遭遇
ゾンビの前での彼と彼女の遭遇!!
……ゾンビじゃなくて“不死人”だって?別にいいじゃない似たようなもn
え?全然違う?もうどうでもいいじゃん←
夜、月が輝く真夜中に近い時間。闇にまぎれて人影がいた。1人が口を開く。
「アリス、次は?」
「はいはーい…えっとねぇ“不死人”の魂回収。要は狩れってことよね♪」
「……それは違うくないか?」
黒いフードから金の色彩のこぼれる人影が物騒なことを言う。それはまるでアンティークドールのような少女だった。
金の髪に青の目。精巧に作られたかのような顔には楽しげな笑みが。無邪気で、それゆえに残酷な子供のような笑み。
“不死人”
文字の指すとおり、不死のもの。術によって、あるいは人体実験の末に、あるいはとある呪いのために出来る存在であり、死神が魂を刈ることか珍しい浄化能力を持つ稀有な人物が殺さない限り死なない。
ゾンビよりも欠点が少なく厄介な存在であるうえに、思考能力は低く、無差別に行動するため現世への影響力は、その他の生き物を圧倒するほど大きい。
その結果が死神による魂の刈り取り。
生と死の境界を崩さないためにも魂ごと刈り取りもとの輪廻に戻すのだ。
「“不死人”なんて絶好の標的じゃない。あぁ~、腕が鳴るわぁ♪」
「………もうやだこの相方」
呆れたように美夜はぼやく。心なしかその紫の目が遠くを見つめている。
アリスに対してまるで朝と夜のような対比の黒髪に紫の目。アリスが昼なら美夜は夜を体現したかのような二人組みは、静かに得物を構えて下を見下ろす。
街灯の明かりの届かない月明かりだけに照らされた路地に、ふらふらと動く人影がいくつも現れる。
「ま、いいや。とりあえず“不死人”も出てきたことだし
狩りの時間だ」
「派手にやるわよ♪」
美夜は左手の手首に右手をかざし、アリスは両手首に両手をかざす。
それぞれが手首につけた腕輪。石を丸くくり抜いて形造ったような腕輪に手をかざしながら、屋根から飛び降りる。
「開錠【死神ノ鎌】」
「起きて【双頭ノ死銃】」
美夜は光を鈍く反射する身の丈を越すような黒い大鎌を、アリスは真っ黒な中に金の装飾が施された双銃をそれぞれ構え、着地すると同時に武器を振るう。
特に特殊なことは必要ない。彼女たちは死神だから。
ただ一撃、“不死人”に武器を触れさせるだけでいい。攻撃を食らわせるだけでいい。
それだけで魂は刈り取れる。
「さぁ、抵抗するが良いわ!!せいぜいわたしを楽しませてよぉ!」
「…戦闘バカが出た」
「あははははははははは!!」
「……ほんとキャラ崩壊してるし(泣)なんでこんな変な相方なのよ」
高笑いしながら次々と“不死人”を狩る姿はなにやら怖いものがある。というかなまじ可愛い容姿のために、不気味すぎる。
西洋人形みたいな美少女が夜中に高笑いしながら拳銃乱射してゾンビ(もどき)を倒していくとか…………………かなりシュールだ。
「眠れ、生を歪められた者達。不安などどこにもないから安心して眠れ」
次々と土くれや灰になり跡形も無く消滅していく“不死人”。だが、それでもまだ“不死人”の数が減らずに、むしろ二人が魂を刈り取っていく以上の速さで増えていく。
次第に二人の表情に焦りが見えてきた。
「ちょっと美夜!!おかしいわよ。何でこんなにたくさんの“不死人”がいるの!?通常ならありえないことだわ!」
「まるで“不死人”を作っていた魔術師の館並みの数と増え方…。おかしい」
倒しても倒してもキリがない。としか言いようのない現状にアリスが真っ先に困惑と不満の声を上げた。
すでに最初にみた数より数倍の密集度の中で二人は動き続けていた。死神ゆえの人外の能力がなければすぐさまへばるであろう数だ。
「もしかして迷い込んで現れた、ただの自然発生的なものじゃないのか?」
「ありえるわね。変な奴らなら“不死人”を私兵団代わりに使うかも。こいつらを倒せるのは一部の者だけだし……でもだったら何が目的でこんなにここに現れるの?もし一般人を狙ったとしても、数体だけで十分じゃない!」
「それは……「うわああああああああああぁぁあぁぁぁ!!」…何!?」
「まさか一般人が迷い込んだんじゃないでしょうね!?」
「アリス、ここは任せた!!」
「ちょっと!?美夜!!」
美夜が一息に鎌を大きく薙ぎ払い、空いた隙間をぬって声の方へと駆け抜ける。一回では抜けきれず、何度も無理やり隙間を作っては駆けた。
視線の先に人影を見つけ、さらにそれが“不死人”でないことを認識した瞬間、美夜は思い切り踏み切るって跳躍すると、その人影の前に着地した。
「そこを退け!!」
人影が“不死人”に押し倒されるようにしているのを美夜は鎌の一振りで上に乗っていた“不死人”を消し、人影に声をかけた。
「大丈夫?」
「っはぁ、ごほっ。遠慮なく首を絞めやがって……何なんだよこいつら!?」
少し長めの黒髪に黒目。学生服を着た青年が、喉に手をやりながら起き上がる。何故真夜中に通りかかったのか知らないが、美夜にとって人は命を刈り取る対象であり、守るべき存在でもあった。
