12
「全員追い払いましょうか?あなたも今後、続けたいとは思ってないでしょう?」
「続け……られるなんて」
「無理です。せいぜいあと腐れなく帰ってもらえれば幸いでしょうね」
「できる?」
すがるように坂本が見上げる。
「できないこともないですが、」
そして原田がDS9に視線を飛ばす。
坂本もそれを追う。
「あれの隣にヴォイジャーも、ありましたよね?」
このときは何でもいいと、どうなってでもここを切り抜けたいと、坂本は何度も頷いた。
全てが終わってからは、後悔した。
シューズボックスの上に置いてある宇宙船ヴォイジャーも、アメリカで買った日本では発売されなかったモデルなのだ。
坂本が頷くのを見てから、原田は携帯を手に取った。
外ではまだ言い争いが続いている。
角を曲がれば原田のアパートというところまで来て、君島の携帯が震えた。
取り出すと、原田からの着信だったのですぐに耳に当てた。
「浩一?今家にいる?もうすぐ着くんだけど」
『来るなって言っただろ。てか、頼みがあるんだけど』
「頼み?!僕に?」
原田の口から初めて発せられた言葉に驚き、君島は立ち止まった。
「浩一が?僕に?頼み?」
『たまには俺の役に立て』
立ち止まったまま、顔をしかめた。
そしてその後に続く話を聞きながら歩を進め、原田の部屋が見えてきて、問題の三人が見えてきた。
「なんでそんな尻拭いをするの?また何か貰った?」
たいがいそう言われると、人聞きが悪いなと怒るものだが原田は違う。
『当たり前だろ。お前も何か欲しいなら自分で交渉しろ』
話がかなりおかしいんじゃない?と思いながら徐々にその三人の様子が見えてきて、そして一人の姿をはっきり認識して、君島はくるりと後ろを振り向いた。
『ごめん。無理』
「あ?」
『僕の付き合ってる相手がいる』
「ああっ?!!」
実は君島に、坂本の本命の彼女の振りをしてもらうつもりだった。
初対面で男だと認識されることはほとんどない君島である。
本人は嫌がってはいるが、まとわりつかれている原田もかなりの頻度で不愉快な誤解をされて、それを否定するチャンスすらない。
たまには役に立てとはそういう意味だ。
それが一体、どういうことだ。
「付き合ってる相手って人妻か?」
『はい』
原田は片手で頭を押さえた。
君島は悪趣味で、必ず人妻あるいは男のいる女としか付き合わない。
そして坂本に伝えた。
「人妻がそこに来ているそうです。それが、昨日ここにいた君島とも付き合ってるそうですよ」
坂本はその意味がまったくつかめないようで、瞬きをするばかりだった。
「これが本当の彼女ですって君島を見せようと思ったんですけどね。男だってバレてるわけですよ」
それでもやっぱり坂本には理解が進まなかった。