15
わずかに開いたドアの隙間から、金髪と青い目だけが覗いた。
まず近くの女二人にちらりと目を向け、
すぐに君島に視線を固定し、
スっと微笑んで、言った。
人をバカにするような、高い声で。
「帰れよ。卓也はネコなんだ。君とは合わない」
そしてドアはパタンと閉められた。
10秒以上、沈黙が続いた。
君島がまず息を吐いた。
女二人が顔を見合わせ、目を見開いて首を傾げた。
そして真由美が叫んだ。
「なに……それ。嘘ついてたのあなたじゃない!」
真由美が君島の腕を振り払った。
え?何?あ、もしかして、と女二人が次々と推理を披露していく。
「卓也は私たちだけじゃなくて、この子とも出来てたってことよね?」
「しかもこの子、男なんでしょ?」
「しかも本命はさっきの外人なんでしょ!」
「あなただって振られたのよ!秋ちゃん!」
得意気に、憎々し気に、真由美が顎を上げて君島を見下ろした。
「ばかばかしい……。ホモだったなんて」
「やだ。気持ち悪い」
「ネコって何?」
「知らないの?猫ひろしよ」
「猫ひろし?坂本君が猫ひろしって何?」
「だから、さっきの金髪が舘ひろしなのよ!」
「なんなのそれ?」
「ググりなさいよ!」
女二人は駆け足で階段を下りていった。
真由美だけは君島に目配せした。
「またね。私そういうの嫌いじゃないわ」
君島だけが真っ青のまま、今の出来事をリピートしていた。
しかし何度リピートしても同じだ。
さっきの金髪は誰だ。
あの青い目は誰だ。
なんだこの筋は。
展開は。
ダッシュで坂本の部屋の前に立ち、そのドアを連打した。
怒りのあまり声が出ない。
無言の連打に坂本の部屋の中から応えはなかった。
怒りの収まらない君島は、次に原田の部屋に向かった。
何もかも原田の責任だと思った。
全部原田の指図で進んだことなのだと思った。
あの金髪も原田の差し金なのだと。
まず呼び鈴を連打した。
そしてドアを直接拳で連打した。
そしてやっと声が出せるようになった。
「浩一!浩一!なんだよあれ!浩一、何やってるんだよ!」
しばらくしてから声が聞こえた。
「やかましい」
それから鍵が開けられた。
ドアを開けて姿を現した原田が君島を見下ろして口を開いた。
「早かったな」
その言葉で君島が口をつぐんだ。
早かった、って、言うか?
ついさっき修羅場を終了したところだ。
聞こえていなかったとでも言うのか?
君島が顔を上げて息を吸って、反論しようとしたときにまた原田が言葉を続けた。
「あれ?誰もいないのか?」
再度君島は、口をつぐんだ。