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原田の説明は要約しすぎていて、大抵伝わらない。
本人も伝える努力をしない。
そして伝わっていない思惑を勝手に進めて、全く違うプランを思いつき、それも要約してほぼ伝わらない。
という自覚が原田自身にもあるし、今までの坂本の反応を見ると意思の疎通が全く無いと言っても過言ではないので、説明は諦めた。
「人妻だけ帰してもらえませんか?元々が不倫なんだしあなたに複数相手がいてもさほど問題ではないでしょう」
「なんで?」
「電話してください」
「それで、どうなるの?」
「説明している時間がないです。それと、あなたの部屋に行きます。窓開いてますよね?」
長身の原田に見下ろされる圧力に敵わず、坂本は大人しく携帯に電源を入れて「マナ」の番号を呼び出した。
しばらく呼び出し音を聞き続けていたが、留守電に回された。
リダイヤルしてまたそれを聞き続けていると、キッチンから原田の小声が聞こえてきた。
誰かと携帯で話しているようだ。
さっき言っていた「君島」とやらだろうか?
原田の部屋に行くのは後にしようと回れ右をした君島が、50mも歩かないうちにまた原田からの電話を受けた。
『人妻だけ帰すから、予定通りにやってくれ』
「いやだよ」
さっき一通り聞いただけで、不愉快なプランだった。
君島の自尊心も人権もまるで無視だ。
確かに一目で男と判断されることはほぼない自分だが、それが平気なわけではない。
むしろ不愉快なのだ。
自分は男なのだから。
「さっきも言ったけどそんな尻拭いは、」
『バーにお前の言ってたシャンパンがあった』
「シャンパンって、……そんなので僕を、」
『チーズ付』
「あ」
原田が金品に弱いように、君島は高級アルコールとチーズに弱い。
『お前は来るだけでいい。全部こっちで進めるから』
「進めるってどうやってさ」
『気にするなよ。お前がここに来る頃には決着がついてる予定だから』
「う~ん……」
シャンパンとチーズに釣られたわけじゃないが、元々原田の部屋に行くつもりで来ているので引き返すのが面倒だ。
原田のプランではどうやら君島が何かさせられるわけではないようだし、ちょっと考えてみる。
と口を閉じているうちに、電話が切られた。
「嘘……」
と君島が携帯を凝視した。
三度目のコールでやっと人妻マナが電話に出た。
坂本が慌ててマナに事情を説明しようと意気込むと、それよりも先にマナの抑えた声が聞こえて来た。
『悪いけど今日はダメ』
そしてすぐ切られそうな様子だったので坂本が大声を出した。
「待って!ちょっと、あの、今どこに、」
『大声出さないで!切るわよ!』
「今、まさか、自宅にいるの?」
『当たり前じゃないの!今日クリスマスよ!』
直後に電話は切られた。