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猫と金髪  作者: co
8/16

 メモにあった住所まで隣人はバイクを飛ばした。

 わかりにくい場所にこっそり存在する蔦のからまる地味なバー。

 一応正面の扉を回って違う扉を見つけて開けると声が飛んで来た。


「樽そこに置かないでよ!」


 隣人は眉間にシワを寄せた。すると角から40くらいのオヤジが顔を出して喚いた。

「人手がないんだから奥まで運んでもらわないとこっちも……って、ビールは?!」

「酒屋じゃないです」

「え?じゃ何、って、あ、君、あ、バイト?坂本の代わり?まじで?」

 おおげさにオヤジが驚いて一歩下がったので、後ろでしばった髪が長いクセ毛であることがわかった。

「へ~!こりゃいいや!じゃ着替えてよ!」


 胸の前で手を合わせて喜ぶオヤジが、自己紹介した。

「僕ここのオーナーで鈴山と言います。君、名前は?」

「原田です」


 原田の背を押してオーナーがロッカールームのドアを開け、用意してある服のサイズを適当に探した。しかし原田は規定外サイズなので、シャツは2Lの袖をまくり、下は履いてきたジーンズで、カウンターを出ない仕事に終始することになった。


「今日は主に雑用ってことになるけど、徐々に仕事覚えていってね!きっと原田君、看板になるわ!」

 不思議と徐々にオーナーの口調が、よれてきた。


「……長期のバイトとは聞いてないんですが」

「今日明日こなせたら長期なんか楽勝よ!」

「時給1500円と聞きましたが」

「え?!!」

 両方の手の平を胸の前で広げて見せるという冗談のようなポーズでオーナーが驚いたところで、店の方からオーナーを呼ぶ声が聞こえた。それを聞いてオーナーは胸の前で音を立てて両手を合わせた。

「そうそう!それどころじゃない!ビールが来てないんだわ!さっそくだけど原田君、店内で洗い物してくれる?格好は今日はそれで構わないからね」

 頼んだわよ!と原田の背を叩いてオーナーが出て行った。


 1500円は乗せすぎたか、原田は頭の後ろを掻いた。



 着替えてから適当にドアを開けてみると、通路の奥にカウンターが見え、そこから店内の一部が見えた。とりあえずそこにいるスタッフを小声で呼んで、作業の指示を頼んだ。


「え?坂本来ないの?客来てるのになぁ」

 それを避けるために休んだんですよ、とは言わなかった。

 原田は基本的に無口だ。


 そのスタッフは忙しい中親切に色々教えてくれたので、その後はわりと自由に働けた。

 洗い物はここ、オーダーはこれ、順番は右から、ストックは前から、レシピは棚の裏、難しいことはないけど雑用が多くてね。気付いたことやってくれればいいから。


 洗い物をして野菜をむいて果物を切って盛り付け、空いた皿を受け取って洗う。

 客と談笑しているバーテンたちの後ろでクルクルと動く原田の姿は、話し相手のいない客のいい暇潰しになっていた。


 その原田に、長時間カウンターに居座っている髪の長い女性客が声を掛けた。

「あなた、坂本君の代わり?」

「はい」

「彼は今日来ないの?」

「来ません」

「家にもいないし携帯も切ってるのよね……」

 ああ、この客が、と思ったもののやはり無口な原田は無表情に俯き、空いたグラスを洗い始めた。

「どこにいるか分からないの?」

 客は怒り口調で声のボリュームを上げて原田に問う。

 顔を上げずに上目遣いで原田が答える。

「申し訳ありません」

 原田の強い視線に負けた客が目を逸らし、ため息をついた。

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