっおぉぉぉ……」」」」」
そして、ぞろそろと歩き出すクラスのみんな。
残ったのは、私と生徒会長様と狼君。なぜ、狼君?
ていうか、私を挟んでいる。やめて!二人が大きいから私が小さく見えちゃうじゃん!!
「うさちゃんに…何を話した?」
「一昨日のことだよ。彼女も反省しているみたいだし」
「その後だ。会長さんが…うさちゃんの生い立ちなんか知ってどうする?」
「君には関係ないことだよ、狼君。ただ…君も知らない彼女の秘密を、ね」
「あの~…話に入って非常に申し訳ないんですが……お二人とも、真っ黒いオーラが出ているので引っ込めてもらうと助かります。あと、早く行かなきゃみんながまた叫びますよ?狼君」
「そうだな…それでは、会長また今度」
「あぁ…またな」
うん……引っ込めてくれなかったね。
私は今、2人によって冷凍されているんですが助けて。
「狼君、私のお母さんなんですから冷静でなければいけません」
「そうかな~?」
「そうです!私は強く反論しますよ!」
「出来るの?」
「でっでっ…出来るもん」
歩きながら、狼君と話します。
その時、狼君が悲しい目を向けていることなど、私は知ることはないでしょう。
だって…背が小さいから。
なんか、自分で言ってて悲しくなってきた。
「どうすれば、背が伸びるんでしょうか?」
「だからさ、背が伸びなくたっていいじゃないか」
顔を上げると、狼君が呆れていた。
「私は…みんなの隣に立ちたいんです。だけど、この背だと小学生に間違われてみんなに迷惑がかかるんです」
「特に俺ね」
あれは…中学の頃だ。
狼君と並ぶと大抵、警察が来る。
誘拐と間違われてしまうのだ。
そして、学生証を見せてやっと理解してもらえた。
さらに親子に間違えられた。
「可愛い娘さんねぇ。いくつ?」
立派な中学生です。と言っても信じてもらえず。
それから近所では「親子」で一時期、定着があった。
これも学生証を見せてやっと理解してもらえた。
そんな経験が幾度となくあった。
「あんな思い…もうしたくない」
「だな……」
「何の話?」
突然、後ろから声が聞こえる。
さっき、みんなと教室に向かっていた虎君だ。
「昔の話です」
「いや…あれは黒歴史だ」
「うん…なんかよくわかんねぇけど…いろいろあったんだな」
苦笑いの虎君。
「いや~…でも…生徒会長様は怖かったです」
「「生徒会長様?」」
「まさに頂点に君臨する人って感じですね。虎君とは大違いです」
その時、虎君が少し暗い顔をした。
「でも…私は虎君と話してる方が緊張しなくていいです。それに、虎君は面白いことを見つけるのが得意ですし。なんだかんだ、私も助かってます。それに、人が違うのは当たり前のこと。同じになんて出来ない。それは兄弟や姉妹にも関係することだと私は思うんですよね」
虎君に向き直り、ニッコリと笑ってみせる。
すると、顔を大きく逸らした虎君。耳が赤いけど…
「大丈夫ですか?熱でも…」
「いや…大丈夫だ。気にするな」
「そっそうですか」
少し、口調が変わった気がするけど虎君はやっぱり虎君です。
「それに、兄弟がいるのは羨ましいです…」
「俺は義弟が2人いるかなぁ」
「えっ!何!?俺、初耳なんだけど!!狼、弟いたの?てか、義弟?」
「今は小学生でしたっけ?2人とも」
「あぁ。勉強教えたり、時々遊んだりしてる」
いいなぁ。兄弟で遊べるって。
「へぁ~。俺なんて、馬鹿すぎて教えてくれねぇよ」
「お前が教えてもらおうとしてないんじゃ?」
「ははは…んなわけねぇじゃん」
顔を逸らす虎君。しかし、何かに気付いたらしい。
「兎ちゃんは1人っ子?」
「はい…兄弟に憧れる1人っ子です」
手を上に掲げ、宣言ポーズ。
でも、2人は私の腕を見る。
「どうしたんですか?」
「いや…うさちゃんてさ、なんでブラウスが長袖なんだろうなって」
「俺も思った。この学校は入学する前に、長袖と半袖が配られる。まぁ、他にもあるけどさ…」
2人は今、半袖。ていうか、この学校の大半が半袖の人ばっかり。
「べっ別に半袖を着なきゃいけないっていうわけではないでしょう?」
「まぁ…そうだけど……」
「暑くねぇの?」
心配そうに見つめられる。
「大丈夫です!いざとなったら袖をまく……」
袖をまくる仕草を止める。
「うさちゃん」
「兎ちゃん」
2人が私の手首に集中する。
「何か…隠してるだろ」
狼君が低い声で私に言う。
「ごっ…ごめんなさい。今はまだ……」
ギュッと自分の手首を握る。
強く強く。血を手のひらにいけないくらいにギュッと。
「兎ちゃん…秘密の1つや2つ、誰でも持ってる……。知られたくないと思うかもしれねぇけど…そんな苦しそうな顔、すんなよ。さっき、俺の嫌なこと、取り除いてくれたじゃん」
顔を上げると、苦しそうな笑顔を浮かべる2人。
違う。そんな顔をさせたいんじゃない。
違うの。私が私が……もっと出来れば!
「お父さんのこと…防げたのに……」
最後に見た顔は困惑した2人とあるはずのない真っ赤な光景。
そして、真っ暗になった。
――――――――――――――――――
夕日のさしかかった生徒会室。
カタカタカタ…と、パソコンのキーボードを打つ音だけが響く。
すると突然、キーボードの音がなくなる。
パソコンの画面を見ていた珀獣 雷怨はもう見ていられないと画面から顔を逸らし、深い溜息を吐いた。
「まさか…君にこんな事があったなんて誰も信じないだろうね。小乃 兎さん」
その独り言が生徒会室にポツリと呟かれ、そして消えた。
第14話に続く
次はねぇ…ちょっと誰かの過去でも書こうかなぁなんて考えています。のそりのそりと更新するこころでした!