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■■の指輪

登校する生徒が多く、混雑している歩道を彼は歩いていた。

眠そうにあくびをする。



「おはよう!赤音咲夜せきねさくや!」



元気の良い声とともに勢いよく背中を叩かれた咲夜はむせた。

よほど強く叩かれたのか、しばらくむせ込んだまま何も言えない。



「っごほ……悠人ゆうと、お前は朝から何すんだよ」


「え?勢いとノリで咲夜をフルネームで呼びながら、背中を叩いただけだが」


「……やりすぎだろ…」



イイ笑顔でさも当然のように言う悠人に咲夜は怒る気も失せて、それだけ言うとまた歩き出す。

悠人が驚いたように、きょとん。としたかと思うと咲夜の隣に並んで歩く。



「どうした?なんか疲れてるみたいだな、何かあったのか?」



心底心配そうな悠人の様子に咲夜は歩調をゆるめないまま口を開いた。



「特に何もしてないはずなんだけど、昨日の夜にコンビニ行った辺りから妙に疲れてんだよなー」



咲夜の言葉に、悠人が真面目な表情で詰め寄る。



「お前…夜に外に出て大丈夫だったのか?昨日は満月だ。何か引っかけたんじゃないのか!?」


「それはない。俺が憑かれて気づかないわけがないからな。憑いてたら絶対分かる。悠人だって分かるだろ?」



きっぱりと言い切る咲夜に悠人が少し不満げなままではあるが、頷く。



「気付く自信はあるさ。だけど、オレの力は咲夜より弱い。強ければいいわけじゃないのは分かってるが……」


「悠人」



咲夜が足を止めて悠人に向き直った。そして口を開こうとして、動きを止めた。



「っこんな時に……!」


「?どうしたって、どこに行くんだよ!」



悠人の声に答えないまま、まるで何かから逃げるように後ろを気にしながら咲夜は学校への通学路を外れて裏道へと走って行った。


走りなれた裏道を一定の順序で走る。同じ道を通るのも必要事項なのだ。



「……っあと、少し…」



前方に見えてきた赤い鳥居を目指して走る速度を上げて境内へと駆け込む。



「っはー……上手く撒けたか…?」



ちゃんと確認するように境内から出ないギリギリの範囲で通ってきた道を振り返ると、その光景に絶句した。


鳥居から先、道を埋め尽くすような黒いモノ。よくRPGゲームなんかにでてくるようなスライムをもっと大きくドロドロとさせたようなモノが居た。



「おい…うそ、だろ………」



いつも・・・とは違うその光景に咲夜は思わず後ずさる。コレはいけないものだと本能が警鐘を鳴らした。


どうすればいいのか。意識できずにおもむろに鳥居から離れ境内の奥、本殿の方へと駆ける。


コイツ相手に鳥居では時間稼ぎにしかならない。と。



「ふざけんじゃねぇ…………あんなん相手にしてられるかよ。化け物すぎる…」



所謂第六感――霊感が強い為に神社やお寺に逃げ込むことを覚えた咲夜だったが、だからといって逃げる事しかしてこなかったわけではない。


一定の形を描くように歩くと、簡単な魔除けになることに気付いた時からはそれを使って弱いモノなら祓うことが出来るようになったし、彼自身の勘も磨いていたことで助かったことだってあった。


でも、足りない・・・・


そう勘が言う。彼では力不足だと。敵は今までの弱いモノではないと。


後ろで何かガラスが割れるような甲高い音が聴こえて、一瞬振り向いたそこではスライムもどきが鳥居を越えて境内の敷地内にゆっくりと侵入していた。



「…えぇー……」



この神社はそれなりに信仰を集めているらしく、その信仰によってか存在する結界に包まれた境内は咲夜にとって悪しきモノを近づけないなかなか良い逃げ場所だったのだが、今その場所が穢された・・・・



「どこに行けばいいってんだよぉ…」



自分では敵わない。神社の結界は効かない。敷地を覆う結界とはまた違う結界のある本殿まではまだ距離があるが、スライムもどきが境内に入ってきた以上、逃げ込めるか分からない。



「打つ手なし、か…?」



とりあえず勘の赴くまま、走って着いたその先には一本の桜。


綺麗だとか何故か神聖視される一方、悪しきモノを吸い取り花弁とともに散らすとか、桜の木には鬼が棲むだとか云われる木。


今は初夏。なのにその桜は白に近い淡い色の花を満開に咲かせていた。



「…狂い咲き……この時期に?…」



本来狂い咲きが起こるのは夏の終わりか秋。今はどう考えても狂い咲くことすらないはずの時期。


そう考えてるうちに桜のすぐ傍までたどり着き、そして聴こえた。


≪キミはとてもキレイだね≫



「誰だ?」



≪うんうん、キこえるみたいだね。ねぇ、オサナいヒト。タスかりたいならそのユビワをヒロってネガうんだ≫


ふと足元にある何かが光を反射してきらめいた。咲夜はそれを拾い上げる。



「指輪だ…ずいぶんと凝った装飾だなぁ」



宝石が散りばめられているわけではないが、黒の金属に小さな二粒のアメジスト。彫りで装飾されていて、一見シンプルに見えてよく見ると凝った作りなのが分かった。



「で、願え?」



≪カノジョがオとしたモノ。ネガえばカノジョはイニシエよりのサダめにシタガい、キミをマモるよ。カノジョはそうなっているから。カノジョはそうしないといけないから≫


無邪気にそう言う声。幼いようでかといって本当に子どもの声かと聞かれれば困る。そんな区別のつかない声が咲夜を促す。


≪さあ、ハヤくしないとキちゃうよ。トめてあげられるのはほんのスコしだから。ハヤくネガって≫



「何を願えって言うんだよ。願いなんて…――」



≪キミはイきたいでしょう?ここでオわりたくないでしょう?なら、タスけてとネガえばいい。タスけをモトめればいい。ジブンはキミをタスけてあげられないから≫



「……助け…?」



ふと、手にした指輪がほのかに輝き、熱を帯びる。女の声が聴こえた気がした。



―――生きたいか?


―――…生きたい


―――死にたいか?


―――…死にたくない


―――救いを求めるか?


―――…助けて、欲しい…


『そうか、ならば願え。  の指輪を手にした者よ。私は契約。終わりなき深淵の淵に立ちし者たちに届くほど願え。さすれば強き守護の契約は成される』


何重にも折り重なって響く声。


『契約は絶対。私は契約を認めよう。私を所有することを認めよう』



―――契約は成された―――




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