数少ない【人】に対して友好的であり、優しい彼女がいたところに迷い込んだことが彼の不幸中の幸い。でなければ、献身的には助けてもらうことなくせいぜい命が助かった程度だ。
人が怪我しょうとも命があるだけマシだと思え。というのが死神たちの多くの見解で、そのくらい死神たちは人に重きをおかない。
「あなた、何でこんな夜中にここに?」
「消しゴムが無くなったからコンビニに行ってたんだよ」
「そう………間が悪かったわね。こんなところに迷い込んでしまうなんて」
美夜が彼の首に手を添えると、小さく言葉を呟く。淡く光ったと思ったら彼の首にあった締め付けられたような後が消えた。同じように頬の擦り傷も治す。
「痛くない…?」
「死にたくなければ私の後ろにいて」
「お、おい…死にたくなければって」
「言葉のとおりよ」
「美夜ってば、そんなささいな怪我まで治しちゃって…ほんっとヒトに優しすぎるくらい優しいんだから」
二人を囲む“不死人”の一角が崩れて消えたと思えば、アリスが金髪をなびかせてこっちへと来る。鋭い視線で青年を見て、彼を背に庇うように美夜と並んで立つ。
「何?こいつらの目的って彼?さっきから増えなくなったわ」
「かもね。普通なら食い殺される事が多いんだけど、首を絞められていた辺りそうかも」
「体を傷つけたくない理由があるのか、傷つけられないのか知らないけどこいつらにそんなこと考えるだけの知能はないわよ。その子、どっかから狙われてるんじゃない?」
ちらっと。とアリスは青年を視野に入れたかと思ったらすぐに正面に向き直り愛銃を構える。
青年が「狙われるって何だよ!?」と言わんばかりに呆然とアリスを見たが、アリスは彼の視線を気にも留めない。もはや空気だ空気。
「もう夜明けまで時間がないわ。早くわたしたちも戻らないと」
「もうそんな時間?」
そう言ったかと思うと美夜は鎌を両手に握り、口ずさむ。
「 女王は言った 首を切れ♪
赤い赤いハートの女王は 血 が見たいと
チェシャ猫は無関心♪帽子屋は傍観者♪
沢山の 死 を与える鎌は嗤う 」
お遊びは終わりだ。
そう言って美夜は黒い鎌をさらに禍々しく形を変化させる。持ち手に赤い模様。刃に血のような波紋。命を刈り取るそれはまさしく【死神ノ鎌】
ストッパーを外した全身全霊をかけても抗えない死の刃。
「美夜も好きね、その物語。まぁ、言ったとおりにするんだけどね♪」
アリスも嬉しくて仕方がないという感じの満面の笑みで銃を構える。これから起こることが「楽しみで仕方がない」とアリスは言った。
「遊ぼうか、踊ろうか。私の踊りを、私のゲームを。すべてがすべて終わりしかないけどね。わたしと一緒に終わりましょう、わたしが終わりへと導いてあげるわ」
二人が本気で力を解放した。死神として自分が持てるだけのすべての力の中、リミッターのかかっていない範囲での全力。
現世への影響を考えたうえで、滅多に開放しない死神の力は、リミッターをかけていても“不死人”相手には十分すぎるほど絶大だった。
あっという間にまわりの“不死人”の人影は消え去り、その場には三人だけになる。
ちらりとアリスが青年を視界にいれて、やはりすぐに興味をなくしたかのように視線を外す。美夜はアリスに苦笑し、青年に近づいた。
「君は随分と“チカラ”が強いみたいだね。苦労してきたんじゃないの?」
「っ分かるの!?」
「あぁ、人はそれを“見鬼”とか“霊力”、“霊感”と言っていたかな?人持っているにしては少し変わった質の“チカラ”みたいだけど」
「異質な“チカラ”ね。探れば分かるかもしれないけど、そこまでしてあげる義理がわたしにはないし、する気もないけどぉ」
「アリスってば、そういうことを言わないの。簡単にだけど、少し封じておこうか」
「美夜!!」
「アリス。あなたが言わなければ予定外の力を使ったなんてばれないわよ。これくらいならたいした手間でもないし」
「干渉のし過ぎよ、美夜。本来ならすぐに立ち去っておくべきでもあったのに、さらにたかが一人の巻き込まれたちょっと力のある人の為に美夜の力を使うなんて」
アリスがただでさえ鋭い目つきをしていたものを、視線だけで人を射殺さんばかりのものに変えて青年を睨む。
「私の為よ、アリス。そんな怖い顔しないでってば」
アリスの視線をものともせずに、美夜は青年の額に手を伸ばして触れると、小さく呟く。
淡く美夜の手が光を放ち、すぐに触れていた手が離された。
「はい、終わり。これでだいぶチカラを抑えられたわ。ついでに私たちに会ったという記憶も消させてもらうね」
美夜の手がが青年の視界を塞いだ一瞬のあと、すでに青年がその場に一人残っているだけだった。
青年は少しぼおっとしたかと思うと、何事もなかったの用に家に向かって歩き出した。
美夜とアリスは、屋根の上からその様子を見た後「帰ろうか」と忽然と姿を消し、その場所はまるで何事もなかったかの静けさを取り戻した。